Chapter 12 「合流」
ダニバラ撒きクソバードの撃破には無事成功した。
吸血ダニは落下前に本体と一緒に全て焼き尽くしたので残っていないはずだが、一応念のために帽子を脱いでバンバンと叩く。
どうやら杞憂だったようで、叩いても尋常じゃない量の埃くらいしか出なかった。
セーフだ。
……セーフじゃないよ汚れてるよ。
帽子に巻いていたリボンも綺麗なピンクだったのが、早くもくすんできている。
水が使えるうちに洗濯が必要だ。
帽子の臭いを嗅ぐと……嗅ぐんじゃなかった。
結果なんて分かっていただろうになぜ嗅いだ俺。
仲間たちがダニにやられていないか気になったので、急いで戻ろうとした時、どこからか俺を呼ぶような声が聞こえてきた気がした。
名前ではなく単純に「おーい」とか「こっちだ」と呼んでいるように聞こえる。
ただ風の音や耳の錯覚などではない。
明らかに人の声だ。
だが、眼下に広がるのは広大なジャングルだ。
誰かが呼んでいるとしても、この木々が生い茂る広大な空間の中から声の主を見つけるのはほぼ不可能……
そう考えていると、突如として目の前に竜巻が巻き起こった。
先程までいた岸壁地帯ならばともかく、こんなジャングルのど真ん中で竜巻が発生するなど、どう考えても異常だ。
モンスターか?
それとも何者かのスキルか?
スキル?
最初に脳裏をよぎったのは、遺跡最後の扉に仕掛けられていた転移の罠のせいで分断されたガーネットちゃんのスキルだ。
俺は肩に乗せたままの鳥の視界を使って竜巻の発生源を探し始め……すぐに発見した。
鬱蒼と茂る原生林の森の一部が、綺麗に円形に刈り取られている。
その中心で、俺に向けて手を振っている集団を見つけた。
まさかこんなところにいるはずがない。
そう思ったばかりの魔法使いの少女、ガーネットちゃんが俺に向けて手を振っていた。
その横には侍姿のハセベさん。
カウボーイスタイルのウィリーさんの姿もある。
いずれもあの遺跡でどこかへと転送された仲間たちだ。
距離があるので何を言っているのかは聞き取れないが、あの時の仲間たちがいる。
「なんで? どうしてこんなところに?」
あまりに急すぎて、嬉しさよりも、なぜこんなところに? という疑問と困惑の方が強い。
まだ混乱が続く中で、ハセベさんたちのいる場所へ着陸すると、いきなりガーネットちゃんに抱きつかれた。
「良かった、無事だったんですね」
「ガーネットちゃんも無事で何より」
まだ実感が湧かないが、ハセベさん、ウィリーさんへ握手をして再会を祝する。
さすがに大人の男性2人は俺に抱きついてくるようなことはなかったが、再会を喜んでくれているのは分かる。
「心配したぞ。ラヴィ君たちはどこに行ったのかと」
「それは俺たちもです。みなさん無事で本当に良かった。それと……」
俺は視線を、ハセベさんと一緒に旅をしているであろう他の3人へと向けた。
この熱帯のジャングルだと、暑いとしか思えない、ビジュアル系ロックバンドのような漆黒のファー付きレザーコートを身にまとった男。
レオタードの上に軍服の上着だけを羽織った変態チックな服装の痴女。
そして、なぜか水着にパーカーという全く空気を読めていない別の痴女。
2/3が痴女という異様なチームだ。
これはもしかして以前に話を聞いた第2チームこと「恥ずかしい服装チーム」ではないだろうか?
なぜハセベさんたちが彼らと共に行動しているのだろうか?
