第二十話:しししししんちゅうのむし(ドラゴン)
「というわけなんだよ」
俺はこれまでのいきさつを幼女に語って見せた。
「なるほど、王位の正当性を示すために妾の存在が必要なのだな」
「そういうこと。しかしドラゴンがいるとは思わなかったな。建国の龍は既に死んでるらしいし」
ガーネットが言うには、その時の龍は女王を連れ去ってから姿を現すことはなかったらしい。ドラゴンっての縄張りってのを持っていてあまり移動することはないらしいから、姿が見えなくなったのは病気か何かで死んだのだろうということだが。
「ほう、人間の世界では死んだことになっているのか」
「まるで生きてるような口ぶりだな」
「生きてるも何もここにいるではないか」
「ここって。俺とお前の他に誰もいないじゃないか」
洞窟は広いが特に隠れるような穴や障害物は見当たらない。
「は? ご主人様こそ何を言っている。セントラル王国を作った王――アーシャに協力したのは妾だぞ」
腕を組み、胸を張る幼女は自慢げだ。こういうのをドヤ顔というんだろう。
容姿は整ってるから似合ってはいるんだが、その愛らしくも憎たらしい顔を見てるとからかいたくなる。
「止めよ。頬をツンツンするな! 」
「すまん、つい手が勝手に」
「つい、で人の頬をつつく奴がいるか! 」
「まあまあ落ち着けって。で、お前が建国のおとぎ話に出てきた龍だと言うのは本当なのか? 」
「当然だ。なぜ妾が嘘をつく必要がある? 」
それもそうだ。
自分を伝説の龍だと騙ったところでこいつには何のメリットもない。
「だったらどうしてずっとここにいたんだ? 女王を連れ去って以来姿を見せてないんだろ? 」
「妾だって人間どもに金銀財宝や美女を献上させようと思ったわ。だけどこの山から出られなくなったのだからどうしようもないだろう」
ふて腐れてムスっとする幼女だが、何やら聞き捨てならない話が出てきた。
「出られないってどういうことだ? 」
「文字通りこの山から外へ出ることができないのだ。おそらく結界の類だろう。妾が気づいた時には山の周囲にぐるりと張り巡らされていたのだ。しかもかなり強力なもので妾でも破ることができないのだ」
「そんなものがあったのか。まったく気づかなかったぞ」
「ドラゴンを出さないようにするためのものだからな。人間が出入りするぶんには反応しなくて当然だ」
「じゃあお前をここから連れ出すことはできないのか? 」
せっかく本物がいたんだから、幼女にドラゴン形態になってもらい、そのまま王宮へ直接乗り込むのもアリかなとか思っていたけど。
「結界を破る方法なら無くはないぞ。これほどの大規模な魔術、どこかに要となる物があるはずだ。それをご主人様が壊してくれれば」
「なんか面倒くさそうだな。そんな大事なものなら念入りに隠しているだろうし」
「むむ。そんな簡単に諦めるでない! 妾は建国の龍だぞ? 利用価値は十分あると思うが? 」
「突然どうしたんだお前。さっきは泣いて嫌がってたのに」
「妾は奴隷になるのが嫌なのであって、外に出たくないわけじゃないのだ。むしろ出たい。久しぶりに空を翔けたい。いくら自分の寝床とは言えずっと籠っていたら退屈でしかたないのだ」
もしかして俺に襲い掛かってきたのも暇つぶしだったんじゃないだろうな。
「そのために主である俺に働けと。ずいぶんとワガママな奴隷だなー」
「妾はドラゴンだぞ。ワガママで何が悪い」
腰に手をあてて誇らしげに言う幼女。
その姿に呆れるというか、いっそもう感心してしまう。
魔法で縛られ、奴隷となってもこいつの在りようは変わらないらしい。
「それにご主人様の言う王女とやらにも興味があるしな」
「ガーネットに? まさかおとぎ話のように攫うんじゃないだろうな」
「ダメなのか? 」
「え、そんな不思議そうに言われても困るんだけど? ダメに決まってるだろ。てかそもそもなんでお前はアーシャ女王を攫ったんだ? 」
「妾のタイプだったからだ」
幼女の口から衝撃の言葉が飛び出す。
こいつ今なんて言った? タイプだから? ドラゴンと人間は種族が違うだろ。なぜ欲情するんだ。あ、でも人間型に変身すれば見た目は近くなるか……って、待て待て。そもそもの話、
「性別が同じじゃないか!? レズか? レズなのか? ドラゴンでロリで婆でレズとか要素多すぎるだろ! 」
「ダメなのか? 」
「え、そんな不思議そうに言われても困るんだけど? てかダメって言ったら一部の豚と一部の人間から壮絶に叩かれそうで嫌なんだけど? 」
「男は男、女は女で恋愛すればいい」
「……どこかで聞いたセリフだな。下手すりゃ消されるからそういう危ない事を言うのは止めような」
「何を言ってるのだご主人様は。妾は自分の思ったことを言っただけのだが」
「……まあ、お前がレズだというのは分かったよ。だが、ガーネットは未来の俺のお嫁さんだからお前にはやらん」
(仮)状態で結婚できる目処はまったくないが、だからといって誰かに渡したくはない。一緒に生活を始めてガーネットの人となりが分かってきたからなおさらだ。高慢そうにみえて実は結構やさしいところとか、弄られるとへこんで可愛いとことか。
「未来ということは今の時点では誰のものでもないのだろう? なら早い者勝ちでよか」
「ダーメですー。そんなこと俺が許すわけないだろ色ぼけドラゴンめ! お前は奴隷なんだから俺が許可しなきゃ指一本触れません。ざまーみろ」
「ぐぬぬぬ」
悔しさに地団太を踏む幼女。
こいつが自重しないレズなのは分かったがだからといってそれを黙って見過ごすわけにはいかん。奴隷の癖に生意気な。命令でガーネットの周囲一キロまで近づけなくしてやろうか。
「……まあいい。とりあえずその話は結界が機能してるか試してからにしようぜ」
「妾の言ってることが信じられないのか? 」
「じっさいに俺に影響があるわけじゃないし」
「それはどうかのう」
含みのある言い方をする幼女。
「結界はお前を閉じ込めるだけのものだろ? 俺に何の関係があるんだ? 」
「たしかに結界は妾を閉じ込めておくものだ。ただこの結界にはもうひとつの効果があってな。それは結界内の時間の流れを遅くすることだ。特に中心部分であるここはその影響が強い」
「ははは、そんな馬鹿な」
「嘘だと思うなら上を見上げてみるがいい」
幼女の声に従って上を、俺が落ちてきた穴を見上げると、
「夜だと!? 」
俺が麓の村を発ったのが朝だ。
それから大して時間は経っていないはず。体感時間で言えば四、五時間ていど。
本来であれば昼間の空が見えておかしくないのに、ここから見る空は暗い。
外と時間の流れが違うというのは本当のことだというのか。
「驚くのはまだ早いぞ。ご主人様は気づいていなかったが既に数回は日が昇って沈んでおるぞ」
はえーよホセ。
そういうことはもっと早く言えっての。
「とりあえず早くここを出るぞ」




