2話 帝国次女の研究内容
この異世界には定番のダンジョンが多数存在し、攻略され滅び、また誕生を繰り返している。
なぜダンジョンが存在するのか、学者達の間でも意見が分かれており詳細は不明だ。
しかし、ダンジョンで魔物を倒すと魔石や素材、宝箱からは魔術道具、武器・防具、稀少なスキルオーブなどが手に入る。
存在理由や発生原因は不明だが、この異世界にとってダンジョンは資源採掘場として必要とされているのは確かだった。
オレ達はアイスバーグ帝国が所有するダンジョンでも三指に入る都市『ノーゼル』にLV上げのため向かうことを決定した。
とはいえすぐさまダンジョン都市『ノーゼル』へ出発とはいかない。
オレは伝説中の伝説である『スキル創造』所有者で、アリスは世界の3割を支配する帝国3女の要人である。
特にオレは帝国の基礎を築き上げた恩人と同じスキルを持っているのだ。現皇帝が訪れるのより気を遣われるかもしれない。
だからこそ、受け入れ態勢を整えるためにも先触れを出す必要があるのだ。
故にオレ達はゆっくり出発準備を整えつつ、出発日時までのんびりとしていた。
いつもの裏庭テーブルでお茶会を開く。
話題はダンジョン都市『ノーゼル』についてだ。
「2人はノーゼルでレベル上げをしていたんだよな。どんな街なんだ?」
「そうですね……約1年間滞在していましたが非常にごちゃごちゃとした街でしたね。あと治安があんまりよろしくなかったです。一山当てようと荒くれ者の冒険者達が集まったのですから当然といえば当然ですが」
キリリが昔を思いだし肩をすくめる。
彼女の説明は分かりやすかったため、非常に納得してしまった。
アリスは席を立ち、椅子に座らせているレムの髪を弄っていた。オレと同じ黒髪を櫛でとかし、編んだり、リボンで飾り付けていた。
レムは飾られたリボンの揺れる端を子猫のように指先で追いかけては弄る。
その姿が非常に可愛らしい。
アリスはそんな可愛らしいレムを視界に入れつつ、過去を思い出す。
「……確かに治安はあまり良くなかったけど、ダンジョンから採れる魔物素材、宝箱から出た武器、防具が色々あってお店を見て回るのが楽しかった」
「姫様……女性としてはせめてそこに宝石や服飾も入れましょうよ」
「……賢者シュート様に嘘はつけない。レム、リボンは食べちゃ駄目」
「やー(はい)」
真っ直ぐなアリスらしい返答に、キリリが溜息を漏らした。
レムはリボンの端を捕まえると、口に入れ『もぐもぐ』する。
彼女は新種族ゴーレムで無機物からでも含まれている魔力を取り込めるためオレ達と同じように飲食可能だ。
しかしこの歳、年代の子供は何でも口に入れようとするよな。外見年齢相当といえなくもない。
レムはアリスに注意されると、リボンを口から出す。
アリスは満足そうに頷き、頭やスベスベの頬を撫で幸せそうに微笑む。
2人のやりとりを横目に見つつ、話を続ける。
「治安が悪いのはともかく、アイテム、武器、防具なんかがあるのは楽しみだな。色々見て回りたいよ」
「……案内する。古巣のような所だから、色々知っているから」
「その際は是非、剣聖の時のような問題が起きないことを切に願いますよ」
「……勇者教の影響は低いし、街はミーリス姉様が治めている。そうそう剣聖のような問題は起きない」
『アリス、キリリ、変なフラグ立てるなよ』とツッコミたいが、彼女達のフラグ云々の話は分からないため口に出さない。
誤魔化すように他の話題を振る。
「そういえばノーゼルはアリスのお姉さんが治めているんだな。どんな人なんだ?」
「……魔物の研究が好きな人」
「うん? 街を治めているんじゃないのか?」
「あー、分かり易く説明しますと……ミーリス様は『魔物』に多大な興味を抱く研究者なんです。ただ帝国次女としてそれなりのお立場に付かなければならず、言葉は悪いですが飾りとして『ノーゼル』を治めていることになっているのです」
『ノーゼル』を選んだのも、ダンジョンの魔物を研究するためだとか。
