第87話
「これはすでに襲撃されたものと判断して構いませんね?」
デスタが男爵に確認している。
「もちろんだ。捕まえて薬の出所を吐かせることができれば良いが・・・
難しいならどうせ死刑になる者どもだ。
こちらからやってしまっても構わん。」
男爵が言い切る。
なかなかに良い判断だ。
「この薬について詳しく教えていただけますか?」
少しでも情報が欲しい。
とりあえずダメ元で聞いてみる。
「燻っている煙が魔物を呼び寄せる。
だから・・・」
騎士が小袋から出した魔呼薬を踏みにじって火を消す。
「これで寄ってこなくなるはずだ。」
「支配したり、命令したり、狂暴化させるってことは?」
支配できるのであれば、煙を出なくしたところで、そのまま襲ってくる可能性が高いだろう。
「わからん。
キツく法で禁止されている薬だ。
そのようなことを試したことも無いはずだ。」
気配察知では魔物はまだ近づいてくる。
「魔物が近づくのを止めません。
私が確認した矢は一本ですが、我々の周りに複数バラまかれている可能性があります。
効果はどれほど続くのでしょうか?」
エンドレスの殲滅戦はさすがにキツイだろう。
終了の目安が欲しい。
「少なくとも煙が出ている間は確実だが・・・。」
男爵の口ぶりは重い。
「使ったヤツらが襲ってきたら効果切れってことですか。」
デスタがばっさりと言い切る。
「矢を射た者は木に登っていました。
おそらく魔物をやり過ごすためだと思われます。
魔物を撃退した後にもう一戦あるというでしょう。」
木に登っただけで襲われないかどうかを置いておいて、煙に向かって進む魔物と直で向かい合うことは無いだろう。
「しかし、この「魔呼薬」という薬は、誰でも簡単に手に入るものなのですか?」
最も気になる点だ。
「そんなことは無いだろう。」
入手困難な薬だと、素人さんには手出しできないだろう。
ってことは普通の盗賊の可能性はまた大きく減った。
あとは、
「たかだか獣人や奴隷の移民団を襲うのに使って元が取れる金額なのでしょうか?」
ゴブリンを倒すのに宝剣を使うようなものというか、過剰な戦力を投入している感が否めない。
「そんなに安価に手に入るものでは無い、ハズだ。
少なくともここ十数年は、摘発されたことすらない薬だ。」
「だとしたら何か裏があるのではないでしょうか。
誰かがその金額を使ってでも亡き者にしたい者がいる、とか、
価値のある物がここにある、とか。」
戦力が過剰なのではなく、絶対の勝利が必要なため、奥の手を投入したと。
「価値のあるものなど移民団が持ち歩くはずがあるまい。」
そらそうだ。
ってことは当然、
「では、命でしょうね。」
奥の手を投入しても奪いたい価値のある命。
「ここに大枚を叩いて、奪う価値のある命というのはどれだけあるのでしょう?
貴族である男爵閣下が筆頭として、その家臣団、それ以外には?」




