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自作小説倶楽部 第30冊/2025年上半期(第175-180集)   作者: 自作小説倶楽部
第176集(2025年02月)/テーマ 「鏡」
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01 奄美剣星 著 『エルフ文明の暗号文 14』

【梗概】新大陸副王府シルハを舞台にしたレディー・シナモン少佐と相棒のブレイヤー博士の事件捜査。


挿絵(By みてみん)

挿図/(C)奄美「ピアノのあるカフェ」

    14 鏡


「アベラール様が最後にお友達の皆様にお会いしたのは、ここの〝サロン〟だといいます」


 王国特命遺跡調査官レディー・シナモン少佐と私、同補佐官ドロシー・ブレイヤー博士は、地下鉄でモンマルトルにある〝サロン〟に来ていた。


 当時のシルハには、いくつかの地区に、政府公認カジノがあった。――グラン・プールヴァル、モンパルナス、そして、サクレ・クール寺院の丘の麓に開けた街、モンマルトルにもたった。――そういうカジノは、だいたい、ホテルに付属している。だからレストランもあり食事をとることも出来た。

 サンドイッチは、カード・ゲームには欠かせない。客たちの多くはさらにウィスキー・ソーダを注文する。


 ゲーム会場〝サロン〟は鏡張りの大部屋で、天井では真鍮製のファンが回転し、客たちがふかす煙草の煙がもうもうと上がってくるのを撹拌し、赤と青のネオンで飾ったアンニュイな燈に照らされ揺らめいていた。


 サロンには、緑色羅紗張りの長楕円形テーブルが三つか四つあった。ホスト役の店員を囲んで、見知らぬプレイヤー十数名が、席に着きゲームに興じていた。


「初めてだね、マドモアゼル。俺がルールを伝授してやるよ。――バガラは親が、カードを二枚ずつ子に配り、子となるプレイヤーたちは、二枚のカード・ナンバーを足した数で勝負を競うゲームだ。最強が、九で、十になるとゼロで最弱のバガラになる。ポイントが、あまりに小さいときは、もう一枚だけカードを親に注文することが出来るのだけれども、十を超過した分は、一桁落として計算されちまう……」


 カジノ入口にいた派手な格好のジゴロが、一人で入って来たシナモンに目をつけ、つきまとった。

 蝿のような美男子がそこまで言うと、若い貴婦人は、胸を飾ったブローチを指さして、

「お話は十分うかがいました。私の肩にもう一度、触れるときは、このピンで貴男の目玉をつつかせていただきますわ」


 実のところシナモンのポシェットには、護身用拳銃コルト・ポケットが忍ばせてある。――もっともこういう場面では店側も心得たもので、若い貴婦人がトリガーに指をかける前に用心棒を遣って、ジゴロたちを追い払った。


 金額によって、形や色の違う賭け札のメダル〝ジュトン〟が、現金の代わりに使用される。勝負はスピーディーだ。そのため掛け金を張ったままにしておけば、数百倍に膨らむか、あるいは借金になる。ギャンブル依存症は麻薬依存症よりも質が悪い。


「お待ちしていましたよ、〝姫様〟」

 三人の男たちが来ていた。雑誌社海外特派員のサルドとナバル、それから、留学生のオスカーだ。


 レディー・シナモンが、

「皆様は、ここでアベラール様とゲームをなされたことが何度かあったのですね?」


 小柄なカメラマン、ナバルが自慢げに、

「そんなこともありました。オスカーとつるんで、奴から一か月分の給料を巻き上げたこともある」

 

 当のオスカー青年は、

「あれから間もなくアベラールが、死体で発見されたと聞いて驚いた。自殺だとしたら申し訳ないことをしたと思っている」


 少し間を置いて、「アベラールか。記者仲間じゃ、あんまりいい評判を聞かない」と大柄なサルド記者が言い、さらに、「アベラールは、ちょっとしたジゴロで、よく女を騙していた。一見して好青年って奴だったから、モテていたのは確かなことですがね。――短気で、もう、しょっちゅう喧嘩していた。ほかのジゴロとの間で、女を取ったの、取られたのっていつも騒いでいた。でも、からっきし弱くって憎めなかったな」


「つまり、殺される動機はいくらでもあったということですね?」

 若い貴婦人の問いに、三人の日本人が、肯首した。


 雑誌社〈ラ・レヴュ〉報道特派員の二人、サルドとナバルは、数年前に、取材のため訪れた、ヒスカラ本国の国会議事堂で出会った。それから新大陸に渡って、甲殻虫うごめく〝前線〟を取材した際、バッタリ再会。以来、賭博場で何度か顔を合わせるようになったのだという。


「そういえば、旧大陸から移民してきたばかりの女とつきあっていたって話を聞いたことがある」とサルドが言い、こう付け加えた。「ピアニストだったようで、葬儀にも顔を出していたよなあ」


「その方のお名前は何と?」

「年のころは二十五前後、確かテクラ・バダジェフスカとか名乗っていた……どことなく影のある美人だったなあ」


――アベラールは、ピアニスト女性とお付き合いしていた。


 証言をした男達三人は煙草を吸いだした。連中は一応、レディー・シナモンと私にも煙草を勧めたのだが、健康に悪いので丁重に断った。


 レディー・シナモン少佐は、

「ところで、アベラール様も喫煙なされましたか?」

「ヘビー・スモーカーだ」サルド記者が答えた。

「アルコールは?」

「底なし」

「珈琲・紅茶は?」

「あまり飲まなかったっすね。酒の他には水だけでしたね」ナバルカメラマンが答えた。


 ホールのピアニストの奏でる曲が、「乙女の祈り」から「別れの歌」に変わった。


 黄金の髪をした貴婦人が話題を替えた。

「エロイーズ様と皆様との接点は?」


 この問いに、オスカー青年は、「ない」と答えた。

 対してサルドとナバルは、ときどきエロイーズがシルハへ来て、兄の部屋に泊まることもあったので、顔を合わせたことがあると答えた。

 若い貴婦人は、三人と別れて地下鉄に乗り、モンパルナスからモンマルトルへと向かった。


 新大陸副王府シルハ市街地外縁には環状鉄道線と舗装道路とがあり、市電やバスといった、交通網が張り巡らされていた。さらに地下鉄は、十三路線が開通している。


 レディー・シナモンの隣に座った私は、ときおり後方へ過ぎ行く地下鉄駅ホームと、延々と続く闇とを、車窓越しに眺めていた。


 美術評論家のオスカー青年によるとトージ画伯は、このごろ落ち着いてきたものの、今の奥さんと結婚する前は、かなり女性関係が派手だったという。――ちょっと引っかかる。


 続く 


 ノート20250226

【登場人物】


01 レディー・シナモン少佐:王国特命遺跡調査官

02 ドロシー・ブレイヤー博士:同補佐官

03 グラシア・ホルム警視:新大陸シルハ警視庁から派遣された捜査班長

04 バティスト大尉:依頼者

05 オスカー青年:容疑者。シルハ大学の学生。美術評論家。

06 アベラール:被害者。ジャーナリスト。洗濯船の貸し部屋に住む。

07 エロイーズ:被害者。アラスの寄宿学校教師。アベラールの妹。

08 シャルゴ大佐:シルハ副王領の有能な軍人。

09 フルミ大尉:ヒスカラ王国本国から派遣された連絡武官。

10 トージ画伯夫妻:急行列車ラ・リゾンで同乗した有名人。

11 サルドとナバル:雑誌社〈ラ・レヴュ〉報道特派員。記者とカメラマン。

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