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フォルテューナ・パンタシア魔道具店 ~店主の私が守護天使に連行されるまでの顛末~  作者: ゆうひかんな
五章 はじまりの黎明と終わりの黄昏

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後編


 結局、丸一日リゲルは目覚めなかった。

 その夜もソファーで星を見ながら寝て、次の日。音もないのにドアベルが鳴ったような感覚がして目が覚めた。


「……ちょっと寝過ごしたわね」


 ぼんやりとしたまま起き上がった。リゲルの容態を確認しないと。目元を擦りながら周囲を見回せば最後に見た景色と違う。なんとそこは見慣れた自分の部屋だった。我ながら恥ずかしいくらい片付いていないわね。人に見られる部屋は綺麗にしているけれど、フォルテューナの自室は出したままにしている荷物が多くて散らかっている……って、そうじゃないわ! 


「なんで自分の部屋のベットで寝てるのよ!」

 

 一気に覚醒した。昨日はソファーで寝たはずなのに。あわててローブを羽織ってリゲルの部屋に駆け込んだ。ベットを見て青ざめる。


「嘘でしょう、なんでいないの?」


 汚れた寝間着やシーツなどは端っこにきれいに畳まれているし、目覚めたら着替えさせようとしていた男性用の普段着がなくなっていた。そのうえ結界は正常に作動している、となれば答えは一つしかない。フォルテューナは眉を跳ね上げた。ドアベルが鳴ったような感覚がしたというのは思い過ごしではなかったらしい。


「勝手に出て行ったのね!」


 あの野生のネズミみたいな男は……さんざん心配をかけておいてお礼の一つも言えないのかしら⁉︎ イラッとしながら階段を駆け降りると、文机の上に白いものが見えた。よく見ると文字が綴られていて……リゲルからの手紙だ。内容は要約するとこうだ。

 黙っていなくなるような真似をして申し訳ない。詳しくは話せないが任務の途中で不測の事態が起き、事を表沙汰にしないために無理をした。その結果があの怪我だという。人の命がかかっているために今は詳しく話せないけれど、全てが片付いたらきちんと説明するから店で待っていてほしい。そして最後に一言添えられていた。


 助けてくれてありがとう。


 フォルテューナは深々と息を吐いた。ちゃんとお礼が言えるじゃないの。手紙だなんて回りくどいことをせずに、直接口で言えばいいのに。文机の引き出しに手紙をしまおうとして、ハタと気がついた。そういえば……フォルテューナはもう一度手紙の文面に目を通す。


 ……特にしつこく追ってきた三人は、相手側の雇った暗殺者の要で、早く捕えないと罪のない人々が被害に遭うかもしれない。だから急いで対応しなくてはならないので、不義理と思うけれど……。


 途中まで読んだところで勢いよくフォルテューナの視線が絵に向いた。呆然とした次の瞬間、額を押さえる。


「いつも人の話を聞きなさいって言っているのに」


 どうして黙っていなくなるのよ、あの男は……! 頭を抱えたまま、フォルテューナは埃除けの布を外した。どういうわけか今日は一段と絵が輝いて見える。そうよね、素晴らしい絵には魂が宿るというけれど、後付けでも魂が三つばかり宿ってしまえばこんなふうにもなるかな。フォルテューナは天井を睨みつつガーゴイルに話しかける。


「ねえ、リゲル見なかった?」


 ……アヤツはとっくの昔に横ヲ通り過ぎたゾ。街のほうに消エテ行ったから気にも止めんカッタ。


 興味なさそうな返答が来て、深々と息を吐いた。でしょうね。だってフォルテューナの警戒は全て店に来る人へと向けられている。裏を返すと、店から出て行った人間には警戒が薄い。いやだって、まさか用があって呼び戻すような相手ができるなんて思ってもいなかったもの!


 今ごろ三人を探し回っているんだろうなー。可哀想だけれど、話を聞かないほうが悪い。いっそ、このまま中身入りでオリヴィア様に納品してやろうかしら? 

 とはいえ偶然でも魔法が解除されちゃってフォルテューナが刺客を送ったと勘違いされたら間違いなく生命の危機だ。それだけは絶対に避けたい。頭を悩ませていたフォルテューナは、結局一周回って開き直ることにした。


「普通に王城へ持っていきましょう」


 フォルテューナが来たとなればリゲルに連絡がいくだろうから、絵を納品するついでに閉じ込めてある三人も引き渡せばいい。納品は取りに行くから城に来るなとリゲルに言われているけれど、かまわないわよね。だってあの人から黙っていなくなったのだから!

