3話 我々はどこから来て、何者で、どこへ行くのか
アイスバーグ帝国首都を出発してから約2日半。
午後過ぎにようやくダンジョン都市『ノーゼル』へ辿り着く。
「確かに話通りごちゃごちゃしているな……」
「やー(はい)」
オレの感想に抱っこしているレムも反応する。
一昨日はオレが、昨日はアリスが、そして今日は再びレムをオレが抱き上げ移動していた。
現在オレ達は坂の上、ダンジョン都市『ノーゼル』を見下ろせる位置にいる。
大凡街の全体像を確認できるが、遠目でも分かるほどごちゃごちゃしていた。
街の中心からややずれた位置に巨大な祠のようなモノがあり、その周囲を城壁並に分厚い壁が覆っている。
巨大な祠を起点として街が形成されているイメージだ。
祠から見て西方面はそこまででもないが、残る北、南、東方面は建物が乱立している。そのせいで遠目でもごちゃごちゃした印象を与えるのだろう。
南門に並ぶ人の列、入場後、建物の乱立を想像して思わず入る前からげんなりする。
「大丈夫、うぇっぷ、シュート様……。私達、貴人がおぉっぷ、入る門は西門ですから、ぉぇっぷ……」
「キ、キリリこそ無理するな。ここからはゆっくり歩いて行こう、な」
アリスの背負子に乗り移動してきたキリリは振動に酔って、今にも乙女の尊厳を失いそうになっていた。
オレは彼女の説明を聞きつつ、背中をさすってやる。
『スキル創造』で強化しているはずだが、乗り物酔いにはまだ弱いようだ。
「あ、ありがとうございます、シュート様。うぅぅ……歩く分には問題無いので行きましょう。日が暮れると色々面倒なので」
「……姉様もきっと待っている」
アリスにも促されて、オレ達は西門に向かって歩き出す。
☆ ☆ ☆
キリリの話し通り、西門に到着すると何の手続き、誰何もなくダンジョン都市『ノーゼル』へと入ることが出来た。
門番兵士の1人がどこかに向かって走り出すのを目にする。
恐らくアリスの姉に報告しに向かったのだろう。
オレ達は西門に用意されていた馬車へと乗り込み、案内される。
遠目から見たとおり、東南北とは違い貴族街のためか規則正しく建物が並び、道にゴミが一つも落ちていないほど清潔だった。
そんな貴族街の中でも大きな屋敷へと馬車が入って行く。
馬車を降り、年期が入った老執事に案内されてリビングに入る。
既に1人の女性が待ち構えていた。
「久しいわね、アリス、キリリ。変わらず元気そうでよかったわ」
『にっこり』と言うより『ニヤリ』と獲物を前にした肉食動物のような笑みを浮かべた女性が、気さくに声をかけてきた。目つきがやや鋭いせいで、そう見えるのだろうか?
身長はアリスより低く、胸も小さい。金髪の緩いウェーブがかかった長い髪を背中へと流し、眼鏡を掛けている。
動きやすさを優先しつつ、貴族として問題がないレベルの衣服の上から白衣に袖を通していた。
恐らく彼女がアリスの姉、次女ミーリス・コッペタリア・シドリー・フォン・アイスバーグなのだろう。
整っているがやや幼い容姿、身長も低いため一見アリスの方が姉に見える――ことはない。覇気というか、雰囲気がアリスより姉感が漂っているのだ。
2人が並んで立ち、初見の人に『どちらが姉で妹か』と尋ねても、ほぼ間違いなくアリスを妹と選ぶほど姉力がある。
「……姉様も変わらず元気そうでよかった」
「ごぶさたしております、ミーリス様」
アリスは親族らしい気安さで、キリリは従者として一定の節度を持って挨拶をした。
2人の挨拶後、オレも紹介を受ける。
「……姉様、こちらが賢者シュート様」
「お初にお目にかかります。シュートです。妹さん達にはいつもお世話になっています。こちらつまらないモノですが」
オレはアイテムボックスから手土産を取り出し贈る。
立場は、帝国の基礎を築いた賢者と同じスキルを持つオレの方が高い。なので本来であれば直接ではなく、キリリなど従者を通して渡すべきだが公式の場ではないのと、『貴女を信頼しています』との意味を込めて直接差し出した。
「賢者殿からの土産とは。これは末代まで保管すべきかしら?」
「いえ、食べ物なのでお早めにお召し上がりください」
「……姉様、『みたらし団子』は神の食べ物。凄く美味しい」
「みたらしだんご? 神の食べ物? よくわからないけど、美味しいものなのね。なら折角だし皆で頂きましょう」
ミーリスが視線を送ると、壁際に立っていた執事が土産を受け取り一礼して部屋を出る。
彼が部屋を出るのを見送ったミーリスが次にオレからレムへと視線を向けた。
「そちらの可愛らしいお嬢ちゃんはアリスと賢者様の娘? だとしたら随分育つの早いわね。スキルの力かしら?」
「いえ、アリスとの子供ではありません。少々訳あってオレが拾い引き取った子供です。レム、ご挨拶を」
「レム、です」
端的に自己紹介して『ぺこり』と頭を下げる。
元ゴーレムのせいか、誕生して0歳のためか、いまいち言語能力が低い。もう少しちゃんと話してくれるとありがたいのだが……。
「すみません、あまり話をするのが得意な子ではなくて」
「いいのよ、気にしてないわ。むしろ可愛いじゃない」
「……さすが姉様。レムの可愛さは世界一」
レムを褒められ、アリスが嬉しそうに鼻息を荒くする。
