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収穫祭の魔女  作者: れいてんし
Episode 3. Tomb of the Red Queen
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Chapter 12 「合流」

 ダニバラ撒きクソバードの撃破には無事成功した。


 吸血ダニは落下前に本体と一緒に全て焼き尽くしたので残っていないはずだが、一応念の為に帽子を脱いでバンバンと叩く。


 どうやら杞憂だったようで、叩いても尋常じゃない量の埃くらいしか出なかった。

 セーフだ。


 ……セーフじゃないよ汚れてるよ。

 帽子に巻いていたリボンも綺麗なピンクだったのが茶色っぽくなっている。洗濯が必要だ。


 帽子の臭いを嗅ぐと……嗅ぐんじゃなかった。

 結果なんて分かっていただろうに何故嗅いだ俺。


 仲間達がダニにやられていないか気になったので、急いで戻ろうとした時、どこからか俺を呼ぶような声が聞こえてきた気がした。


 名前ではなく単純に「おーい」とか「こっちだ」と呼んでいるように聞こえる。

 ただ風の音や耳の錯覚などではない。

 明らかに人の声だ。


 だが、眼下に広がるのは広大なジャングルだ。

 

 誰かが呼んでいるとしても、この木々が生い茂る広大な空間の中から声の主を見つけるのはほぼ不可能……


 そう考えていると、突如として目の前に竜巻が巻き起こった。


 先程までいた岸壁地帯ならばともかく、こんなジャングルのど真ん中で竜巻が発生するなど、どう考えても異常だ。

 

 これは何かの攻撃と解釈しても良いだろう。


 モンスターか?

 それとも何者かのスキルか?


 スキル?


 最初に脳裏をよぎったのは、あの遺跡の転移の罠で分断されたガーネットちゃんの風のスキルだ。

 

 ただ、ガーネットちゃんはハセベさん、ウィリーさんと共に何処かへ飛ばされたのでこんなところにいるはずがない。


 俺は肩に乗せたままの鳥の視界を使って竜巻の発生源を探し始め……すぐに発見した。


 竜巻によって伸びていた枝が薙ぎ払われて出来た円形の広場の中心。

 そこで俺に向けて手を振っている集団を見つけた。


 まさかこんなところにいるはずがない……たった今、そう思ったばかりの魔法使いの少女、ガーネットちゃんが俺に向けて手を振っていた。


 その横には羽織袴、侍姿のハセベさんと、テンガロンハットにシャツというウィリーさんの姿もある。


 いずれもあの遺跡で何処かへと転送された仲間達だ。

 距離があるので何を言っているのかは聞き取れないが、あの時の仲間達がいる。


「なんで? どうしてこんなところに?」


 嬉しさよりも、なんでこんなところにという疑問と困惑の方が強い。

 訳も分からずにハセベさん達のいる場所へ着陸すると、いきなりガーネットちゃんに抱きつかれた。


「良かった、無事だったんですね」

「ガーネットちゃんも無事で何より」


 まだ実感が湧かないが、ハセベさん、ウィリーさんへ握手をして再会を祝する。

 流石に大人の男性2人は俺に抱きついてくるようなことはなかったが、俺との再会を喜んでくれているのは分かる。


「心配したぞ。君達は何処に行ったのかと」

「それは俺達もです。みなさん無事で本当に良かった。それと……」


 俺は視線を、ハセベさんと一緒に旅をしているであろう他の3人へと向けた。


 この熱帯ジャングルだと、どう考えても暑いだろうというビジュアル系ロックバンドのような裾の長い漆黒のレザーコートを身に纏った男。


 上半身は軍服のようなジャケットを着ているのに、下半身はズボンだからスカートだから履き忘れたとしか思えないパンツ……いや、レオタード丸出しの変質チックな服装の痴女。


 そして、何故か水着にパーカーという全く空気を読めていない別の痴女。


 2/3が痴女という異様なチームだが、これはもしかして以前に聞いた第2チームこと「恥ずかしい服装チーム」ではないだろうか?


 何故ハセベさん達が彼らと共に行動しているのだろうか?


