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コルコニアの旅人たち  作者: 南河鯨
1章 / 旅立ち

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12/27

12 / 白い葉

 旅立ちの朝が来ても、レナルドの里は驚くほどいつも通りだった。


 東の空がまだ薄青いころから家々の煙突には煙が上がり始め、家畜小屋では餌を求める鳴き声が聞こえ、大樹の周りでは早起きした鳥たちが枝から枝へ飛び回る。商隊の馬車だけが普段より慌ただしく、荷締めの縄を確かめる声や車輪へ油を差す音が、静かな朝の中へ何度も響いていた。


 クリルは自分の部屋の中央に座り、昨日まとめた荷物をもう一度広げていた。


 着替えは必要な分だけに減らし、黒い書き布と白筆はすぐ取り出せる腰袋へ入れた。狩りに使う小物と手入れ道具、水筒、それにアンティルから借りた灰色の石もある。ミーリャが持たせてくれた乾燥肉や焼き菓子は、最初に入れた量からなぜか増えており、昨夜きちんと荷をまとめたはずなのに、朝になって袋を開けるとさらに包みが一つ追加されていた。


 中身を確かめなくても、誰の仕業かは分かる。


 クリルは包みを取り出そうとして少し迷い、結局そのまま荷袋の奥へ押し込んだ。


 部屋を見回す。


 何か忘れていないか確かめるためだったはずなのに、気づけば荷物ではなく、ずっと見慣れてきたものばかりに目が向いていた。


 寝台の脇には、幼いころ身体の大きさを測るためにつけた傷が残っている。窓枠の隅には、昔ふざけて短剣を投げて怒られたときにつけた小さな傷があり、その下の床板だけは少し色が濃い。何度も水をこぼし、そのたびに布で拭いた場所だった。


 昨日までは、こんなものをじっと見ることなどなかった。


 帰ってくるのだから、別に覚えておく必要もない。


 そう思おうとしたが、今日のクリルには、その言葉に現実味を感じられなかった。


 旅がどれだけ長くなるのか、まだ分からない。


 大図書院へ辿り着くまでにも、ロビは何度も町や村へ寄ると言っていた。イトゥアンから先の道について聞けば、季節や交易の都合で変わるから正確な日数は言えないと笑われた。


 もしかすると、次にこの部屋で眠る日は来ないのではないか。


 その事実を考えると、胸の奥に小さな淀みが生まれた。


「クリル、起きてる?」


 戸の向こうからミーリャの声が聞こえた。


 クリルは荷袋を閉じて立ち上がり、戸を開ける。


 ミーリャはすでに旅支度を終えた娘を見て、一度だけ目を細めた。


「朝ごはん、できてるわよ。出る前にちゃんと食べなさい」


 いつもと同じことを言っている。


 クリルはそのことが少し嬉しかった。


     ◇


 朝食も、いつもとほとんど変わらなかった。


 焼いたパンに卵、昨日の夕食で残った野菜の煮込みが並び、ジグは相変わらず自分より大きな肉をクリルの皿へ移そうとした。それをミーリャが止め、結局はクリル自身が二人の皿の中間くらいの大きさを選ぶことになった。


