第二演目 ◤◸お前の”設定”を開始する!◹◥
まずは現状の確認から。
——俺は、『魔王』になりました。
それも、飛びきりかわいく、幼い魔王に。
スペックは膨大なステータス。
——それと『設定』という、簡単に言うと、対象にキャラクター性を設定し、自由に立ち回らせることができるっぽい能力。
あとは、魔王である自分に設定された”この命令”。
——『勇者が魔王討伐の旅をどのくらい楽しんでいるか』によって、自分の寿命が決まるらしい……
…………。
「なんでだぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ――――!」
魔王は嘆いた。
何故、自分を殺しに来まーす!——ってやつを楽しませなければならないっ!
これから世界を平和にするぞ♪魔王頑張って倒すぞ♪
——って準備しているそこの勇者君っ!
何もしなかったら勝手に死にますっ!
助けてぇぇぇぇぇぇぇぇ――――っ!倒しに来てぇぇぇぇぇぇぇ――――!
でも、殺さないでぇ!許してくれぇ……
無害だからっ!悪いことしないからっ!
——そんでもっての、このもう一文。
『勇者が死亡すると、あなたも死にます。』
………………。
「生きてぇぇぇぇぇぇぇえ――――!」
ある程度楽しませて、寿命を伸ばした後、”返り討ち”にして余生を過ごす。
魔王の勝ち。
……は、ダメですか?
保護しなきゃじゃん。戦えないじゃん。負けしかないじゃん。
……これ何?
……魔王って何?
そもそも旅の終わりに死ぬこと確定してますよね?
何を希望にこれから生きていけばいいのですか……?
——いや、待て。
そうだった。俺はいつも冷静なんだった。
ふぅ。
深呼吸をする。
大丈夫だ。なんとかなる。
その流れで、落ち着いてウィンドウに目を向ける。
『あなたの寿命は残り7日です。』
……。
「んー……セミかっ!」
いや、セミの方が地中で長く生きている分、これはひどいよ?
短いよ。
考える暇がないよ。
セミだって地中で何年も、地上に出たらどう鳴こうかなぁ~って考えてるよ?
そんな、”お笑い芸人でもない俺”が。
”一週間以内”に。
”見ず知らずの相手”を。
”楽しませるようなこと”を考え。
”実行”する。
”命”を賭して。
もう一度言う。……これ何?
——”旅に出ない”が魔王を倒す一番の近道な勇者に、魔王は奴隷のようにエンタメを届けなくてはならない?
関係が平等じゃ無くない?
どうするの?勇者が目の前に来た時。
ご足労いただきありがとうございます~。
今までの旅は楽しめました?あれ、魔王軍で用意させてもらったんですけど……
「どんな魔王だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」
吹雪の中の小さなボロ小屋で、一通りの理不尽を実にキュートな声で叫んだ後。
まあ、でも何もしないで死ぬならとりあえずやるしかないよね……と。
しょうがないよね……と。
強制的にポジティブになった。
——問題1:勇者の目的が魔王討伐である点。
これを解決しないかぎり、どのみち未来はない。
散々楽しませて、あとは殺されるだけだ。
——『勇者が”魔王討伐の旅”をどのくらい楽しんでいるか。』
魔王討伐の旅と限定されている以上、旅の目的を変えるのは不可能そうだ。
——ならば”あの手”しかない。
まあ、あの手は後でやるとして……
——問題2:どう楽しませるか。
これも不安だよ。人ってどうすれば楽しませられる?
やっぱ王道RPGなら、地道にレベリングして強くなって、もっと強大な敵に立ち向かう。とか?
そもそも世界観RPGなのかな?——うーん、分からぬ。
——ならばいっそ、お笑いに振るか?
笑いと戦闘を合わせるのはどうだ?
キャラ濃い魔族たちが襲い掛かってくる。
全力でいい勝負だったぜ感を演出する。
魔族は倒される。
——いけるか?
