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第二十話:自分見抜きいいっすか

結果的に言うと幼女は結界を抜けられるようだ。

どうやら俺の奴隷になったことで元のドラゴンとは別のものになったと認識されたらしい。


「しかし、本当に夜だな」

「だから言っただろう。妾は嘘つかない」


空を見上げれば月がゆっくりと動いている。

ノロノロとではあるがはっきりと移動しているのが分かるのだ。

よくあるテレビ映像の早回しのような感じだ。

幼女のいうとおり、中と外とでは時間の流れが違うようである。

月はもうすぐ地平線に沈み、そして日が昇る。朝が来るのだ。

問題はこれが何度目の朝なのかってことだ。二、三日であれば問題ない。

ある程度の猶予があるから王様を決める行事に遅刻することはないが、一週間とかだとまずい。

せっかくドラゴンを連れて行っても新しい王様はすでに決まってたなんてことになったら笑えない。


「じゃあ変身してくれ」

「しょうがないのう」


やはりというかチートの半分を失ったことで飛行能力は失われてしまった。

魔力の総量が減ったためなのか、飛ぼうと思っても三十センチくらい浮くくらいで限界が来てしまうのだ。これでは王都に着くころには日が暮れてしまう。

だから俺は幼女に跨って王宮を目指すことにした。


「なんかロリコンくせーな」

「なにを言ってるのだ? 」

「悪いがその姿で喋らないでくれ、なんか口がドラゴン臭い」

「んな!? くくく臭くないわ! 」


まあ気のせいかもしれない。

鋭い牙が生えそろった、人を丸のみ出来そうな口はきっと生臭いんだろうなって印象が頭に刷り込まれているからな。ジュラシックパークとか好きだったし。


「よっと」


俺はドラゴンの背に飛び乗る。

ドラゴンの体はザラザラしてて乗り心地は良くないが我慢するしかない。


「おい、口に手を当てて何をしているんだ? 今は一分一秒が大事なんだ。早く行こうぜ」

「いいか? 妾の口は臭くないからな」

「分かった分かった。お前の”口”は臭くない」

「やめーい!! それじゃまるで口以外は臭いみたいな言い方ではないか」

「もう面倒だな。お前は臭くない。むしろいい香りがする。春の草原のような瑞々しさを含んだアロマフローラルな匂いだ」

「まったく、最初からそういえばいいものを」


自分で言っててそれがどんな香りなのかよく分からないが、本人が嬉しそうなので良しとしよう。

ドラゴンがバサバサと翼を羽ばたかせると俺の視界が高くなる。

俺を乗せたドラゴンの体が浮上したのだ。


「振り落とされるでないぞ」

「そんな心配はしなくていいから飛ばしてくれ」


俺たちは王都を目指すのだった。


◇◇


ドラゴンの背にのって飛行すること四時間。

出発した時は暗かった空が明るくなり始めたころようやく王都の街並みが見えてきた。


「どうする、近くの草原にいったん降りた方がよいか? 」

「いや、そんなゆっくりしている時間はない。雲に隠れるように王都の上空まで行き、そこで変身を解除して一気に降りる」

「それは落ちるというのだが」

「いくら俺の魔力で弱体化したからといっても、そのくらい問題ないだろ? 」

「まあ妾はそうじゃがご主人様は大丈夫なのか? 」

「死にはしないだろうが地面に埋まるのは困るかもな」

「うーむ、ご主人様が本当に人間なのか疑問になってきたぞ」

「人間に決まってるだろう。……そろそろだ。解除してくれ」

「分かった」


俺を乗せていたドラゴンが光り輝くと一瞬にしてその巨体は消え去る。

そうなるともちろん、ドラゴンに乗っていた俺の体は投げ出され、重力に従って自由落下を始める。

頭から真っ逆さまだ。顔を横に向けると同じように幼女が落ちている。いや、彼女の場合は滑空だろうな。背中に生えている小さな翼で風を受けて飛んでいるのだ。


眼下の街並みが急速に近づいてくる。

俺は目を凝らして街の構造を把握し、それを実体験に照らし合わせて、目的地を割り出す。


