第三演目 ◤◸”やられ役”の魔王◹◥
——異世界において、”犯罪”とはどんなものがあるのだろうか。
いや、異世界と言ってしまうと他の異世界に迷惑かもしれない。
少し限定しよう。
——自分が召喚された、この世界の”犯罪”とはどんなものがあるのだろうか。
もっと言えば——魔族間での法はどうなのだろうか。
そもそも魔族たちに交流はあるのだろうか。
……ある。
はっきりと言える。
——今、目の前に”魔族”がいて、自分が”魔族”だからだ。
法なら自分で作ればいい。
魔王なのだから。
——何故、こんな疑問が浮かんだのか。
いやー、やっぱり自分は冷静なのだと思う。
こんなことを考えてしまう。
もし今、この場に第三者がいて、”現在の状況を説明にして。”と、お願いしたとする。
……すると、こんな回答が返ってくるだろう。
『——少女の目の前に、全裸の壮年男性が仁王立ちしています。』
「おまわりさ――――んっ!ここで――――――すっ!110ば――――――んっ!」
……どうすればいい。
呼んだよ。
確かに呼んだよ。召喚したよ?
でも全裸は困るよぉ……おじさん。
なんでそんなに見つめてくるの?
なんで仁王立ちなの?なんで全裸なの……?
真顔だよぉ……
怖いよ……顔と状況が怖いよ。
闇のオーラ纏ってるから、他は纏わなくてOK!みたいなこと?
——隠せてないよぉ~。ちょうど目の前だよぉ。ご立派だよぉ。
頭が、回転しているようで回転していない少女に、やられ役の魔王は声を掛け始める。
「この度、”魔王階級”を授かりました。魔王、『ゴードン・アクト―ヴァ』召喚に応じ、参上いたしました。」
やられ役の魔王は、礼儀正しく言葉を紡ぐ。
「我の使命は、魔王様に代わり、魔王城にて勇者を待ち、”討ち果たされる”こと。御意に。」
……自己紹介、ありがとう。
でもね、話は入ってこないや……
——お前、”裸”で行くつもりか!?
「あ、うん。えっと。あの~。」
なにか、言葉を返そうとする。
おかしい。
うまく喋れない。
そういえば、ずっと一人だったから忘れていた。
——この”キャラクター”は、どう喋るのが正解なんだ?
あまりのことに、勢いでツッコミは入れられた。
だが、どんな”役”を演じればいい?
——目の前の変態は俺のしもべだ。
——そして、俺は魔王。
——役はすでに配られている。
——俺よ。
——お前がこの『瞬間』に、この『役』に立っているのなら。
——この『魔王少女』はどんな言葉を口にする。どんな『行動』をとる。
——見せてみろっ!お前がずっと『閉じ込めていたもの』をっ!
「おい、『変態』。服を着ろ。」
「……御意に。」
そう言い残して、やられ役の魔王はゲートのようなものを作り、速やかにその中に消えていった。
……。
——俺が、ずっと『やりたかった』こと。
自分の口で。
場面に合わせて。
そうできたなら、一番楽しい言動をする……
——できたっ!ずっと内に閉じ込めていたものがっ!
ようやく外に出せたっ!