分からぬ。本当に分からぬ。後回しっ!
——問題3:普通に助けて。
……現在、少女が一人、雪山で遭難しています。
……食料はおろか、なにもありません。
……周りがどうなっているか?
分かりません。見えません。吹雪強すぎです。
仮に、外に出ても耐えられる体だったとして。
なにかを得たとして。
このボロ小屋に帰ってこれる気がしません。
風雪が凌げる場所が、他にあるかも分かりません。
そもそも生き物や食べ物が周りにあるかも分かりません。
——つまりは、”七日を待たずして普通に餓死”します。
……勇者よ……よくぞ、このボロ小屋に辿り着いたな。
この魔王を倒したいか……?
……残念だったな、貴様では我を倒せない。
なぜならすでに、”餓死”しているのだからな!あっはっはっはっはっはっはっ!
…………。
——惨めぇぇぇぇぇぇぇぇえぇぇぇぇ――――!!
○○○
とどのつまり、”自分が一番かわいい”こそ、人類の本質だと考える。
実際にかわいくなったわけだしね。
死ぬのは嫌だよね。
うん。
自分が命の危険を冒さなくても、代わりに自分が死にますと言ってくれるやつを創造りだせる。
——そう、俺の能力『設定』ならねっ♪
——正直に言うと、良心の呵責がないわけではないよ?
だって、”殺されたくないから代わりにやられて”と命令するのだからね。
でも、死なない方法があるのなら、手は伸ばしてみるべきじゃないだろうか?
転生で身長は伸びた。
ならばこの業に向かう手も伸ばせるはずだ。
——そして召喚すれば、問題1と3もしかしたら2も解決するかもしれない。
……やろう。
今まで培ってきた”無限のキャラクター錬成”が役に立つ時が来たのだ。
最終確認。
——『やらなければならないこと』:勇者の旅を全力で楽しいものにして、大団円を迎えさせなくてはならない。
——『そのために俺がやるべきこと』:大団円に魔王討伐が必要なら、討伐される魔王を創作ればいい!
——道と腹は決まった。
「——よし、やられ役の魔王……お前の『設定』を開始する!」
ブォゥンッ!
瞬間、世界が静まり返り、空間は色を忘れた。
目の前には赤い歯車のような二重の魔法陣。
……おっ、静かになった。
この状態で設定を思い浮かべればいいのかな?
思考を巡らせる。
——えーっと、一応魔王やってもらう訳だし。
・冷徹で。
・威厳があって。
・俺の次に強くて。
あとは~そうだな。
・勇者に倒される運命にある。
・完全に魔王の代わりを演じ、元魔王の事を世界から隠す。
・死後、弱体化して好きなタイミング、好きな場所で復活できる。
こうしておけば、こいつへの罪悪感も少しは無くなるかな。
細かい設定を終え、最後の設定を打ち込む。
・『魔王の忠実なるしもべ』っと。
とりあえず、こんな感じでいいかな。
最初だし。
「よし、召喚!設定完了っ!」
ブォゥンッ!
世界は音と色を思い出し、設定中の異質な空間は歪んで消え去った。
騒ぎ出す吹雪の音。
魔法陣の上に佇むシルエット。
徐々に薄れていく魔法陣。
魔王は、召喚されたもう一人の魔王の姿をただ見上げる。
魔王は思う、魔王としてのオーラが違うと……
青い髪に赤い瞳、その長身に纏うは黒きオーラ。
彼は、闇のオーラを纏い放っていた。
魔王の力で、召喚されたもう一人の魔王。
整った筋肉を、尖った牙とともに見せつける魔王。
我こそが魔の王、夜の王と……鋭い眼差しをこちらに向ける魔王。
——開口一番。彼はこう口にした……
「サ゛ム゛イ゛……………………」
——逆に言おう。
————彼は”オーラしか”纏っていなかったのである。————