「ハセベさんの前の仲間でいいのかな?」
リーダーらしきレザーコートの男が俺に握手を求めてきた。
「スケアクロウだ。クロウと呼んでくれ。今は理由あってハセベさんたちと一緒に旅をしている」
「ラヴィと申します。よろしくお願いします」
握手を拒否する理由などないので手を取った。
見た目はいかついチョイ悪系だが、意外とフレンドリーだ。
同様にパンツ丸出しのレオナ、水着のマリアとも握手をして自己紹介を行う。
「デカい鳥が見えたので身構えて戦闘準備をしていたら、いきなり熱線に焼かれて消滅だ。何事かと思ってよく見たら顔見知りが空を飛んでたってわけだ」
「昼間でも眩しいくらいの熱線だ。ラヴィ君しかいないとすぐに分かったよ」
ウィリーさんとハセベさんは、翼竜と戦っていたのが俺だと気付いてくれたようだ。
「ガーネットちゃんが竜巻を作ってくれたのですぐに気付けました」
「ガーニーに頼んだんだ。ツタと葉っぱだらけでオレたちの姿が見えないだろう」
「何はともあれ合流できて良かった」
それは同感だ。
俺もハセベさんたちがどうなったかはずっと気になっていた。
それが、まさかホンジュラスの密林のド真ん中で再会できるとは……人生、何があるかわからないものだ。
「ところでモーリス君とエリス君は?」
ハセベさんに尋ねられたので、このジャングルに入ってから鳥を倒すまでの経緯を簡単に説明した。
最初の遺跡で別れた後に、どうしていたかは長い話になるので後に回す。
「他の仲間もそこにいます。この鬱蒼としたジャングルよりは、岩場地帯の方がまだ過ごしやすいと思うので、一度合流しませんか?」
俺はハセベさんと、後ろで腕組みをしていたクロウさんへ呼びかけた。
◆ ◆ ◆
待っている仲間たちを心配させてはいけないと、まずは岸壁地帯へみんなの安否確認と俺の無事を知らせるために戻った。
ランボーの機転やパタムンカさんが持っていた虫除け薬の効果などもあり、吸血ダニには誰も食われなかったようだ。
ひとまず胸を撫で下ろす。
それからモリ君たちへ事情を説明。
すぐにハセベさんたちのところへ折り返して、空から誘導。
全員が合流することができた。
「ラヴィ君たちが全員無事で良かった。あの後、心配したんだぞ」
「すみません、こちらも色々ありましたので」
俺たちはハセベさんたちとの再会を祝した。
そして別れてから起こったことを順を追って説明していく。
遺跡を出た先は現代の地球で言うところのペルー……タウンティンだった。そこで邪神と戦った。
俺たちをこの世界に喚んだ運営とその管理者「ゲームマスター」なる人物の存在の関与があった。
そいつを追ってパナマ、ホンジュラスと移動してきてここの蟇の神殿へ来ることになった話だ。
ハセベさんたちは遺跡からキューバ島に飛ばされて、そこでクロウたちと会ったらしい。
しばらくは島で海から現れる怪物たちと戦っていたが、ある時、人間に寄生する奇妙な化け物と遭遇。
パナマで聞いた「北の島の事件」だ。
「赤い女」の目撃情報を追って、キューバからメリダの町に飛んだ。
そこで、宝石の最初の発送先がホンジュラスの北の港、コルテス港だと知り、メリダから船で移動。
コルテス港で赤い女の目撃情報を元に密林を歩いているうちに、ここへ辿り着いたのだという。
蟇の遺跡の情報は俺たちしか知らなかった。
ハセベさんたちはあくまでも、赤い女がどこかの遺跡で宝石を見つけたという情報までだ。
2つのチームの共通情報はレイナ=ロハという宝石商を名乗る赤い女。
そして赤い宝石だ。
赤い宝石がどうにかなると、人間に寄生生物が取り付いて暴れる。
一度寄生されると助ける方法はない。
「人間に寄生する化け物はシカップ爺さんから聞いた情報と一致する部分が多いな。おそらく同一存在」
お互いのチームが持っていた情報を赤い女やゲームマスターの狙いが何となく見えてきた。
「ゲームマスターも動いていた。赤い女も蟇の遺跡で待つと言っている。赤い宝石の補充先は遺跡で間違いない」
「赤い宝石を使った無差別テロを仕掛けようとしていたところ、中継地のキューバで事故が発生してしまったということか」
ハセベさんがキューバでの事件の予想をまとめた。
「赤い女はパナマで待っていたものの、キューバが不発に終わったと知ったので、一度蟇の遺跡に戻ってきた」
「赤い女は赤い宝石を補充すると考えて良いだろう。キューバルートは使えないので、今度は別ルートでのテロを考えるはずだ」
俺たちの持っている情報とクロウさん&ハセベさんが持っている情報を合わせて考えるとこれしかないだろう。
「つまり遺跡で赤い女を叩けば、今の赤い宝石を使ったテロ事件は止まる」
「赤い女を倒しても後任者が出てくるかもしれない。なので、遺跡の中にある赤い宝石も破壊して、もう事件が起こらないようにする」
「マリア、寄生生物に寄生された人を治療できる可能性は?」
クロウさんが水着少女のマリアに尋ねた。
「毒や病気なら私のスキルで治せるはずですが、寄生というのは別の生き物が体の中に入り込んでいる状態ですからね……やってみないとわかりません」
「マリアは回復の専門家だ。回復能力だけなら、モーリスのヒールよりも上だと思う」
ウィリーさんが俺たちのために補足説明をしてくれた。ありがたい。
「あなたも回復能力を?」
モリ君が回復能力を使えると知って、マリアさんは興味を持ったようだ。
「ええ、俺も回復能力を使えますが、病気や毒、重傷は治せないので、その点ではマリアさんの方が上ですね」
「そんなことありませんよ。私は回復と防御特化なので、戦闘もこなせるモーリスさんに憧れます」
マリアさんとモリ君がお互いの能力を評価し合っている。
それだけなら問題なかったのだが、問題はモリ君の視線がマリアさんの豊かな胸の谷間へ吸い込まれたことだ。
それは良くない。
本当に良くない。
後ろからお嫁さんたちの怖い視線が突き刺さっているというのにモリ君は無自覚だ。
このままでは場の空気が破壊されてしまう。
そもそもなぜ、胸を見て喜ぶのか?