「あそこが王宮で、こっちの建物が密集しているのは商業区。だから貴族街は……あった」

「王宮に直接向かうのではないのか? 」

「ど派手に登場したのはいいけど日時が違ってましたとか恥ずかしいだろ」


広い敷地と大きな邸宅が並ぶ中で、唯一こじんまりとした建物。それがガーネットの屋敷だ。


「あそこに降りるぞ。減速頼む」

「了解したぞご主人様。しっかり掴まるがいい」


俺は幼女の小さな手の平を握ると急激に体が持ち上がる感覚を味わった。

幼女が翼を広げて風を受けたためだ。パラシュートの要領で徐々に落下速度は減速していく。

地面に着くころにはほとんど相殺されて緩やかな着地となった。


俺は玄関から屋敷の中に入る。


「ほう、ここが王女の屋敷か。それにしては随分と小さいが」

「無駄に華美なものは好まないらしいからな」

「ふうん、変わった奴だな」


俺に続いて屋敷に入った幼女が不思議そうにしている。

宝石好きのドラゴンからしたら理解できない感性なのかもしれない。


まずはリビングに向かってみるが誰もいない。

この時間ならガーネットが読書をしいているか、ミミルが掃除しているはずなのだがどちらの姿もない。

仕方なく屋敷の部屋をしらみつぶしに回ってみるも、ガーネットもミミルもスピアもいなかった。


「なあ、ここに置いてある紙に何か書いてあるぞ」

「貸してくれ」


そこに書かれていたのは俺へのメッセージだった。

今日が王位を決める日だから王宮に来てほしいとのこと。

ギリギリ間に合ったことに安堵するが、その後に書かれていた儀式の始まる時刻を見てサーッと冷汗が流れる。

王位の継承の義が始まるのは二回目の鐘が鳴る頃に行われるのだ。

街の様子や日の登り方を見れば、二回目が鳴るのもうすぐだと分かった。

まずい。ここまできて間に合わないとか笑い話にならんぞ。


「これから王宮に向かう」

「最初からそっちに向かえばよかったものを。で、どう向かう? 馬車でも呼ぶのか? 」

「ドラゴンで乗り付けるんだよ」


◇◇


ふたたびドラゴンの背に跨った俺は、彼女に王宮に向かうように指示を出す。

ドラゴンは翼を広げると勢いよく飛び立ち、街の上空を駆け抜けていく。


「な、なんだあれは!? 」

「魔物だ! 魔物が出たぞ! 」

「兵士たちはいったい何をやっているんだ! 」


突然、街中に現れたドラゴンの姿に通りを歩く人々から悲鳴が上がる。

この国の人間ならだれもが知ってるおとぎ話の生き物なのに、それを見れて感激してる人はいないようだ。

建国の象徴といってもドラゴンは魔物だし姿を見せなくなってかなり時間が経っているからしょうがないのかな。

予想外の反応だけど気にしてる暇はない。いまは時間との勝負なのだ。


「さて、妾はどこに降り立てばよいのだ? 」


それから程なくして俺たちは王宮の上空を旋回していた。

貴族街からはそこまで距離が離れていないから歩きならともかく空を往けばすぐである。


「そうだな。あそこの庭園にしようか」


そこは俺が王子の護衛と決闘した場所だ。

あの時と変わらず草木は整えられ色とりどりの花が咲いている。そんな場所にバカデカいドラゴンを着陸させることに申し訳なさを感じるが、一番近い場所がそこなのだ。


「なるべく、ゆっくりな」

「うん? なんか言ったか」


俺の忠告を華麗にスルーしたドラゴンは勢いよく地面に着地した。

それはもうズドーンって感じだ。

その衝撃はすさまじく木々は大きくしなり、窓ガラスにはひびが入り、綺麗な花々は千切れて舞い上がる。


(ごめんなさい、名も知らぬ庭師さん)


そんなことを考えていると建物の方が騒がしくなり、武装した兵士たちが次々にやってきた。そりゃあんだけの音と衝撃を立てれば集まってくるよね。

勇ましくやってきた兵士たちだったが、ドラゴンの姿を見るなり顔を引きつらせ、遠巻きに囲むだけで何もしてこない。生物としての格の違いを本能的に理解しているようである。