「荷物は?」


 ジグが尋ねる。


 クリルは食べながら片手で問題ないと示した。


「刃物の手入れ道具は入れたか」


 首肯する。


「水袋は?」


 もう一度頷く。


「予備の紐」


 三度目になると、クリルは黒布を取り出し、


〈昨日確認した〉


 と見せた。


「昨日あっても今朝なくなってることはあるだろ」


 〈ない〉と首を振る。


「旅に出たことないくせに、なんで言い切れるんだ」


 このやり取りがいつまで続くのかと思っていると、ミーリャが呆れた顔でジグを止めた。


「その調子だと、イトゥアンまでついていきそうね」


「できるならそうしたい」


「仕事は?」


「なんとかするだろ」


「誰が?」


 ジグは黙った。


 クリルは少し笑いながらパンを口へ運んだ。


 昨日までは、この朝食が別れの場面になるのではないかと思っていた。


 もっと重く、何を話せばいいのか分からない時間になるような気がしていたのだが、実際にはいつもと同じだった。


 それでよかった。


 食べ終えて席を立とうとしたところで、ジグが「待て」と言った。


 いつもの注意の続きかと思い、クリルは少し警戒しながら振り返る。


「渡すものがある」


 ジグはそう言って、自分の部屋へ入った。


 戻ってきた手には、細長い布包みがあった。


 机の上へ置き、結び目を解く。


 中から現れたものを見た瞬間、クリルは動けなくなった。


 鞘に収められた一本の短剣だった。


 華美な武器ではない。


 柄には長く使われた跡があり、革巻きの一部は色が変わっている。鞘にも細かな傷がいくつも刻まれていたが、刃を少しだけ引き抜けば、丁寧に研がれていることが分かった。


 知らない武器ではなかった。


 ずっと昔に見たことがある。


 小さかったころ。


 父の腰にあった。


 クリルの手が止まったままなのを見て、ジグは短剣へ視線を落とした。


「サリフのだ」


 分かっていた。


 それでも名前を聞くと、胸の奥が強く縮んだ。


「あいつが最後に持ってたものだ」


 そこから先を、ジグはすぐには言わなかった。


 クリルも聞かなかった。


 あの日の記憶は、すべてがはっきり残っているわけではない。むしろ、思い出そうとすると抜け落ちている部分の方が多かった。


 父の背中。


 獣に似た小さな悪魔。


 自分へ向けられた何か。


 口を開いても、自分の声だけが聞こえなくなった瞬間。


 そして、地面へ落ちた刃。


 そこから先は、血の匂いと恐怖ばかりが混ざっている。


 ジグは短剣を布の上へ戻した。


「今まで俺が持ってた。いつ渡すか決めてなかったんだ」


 クリルは彼を見る。


「別に、十五になったらとか、狩りを一人でできるようになったらとか、そういうのを決めてたわけじゃない。ただ……お前が持つなら、今だと思った」


 クリルは黒布を取り出した。


 何か書こうとして、白筆が止まる。


 ありがとう、では少し違う気がした。


 父のものを持っていくことが嬉しいだけでもない。


 怖くないわけでもなかった。


 短剣を見るだけで、忘れたつもりになっていた記憶が近くなる。


 それでも、嫌ではない。


 クリルは布へゆっくり書いた。


〈持っていっていい?〉


「駄目とは言えないだろ、この雰囲気で」


 ジグは少しだけ笑った。


 クリルは短剣を手に取る。


 思っていたより重かった。


 ただ、重すぎるわけではない。


 自分が普段使っている短剣より少し長く、柄も大きい。まだ完全に手へ馴染む大きさではなかったが、抜いて構えてみれば扱えないほどではなかった。


「旅の間に使えって意味じゃないぞ」


 ジグが言う。


「もちろん使ってもいい。ただ、サリフが持ってたからって、無理にこれを使う必要はない。お前にはお前の使いやすい武器がある」


 クリルは顔を上げた。


「あいつのやり方まで受け継ぐ必要はないからな」


 短剣を握る指から、少し力が抜けた。


 父の武器だから、大切にしなければならない。


 父が使っていたから、自分も同じように使わなければならない。


 無意識にそう思いかけていたことに、その言葉で気づいた。


 クリルは短剣を鞘へ戻した。


 旅へ持っていく。


 でも、自分の武器まで置いていく必要はない。


 それでいいのだと思えた。


 ミーリャは二人のやり取りを黙って見ていた。


 クリルが短剣を荷物へ加えると、ようやく口を開く。


「サリフは、たぶんこう言うと思うの」


 クリルは母を見る。


「危なくなったらすぐ逃げろって」


 少し笑った。


「あの人、自分は全然逃げなかったけどね」


 笑顔のまま、ミーリャの目にほんの少しだけ違う色が混ざった。


 クリルは何も書かなかった。


 代わりに母へ近づいた。


 ミーリャも何も言わず、クリルの身体を抱き寄せる。


 ここ数年は、こうやって抱かれることもほとんどなくなっていた。


 少し恥ずかしい。


 けれど離れたくはなかった。


「ちゃんと食べるのよ」


 耳元で言われた。


 クリルは母の肩へ顔を押しつけたままじっとしている。


「怪我したら隠さないこと。商隊とはぐれないこと。知らない人についていかないこと」


 だんだん子供への注意になってきた。


 クリルが身体を離して黒布を取ろうとすると、ミーリャにもう一度抱き寄せられた。


「書かなくていいの」


 クリルの手が止まった。


 声は出ない。


 言葉も返せない。


 それでも母の背中へ腕を回した。


 それで十分だと思った。


     ◇


 商隊の出発時刻が近づくころには、里の大樹の周りへ思った以上に多くの人が集まっていた。


 全員がクリルを見送りに来たわけではなく、商隊から頼んでいた品を受け取る者や、最後の取引を済ませる者もいる。それでも顔を合わせるたびに「気をつけろよ」「帰ってきたら話を聞かせて」と声をかけられ、クリルはそのたびに返事をした。