 オリヴィア様直筆の注文書があるし、私の身分証明書や商会名義の通行許可証もある。法律的にも問題はないはずだ。魔道具の手紙を送れば、即座に印が押されて登城許可証が返送されてきた。


「私をさんざん振り回したのだから覚悟しなさい!」


 調子に乗っていられるのも今のうちよ。そう思うと高笑いが止まりませんわ! 

 

 さあて、王城に乗り込むにふさわしい装いをしなければ。しっかりとお化粧もして、とびきりきれいに装っていきましょう。フォルテューナはどこか黒さをにじませて笑った。自分が悪いことをしたわけでもないし、コソコソせずに堂々と乗り込むのよ。定番のローブを脱いで今日はドレスを着ることにした。

 フォルテューナは自室のクローゼットを開ける。今年のドレスの型は百年くらい前に流行ったデザインに近い。手持ちのドレスに今年流行のレースの襟飾りを足してみる。すると一気に垢抜けて新作ドレスの出来上がりだ。

 選んだドレスの色は淡いベージュ。動きやすさを重視しているから裾の飾りは少なめだけれど、その代わりに袖口にも繊細な織りの白のレースを足した。色味は控えめでもレースが揺れるたびに華やかな雰囲気を醸し出してくれるから地味に見えないだろう。髪を結い上げて帽子をかぶると鏡の前でくるりと回ってみた。よし、完璧。準備を整えたフォルテューナは馬車に乗って王城を目指した。

 

 一方の王城では。


 久しぶりにフォルテューナが納品に来るということで別の意味で騒ぎになっていた。魔道具店の店主で、謎めいた雰囲気の美女だ。絶好の機会が巡ってきたのだから、どうにかお近づきになりたい。さて、誰が対応するか。一本勝負で決めようと兵士達が盛り上がっていたところで、横から鶴の一声が響いた。


「では俺が対応しよう」


 そういうわけで意気揚々と乗り込んだフォルテューナは予想だにしない人物と対面することになる。


「あなたが魔道具店の店主、フォルテューナ嬢か。想像よりもずいぶん若いな」


 ここは王城だ。店とは違って作法には厳しいから相手の格に合わせて深く礼の姿勢をとった。面を伏せているから表情でバレていないはずだけれど、フォルテューナの内心はこのうえもなく焦っている。


 ……もちろん、リゲルには会えないかもとは思っていたわよ? 

 ……多少待って会えなかったら使用人から代金を受け取っておとなしく商品置いて後日出直すという心算もあったよ、でもね。


「ロレンツ・アウグスト・()()()()()だ。オリヴィアが贔屓にしていたと聞いて、興味があった」


 不在だからと第二王子殿下が対応されるなんて未来は、欠片も想像しなかったわよ! 


 第二王子殿下は王太子殿下のように華麗で煌びやかな雰囲気ではなく、筋骨隆々としたいかにも騎士という固い雰囲気の人だ。誠実な人柄で人望も篤く、結婚すれば将来は王弟妃として安泰ということで貴族令嬢からも引く手多数だとか。

 ただ兄が結婚して後継者が生まれるまでは結婚する気はないと明言しているから婚約者はまだいないらしい。そういう実直なところも人気の理由だそうだ。


「かしこまらなくていい。いい機会だから話をしたいと思っただけだ」


 武人らしい鋭利な眼差しを緩めて、親しみを込めた口調で男性にそう言われたら普通の乙女なら胸をときめかせるだろう。だがフォルテューナは、かしこまるなというのが無理ですと真剣に答えたい。さすがに身分が違いすぎる。使用人もいるので、ただあいまいに微笑んで深く首を垂れた。


「オリヴィアに頼まれた絵を納めに来たのか?」


 使用人を経由させて、そうだと答える。うっかり直答しそうになったのは、面影がリゲルによく似ているから。男性だけに、オリヴィア様よりもさらに似ているかもしれない。ロレンツ第二王子殿下よりもリゲルのほうが線は細く筋肉のつき方がしなやかだけれど、固く引き結んだ口元とか、冷徹さを感じさせる雰囲気とかがよく似ているしね。

 間違いない、リゲルは王家の血を濃く受け継いでいる。ロレンツ第二王子殿下より年下で、オリヴィア様の少し上。つまり、第三王子。王太子殿下とオリヴィア様が美姫と評判の王妃殿下の血を濃く受けたとすれば、ロレンツ第二王子殿下やリゲルは父親である国王陛下に似たのか。

 

 オリヴィア様……王子の飼い主だなんて不敬まっしぐらじゃないですか。押し付けられても困りますよ!