ドラゴンが身じろぎするだけで大慌てで後退している姿を見ていると悪いことをしている気になってきた。

俺たちは襲撃しにきたわけじゃないから彼らと敵対する理由もないわけだし、早いこと事情を説明して警戒を解いてもらわないとな。


「よっと」

「ひ、人だと!? 」

「馬鹿なあれほどの魔物を従えるなどありえない」

「もしや魔王」


兵士たちはドラゴンの背から飛び降りた俺を見て驚いていた。

今まではドラゴンの姿に目を奪われていて俺のことは見ていなかったようだ。

しかし魔王ってなんだよ。お前らの祖先はこのドラゴンに認められて王になったんだぞ。俺が魔王ならこの国は魔王の国だっての。


「どうした。我が城で何が起きている」

「お待ちください。ここは危険です。陛下は奥の方へ」


そうこうしているうちに渡り廊下の向こう側から偉そうな恰好の老人とその取り巻き、そして護衛する兵士たちの集団がやってきた。

顔は見たことなかったけど恐らくあれがこの国の王なんだろうな。

ドラゴンの立てた音が気になって出てきたようだ。


リーンゴーン。


ちょうどその時、王宮の上に設置されている鐘がなる。それに合わせて街の方の鐘も一斉になりだした。

ふうどうやら時間的には間に合ったようだ。


遅刻をしなかったことに安堵していると、王のいる集団から少女が前に出てくる。

それはプリンセス衣装に身を包んだガーネットだった。


「陛下、彼は私の部下です」

「ほう、ガーネット。お前のか。して、この騒ぎを何ゆえ起こしたのか説明してくれるのだろうな」

「はい。彼は新たに誕生する王を祝う為に建国の象徴であるドラゴンを連れてきてもらったのです」


ガーネットの言葉に王は目を見開き瞠目した。

他の面々も動揺が隠せないのか互いに何事か囁き合っていた。


「バカな。ドラゴンなどここ百年近く現れたことがないというのに」

「いいえ本物です。彼はそれを見つけて来てくれたのです」


そうでしょう? とこちらに目をやるガーネットに俺は笑顔で答える。


「もちろんだ。しかもただのドラゴンじゃないぞ。建国に協力したドラゴン本人をだ」


俺の言葉にみんなの視線がドラゴンに集中する。

ドラゴンは注目されて誇らし気にしている。爬虫類の見た目だから表情は分かりづらいが魔力で繋がっている俺にはその心の動きが伝わってきた。

長い間一人で過ごしていたからこういう敬われるのとか嬉しいんだろうな。


「嘘だ! 」

「そうだ。かの龍は初代の王を連れ去ってから現れることがなかったのだ。いるはずがない」

「偽物だ。偽物に決まっている」


しかし、その後に続く侮辱とも取れる言葉にドラゴンの気分が一気に急降下していった。

その代わりに怒りのボルテージが反比例するように上がっていく。

それを証明するかのように口元から火の粉がチリチリと漏れ出ている。

まずいな。

下手したらこの場にいる連中に向けてブレスを拭きかねないぞ。


「グルルルル」

「ステイ。ステイ。やるなら上に向けてだ」

「ギャオオオオオオ」


炎の濁流が空に吹き上がる。

俺の隣にいたドラゴンがブレスを吐き出したからだ。

まるで炎の柱が出現したかのような光景にその場にいたものは俺とガーネット以外へたり込んでしまった。中にはひざまずいて命乞いをする者まで現れるほど。


「貴様ら。妾が黙っていればつけあがりおって。その身を燃やして塵にしてくれようか」

「しゃべった!? 」

「そんな知恵ある龍だと! それじゃ本当にあの始祖龍だと言うのか」

「知恵があるだと? 当たり前だろうが。レッサードラゴンと一緒にするでないわ! 」

「うわあああ」


うかつな発言でドラゴンに睨みつけられた貴族の男は恐怖に叫びをあげて気を失ってしまった。


「それで、新しい王ってのはもう決まったのか? 俺たちはいま来たばかりだから中のことはよく分からないんだ」

「ええ、そうよ。これから決まるわ。私かトパーズお兄様、どちらかが王となるのよ」

「そりゃよかった」


ドラゴンをまるで恐れないように振舞うガーネット。

彼女のそんな姿にまわりにいた貴族は畏敬の視線を送っている。

大して名前をあげられたトパーズの方はというとドラゴンの方をなるべく見ないようにそっぽを向いている。


「妾はどいつに祝福を贈ればいいのだ? この男に寝起きを叩き起こされて機嫌が良くないのだ。さっさと決めろ」

