黒い外套の少女
魔法攻撃の威力を簡単に説明するために、属性の概念や装備品の耐性効果を除外する。術者のINT × 攻撃魔法Lvが、ターゲットのMND × 防御魔法Lvを超えた場合に、ターゲットのHPが削られるのだ。つまり黒い外套の男の魔法攻撃は、ベスパのMNDを軽く超えているということ。しかし闇に貫かれたベスパは、致命的ダメージにも意識を保ち、得意の止血Lv1、再生Lv2、回復Lv2にて、瞬時に回復したのである。
「この魔法は…以前、街で見たな」
「街で見ただと? まさか…あいつが…この街に来ているのか?」
黒い外套の男は頭を振った。戦闘中に意味のないことを考えてしまった自分に驚く。
(冷静になれ…こちらの攻撃が効果がないのだ。逃げるか? いや…目撃者を…? 待て…こいつらが、夜の女王の手下でないと、誰が決めたのだ。やはり…殺しておくべきだろう。)
黒い外套の男の動きが止まっている隙に、ベスパが懐に潜り込み正拳突きを放つが、闇に消えてしまった。
「私が…この場に居ることは、神のご意思のようね」
光の魔法、浄化の魔法、神聖の魔法。闇や悪へ有効そうな魔法を発動する聖女ルミナリア。すると暗い下水道内の一角にある濃い闇が振り払われた。そこから黒い外套の男が苦々しい表情で聖女ルミナリアを睨む。
「エルベフト兄様っ!」
またもや黒い外套を着た者が乱入してきた。
「カスーレイナ…」
「もう里へ帰りましょう」
「夜の女王を野放しには出来ぬ」
「ベスパっ! 何処じゃっ!!」
今度はウドちゃんだ。
「次から次へと…」
黒い外套の男は闇を纏い何処かに消えてしまった。
「転移の魔法?」
聖女ルミナリアは背筋が凍った。転移の魔法を敵が保有するのであれば、いつ何処に居ても…攻撃される可能性があるのだ。四六時中警戒が必要になり、気が休まることはない…。
そして、この黒い外套の女の子は…二ヶ月前、奴隷商人と問題を起こした女の子ではないか…。ルミナリアは、女の子に近づき事情を説明するように求めた。
「兄が、ご迷惑をおかけしてすみませんでした。どうか、お許しください。深い事情は…一族の問題なので…」
カスーレイナと呼ばれた女の子は黒い外套のフードを脱ぎ素顔を晒した。10歳ぐらいの何処にでもいそうな女の子だった。
「それよりも、ベスパ、地上に戻るのじゃ、怪我人だらけなのじゃっ!」
ベスパとルミナリアは、ウドちゃんに案内され、地上に戻った。そこには前回の大地震から復興したばかりの街が、また瓦礫と化していた。
ベスパは、冒険者ギルドに戻るべきか、手当たりしだいに街の人の治療をするべきか悩む。