 《旅人》が発現した直後、里にはクリルが出ていくべきだと言った者もいた。


 その考えが完全になくなったわけではないだろう。


 けれど今朝、そのことを口にする者はいなかった。


 あの家畜飼いの男も来ていた。


 隣には息子がいる。


「本当に行くんだな」


 男の声には、以前のような緊張はなかった。


「この前は、その……悪かった」


 何について言っているのかは分かった。


 クリルは少し考えたあと、笑顔で首を横に振った。


 忘れたわけではない。


 でも、それを持ったまま旅へ出る必要もないと思った。


 男が安堵したように息を吐いたところで、息子が前へ出てくる。


「貝殻!」


 それだけで何を言いたいのか分かった。


 クリルは、


〈大きいの?〉


 と書いて見せる。


「そう! でっかいやつ!」


 両手を広げて示された大きさは、以前より明らかに増している。


 そんな貝が本当にいるのかどうか分からない。


 クリルは少し悩んでから、


〈あったら〉


 と一言加えた。


「約束だからな!」


 約束になってしまったらしい。


 そのやり取りを見ていたロビが笑いながら、馬車の荷台から顔を出した。


「お前、旅の序盤から土産で荷物増やしてどうすんだよ」


 クリルが抗議するように睨むと、ロビはさらに笑った。


「まあいい。はじめて海を見るなら、拾い物くらいしたくなるだろ」


 はじめての海。


 その言葉だけで、胸の中に何とも言えない感情が湧いた。


 今日、里を離れる寂しさと同じ場所に、見たことのないものへの期待感がある。


 どちらか片方だけではなかった。


 旅立つというのは、たぶんそういうことなのだろう。


 大樹の近くには里長もいた。


 いつものように落ち着いた顔で、旅支度を終えたクリルを見ている。


「決めたんじゃな」


 クリルは黒布へ、


〈自分で決めた〉


 と書いた。


 里長はその文字を見て、ゆっくり頷いた。


「それならよい」


 クリルは少し意外に思った。


 もっと何か言われる気がしていた。


 本当に行くのか、とか。


 オウロウ様の子孫として恥ずかしくないように、とか。


 けれど里長はそんなことを口にせず、大樹を一度見上げてから続けた。


「旅に出ても、そうでなくても、帰る場所は変わらん。覚えておけ」


 クリルは白筆を動かさなかった。


 ただ、その言葉は忘れないようにしようと思った。


 旅へ出ることと、ここを捨てることは同じではない。


 戻ってきてもいい。


 それが分かるだけで、荷物が少し軽くなったように感じた。


     ◇


「そろそろ出るぞ!」


 商隊の方から声が上がった。


 御者たちが馬を動かし始め、荷車の車輪が少しずつ土を噛む。鈴の音と馬具の擦れる音が重なり、数日前まで里の広場を占めていた馬車の列がゆっくり東へ向きを変えていった。


 クリルは最後に家族を見る。


 ミーリャは笑っている。


 無理に作った笑顔ではないと思う。


 それでも、いつもより何度も瞬きをしていた。


 ジグは腕を組み、言いたいことがまだ百個ほどありそうな顔をしている。


 クリルは黒布を出した。


 何を書けばいいのか、昨日から何度も考えた。


 いってきます。


 元気でね。


 すぐ帰る。


 どれも少し違う。


 結局、白筆で書いたのは、


〈いってくる〉