アリスがレムを撫でると、子猫のように自分から彼女の手のひらに擦りつけた。
その様子をミーリスが可愛いモノを見つけたような頬を染めてレムを見つめる。
「本当に可愛いわね。賢者殿、アリスの側に置いておくとがさつが移るわ。だから、あたしに預けない? 立派な淑女に育ててあげるわよ」
「……レムは渡さない。叩き潰すぞ愚姉」
「やってみろ愚妹」
ミーリスの言葉に反応し、アリスが睨みつける。
アリスの眼光を受けているにもかかわらず、ミーリスは一歩も引かずどこか楽しげににらみ返していた。
レムを巡って一瞬即発の空気が漂う。
オレはどう対処すればいいか迷っていると、キリリが呆れたような溜息を漏らしツッコむ。
「ミーリス様も久しぶりに会った姫様を構いたいお気持ちは分かりますが、からかわないでくださいよ。姫様も良いお歳なんですから、いちいちミーリス様の言葉に反応しないでください」
「ふっ、相変わらずだなキリリは」
まるで最初から一瞬即発な空気など無かったようにミーリスが楽しげに笑い出す。
アリスは家族の恥ずかしい場面を見られたように、気まずげに視線を逸らした。
☆ ☆ ☆
老執事、メイド達が運んできたお茶、手土産の『みたらし団子』がテーブルに並ぶ。
オレ、レム、アリスの順に座り、反対側にミーリスが1人腰掛ける。
キリリは『私は従者なので立っています』と辞退。
ミーリスが早速、手土産の『みたらし団子』を口にする。
「!? 美味いなこれは。白いのがモチモチして、食べたことがない焦げ茶のソースが甘じょっぱくて後を引く」
「……姉様なら分かってくれると信じていた」
ミーリスが『みたらし団子』の味を気に入ってくれた嬉しかったのか、アリスが満足気に頷く。
オレは隣で『むにむに』と団子を食べるレムが、串ごといかないよう注意しつつ、彼女の態度を微笑ましく見つめた。
「『みたらし団子』のお礼ではないが、先祖の家訓にかかわらずノーゼルに居る間は賢者殿の援助をさせてもらう。屋敷を好きに使っていいし、問題が起きたらあたいに言ってくれ。名ばかりの責任者だが、トップはトップだ。大抵の問題は片づけてやるよ」
「ありがとうござます。代わりと言うわけではありませんが、オレ達に何か手伝えることがあれば仰ってください。『スキル創造』のお陰で大抵の魔物に後れをとる心配はありませんから」
ギブアンドテイクではないが、気持ちよく滞在するためには家主の機嫌を取っておいて損はない。
ミーリスはオレの台詞に笑みを浮かべる。
「あたいが魔物を研究しているのを2人から聞いたのか? 悪いね、気を遣わせて。でも賢者様の手を煩わせるような案件は当分無いから気にしないでくれ。むしろちょうど欲しかった魔物のサンプルが届いたばかりだからな」
「確か『魔物とはどんな存在なのか』をお調べになっているんですよね?」
「もっと正確に言うなら『魔物の生態を明確化し、人類の発達に貢献する』だな。分かり易く説明するなら……例えば賢者様は知っているか? 昔、勇者でも倒せなかった『スキルを吸収する魔物』が居たって。結局どこかの地に無理矢理封印したらしいがな。そういった伝説的魔物が居て、発見して、そいつの『スキルを吸収する仕組み』を明確化させたとしよう。それをスキルオーブのようにして、他者に移せる技術が出来たら人類文明はもっと発達するだろ? あたいはそういった『魔物をもっと人類の発達に役立てる』研究をしているんだよ」
「立派なお考えですね」
「あははは! 伝説中の伝説である賢者殿に褒められるとは照れくさいね。まぁ最初はもっと単純で『魔物とはなんぞや』と気になっただけなんだ。さっきの研究テーマは後付けでしかないさ」
ミーリスは本気で照れているのか、頬を染めパタパタと片手を振って誤魔化す。
ふと、前世の記憶から言葉を紡いでしまう。
「『魔物とはなんぞや』か……『我々はどこから来て、何者で、どこへ行くのか』ですか」
フランス画家の絵に『我々はどこから来て、何者で、どこへ行くのか』というようなタイトルがあったはずだ。
正確には覚えていないが。
それがつい口から零れ出る。
この言葉に照れ笑いを浮かべていたミーリスが、今度は感心した表情を作った。
「『我々はどこから来て、何者で、どこへ行くのか』……とっさにそんな言葉が出てくるとは。さすが賢者様、詩人だね」
「いえ、そういう訳ではないのですが……」
「謙遜しない、謙遜しない。あたいの魔物に対する気持ちを端的に表した表現だよ。今度人に説明する時使わせてもらおうかな。『スキル創造』に関係なく、アリスは本当に良い男を捕まえたもんだ」
よほど『我々はどこから来て、何者で、どこへ行くのか』が気に入ったのか、ミーリスは上機嫌でお茶を口にする。
とりあえず、険悪な関係になるより好印象を持ってもらった方がいいのは確かだ。
こうしてオレ達は無事にダンジョン都市『ノーゼル』に拠点を構えることが出来たのだった。
スキルマスターを読んでくださってありがとうございます!
アリスの姉である次女登場!
どういうキャラクターにするか悩みましたが、研究者タイプにさせて頂きました。
アリス、キリリは意外とすんなり決まったのに、姉のキャラクターを考えつくには苦労しました……。




