第四章 第二話
「……だるい。
もうやる気が出ねぇ」
執務室の机に突っ伏しながら、ラルヴァ王子はそう呟いていた。
執務を開始したラルヴァの集中力は、慣れない書類仕事の所為かわずか書類三十枚を数えた辺りで消耗し尽していたのだ。
どうやらラスカル王子はここ数日の間、本当に執務をサボっていたらしく……執務室に溜まっている書類はまだ百や二百どころではないほど積み重なっている。
「なんでこの俺様が治安維持部隊の新装備についての決定を下さなきゃならんのだ。
そんなの、現場で扱いやすいものを使えばよいだけだろうが」
その挙句、目の前の書類は王子が嘆く通り……そのほとんどが彼にとってはどうでも良い内容ばかりなのだから、やる気が起きようハズもない。
「あの馬鹿、王族が無駄な時間を費やすことも国益を損ねるってことを考えろ……」
机に突っ伏したまま、ラルヴァはそうぼやく。
自分自身が今まで一切の執務を放棄していたことを棚に上げたままで……
「ラルヴァ王子、これにも目を……」
そんなラルヴァの疲労を顧みることもなく、各行政機関を統括するアルス政務官は机の上にあった書類の束を更に一層高くする。
「……貴様」
「王族のサインが必要ですので」
流石に腹が立ってきたラルヴァはアルス政務官を睨みつける。
だが、四十代半ばというのに既に頭髪は白髪混じり、神経質な顔の皺も相まって老人にも見えるアルス政務官は、王子の殺意混じりの視線を受け止めても、その涼しげな顔を崩さぬままだった。
それどころか、書類の仕分けを行っているその手も全く動じた様子すらなく……ただ機械的に動き続けている。
「大体、俺にこんな裁量を持たせても構わないのか?
……貴様はラスカル王子に仕えていると思ったが……」
「私はランシア王国に仕えているのみです」
アルス政務官の態度が気に入らなかったラルヴァは嫌味混じりにそう呟くが、返ってきた答えもやはりそんな模範解答だった。
兄弟どちら側などと探りを入れるまでもない、そんな完全な模範解答の所為で、ラルヴァの抱えていた憤りはあっさりと鎮火してしまう。
「あ~、くそ。面白くない」
「行政とはそういうものです」
ぼやくラルヴァに返ってきた返答も、そんな模範解答だった。
ラルヴァはアルス政務官を睨みつけるが……すぐにため息を吐くと仕事に取り掛かる。
仕事熱心で融通が利かない人間相手には、何を言っても無駄だと心得ているからだ。