「公の場ではないから直接答えてかまわない」

「ありがとうございます」


 フォルテューナは内心に渦巻く不平不満と葛藤を押し殺して、にこやかに微笑んだ。ああ、早く代金を受け取って帰りたい。この苦行のような時間はいつ終わるのかなー?


「それで、あなたがあの男に名をつけたと聞いた。正しくそうなのか?」


 油断したつもりはないけれど、思わぬ方向から矢が飛んできて驚いた。


「どなたからお聞きになったか、伺ってもよろしいでしょうか?」

「オリヴィアから聞いた」


 冷静に考えればその一択でしょうね。目の前には好奇心に満ちた顔がある。さてなんと答えるのが正解か、そう思案したときだった。バタンという激しい音がして、応接室の扉が開く。相手を確認したロレンツが、からかうような顔をした。

 

「遅いぞ」


 他人事のように現実逃避しながら、フォルテューナは明らかに不機嫌というオーラを放つリゲルの全身をさっと確認する。機嫌が良くないのはさておいて、体のほうは問題ないみたいだ。今日の彼はあの日と同じ戦闘を重視した黒い服だった。悔しいけれど、装飾を排除した細身の服は、しなやかな肉体を持つリゲルによく似合っている。彼は応接室に踏み込むと、驚く使用人をよそにフォルテューナの手を無言で掴んだ。


「っと、ちょっと!」

「女性に乱暴な態度はいけないな」


 一層不機嫌になったリゲルの手をロレンツが抑えた。さすが騎士、女性に対する扱いが優しい。ただ実力は拮抗しているようで、手の動きだけでは完全な自由を取り戻したわけではなかった。


「フォルテューナに何をする気ですか?」


 睨むようなリゲルの視線を同じように冷ややかなロレンツの視線が受け止める。フォルテューナは深々と息を吐いた。どうしてここまで拗れるのかなー。面倒ごとは避けたいのに。とりあえずリゲルをロレンツ様から引き剥がすことにした。


「気持ちはわかったから、まず手を離して。これでは話もできないわ」

「これ以上、何を話す必要がある?」

「そもそも、あなたが人の話を聞かないからこういう状況になっているのだと自覚なさい」


 フォルテューナが絵を指した。


「アレを納品にきたのよ。あなたに会って用事が済んだら帰るつもりだったわ」

「なら用事は済んだだろう、帰るぞ」

「だから人の話は最後まで聞きなさい!」


 厳しい口調で咎めたところで、フォルテューナはハッとした。ロレンツを筆頭に、使用人達が目を丸くしている。ああ、やらかした。リゲル相手でも不敬かな。通行許可どころか、店の営業許可も取り消されたりして……フォルテューナは視線を泳がせたけれど覚悟を決めた。しょうがない、場を騒がせた責任はあるものね。最後まで仕事は全うしないと。フォルテューナは大きく息を吸って気持ちを落ち着かせるとロレンツに微笑んだ。


「本日はあの絵とは別にもうひとつ納品がございましたの。本当は彼に直接託すつもりでしたが、人の話を聞かないもので逃げられてしまったから仕方なく直接王城へ納品に伺ったのですわ」

「アレとは別に……魔道具か?」

「いいえ、彼の命を狙った()()()()()()です」

「っ!」

「ほう、これの命を狙うとは穏やかではないな」


 ロレンツが眉を跳ね上げる。フォルテューナは真面目な顔でうなずいた。


「我が魔道具店には高価で貴重な品もございます。ですから店を守るためににさまざまな防犯装置を備えておりますの。彼を追い詰めるうちに、()()()()防犯装置が作動して、三匹のネズミを捕らえました。ですからそれも含めて納品に伺ったのですわ」

「おまえを追い詰めただと? 彼女の言う三匹のネズミとはなんだ?」


 ロレンツは咎める口調でリゲルを問い詰める。表情を消したフォルテューナはリゲルの顔を見つめ返した。無言の圧力に一瞬ビクッとした彼は深々と息を吐いて、声をひそめ、ロレンツの耳元で囁いた。