「そ、そうだなあ」


この場の最高決定者である王はドラゴンに見つめられて顔をひきつらせた。

そしてトパーズとガーネットを見比べてから絞り出すような声で


「ガ、ガーネットが適任であると思うがどうだ、皆の者」


そう言った。

周りにいる貴族たちも壊れた人形のように首を縦にふり同意をしめす。


「そうか。この女が新たなる王か。ふむ、悪くないぞ。こやつにはどこかサーシャの面影があるからな。ではガーネットよ。お前がこの国を統べることを妾が認めよう」

「初代のサーシャ王と契約を交わした始祖龍に認めて頂けることは非常に光栄です。あなたの信頼にこたえるようこの国の発展を誓います」


ドラゴンと可憐な少女。

神話の一幕のような光景に誰もが魅入っていた。

しかし一人だけ異を唱える者がいた。


「ま、待っていただきたい王よ。次王はトパーズ殿下と決まっていたではありませんか」


そいつは……誰だ?


「しかしな宰相よ。初代と共にあった龍が認めたのだ。王であるワシにもその決定には逆らえん」

「で、殿下もそれでいいのですか」

「構わん。俺にはドラゴンの前に立つ勇気はない。お前が俺のために手を回していたことは知ってたが諦めろ」

「そんな……」


紺色のローブに身を纏っていた男はこの国の宰相のようだ。

彼は何としてでもトパーズを王にしたかったようだけど当人たちがこれでは無理だろう。

うなだれる宰相。

しかし、俺には気になることがあった。

それを聞くことは失礼なことなのかもしれない。元いた世界でも人種問題とかはデリケートな話で迂闊に口を開けば火あぶりの刑に処されるしな。

でも言いたくて仕方がない。あるあるじゃなくても早く言いたい。


「なあ、あんた。この国の宰相でいいんだよな? 」

「いかにもそうだが」

「ならこの国で生まれ育った人間なんだよな? 」

「なにを言っている。当り前だろう。ガーネット王女の部下風情が失礼なことを聞くな」

「じゃあなんで、肌の色が青なんだ? 」

「な!? 」

「ちょっと何を言ってるのユニオ。彼はどう見ても私たちと同じ」

「言ってなかったんだけど、俺って偽物を見抜く目を持ってるんだよね。その目が訴えかけるんだよ。これは偽物だって」


この世界に来たからなのか、それとも魔法の力を手にしたからなのか分からないが俺の目は進化していた。これまでは整形した顔に違和感を持つレベルだったものが、はっきりと元の顔をその目に移しているのだ。

なんていうか今の顔と元の顔が重なっている状態というか。

だからガーネットたちが見ている周りの人間と変わらない顔も見えるし、青白く尖った耳をしてる顔も俺には見えている。

あまりに異質だった。

俺はガーネットに事細かく彼の顔の特徴を説明していく。

すると周りにいた者たち含めて表情が険しくなっていった。


「……魔族じゃないか」


誰かがぽつりと漏らした。


「なにか懐かしい臭いがすると思ったらそうだ。これは魔族の臭いだ。たしかにそいつは魔族だな」


それを追認するようにドラゴンがそう断言した。

俺だけなら平民の戯言で済ませられたがヒエラルキートップのドラゴンが認めたのだ。それは確定と同義である。


「どうやらこれまでのようですか。まったく、古のドラゴンが現れるとは想定外もいいとこだ」

「宰相! 貴様、魔国の間者であったか! 兵よ、こやつをひっ捕らえろ」


事の成り行きをポカンと眺めていた兵士たちは王の言葉に我に返ると、宰相だった男の元に殺到する。

しかし包囲が完成するよりも前に彼の周りに魔法陣が現れて一瞬で消えてしまった。


「く、転移の魔法か。だがそう遠くまでは行けないはずだ。奴を探すのだ」


王様、いや元王か。は顔を真っ赤にして兵に指示を飛ばしていた。

長年騙されて続けていたことがよほど頭にきたんだろう。脳の血管が切れるんじゃないかと不安になるくらいだ。


「なんか不味いことしたか? 」

「いいえ。あなたのおかげで国は救われることになる。国民を代表して礼を言うわ」

「それはよかったよ。女王さま」

「ただ色々と話は聞かせてもらうわよユニオ。聞きたいことは山のようにあるのだから」


解放されるのはそれから三時間後だった。

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