小さな犠牲者
ベルフェルシシスが最後の一撃とばかりに、大ぶりで尻尾を叩きつけに来た。バキバキバキっと、地面をえぐるように振られた尻尾をベスパはジャンプで回避する。それは同時に街の門よりも高い位置にある、ベルフェルシシスの心臓目掛けての攻撃でもあった。
(たった一度のチャンスをものにできて…こそだっ!!)
ベスパは精霊樹の大槍を投擲するため全身の筋力をバネに変える。
ブチブチブチっと、全身で筋断裂が発生するが、構わずベスパは精霊樹の大槍を投げ…。
ガシッ!!
ベルフェルシシスは、余裕を持ってベスパを左手で鷲掴みにした。そのときベスパの持つ精霊樹の大槍は、ベルフェルシシスの手のひらを貫通していた。
『見事だ。人間。だが…』
貫通された左手の甲を見て、ベルフェルシシスは満足げに言った。そして、ベルフェルシシスは右手の人差し指の先端にある爪で、ゆっくりとベスパの心臓を潰した。
「あがぁっ!!」と小さな断末魔をあげ、ベスパはがっくりと頭を垂れた。ベルフェルシシスは、心臓を貫いたベスパを、ゴミのように手放す。そしてベスパはゴミのように…地面に落ちていく。
ベルフェルシシスも地面に両手をつくと、全身からブクブクと泡が溢れ出し、鱗が溶け、肉が溶け、やがて…骨まで溶け…全てが溶けて、跡形も無くなってしまった。
二人が同時に死んだからか? 虹色のドーム結界が解除される。
パン屋の三女で狩人のアルネと、両腕を失った傭兵アルデルが、ベスパのもとに駆け寄る。
ギルドマスターのデットも、冒険者の中から回復魔法を使える者を呼び寄せ、ベスパの蘇生を優先させるが、なぜか回復魔法が弾かれてしまう。
「これは…。竜の闘気が、ダーリンの体内に入っちまってる。人間の回復魔法に対して、防御しちまってる…。どーすりゃいいんだよ…」
嘆くアルデルの横に、ウドちゃんMk-Ⅱが着地する。目の前の胸を貫かれたベスパを見て、ウドちゃんは発狂したように叫ぶ。
「ベスパぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」
アルデルは、思いつく。精霊女王なら…或いは…。泣き叫ぶウドちゃんに、アルデルは耳打ちする。
「本当なのか…。ベスパは、また元気になるのじゃな?」
「わからんが、少しでも早く連れて行くしかない…」
「わかったのじゃ。ベスパ、もう少しだけ、我慢するのじゃっ!!」
ウドちゃんは、ベスパを抱き上げる。
「どっちに行けば良いのじゃ?」
「西だ。西へ向かう」
「待って! わ、私も行く、連れて行って!!」パン屋の三女で狩人のアルネが懇願する。
「待て待て、何処へ連れて行くつもりだ?」ギルドマスターのデットが三人を制止する。
「アルネ、すまんな。"精霊道”を通って行くのだ。人間には無理だ」
半ば強引にベスパを連れて、突然、ウドちゃんとアルデルは、その場から消えてしまった…。




