02 紅之蘭 著 『天才紅教授の魔法講義 其の十二』
【概要】老舗旅館には開かずの間〝鏡の間〟があり、怪異が出る。黄戸島村立大学の紅教授と助手の縫目は調査のため、問題の部屋で一夜を過ごす。教授は先に寝てしまった。縫目に手渡された魔道具の和鏡は果たして効果があるのか?
挿図/(C)奄美「紅教授の記憶」
少女時代といえば、夢のような日々でございます。
お兄様を真似て、お庭にあった松の木に登り、両親に呆れられたもので、夏場はワンピース姿で、真っ黒に日焼けしておりました。
昭和のはじめのことです。東京の皇居に近いあたりに生家のお屋敷があり、たくさんの使用人にかしずかれ過ごしておりまし、学校へは、お抱え運転手付きの自家用車で送迎されていたのです。
あの戦争が始まる少し前、私が十五になったとき、良家ご子息との縁談が参りました。
実を言いますとそのころの私は、進歩的女性に憧れる、翔んだ女学生でございまして、運転手と恋仲となり、満州へ駆け落ちしたのでございます。
彼の地では、さまざまな人々とお知り合いになり、よくして戴きましたのよ。私たち夫婦はお友達のつてで現地の映画会社・〝満州映画協会〟に就職し、私は翻訳を、夫は裏方さんの仕事をしておりました。
満州国首都の奉天へは、夫と連れ立って何度もお出かけしたもので、市電に乗って百貨店巡りをしたり、喫茶店でぼんやりとジャズを聴いていたりしていた……
そんな夢の終わりは突然やって参りました。
大東亜戦争も終盤となったこと、大量の戦車とともに北辺から雪崩をうって侵攻してきたソビエト連邦軍が迫って来ると、甘粕理事長は満州鉄道の列車を手配して下さり、私どもは命からがら内地へ帰還した次第です。
*
紅教授と助手である私・縫目は、黄戸島村立大学教職員寮に住んでいる。
島にある老舗旅館の女将から、〝開かずの間〟に怪異が棲みついているようだから調べて欲しいという委託を受けた。
かの部屋は〝鏡ノ間〟と呼ばれている。私達はそこで一夜を明かすわけだが、使われるのは実に半世紀ぶりにもなるという。
紅教授と私は浴衣姿で並べられたお布団にくるまった。
図太い教授はすやすやと先に寝入ってしまった。
「教授、起きてください。私一人で怪異と対峙しなくてはならなくなります」
万が一に備え、教授が私に手渡した武器は、先日やってきた魔法商人のチャーター船で買った魔道具の和鏡だ。
魔法商人によれば、これを怪異に向ければ、たちどころに、鑑の中にある〝幽世〟に封印されるとのことだった。
だが実は魔封じであったはずの和鏡の用途が違っていたのだ。
――この鏡を寝ている人に向けると、秘め事とか自白し始める。〝美魔女〟なんてレベルじゃない。……紅教授、いったい、アンタ、いくつなのさ!
了