それはただの脂肪だ。胸が大きければ何だというのだ。
もっと他にあるだろう。オーガニック的な何かとかさぁ。
「寄生生物については一応対策を考えています」
俺はすかさずモリ君の前に飛び出ることで事態の収拾を図ることにする。
「私の能力『魔女の呪い』は弱い生物を黒い霧に変えて消滅させることができます。感染初期ならば、この能力で体内の寄生虫を駆除できると思います」
根拠は先ほどのダニ駆除だ。
収穫が始まると、周りに草木が生えていたにもかかわらず、まず最初にダニに対して行われた。
そして、ダニを霧に変えている間は、周りの草木は分解されなかった。
翼竜に突撃した時は、黒い球体に触れた部分の消滅が優先され、ダニの消滅はその後だった。
この優先順位を参考にするならば、黒い球体に直接触れるのが最優先。
続いて弱くて小さい生物だ。
生物のサイズが大きくなるほど順番は遅くなる。
この法則と「収穫」の範囲が分かれば、ある程度の制御はできる。
「デメリットはあるのだろう」
「はい。この能力は全ての生物に対して無差別で攻撃を仕掛けます。長時間続けると人間まで消失させかねませんし、そもそも治癒能力ではないので、寄生虫が体内を食い荒らしたダメージは回復できません」
「諸刃の剣か」
諸刃どころではない。毒をもって毒を制す。
放射線を使ったガンマナイフで患部を焼き切るようなものだ。
どちらかといえば最後の手段だ。
「それに、寄生生物が完全に頭部を乗っ取った場合は既に手遅れだと予想されます。目撃者の老人によると、頭部に付いた球体を破壊したが、その中には既に人間の頭部は存在しなかったとのことです」
「それはキューバ島で確認済みだ。対処するならば初期のうちだけだな。手遅れの場合は残念だが、感染を拡大される前に介錯をする」
クロウさんが方針をまとめてくれた。
もし、遺跡内で突然に寄生生物に寄生された犠牲者が現れた時に困ることになる。
倒すだけならば何とでもなるだろうが、後で助けられたかもしれないと揉めるきっかけになる。
「しかし人数が増えすぎたな。この人数だと遺跡探索なんてできんぞ」
パタムンカさんがぼやくように言った。
「遺跡の通路はだいたいどこも狭いんだ。3人が横に並べば通路は埋まると考えてくれ」
「ならば、少数精鋭で行くのが良さそうだな。前衛2、アドバイザー2、サポート1、後衛1の6人というところか。残りは遺跡の外で何かあった時のバックアップチームとして待機する」
パタムンカさんがクロウさんの案を聞いて、肯定の意味なのか、指をパチンと鳴らした。
俺や他のメンバーも特に異論はないようだ。
「ここからは各チームリーダーに任せます。ということで、モリ君、頼む」
モリ君を呼ぶと、拒むように手を横に強く振った。
「いえ……俺じゃ決められないです。ラビさんが――」
「――リーダーは君だ」
本当にどうしてしまったのか?