 だけだった。


 ミーリャが笑う。


「いってらっしゃい」


 ジグも続いた。


「ちゃんと帰ってこいよ」


 クリルは布を胸の前へ掲げたまま、何度も頷く。


 それから商隊の方へ向き直った。


 一歩進む。


 すぐ後ろに里がある。


 もう一歩進む。


 今まで何度も歩いた道だ。


 狩りへ行くときも、ロビを迎えに行ったときも使ったことがある。


 境目があるわけではない。


 門もない。


 ここから外だと示す標識もない。


 それなのに、今日は一歩ごとに景色の意味が変わっていくように思えた。


 大樹の脇を通り過ぎようとしたところで、風が吹いた。


 クリルの白い髪が揺れる。


 オウロウの大樹の枝葉が一斉に擦れ、その音が里の上へ広がった。


 クリルは足を止め、見上げた。


 昔からそこにある大樹だった。


 幼いころから何度も登ろうとして止められ、暑い日にはその陰で昼寝をし、狩りから戻るときには遠くからでも目印にしていた村の象徴だ。


 白い葉は朝の光を受け、無数の小さな羽のように揺れている。


 その中から、一枚だけが枝を離れた。


 今は葉が落ちる季節ではない。


 風も、枝を揺らすほど強くはなかった。


 それでも葉はゆっくりと宙を舞い、幾度か向きを変えながら、クリルの前へ落ちてきた。


 反射的に両手を出す。


 白い葉が掌へ乗った。


 軽い。


 いつも見ている大樹の葉と何も変わらない。


 クリルは大樹を見上げた。


 何かが起こるわけではなかった。


 光も見えない。


 声も聞こえない。


 《旅人》が反応することもなかった。


 ただ、一枚の葉が落ちただけだった。


「珍しいな」


 後ろからロビが言った。


「この時期に落ちるのは、あんまりないんじゃないか?」


 クリルは白い葉を見る。


 捨てる理由が見つからず、腰袋から黒布に使っていない小さな包みを取り出し、その中へ丁寧に挟んだ。


 何かの意味があるのかもしれない。


 何の意味もないのかもしれない。


 今は分からない。


 なら、残しておけばいい。


 それが、ここ数日で覚えたやり方だった。


 クリルはもう一度、大樹と、その向こうにいる家族を見た。


 今度は振り返らずに歩き出した。


     ◇


 里が見えなくなったのは、昼よりずっと前だった。


 道が緩やかな丘を越え、森の形が変わったところで振り返ったときには、もうオウロウの大樹のてっぺんだけが遠くに見えていた。


 さらに歩けば、それも木々の向こうへ隠れた。


 クリルはしばらく、別れを惜しむように里の方を向いて立ち尽くしていた。


「戻るか?」


 横を歩いていたロビが冗談とも本気ともつかない声で尋ねる。


 クリルは首を横へ振った。


「なら行こうぜ。イトゥアンまでも、まだけっこうあるし」


 商隊は東へ進んでいる。


 レナルドの外にも道はあった。


 森の中を通っていることは同じなのに、知らない曲がり方をし、知らない沢を越え、クリルが見たことのない花が道端に咲いている。


 ほんの数刻歩いただけなのに、もう知らないものがある。


 それが少し可笑しかった。


 世界は、里の境を越えた瞬間から突然広くなるわけではない。


 今までもずっと、この先に広がっていた。


 自分が歩いてこなかっただけなのだ。


 昼過ぎ、商隊は小さな沢のそばで休憩を取った。


