第六演目 ◤◸僕、”勇者”になりました◹◥ ※
――昔の夢を見た。
僕がまだ、剣術学校に通っていた頃の話だ。
当時の僕は孤児院を飛び出し、ギルドで生計を立てていた。
稼いだお金の一部を使って、剣術を学ぶ。
同じ年の子達より、実力はあったと思う。
そのせいか、親しい友人と呼べるほど仲良くなった相手はいない。
それでも、まだそこにいることを許されていた。
――事件が起こったのは、剣術を習い始めて3年が経つ頃。
僕に嫌がらせをする子達がいた。
僕は、関わらない方がいいと判断。
どんな嫌がらせも、片手間であしらっていた。
ある日のことだ。
水中訓練が終わり、男子だけの教室。
例の嫌がらせ君達が、妙なことを言い出した。
「お前、○○ちゃんのパンツ盗んだだろっ!」
ガサゴソッ!
「あ、コイツの棚にありましたよ。キャプテン!」
「キャプテンッ!コイツ、先生に言いつけて退校にしてもらいましょうよ!」
何を言っているんだろう……?
心からそう思った。
……すると、女子達が着替えを終え帰ってきた。
女子の中の一人が泣いている。
「テメーらん中に、ゴミ野郎がいるよなぁ?出てこいっ!私がぶん殴ってやる」
女子の一人は怒っていた。
……なるほど。
泣いている子のパンツが盗まれて、代わりに犯人を捜しているのか。
ならば、目の前の嫌がらせ君達を吊るしあげればいい。
それで、この騒動は解決するだろう。
僕は犯人を突き出そうとした。
――しかし、その前にキャプテンと呼ばれている子が声をあげた。
「それなら、メイトが盗んでたぜ?俺たちがさっき取り返したんだ」
怒っている女子が睨みつけてくる。
「テメェか?」
ここで僕には疑問が浮かんだ。
弁明とともに、訊いてみることにした。
「僕じゃないよ――第一、何故そんなことをする必要があるんだ……?」
周囲がざわつく。
すると、キャプテン君が応えてくれた。
「そんなのっ!……み、見たいからだろっ!」
――みたい……か。
ふむ。
雰囲気的に、まだ僕が疑われている……か。
このままだと、犯人にされてしまうな。
気は進まないが、変に間違えられても困る。
……しょうがないな。
――僕は、証拠を提示した。
「もし僕がパンツを見たいと思ったなら、そんなことはしないよ――
こうすればいいだけだからね」
ザァンッ!
その瞬間、教室にいるメイト以外の服が切り飛ばされる。
「――これで、僕が犯人じゃないと分かったろう?」
「きゃ――――――――っ!」
各地で悲鳴があがる。
次の瞬間、涙目で殴りかかってくる女子がいた。
僕は当然それを躱した。
「何をっ……ああ、服のことなら謝るよ。ごめんね……弁償もするよ。」
教室が静寂に包れる。
あんなにうるさかった嫌がらせ君達も、唖然としたまま動かない。
「もらうね」
僕は嫌がらせ君達からパンツを取り返し、うずくまっている持ち主に返した。
「はいコレ。ごめんね、君を巻き込んでしまって……」
正直、僕以外に嫌がらせが飛び火するとは考えていなかった。
女の子は泣かせてはいけないと。
そう、孤児院で教わったのに……
これからは、もう少し気をつけることにしよう。
ゴ――――ン!ゴ――――ン!
次の訓練の鐘が鳴る。
僕は遅れないように教室を後にした。
○○○
次の日、学校の様子は変わっていた。
なんだろう……向けられる視線が冷たい。
僕は何があったのか、周りに聞いてみた。
「ねぇ、君。何かあったのかい?」
返事はない。
一人、また一人と僕から離れていく。
周りの様子がおかしいのは明らかだった。
気になった僕は、手当たり次第に声をかけた。
……しかし、誰とも”会話”にはならなかった。
――その日から、僕と話してくれる生徒はいなくなった。
次の日も。
その次の日も。
どんなに話しかけても、返事はない。
日に日に視線も冷たくなっていった……
そんな状態で数日が経過したある日。
先生から、こんなことを告げられる。
「メイト・ペングル。他生徒の総意により、其方を退校とする」
――ここで僕は、人に関わると迷惑をかけて嫌われてしまうと学んだ。
……僕は嫌だった。
人に迷惑をかけるのも。
あんなに冷たくされるのも。
こうして僕は、剣術学校を離れることになった……
……。
――なら、一人で生きていけばいいだけじゃないか。
結論が出た。
食料確保、調理、寝床の設営。
うん。
全部できるな。
剣術学校で学びたかった事は大体習得した。
あとは実戦形式の方がいいかもしれない。
こうして、僕は集落を後にしたんだ。
○○○
――夢から覚めた。
……と、思ったのだが。
ここは……?