「ハセベさんの前の仲間でいいのかな?」


 リーダーらしきレザーコートの男が俺に手を差し出してきた。


「スケアクロウだ。クロウと呼んでくれ。今は理由あってハセベさん達と共にとある人物を追ってここまで来た」

「ラヴィと申します。よろしくお願いします」


 握手を拒否する理由などないので手を取った。

 見た目はいかついチョイ悪系だが、意外とフレンドリーだ。

 

 同様にパンツ丸出しのレオナ、水着のマリアとも握手をして自己紹介を行う。


「デカい鳥が見えたと思って身構えたら、直後に虹色の光を撒き散らしながら箒に乗った魔女が飛んで行ったからな。何事かと思ってよく見たら顔見知りだ」


 ウィリーさんが俺を見てそう評した。


「その上であの昼間でも眩しいくらいの熱線だ。ラヴィ君しかいないとすぐに分かったよ」


 ハセベさんもすぐに俺だと気付いてくれたようだ。

 

「俺もガーネットちゃんが竜巻を作ってくれたのですぐに気付けました」

「オレがガーニーに頼んで出して貰ったんだ。枝が邪魔すぎて空が見えにくくて払う意味もあったし、こっちに気付かせる目的もあった」

「何はともあれ合流出来て良かった」


 それは同感だ。

 俺もハセベさん達がどうなったかはずっと気になっていた。

 まさかホンジュラスの密林のド真ん中で再会出来るとは……人生、何が有るかわからないものだ。


「ところでモーリス君とエリス君は?」


 ハセベさんに尋ねられたので、簡単に先程の巨大な怪鳥が吸血ダニをばら撒いていたので、俺が単身、怪鳥を倒すために飛び立ったことを説明した。


「他の仲間もそこにいます。この鬱蒼としたジャングルよりはまだ過ごしやすいと思うので、一度合流しませんか?」


 俺はハセベさんと、後ろで腕組みをしていたクロウさんへ呼びかけた。


   ◆ ◆ ◆


 待っている仲間達を心配させてはいけないと、まずは岸壁地帯へみんなの安否確認と俺の無事を知らせるために戻った。


 どうやらランボーの機転やパタムンカさんの虫除け薬の効果などもあり、吸血ダニには誰も食われなかったようだ。

 ひとまず胸を撫で下ろす。


 それからモリ君達へ事情を説明。

 

 すぐにハセベさん達のところへ折って返して、空中から1時間ほどかけて誘導して、全員合流することが出来た。


「ラヴィ君達が全員無事で良かった。あの後、私達を追いかけて転移してくるでもなく、それでいて近くに現れたという話も聞かなかったので心配したんだぞ」

「すみません、こちらも色々ありましたので」


 俺達はハセベさん達との再会を祝した。


 そして別れてから起こったことを順を追って説明していく。


 遺跡を出た先に現代の地球で言うところのペルー……タウンティンで邪神と戦ったこと。


 俺達をこの世界に喚んだ運営とゲームマスターなる人物の存在。

 

 そいつを追ってパナマ、ホンジュラスと移動してきてここの(ヒキガエル)の神殿へ来ることになった経緯などだ。


 ハセベさん達は遺跡からキューバ島に飛ばされて、そこでクロウ達と会ったらしい。


 しばらくは島で海から現れる怪物達と戦っていたが、ある時、人間に寄生する奇妙な化け物と遭遇。

 正体と、発生原因に関わっている「赤い女」を追っているうち、ここへ辿り着いたのだという。


 パナマで聞いた「北の島の事件」とは、ハセベさん達が関わった事件のことだろう。


 おそらくこの遺跡から送られた赤い宝石がパナマ経由でタウンティンに届けられるはずが、何らかの要因によってキューバ島で作業員へ取りつく事故が発生してしまったのだろう。