 馬へ水を飲ませ、車輪や荷を確かめるための短い休みだったが、クリルは少し離れた木陰へ腰を下ろした。


 腰袋から黒布を出そうとして、手を止める。


 これまで何度も使ってきた布には、すでに文字が重なり始めている。


 誰かへ話すためのものなら、用が済めば拭けばいい。


 けれど、残しておきたい記録まで同じように消していけば、いつか何を書いたのか分からなくなる。


 クリルは荷袋を開いた。


 中には、昨日ミーリャから渡された小さな冊子が入っていた。


 上等なものではない。


 厚手の紙を束ね、革紐で綴じただけの簡素な帳面だった。


 ミーリャは「書くものが増えたでしょう」と言っただけで、何に使えとは言わなかった。


 クリルは最初の頁を開く。


 真っ白だった。


 何を書けばいいのか分からず、しばらく筆を持ったまま考えた。


 消えた集落のことなら、黒布にすでに書いてある。


 魔穴も、魔獣も、カギリ草の異変も同じだ。


 なら、この頁には何を書くのか。


 少し遠くでは、ロビが御者と笑いながら何かを話している。アンティルは木の根元に座って帳面を開き、もう何かを書き始めていた。


 クリルはその姿を見て、自分の膝へ視線を戻した。


 今日見たものを書く。


 分からなかったことを書く。


 忘れたくないことも。


 それでいいのかもしれない。


 筆を紙へ置く。


 最初に日付を書いた。


 次に、場所。


 レナルドの東。


 それから少し迷い、一行目を書き始める。


〈今日、レナルドを出た。〉


 そこまで記して、手を止めた。


 事実だけなら、それで終わる。


 けれど今は、それだけを残したいわけではなかった。


 クリルは続けた。


〈大図書院へ行く。途中にあるものも全部見たい。〉


 さらに少し考える。


 朝、母に抱きしめられたこと。


 ジグから父の短剣を受け取ったこと。


 里の子供と貝殻の約束をしたこと。


 大樹から一枚だけ葉が落ちたこと。


 どれも、大図書院へ着くために必要な情報ではない。


 それでも書いておきたいと思った。


 クリルは一つずつ、文章にして残していった。


 書き終えたころ、頁の半分以上が黒い文字で埋まっている。


 最後に少しだけ余白が残った。


 クリルはそこへ、もう一文書いた。


〈少し寂しい。でも、楽しみ。〉


 誰かに見せるための言葉ではなかった。


 事実と推測を分ける記録とも少し違う。


 ただ、そのとき自分がそう思ったことを残したかった。


 声にはできない。


 けれど、文字なら残せる。


 こういうのを旅日記というのだろうか、と思った。


 クリルは最初の頁を閉じなかった。


 黒い文字が乾くまで膝の上へ置き、その向こうに続いている道を見た。


 《旅人》の光は出ていない。


 それでも、行く先は決まっている。


 海を見て、その先へ進み、いつか大図書院へ辿り着く。


 途中で何を見るのかは、まだ何も知らない。


 だからこそ、クリルは新しい帳面の表紙を指先で撫でた。


 これから知らないものに出会うたび、ここへ残していけばいい。


 レナルドを離れた十四歳の少女が、世界をどこまで歩くことになるのか、このときのクリルはまだ知らなかった。


 ただ最初の一頁だけは、確かにここから始まっていた。

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