「王族の命を狙い、他国から差し向けられた暗殺者です。王の指示で、私が直接対処していました」

「!」

「しかも城内に内通者がいるようです」


 ロレンツには知らされていない。つまり内通者が騎士団にもいる可能性が高いということになる。片眉をわずかに跳ね上げただけでロレンツの表情は全く変わらない。さすが、王族。彼の視線がフォルテューナに向いた。


「それで、あなたは何をするつもりだ?」

「ですから納品です」

「何を?」

「絵と、捕らえた三匹のネズミ()ですわ」

「……」

「どうせなら一度で済ませたいと思いましたの」


 胸に手を当ててフォルテューナは、にっこりと笑う。リゲルは怖い顔で睨んでくるけれど、フォルテューナは軽く受け流した。最後まで人の話を聞かないほうが悪いのよ。


「信じるも、信じないも第二王子殿下のお心ひとつ。信じないということであれば、このまま絵だけを納品して帰宅いたします」

「この期に及んで嘘でしたといわれても、逆にそちらのほうが信じられんな」

「もちろん、店の看板にかけて嘘でも偽りでもありません」


 フォルテューナは微笑んだ。さまざまなリスクがあることは承知している。けれどこの一手がリゲルの未来を変える布石となるかもしれないから手は抜けないのよ。ロレンツはリゲルに厳しい表情を向けた。


「困ったことになっているのなら、どうして俺にだけでも相談しなかった? オリヴィアがいなくなった今、協力者がいないのはキツイだろう?」

「それは……」

「もっと言ってやってくださいませ。酷い怪我まで負いましたのよ」

「フォルテューナ!」

「怪我をした? そんなことは聞いていないぞ⁉︎」


 やっぱり怪我のことを誰にも言わなかったらしい。腕を掴み、鋭い口調で問い詰めるロレンツの剣幕にリゲルは一瞬怯んだ。彼のとまどうような表情にフォルテューナは苦笑いを浮かべる。


 本当、叱られた子供みたいね。


 リゲルがロレンツに頼らない理由は単純で、甘え方がわからなかったからだ。彼にはそういうところがある。オリヴィア様は遠慮なくグイグイいくタイプだったから、何も言わずとも上手くいったのでしょうね。いいこと、あなたの側には力になろうとする人がいることをよく覚えておきなさいよ。


「話し合いはのちほど存分になさってください。その前に彼らを引き渡したいのですが」


 フォルテューナは使用人を見回し、にっこり笑った。そこはかとなく漂う異様な空気に、侍女や侍従がフォルテューナからそっと距離を取った。


「申し訳ありませんが腕に自信のない方々はこの場から離れていただけますか? この状況を怖いと思う方も同様です。場が荒れるかもしれませんので」


 ロレンツは目を見開いた。


「まさかここに連れてきているとは言わないな?」

「そのまさかですわ」


 フォルテューナはリゲルに視線を合わせる。


「いい、ちゃんと自分の手で捕まえるのよ?」


 リゲルは一瞬目を見開いて、小さくうなずいた。そしてロレンツも部屋の外に合図を送る。すると待機していた兵士達が部屋に雪崩れ込んだ。おそらくロレンツの護衛だろう。兵士の厳しい視線はフォルテューナに向けられている。剣呑な空気すらも涼やかに受け流して、フォルテューナはロレンツとリゲルに深く礼の姿勢をとった。


「それではお納めください。こちらの絵と三匹のネズミ」


 ――――そして()()()を。


 口には出さず付け足して、フォルテューナは絵にかけた埃除けを外した。ジュリエッタの描いた王都の美しい夜景が窓から差し込む光を浴びる。異様な雰囲気に慄いていた人々も絵の素晴らしさに一瞬息を止めた。賞賛のため息がこぼれる中、フォルテューナは絵の背後に回ると軽く額縁に触れながら古語を唱える。


檻から解き放て(アンビイタ)


 ドサ、ドサ!


