ルミナリアの進む道
ルミナリアには、神殿に帰る気持ちはない。神殿が育ててくれたからこそ、神殿に潜む悪に真正面から向き合えるのだ。ルミナリア自身が、聖女として…神殿から悪を一掃するべきではないのか? 自問自答するが、そんな武力も権力もなかった。
「何でも自分だけで解決しようとするな。時には他人を頼れ」
ギルドマスターのデットは、ルミナリアの身柄の保護を冒険者ギルドに任せてくれと提案する。
「覇権争いが始まろうとしているが…。神聖伝導者が、どの勢力へ加担するか読めない。聖女の神殿への忠誠心が傾いたと知れれば、神聖伝導者は…恐らく…聖女の排除を考えるだろう」
神殿を離れたい理由は、裏切りが一番なのだ。二番目に治癒魔法の奉仕にも疑問がある。あまりにも高いお布施という名の治療費。お布施は神殿を運用していく上で、仕方のない仕組みである。しかし、だからと言って、弱者を簡単に切り捨てて良いものなのか? 自分にできない弱者への救済を好き勝手に行っていた…今はベスパだと知ったが…そんな男が許せなかった。だから…独自に調べたのだ。神殿にはお布施以外でも、金が集まる仕組みができていた。いや…個人の治療費など、他の収支に比べれば、3%程度なのだ…。ルミナリアが考えるに、神殿と聖女のブランドを築くためではないのか? それぐらいしか思い当たらなかった。
三番目の理由。ベスパに…出逢ってから、数時間も経っていないのに…惹かれてしまうのだ。理由がわからない…同じ治癒を扱えるからなのか? 無償で弱者を救済する人物だからなのか? どうにも心が奪われてしまったようなのだ…。
「冒険者ギルドの都合になるが…。保護するにあたり…ルミナリア様には、先程一緒にいた少年のベスパと、リリルという少女の三人で行動してもらいたい」
ベスパと一緒にいられるのは、願ってもないチャンスだが、リリル? 誰だろう?
ギルドマスターのデットから、神殿の神官の悪行…同級生のウィルダースやジュエルスの身に起きた事実を知り、リリルの治療すらしてあげられなかった、自身の無力さに打ちのめされるルミナリアであった。
「私は…何という…恥知らずな…知らなかったでは、済まされませんね」
「救う相手を限定していたのも、聖女や神殿のブランドの泥を塗るような輩を排除していたのも、ルミナリア様の意思ではないだろう?」
「様は不要です。ルミナリアとお呼びください。しかし…」
「まぁ、納得できないのはわかる。だが、そういうのは、何も神殿や聖女だけの話じゃない。寧ろ、聖女を辞めた後、普通の領地民として生きる立場になった時、もっと世の中の矛盾に立ち向かわなければならない。そう…綺麗事だけじゃ…生きていけないのさ。それがわかるまで、苦しむだろうし、わかったところで、ただの領地民では、解決すらできないのが、現実だ」
「横から失礼するよ。私は、領王指定冒険者マーナビルという者だ。役割は違うが、私の立場は、聖女に近い。日々、正解のない依頼をこなしている。今は誰に何を言われても、理解できないだろうが、先に答えを教えてやろう。答えが出るには時間がかかるものだ。覚えておくといい」
「お二人とも…。ありがとうございます」
変えられない過去。思いもよらない真実。そして手探りの未来…。ベスパよりも、たった1歳年上の少女に伸し掛かる罪と責任。心が壊れないように自然と流れ出す涙。
ベスパのいる大部屋に戻ると、ベスパとリリルに「迷惑をかけて、ごめんなさい」と謝罪した。そして、そのままベスパに抱きついてしまう。
(何をしているのじゃ!! あの小娘ぇぇぇぇぇっ!!)
ウドちゃんは抜剣し、ルミナリアに襲いかかろうとするが、領王指定冒険者マーナビルに後ろから羽交い締めされてしまう。
「ぐぬぬ…。なんじゃ、お主…。妾を止めるとは…」