「人間に寄生する化け物はシカップ爺さんから聞いた情報と一致する部分が多いな。おそらく同一存在」


 そう考えると赤い女やゲームマスターの狙いが何となく見えてきた。


「その赤い宝石……寄生生物は元々、俺達が探している蟇の遺跡のトラップとして用意されているものなんだと思います」

「それを町中でばら撒いて無差別テロを仕掛けようとしていたところ、キューバで事故が発生してしまったと」

「不発に終わった赤い宝石を補充するために赤い女はここへやってきた」


 俺達の持っている情報とクロウさん&ハセベさんが持っている情報を合わせて考えるとこれしかないだろう。


 つまり赤い女をここで叩けば俺達の完全勝利だ。


「マリア、寄生生物に寄生された人を治療できる可能性は?」


 クロウさんが水着少女のマリアに尋ねた。


「毒や病気なら私のスキルで治せるはずですが、寄生というのは別の生き物が体に入り込んでいる状態なので、やってみないとわかりません」

「マリアは回復の専門家だ。回復能力だけを見ると、モーリスのヒールよりも上だと思う」


 ウィリーさんが俺達のために補足説明をしてくれた。ありがたい。

 

「あなたも回復能力を?」


 モリ君が回復能力を使えると知って、マリアさんは興味を持ったようだ。

 

「ええ、俺も回復能力(ヒール)を使えますが、病気や毒までは治せないのでその点ではマリアさんの方が上ですね」

「そんなことありませんよ。私は回復と防御特化なので、戦闘もこなせるモーリスさんに憧れます」


 マリアさんとモリ君がお互いの能力を評価している。


 それだけなら問題なかったのだが、問題はモリ君の視線がマリアさんの豊かな胸の谷間へ吸い込まれたことだ。


 それは良くない。

 本当に良くない。


 後ろからお嫁さん達の怖い視線が突き刺さっているというのにモリ君は無自覚だ。

 このままでは場の空気が破壊されてしまう。


 そもそも何故胸を見て喜ぶのか?

 それはただの脂肪だ。胸が大きければ何だというのだ。


 もっと何かあるだろう。

 たとえば……そう、オーガニック的な何かとかさぁ!


 みんなモリ君へ太い矢印を向けているというのに、何故に初対面の女性に甘い顔をするのか?

 もっとちゃんとして欲しい。


「寄生生物については一応対策を考えています」


 俺はすかさずモリ君の前に飛び出ることで事態の収拾を図ることにする。


「私の能力『魔女の呪い』は弱い生物を黒い霧に変えて消滅させることが出来ます。感染初期ならば、この能力で体内の寄生虫のみを駆除できると思います」

「だがデメリットは有るのだろう」

「はい。能力は全ての生物に対して無差別です。長時間続けると人間の方まで消失させかねませんし、治癒能力ではないので、寄生虫が体内を食い荒らしたダメージは回復できません」

「諸刃の剣か」


 諸刃どころか毒をもって毒を制すだ。

 放射線を使ったガンマナイフで患部を焼き切るようなものなので、あまり頼りにされても困る。


 出来れば、俺が出張る以外の対策は欲しい。


「それに、寄生生物が完全に頭部を乗っ取った場合は既に手遅れだと予想されます。目撃者の老人によると、頭部に付いた球体を破壊したが、その中には既に人間の頭部は存在しなかったとのことです」

「それはオレもキューバ島で確認済だ。対処するならば初期症状のうちだけということだな。手遅れの場合は残念だが、もう人間ではないと割り切り、感染を拡大される前に駆除する」

 