 突如、虚空から男が三人降ってきた。落ち窪んだ目にボロボロの衣服。泥と涙で汚れ顔色は悪いが、体に損傷はないようだ。だが表情は虚ろで、ぶつぶつと何かを呟いたり頭を抱えながらか細い悲鳴をあげている。あらやだ、体ではなく心が壊れかけているわ。


「こ、これは!」


 誰かの声が終わらないうちに素早くリゲルが動いた。手際よく男達を縛り上げて、証拠となる血がついた短剣を回収する。その間、フォルテューナは使用人と兵士の動きを観察していた。ふふ、情報を小出しにした()()があったというものね。


「第二王子殿下。今まさに扉から逃げようとしている侍女と、あちらの兵士が怪しいですわ」

「捕えろ」


 視線の先では二人ともに驚愕の表情を浮かべている。いち早く意図に気がついたロレンツ様が残った兵士に指示を出した。彼らは激しく抵抗したけれど、たちまちのうちに縛り上げられる。


「違います、私は内通者ではありません! 殿下は証拠もなくあの女の戯言を信じるのですか⁉︎」


 髪を振り乱した侍女はもっともらしい言葉で必死に抗議している。けれど、刺すような視線を受け止めたフォルテューナは小さく首をかしげただけだ。


「ではなぜこっそりと部屋を出ようとしたのです? この状況で一番の悪手ではないですか」

「そ、それは、怖くてうろたえてしまって……」

「事前に怖いと思う方は出て行ってくださいと申し上げたでしょう。場が荒れるかもしれませんとも申し上げましたわ。現に私の声がけで出て行かれた方もおりましたし。ですが、あなたは()()()()()()()()()()()()出て行こうとした。充分に冷静ですわ」

「そんな、状況証拠だけではないですか!」

「ではあらためてお尋ねしましょう。先ほどあなたは自分が内通者ではないと答えました。私はあなたが内通者だなんて一言も申しておりませんわ。それなのになぜ、内通者ではないと答えたのです?」

「……っ!」

「語るに落ちましたわね」


 私は怪しいと言っただけで、実際に捕縛を指示したのはロレンツ様だ。その間、内通者という言葉は一度も出なかった。真っ青な顔をした侍女に軽く微笑んでフォルテューナは兵士へと視線を向ける。


「あなたについては反論の余地はありませんわね。三人の男達が現れる前に剣を抜きましたもの」

「そ、それはいち早くロレンツ様をお守りするために決まっているだろう!」

「護衛の鑑ですわね。()()()()、そうなのでしょうけれど」


 彼の剣を拾い上げたロレンツは軽く目を見張った。


「剣先に妙な粘りがある。毒か何かが塗られているな……三人の口封じか、もしくはどさくさに紛れて俺やリゲルに斬りつけるつもりだったのか?」

「……っ!」


 透明な液体に顔を近づけてフォルテューナは答えた。


「香りからして即効性のある毒の一種ですね」

「そんなことまでわかるのか?」

「仕事柄、商品には詳しいのです」


 ロレンツの指示で二人は連行されていく。フォルテューナは額縁の絵を指した。


「それでは、あらためてご紹介しましょう。本作のテーマは王都の夜景です。ジュリがはじめて手がけた夜の景色ですから、そういう意味でも価値があります。前作の作品名は『はじまりの黎明』、そして対となる本作は『終わりの黄昏』です。二つの絵を一つの部屋に並べて飾っても壮観でしょうし、ご夫婦の私室など、別々の場所に飾って部屋同士の関連性を持たせるというのも意外性があって素敵ですわ」


 いやそうじゃない、もっと他に言うことがあるだろう。誰もが呆気にとられるなかで、フォルテューナはジュリエッタの絵に再び埃除けの布をかけた。そして深々と礼をする。


「それでは、たしかに納品いたしました」


 自慢のドレスをさばくと、裾のレースが優美な弧を描いた。一点の乱れもなく、誰もが思わず見惚れてしまうほどに完璧な礼の姿勢だ。ロレンツは何食わぬ顔で部屋を出ようとするフォルテューナを思わず呼び止めた。


「率直に聞きたい。あなたは一体何者なんだ?」

 

 一瞬キョトンとした顔をしたフォルテューナだったが、次の瞬間、誇らしげに胸を張った。


「古今東西の珍品から日用品まで魔道具であれば幅広く取扱い、ごく一部ではありますが魔法薬や魔法書のお取扱いもございますフォルテューナ・パンタシア魔道具店の店主で、()()()()()()且つ()()()()()()()ですわ!」


 ドヤ顔が眩しい。でも、絶対違うと誰もが思った。




次はいよいよフォルテューナのお話です。

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