モリ君があの船の上での告白の後から、全然ペースが戻ってきてくれない。
「頼む」
モリ君の目を見ながら強く言うと、モリ君がしぶしぶではあるが、首を縦に振った。
クロウさん、ハセベさん、モリ君、リプリィさん。
それぞれのチームのリーダーが集まった。
それに遺跡の知識が豊富で専門家であるアンカス教授とパタムンカさんが入る。
「専門家の私は絶対に必要だろう。罠や遺跡の構造は素人では分からない」
パタムンカさんが最初に手を挙げた。
これに異論はない。
プロフェッショナルがいないとお話にならないからだ。
「ならば、教授にも同行を頼んだ方が良いか?」
「私は荒事は勘弁だ。後で安全が確保されてから行くことにするよ」
意外にも教授はあっさりと同行を拒否した。
「困ったな。他にアドバイザーが1人欲しいところだが」
「……それならば、カーターさんに頼もうと思います。色々な情報や……何よりも運営の情報に詳しいです」
「オイオイ、オレも荒事は勘弁なんだけど」
モリ君に突然に名前を呼ばれたカーターが嫌そうな顔をして、両手を胸の前で交差させてバツ印を作った。
行きたくないと全力で表明している。
「お願いしますよ」
「嫌だ」
「お前しかいないんだよ。いちいち文句を言うな」
俺は腕をカーターの首へ巻き付けて、締め上げるように拘束した。
教授は後にしか入らないと言った以上は、知識のあるこいつが行かないと話が始まらない。
「すみません、知識担当でこいつが入ります」
「ではアドバイザー2人と、これに回復、防御役としてマリアを加えようと思う。残りは前衛2と後衛1だ」
クロウさんはカーターの首にぶら下がる俺の顔をチラリと見ただけで、ツッコミなしで進行した。
「戦闘能力ならば、オレとハセベさんが前衛で入ろう」
「待ってください。戦闘ならば俺もエリスもそこそこ戦えます」
「すまない。君たちを外すのには理由がある」
クロウさんがモリ君の目を見て言った。
モリ君はそれを受け止めきれずに、無言で目を逸らす。
「悪い、意地悪をしたかったわけじゃないんだ」
意外にもクロウさんが先にモリ君に頭を下げた。
「オレとハセベさんとは何回か一緒に戦っている経験から、お互いの力を合わせることには慣れている。だけど、オレは君たちとは今日出会ったばかりだ
「それだとダメですか?」
「ああ。いきなり組めと言われても、どう連携すればいいのか分からないというのが本音だ。パフォーマンスは発揮できない」
「個々の能力よりも、他人との連携を含めての評価……ということですか」
「ああ、そうだ。いくら能力が高くても、1人でできることなんて限られているんだ。チーム力を考えての人選だ」
「1人じゃ限度がある……」
「それに、回復役はチームで分けた方が良いし、ならば、そのパートナーもある程度気心がしれたメンバーで固めた方が良いと思っている」
モリ君とマリアさんの回復役2名をそれぞれ別チームに配置は理屈に合っている。
待機組が戦闘をしなくても良いとは限らないからだ。
先ほど倒した翼竜の仲間のようなモンスターが襲ってくる可能性が0でない以上は、両方のチームが戦える体制にしておいた方が良いのは道理だ。
「もちろん、君たちと敵対するという宣言じゃない。これから同じ日本人同士、仲良くやっていければと思っている」
クロウさんの差し出した手をモリ君は取って握手をした。
「残る後衛1名だが、これにはラヴィさんに入ってもらいたい。これは、能力よりも寄生虫対策としての意味合いが強い」
「承知しました。ですが、私の能力は……」
「分かっている。だからマリアと組んで動いてほしい。君は、寄生虫が食い荒らしたダメージは回復できないと言った。なので、マリアの回復能力で傷を癒せば、人体の消滅リスクを減らせるだろう」
クロウさんの話に異論はない。
むしろ、このほんのわずかな時間で、全員の能力の特性と相性を見て、最適と思われるチーム人選を行ったのだ。
クロウさんが決めた6人が調査チームで入る。
残ったメンバーはモリ君、エリちゃんに加えてウィリーさんとガーネットちゃん。
この4人は最初の遺跡を一緒に旅した、少しは分かり合ったメンバーだ。
これにレオナさんがプラスされる。
レオナさんの人となりは分からないが、もし待機組の方で何か事件が起こっても、それぞれ連携して戦えるだろう。
これに軍人3人と教授を加えたのが待機組。
これで遺跡突入班は決定だ。
