第五演目 ◤◸ボクの”名”は……◹◥
——魔王に転生した日から"5日"が経過した。
勇者パーティとの決戦の日は”明日”ということである。
——この5日間、ボクらがどんな対策をしてきたか……
——"何もできませんでした"。
分かる。分かるよ。
まじめにやれと。そう言いたいんだよね。
でも聞いてほしい。
——”何もしなかった”んじゃない。
——”できなかった”んだよ。
何があったか、5日間を振り返ってみよう。
まず、転生1日目に発生していた問題。
——普通に遭難している件について。
そう、食料が無かったのだ。
——因みに、魔王は餓死しないらしい。
——飢餓感を味わいながら、魔力を消費し続けることでね……
そんな状態で人を楽しませることなどできるわけがない。
——ゴードンはどうしたって?
やってみたよ。頼んでみたよ?
そんでもって獲物も取ってきたよ?
”捌けない”。
元一般男子高校生です。
大型トラックほどの猪の調理法を、知ってると思うかい……?
”分かるわけがない”。
——え?ゴードンはどうしたって?
焼いて、そのまま食らいついてたよ。
この小さな口で同じ芸当をやれと?
……”無理”。
——ということで、ボクは2回目の『設定』をした。
ボクの身の回りのお世話を全てしてくれる存在。
名前がないと言うので、”執事といえば”の名前をもじってこう名付けた。
——”セワス・チャン”と。
召喚前はミイラだったらしい。
白髪を包帯で結んだ、何かを極めていそうな老人。
白い燕尾服を着たその姿は、執事というより白衣を着た闇医者にしか見えない。
彼が今、身の回りすべての世話をしてくれている。
そのおかげで、この5日間無事に生き残れた。
——じゃあ、何も”できなかった”とは?
うん。当然の疑問だ。
それを詳しく語るには、これを知ってもらわなければならない。
そう。
あの時のように……
——セワスも”召喚時全裸”だったのだ……。
——————『設定』の能力について。——————
——”魔界”から”設定”に最も相応しい者が自動で選ばれる。
——設定用魔力を消費し、設定・召喚を行う。
——設定用魔力は、自分の魔力とは別に、最大魔力の半分程度の量で存在する。
——設定用魔力が空になると、『設定』が一定値回復するまで使用不能になる。
——設定用魔力は時間経過で回復する。
——魔王の呼び出したい位置に召喚できる。
——”服を置き去り”にして。
……。
——”ボクのせいだった”……。
ゴードンを変態と罵った魔王。
勇者一行に変態の集まりだと、嫌悪を示した魔王。
……。
——”ボクが変態だったぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!”
少女はこれを知ったとき、それは綺麗な土下座をしたそうな……
そういう趣味かと勘違いされてたし……
——で。
本題はここじゃなくて。
——”設定用魔力が空になると、『設定』が一定値回復するまで使用不能になる”。
——そう、ボクの設定用魔力が”空”なのだ。
原因は、言うまでもない。
——”俺の次に強くて。”なんて設定したゴードンに、8割近く魔力を持っていかれて。
——”魔王の身の回りのお世話を全て”と設定したセワスに、残りを全て搾り取られたのだ。
そして、設定用魔力が一定値まで回復するのが、勇者パーティの出発の日なのである。
——これが、”何もできませんでした。”の理由である。
最初に言ってほしかったよね……
このぐらい魔力を消費します。
よろしいですか?って……
そもそもこの世界、”よろしいですか?”がないんだよね……
——少女が理不尽耐性を獲得した頃、白い執事が現れる。
「魔王様。お食事の用意ができました。」
白い執事は、高級フレンチ並に飾り付けられたステーキを運んでくる。
「本日のメニューは、
アイジヒボアのハチャメチャ盛~メチャクチャゴチャゴチャ焼き~
にございます。
すごく栄養価が高いと耳にしましたので、焼いてみました。
この神々しいまでに美しい色つやは、
そうっ!まるで魔王様のようでございます。」
この見た目と、ギャップがありすぎる発言をするのがセワスだ。
元々は釣りをしていたらしく、もちろん執事の経験などない。
『設定』でスペックだけ与えられた結果、このそれっぽ残念執事が爆誕してしまったのだ。
——どうしてこの発言するやつから、こんなに美味しそうな料理が出てくるっ!
くそっ!少女は肉を口いっぱいにほおばった。
……そういえば、ボロ小屋の変化について語るのを忘れていた。
ほぼ異世界辞書と化した自分の能力ウィンドウによると……
——このボロ小屋は、本当に”魔王城”らしい。
現在は、内装だけ城っぽい見た目になっている。
……小さくないか?魔王城。
一間?
