第37話
掲示板の情報どおり、十階層まで行くとそれまでは二、三匹の魔物の群れとしか出会わなかったのが、五、六匹の群れになる。
一匹の強さもコボルト並からオーク並へと上がった。
「きりがないな。」
どこからこんな数の魔物が沸くのかというくらい次々と戦闘になる。
ダメージを受けるような攻撃はくらわなくても、胸当てや篭手には多少当たる。
怪我は無くても疲労で動きが鈍ってきている。
[ダンジョン移動]の分のMPも残しておかなければいけないし。
「今日はこのへんにしておくか。みんな、魔物が途切れたら地上に戻るぞ。」
「「「はい。」」」
十階層の階段からすぐのところで今日の狩りを終える。
一日で三階層を踏破したのだから、べつにサボっているわけではない。
何せここはまだ十六階層までしか踏破されていないダンジョンだ。
ダンジョンってのは、大体五十階層まで成長するとようやく人目に触れるようになるらしい。
大昔の馬鹿が発見されたてのダンジョンってどこまで深いのか。
を確かめるために、あちこちのダンジョンを攻略しまくったらしい。
結果、平均五十。
深いものでは七十階層、浅いものでは三十階層になって初めて人目に触れるらしい。
大昔の馬鹿っていっても、発見されたてのダンジョンを地図もなしに最深階層まで踏破するんだから並の馬鹿ではない。
その馬鹿はダンジョンを追って、ずっと西のほうで王国を築いたらしい。
この辺では馬鹿扱いだが、西のほうに行けば英雄譚も聞けるだろう。
一介の探索者から王だ。
冒険者や探索者のほぼ全員が夢見る将来だ。
俺も例外ではないらしい。
政治うんぬんは非常に苦手だが、かしずく侍女に、衛兵、後宮の美女。
幾万の軍勢を率いての戦に挑む。シュミレーションゲームの世界だ。
夕食を堪能しながら冗談を言ってみる。
「俺が王様になったら、みんなお后様になるけども、心の準備は良い?」
チートにものを云わせれば、辺境なら王国くらい築けるのが向こうのラノベでは常識。
絶対にいつか、築いてみせる。
お忍びで王様が城下町に遊びに行く将軍的な感じ。
大奥に、町娘。
この世界でやりたいことがまた増えた。
俺の俺による俺だけの王国を築く。
冒険者や探索者になるやつは同じような夢を持つのかもしれない
「私の王国・・・」
「私が正妃・・・」
「お兄ちゃんは一人しか居ないのに何で後宮が必要?」
反応は微妙でした。そのうち分身の術でも覚えないと。
というか、王になる前提を疑おうよ。
俺をナンダと思ってるんだお前らは。
その全面的信頼感の根拠を示してくれないか。
普段の扱いからは納得がいかんぞ?
居酒屋の個室で俺だけの王国(妄想)に浸る。
そういえばオーナーに言っておこう。
個室も有りだ。
だがカウンターや、屋外席も別な需要がある。
差別化。
もともと居酒屋も江戸時代に酒屋が発明した儲けの手段だ。
俺の記憶が確かならば、酒屋が樽売りなんかで余った酒を、一杯売りをした。
肴も低価で売り出したのが始祖なはずだ。
カウンター酒屋や女子専用メニュー。
立ち飲みに居酒屋に喫茶店に甘味処。
オーナーに話しを通しておこうか。
いや、一気に出してはダメだ。徐々に徐々に。
前の奴の効果が切れる頃に提示するのがいいだろう。
今回は干物とカマボコで充分だろう。
「そういえばイル。この間の東の果ての村より先に島国があるんだって?」
もはやこのパーティの情報収集担当のイルに聞く。
チョーシの村長が言っていた台詞が気になっていたのだ。
海を渡れば島国がある、と。
アレが東の果てじゃないんだ。
元バイク乗りとしては、最○端ってのは問答無用に引かれる。
「はい。なんでもイスタール王国の何代か前の王族が国を興したとのことで、デルソル公国という
のだそうです。
もともとこの国の王族出身ということで関係は良好で、チョーシ村の北にある、ソノーという町から船がでているようです。」
ほんとにどこでそんな情報を仕入れてくるんだろう。
いつもほとんど一緒にいるのに。
「なんか名産品とか名物とかの特徴があるのかな?」
東の果ての島国ってところに惹かれる。
日本みたいな発展の仕方とかしてるんじゃないのかな。
「真珠という宝石と服飾業、独自の食文化に武器鍛冶、薄い本が有名らしいです。」
やっぱりか。
あのオタクのことだからそんな設定にしているとは思ったけど。
「よし、探索者D級になったら、まずそこ行こう。服とか武器とか見てみたい。」
目下の目標の探索者D級を達成したら、旅行がてら行ってみねばなるまい。
船にも乗ってみたいし、なにより多分かなりの確率で日本文化があるはずだ。
味噌や醤油に米もあるかもしれない。
日本刀や十文字槍もあるかもしれない。
刺身や鮨や天麩羅、たこ焼きに鰹節。
期待は高まる。
スキル付与もすっかり忘れて熟睡しちゃいました。