……夜?
にしては明るく、青色に輝いている。
足元を見ると、鏡のように星空を反射していた。
すごく綺麗だ。
見惚れていると、光の霊のようなものが前に出現れる。
光の霊は言葉のようなものを放つ。
「あなたは『勇者』になりました」
勇者……?
そういえば100年周期くらいで魔王が誕生するって聞いた覚えがある。
勇者は魔王を倒す役割……だったかな?
光の霊は手のようなものを広げる。
『あなたの”孤独”の全てを禁止します』
何を言っているんだ……?
僕は会話を試みる。
「聞いてもいいかな……君は……」
ブォゥンッ!
……
――勇者は元居た場所で目を覚ます。
時は、魔王誕生の2日前。
ここは……?
師匠の声がする。
「おい、いつまで寝ぼけてやがる」
蹴られて意識がはっきりする。
夢……?
いや、後半のアレは夢にしては……
……。
”勇者”……か。
今起こったことを、師匠に伝えてみようかな。
「師匠。僕、”勇者”になりました」
「あ?なに言ってんだ?」
「師匠。僕、”勇者”になりました」
「聞こえてねぇわけじゃねぇよ!……おう、そうか。お前が……」
師匠の顔つきが変わる。
僕はそんなこと気にも留めず、師匠に問う。
「師匠。勇者って魔王を倒せばいいだけですか?」
「うん?ああ――だが、魔王は並の魔族とはわけが違う。まだお前にゃ無理だ」
「分かった――師匠の言う基準は当てにならないから、とりあえず倒してくるよ」
僕は、魔王の城へ向かう準備を始める。
後ろで師匠が何か言っているが、無視をした。
すると、師匠に蹴り飛ばされた。
「オイ、クソ弟子……無視してんじゃねぇぞ?大人の話はちゃぁんと聞くもんだって教えたよなぁ!」
「確かにそうですね。僕が間違えました。で、なんでしょうか?」
「ちっ……まず、なんで一人で行こうとしてる?」
「そのほうが――効率的だから」
師匠はため息を吐いた。
「あのなぁ。代々、勇者はパーティを組んで魔王城に向かう決まりがあんのっ!」
「いや、必要ないよ。一人でいい」
「ダメだ。拒否するなっ!そろそろお前も、俺以外と関わる時が来たんだよ」
確かに、6年くらい師匠以外と会話はしていない。
会ってすらいない。
――なぜか?
する必要がないからだ。
まあ、師匠ともする必要はないのだが……
「そうだっ。勇者になったんなら、勇者の『能力』がもらえるはずだが――使えるか?」
「『能力』?……ああ、これのことかな」
能力がある感覚を信じ、使用してみる。
すると、勇者の前にウィンドウが開いた。
デンッ!
――――――――――あなたは勇者です。――――――――――
デンッ!
――――――――勇者の固有魔法『驚』を習得しました。――――――――
へぇ。驚魔法……ね。
よく分からないな。
他にも色々書いてあるようだ。
この宙に浮く半透明な紙に触れれば、操作できるのか。
勇者はウィンドウを触れる。
デンッ!
――――――――”聖王”に王城へ招待されました。――――――――
デンッ!
――――――明日の12時丁度、王城内部に転移します。――――――
まずいな……。
「師匠……本当に一人で魔王討伐してはダメですか?」
「観念しろ。それに、さんざん会話の仕方は教えてやっただろ」
「師匠の言う事は半分しか信じてませんので」
蹴り飛ばされた。
僕も受け身が随分と上手くなった。
――人と関わるしかない……
敬語の使い方、会話の仕方、女性との接し方。
確かに師匠から教わったような気がする。
「お前、女に興味ありそうだったじゃねぇか。それとも、ビビったのか?」
僕が、ビビっている……か。
確かに、少しは過去に失敗したかもしれない。
僕と関わったら、周りを不幸にしてしまう。
そう思い、なるべく人との接触を避けてきた。
――だが、今は違う。
僕は同じ失敗はしない。
実戦経験が一番学びを得られることを知っている。
どうせいつかは、人と関わらなけらばならない。
いい機会……なのだろう。
「そうだね。女性がもしパーティにいたら、みんなを抱いてくるよ」
「お……おう。そうだ……その息だっ!パーティメンバー全員抱いてこいっ!」
――この時、”勇者”は知らなかった。
抱くに、ハグする以外の意味があることを……。
師匠と呼ばれる男が、てきとーにエッチな話をしていたことを……。
……欲のない野生の少年。
――それを面白がり、どんどん”嘘”が”エスカレート”していったことを――
泡でございます。
今回から、勇者編が始まります。
一応、ダブル主人公システムでいこうかなと考えております。
ちょっと物語の本筋から外れて進行が遅れますが、
必ず面白くしますので、ご愛嬌です。