 クロウさんが方針をまとめてくれた。


 遺跡内で寄生生物に寄生された犠牲者が現れた際の対応方針は固めておかないと、後で助けられたかもしれなかったと揉める切っ掛けになりそうだ。


「しかし人数が増えすぎたな。この人数だと遺跡探索なんて出来んぞ」


 パタムンカさんがボヤくように言った。


「遺跡の通路はだいたいどこも狭いんだ。3人横並びで通路は埋まると考えてくれ」

「なら、6人の少数精鋭で行くのが良さそうだな。前衛3後衛3だ」

「そんなもんだね」


 クロウさんの案にパタムンカさんが乗った。

 俺もそれに異論はない。


「専門家の私は絶対に必要だろう。罠や遺跡の構造を調べるには素人では無理だ」

「確かにその通りだ。なら教授にも同行を頼んだ方が良いか?」

「私は荒事は勘弁だ。後で安全が確保されてから行くことにするよ」


 教授はあっさりと同行を拒否した。


「なら、代わりにカーターだ。お前なら謎文化やゲームマスターや運営の情報に詳しいだろ」

「オイオイ、オレも荒事は勘弁なんだけど」

「文句言うな」


 腕をカーターの首へ巻き付けるようにして拘束した。

 知識のあるこいつが行かないと話が始まらない。


「すみません、知識担当でこいつが入ります。あと、こいつの面倒を見るために私も」 

「ラヴィさんには寄生生物対策で元から入って貰うつもりだったが……これにマリアを入れると……後衛が多いな」

「私が前衛に回りますよ」


 俺は後衛希望だったが仕方ない。


「君が前衛に? ……いや、あの怪鳥を倒した手際から考えてると悪くはない選択か。ならば最後の1人はハセベさん、お願いします」

「承知した」


 これで遺跡突入班は決定だ。

 ハセベさんとは久々の冒険になる。


 これから待ち受ける困難のことを考えると、素直に嬉しいとは言えない複雑な気持ちだ。


「ラヴィ君、久々だがよろしく頼む」

「こちらこそよろしく頼みます、ハセベさん」


 改めてハセベさんと握手する。


「ラビさん!」


 モリ君が俺を呼んだので振り返ると、木の鞘に収められた小刀を手渡してきた。

 

 あの地母神の遺跡でオウカちゃんの遺体から回収。

 当時は武器が破損したために素手だったモリ君に臨時で使ってもらっていたものだ。


「前衛に出るなら使ってください。今のラビさんなら使いこなせるはずです」

「ありがとう。使わせてもらうよ」


 小刀を持つと吸い付くように手に馴染んだ。

 軽く演舞のように宙を切ると思っている以上に振るうことが出来た。


 鞘はバルザイの偃月刀と共に腰のベルトへ紐で括り付けた。


「それは?」


 怪訝な顔をしてハセベさんが尋ねてきた。

 確かにこの話はかつてオウカちゃんと仲間だったハセベさんにはきちんと話しておくべきだろう。


「ランクアップ時に、どうやらオウカちゃんと混じってしまったらしくて魔女と侍、2つの能力があるんです」

「はっ?」


 ハセベさんが過去最高の間抜け面を見せた。

 俺の言っていることがそれだけ意味不明だったのだろう。


「すまん、言っている意味がよく分からないのだが」

「俺にも詳細は不明です。ただ、51番目というイレギュラーである俺の存在を許せない運営が何かやった可能性はあります」

 

 運営の名前を出すとハセベさんの表情が険しくなった。


「身体の方は大丈夫かね?」

「今のところはオウカちゃんが使えた刀を振る能力が身に付いただけで支障はないですね。スキルまでは使えませんが。それ以外は変化なしです」

「分かった。運営のちょっかいならば何が起こるか分からない。くれぐれも注意してくれたまえ」

「はい。それは勿論」


 ハセベさんに言った通り、身体的な変化はない。


 それよりも気になるのは魔女(ラヴィ)以外の何者かの意志をたまに感じることだ。


 今の刀を振る能力も、たまに魔女が俺の身体を乗っ取って動いているのと同じ雰囲気を感じるのだ。

 どうも、オウカちゃんの魂が俺に取り憑いているのではと思う時もある。


 何の確証も持てないので口には出さないが。


 ただ、もしも俺の中に魔女、オウカの3人分の魂が同居しているのならば、1人の人間に融合することでパワーアップというのは有りそうではある。

 そんなことをしてどうするという話もあるが。

 

「すみません、私達は軍務でここに来ておりますので、待機というわけにはいかないのですが」


 リプリィさんが挙手して言った。


 確かにリプリィさん達は軍務でここへ来ている以上は「人数オーバーで何も出来ませんでした」という言い訳は通らないだろう。


「そうは言っても、こちらの都合に合わせて遺跡の通路が広がるわけではない。オレ達が進路をクリアするので、その後から付いてきてくれ。お互いに邪魔にはならないようにしよう」

「心遣い感謝いたします」


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