ハセベさんとは久々の冒険になる。
これから待ち受ける困難のことを考えると、素直に嬉しいとは言えない複雑な気持ちだ。
「ラヴィ君、久々だがよろしく頼む」
「こちらこそよろしく頼みます、ハセベさん」
改めてハセベさんと握手する。
「ラビさん!」
モリ君が俺を呼んだので振り返ると、木の鞘に収められた小刀を手渡してきた。
あの地母神の遺跡でオウカちゃんの遺体から回収。
当時は武器が破損したために素手だったモリ君に臨時で使ってもらっていたものだ。
「戦闘で必要になるかもしれないので使ってください。今のラビさんなら使いこなせるはずです」
「ありがとう。使わせてもらうよ」
小刀を持つと吸い付くように手に馴染んだ。
軽く演舞のように宙を切ると思っている以上に振るうことができた。
鞘は短剣と共に腰のベルトへ紐で括り付けた。
「ラヴィ君が近接武器を?」
怪訝な顔をしてハセベさんが尋ねてきた。
確かにこの話はかつてオウカちゃんと仲間だったハセベさんにはきちんと話しておくべきだろう。
「ランクアップ時に、どうやらオウカちゃんと混じってしまったらしくて魔女と侍、2つの能力があるんです」
「はっ?」
ハセベさんが過去最高の間抜け面を見せた。
俺の言っていることがそれだけ意味不明だったのだろう。
「すまん、言っている意味がよく分からないのだが」
隠さずに説明すべきだろう。
俺はオウカちゃんのカードと混じってしまったカードをハセベさんに見せた。
「申し訳ありません。オウカさんの遺品をこんな形にしてしまいました」
ハセベさんはそのカードを受け取り、しばらく無言で指で触るなどしていた。
「故意にやったことではないのだから謝らなくていい。それよりもラヴィ君は無事なのか? 明らかに異常事態なのだが」
オウカちゃんの遺品をなくしたことではなく、まずは俺の心配をしていただけるとは……本当にハセベさんが仲間になってくれて良かった。
「今のところ無事です。オウカさんが使えた剣術が身についたくらいでしょうか? スキルまでは使えませんが。それ以外は変化なしです」
「原因は分かるのかね?」
「詳細は不明です。ですが、51番目のイレギュラーである俺の存在を許せない運営が何か干渉をしてきた可能性はあります」
運営の名前を出すとハセベさんの表情が険しくなった。
「運営のちょっかいがあったならば、何が起こるか分からない。くれぐれも注意してくれたまえ」
「はい。それは勿論」
ハセベさんに説明した通り、今のところ身体的な変化はない。
それよりも気になるのは魔女以外の何者かの意志をたまに感じることだ。
剣術を使う時に、魔女が俺の身体を乗っ取って動いているのと同じ感覚を味わう時が少しだけある。
状況からすると、オウカちゃんの魂が俺に取り憑いているとしか思えない。
それはそれでオウカちゃんが悪霊になって俺に悪さをしていると言っているようなものだ。
違っていれば失礼にもほどがある。
だが、もしも俺の中に魔女、オウカの3人分の魂が同居しているのならば……どうなるのだろう?
単純に3人分のパワーを発揮できるということはなさそうだ。
今のところ、魔女と違ってオウカちゃんは何の主張もしてこない。
今のところは……。
「すみません、私たちは軍務でここに来ておりますので、待機というわけにはいかないのですが」
ここで、今まで成り行きを見守っていたリプリィさんが挙手して言った。
リプリィさんたちは軍務でここへ来ている。
なので「人数オーバーで何もできず後ろで見ていました」という言い訳は通らないだろう。
「そうは言っても、こちらの都合に合わせて遺跡の通路が広がるわけではない。入れないものは仕方ない」
「ですが」
「入るなと言っているわけじゃない。オレたち6人が進路を切り開く。なので、少し距離を開けて付いてきてくれればいい」
クロウさんからすれば、余所の国の軍隊の軍人が何か言ったところで関係ない話だ。
だが、ある程度事情を理解してくれた上での譲歩だったのだろう。
「オレたちが進路をクリアするので、その後から付いてきてくれ。お互いに邪魔にはならないようにしよう」
「お心遣い、感謝いたします」
リプリィさんも後から付いていくということで、ある程度は納得してくれたようだ。
「では、パタムンカさん、お願いします」
「ああ……さすがにそろそろ遺跡も見えてくるころだ」
大所帯になった俺たちは蟇の遺跡を目指して歩き始めた。