「つまり魔物を研究するためにダンジョンがある『ノーゼル』トップになって、基本的な統治の仕事は部下に任せているということか」
「はい。ある意味、姫様の研究者型ですね」
キリリの説明は非常に分かりやすかった。
ふと、気付く。
「レムを連れて行っても大丈夫なのか?」
「全然大丈夫ですよ。私もよくは知りませんがミーリス様の研究テーマは『魔物を作る』ことではなく、『魔物とはどんな存在なのか』を調べると仰ってましたから」
「……魔物は魔物なのに。自分の姉様ながらよく分からないことを考える」
アリスはレムを抱っこして、席に座る。
白と黒。
2人が並ぶと本当に絵になるな。
「レムの安全が保証されているなら問題は無いな。ノーゼルに行ったら、ダンジョンに潜ってガンガンLVを上げような」
「……頑張る」
「やー(はい)」
「シュート様、わたしとしてはお手柔らかにお願いしますね」
アリス、レムがやる気がある声をあげ、キリリは尻込みした意見をあげる。
彼女達の反応に微苦笑を漏らしつつ、ダンジョン都市『ノーゼル』へ向かう日を心待ちにしたのだった。
☆ ☆ ☆
ダンジョン都市『ノーゼル』へ向かう当日。
オレ達はアイスバーグ帝国首都北門を越え、出入口の門から距離を取る。
キリリが憂鬱そうな表情で溜息を漏らす。
「やっぱり今回も馬車ではなく徒歩で移動するんですね」
「……当然、賢者シュート様と自分なら走った方が馬車より速い」
アイスバーグ帝国からダンジョン都市『ノーゼル』まで馬車なら片道5日はかかるだろう。
しかし『スキル創造』で強化した今のアリス(敏捷300)の足なら2日半かからず辿り着ける。
一流とされる戦士LV50の敏捷が60前後だ。
約5倍だ。
魔術師のキリリでさえ敏捷95なのだから、『スキル創造』の恩恵がどれだけ凄いかまさに一目瞭然である。
ちなみにオレの場合、準亜神剣『クリムゾン・ブルート』で底上げすれば(敏捷1500)、1日かからない自信があった。
確かに馬車でだらだら移動するより速くて楽ではある。
背負子に座ったキリリを背負って走るビジュアルと、彼女が酔って気分を悪くすることを除けば有効な方法だ。
アリスがアイテムボックスから、背負子を取り出し告げてくる。
「……今回は自分がレムを抱っこして走る。賢者シュート様はキリリをお願いしても良い?」
「ぱぱがいい」
「……!?」
彼女の提案にレム本人が反対し、オレの足にがっしりと抱きついてくる。
その態度にアリスがショックを受けた表情を作った。
彼女は草原に膝を突き、レムと視線を合わせる。
「……まま――お姉ちゃんが抱っこじゃ嫌?」
「ぱぱがいいの」
「姫様は普段から色々構い過ぎているから、レム様から嫌われちゃったんじゃないんですか? ぷーくすくす……すみませんナマ言いました」
キリリのからかうような指摘にアリスが無言で睨みつける。キリリは慌てて謝罪の言葉を口にした。
2人のやりとりに微苦笑を漏らしつつ、オレはレムを抱き上げる。
レムは抱き上げられると、子猫のように自身の頬を擦りつけてくる。黒髪のくすぐったさ、ゴーレムとは思えない頬のスベスベに体温の温もり。
まるで本物の人のようである。
「レムもたまにはオレに甘えたい日もあるんだろ。明日はアリスに抱っこしてもらえばいいよな?」
「やー(はい)」
「……分かった。明日、レムを抱っこして走る。今日はキリリで我慢する」
「私で我慢するってなんですか私でって」
オレ達は和気藹々とした雰囲気で出発準備を終えると、一路ダンジョン都市『ノーゼル』へ向けて駆け出す。
今日は雲一つ無い快晴で、とても気持ちが良くまさに移動日和だった。
スキルマスターを読んでくださってありがとうございます!
レムの反応が意外とよくて安堵していおります。
明鏡的にもレムを書くのが可愛くて楽しいです。
今まではシュート達3人だけのやりとりでしたが、良い意味でこの枠を壊せていければと考えています。