けど……
「なんか違うぅぅぅぅぅぅぅぅう~~~~~!」
……このシーンじゃないだろ。
感動がないよ。ついでに服もなかったよ……
でもでも、大丈夫だ。大丈夫。
——これから、ずっと『魔王』を演じられる。
それだけで、わくわくできる。
最初が、変だっただけだ。
うん。
——さしあたって、”一人称”はどうしようか。
俺?ではかわいくないし。
私?普通の女の子すぎるな。
我?変態魔王と被る。却下。
——僕? ”僕”か。
これは俺が、”俺”の前に使っていた一人称だ。
子供っぽさが増すので、忌み嫌っていたが…………
背は伸びた。
あの頃から、俺も成長している。
——なら、”新しく変わった自分”ってことで……
変態魔王改め、ゴードンが服を着て謎のゲートのようなものから帰ってくる。
「魔王ごーどん。お互いに魔王だが、お前は、”ボク”のしもべってことでいいんだな?」
「はい。表向きには、我が魔王を務めますが、我は魔王様の忠実なるしもべでございます。」
——ボク。
うん、しっくりくる。これでいこう。
ついでに魔王同士の上下関係も把握できた。
「時にごーどん。ボクの代わりに死ねと命じたわけだが。これにたいして、どのように考える?包み隠さずにいえ。」
隠しきれない愛らしい声を抑え、なるべく怖い感じをイメージして問いかける。
正直、コイツの本心を聞かねば信用ならない。
変態だし。
「不満など……魔王様に与えられた”使命を果たすこと”こそが、我ら魔族の最上の喜びにございます。それに、”聖界で死んだところで本当に消滅するわけではない”ので。」
「えっ!?死なないのっ!?」
思わず、素がでる。
それを取り繕うように、質問を続ける。
「ごーどん。ボクには魔界の。いや、この世界の知識がない。全ておしえろ。まずは、お前が死んだらどうなる?」
”忠実なるしもべ”を召喚した理由の一つがコレ。
この世界の情報が欲しい。
「……御意に。我が聖界で倒されれば、魔界に戻されます。」
「……聖界……魔界とは?」
「——世界は二つ存在します。”聖界”と”魔界”…………”聖界には、”主に人間”が、”魔界”には、”魔族のみ”が暮らしています。」
すると、気持ちテンション高くゴードンは解説を始める。
「これら二つの世界は、”魔王様が存在している時”のみ、魔族は”自由に行き来が可能”になります。また、魔族は”聖界”で死ぬと”魔界”に戻されます。」
「ほう……?」
「魔族は、魔王様の”使命”を果たすことで、魔界で”悠々自適な生活”が保障されます。」
「”悠々自適な生活”……?魔族に生活があるのか?」
「はい、魔王様。詳細な情報としては、莫大な”富”。”名声”。”力”。これらが手に入ります。」
……どこの海賊王だよ。
というか、ボクの命令って魔族にとっての”ひとつなぎの大○宝”なんだ……
「よって、魔族は魔王様の命令を聞きたがる……というわけでございます。」
——ふむ……魔族たちは、”聖界”で死んでも死なず。
——むしろ、死ねと命じてもらいたいと。
だいぶ気持ちが楽になった。
「……わかった。その他の説明はまた後でいい。ごーどん。お前にみせたいものがある。意見をくれ。」
しもべ召喚理由の二。”相談役”だ。
ボクは、能力のウィンドウを開いてゴードンに見せる。
デンッ!
——————あなたの寿命は残り7日です。——————
召喚され、少女に裸を見られ、その少女の余命宣告を一緒に見る。
どんな気持ちなのだろうか……
「これはっ……!……つまり、魔王様が存在し続けるためには、”勇者を楽しませる”必要があると……」
「……飲み込みはやいなっ!なんか、もっと、こうっ!……じゃなかった。どうすればいいと思う?意見をいえ。」
「情報不足でまだなんとも言えませんが……この『勇者の情報』を見せてもらえますか?」
へっ?慌てて、画面内のゴードンが指を指す場所を見やる。
……なんということでしょう。
そこには堂々と書かれているではありませんか。
——『勇者パーティ詳細』と。
「……ああ、うん。そうだな……かまわんぞっ。」
まさか気付いていなかった……。
なんて思わせることなく、初見ではない体で話を進める。
勇者パーティのタブを開くと、一人一人のプロフィールが書かれているようだった。
魔王たちは、勇者の情報を見ることにした。
デンッ!
————————勇者の情報について。————————
——勇者。
——男。
——十六歳。
——名は、"メイト・ペングル"。
——身長176cm。
…………
————『パーティメンバー全員とえっちしたい。』と思っている。————
「……はい?」