LとDとKはっ?
すると、こんな記載もみつけた。
————魔王城は”魔王の力以外”で、破壊・改変は不可能————
……あとはまあ、ね?
ほら、別にこのままでも快適だからね。
勇者が来た時、ベッドとかの生活感バレるやつはカーテンで隠そう。
因みに、家具などはセワスが作ってくれた。
……ここで、1つの疑問が浮かぶかもしれない。
——なぜ、こんな一部屋のみで生活しているのか。
ゴードンが言っていた。
「現在は”聖界”の”極寒区域”と呼ばれる場所にいます。」
と。
……今、”聖界”なんだ。
外は地獄のような吹雪だけど、ここ”聖界”なんだっ。
そもそも、魔王がいるの”魔界”じゃないんだっ!
もちろんツッコんだ。
……なんでも、魔王は魔力が多すぎて、”魔界”から弾き出されてしまうのだとか……
——つまりは、住める場所がここしかないのだ……
完食して自分と会話をしていると、”魔界”から人工魔王が戻ってくる。
ゴードンは、創作られた魔王だからか、魔力を全力で抑え込めば、少しの時間だけ入れるようだった。
ついでに表向きにはゴードンが魔王なので、魔王城で暮らす準備をしてもらっていた。
セワスがもう一人の主を迎える。
「お帰りなさいませ。魔王様。」
ゴードンが魔王の玉座に座り、応える。
「うむ。ところで、魔王様。我より、勇者を楽しませるアイディアがあるのですが……」
違和感を覚えた少女は思わず発言する。
「なぁ、ちょっと待ってくれ。おかしいと思わないか?」
「これは、失礼しましたっ!魔王様に魔界での報告を忘れておりました!」
ゴードンは不格好な土下座をした。
前のボクを真似たんだろう。
「……ふっ、いや、そうじゃなくて。」
つい笑いがこぼれた。
笑い……?
……そういえば、転生してから笑ったことなんてあったっけ?
余命宣告だの、ふざけた情報だの。
こんなのが続いてツッコミっぱなしだったな……
あれ……?
——いつの間にか、素が自然に出せている。
——魔王キャラを演じなくても会話ができている。
当然だが、元の自分をこいつ等は知らない。
だからだろうか。
誰も、ボクに「こうあってほしい」という像が無い。
だから、無理に演じなくてもいい。
とても喋りやすい。
少女は微笑み、違和感を伝えた。
「”魔王様”だよ。魔王が二人もいるとごちゃつかないか?」
ゴードンが何かに気付いたような表情をする。
「確かにそうですね……それでは、魔王様。ご芳名を伺ってもよろしいでしょうか?」
——あ。
ボクも何かに気付いたような表情になる。
ボクの名前……?
鹿田 真面目ですが。
でもこれは元の世界の名前だし……
この世界のボクの名前……?
……。
——”ボク、名前ないわ”。
さて、どうしようか。
……名前かぁ。
——魔王という役で。
——セミのような寿命しかない女の子。
蝉かぁ……蝉といえば、海外にこんな種類の蝉がいたな。
十数年を地中で過ごし、殻を脱ぐ日をただ待ち続ける。
そして、最後の一時だけを地上で生き、その羽を広げる。
そんな、魔法のような蝉。
——ボクも上手に、彩れるかな。
「よしっ、ごーどんっ!」
少女は突然立ち上がる。
そして、高らかに名を宣言した。
「ボクの名は、”ロルム・ツィカーデ”!これからは、魔王様禁止だっ!セワスもな!」
「御意にっ!」
「承りました。」
——やりたいように演じてみよう。
——偽りのない自分で。
——身を守る殻は必要ない。
——羽さえあれば、どこまでも飛んでいけるのだから……
魔王ロルムか……
うん。我ながらいい名前だ。
でも、表向きには幹部ロルムになるのかな?魔王はゴードンだし。
——魔王が名前を宣言すると、ウィンドウに新しいタブが増えていた。
ん?なんだこれ?
ロルムは、特に何も気にしないまま、確認する。
デンッ!
———————————魔王の名前が設定されました。———————————
デンッ!
——————あなたは”魔王ロルム・ツィカーデ”になりました。——————
デンッ!
————————”これより、世界に魔王の名を公開します。”————————
「………………なぁ、異世界。」
「”よろしいですか?”を聞けぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇぇぇぇええッ!!!!」




