生き残る者
幾度もなくクラッシュ・パンチで粉砕しているのだ。なぜ? なぜ? 立ち上がれる? なぜ? 腕を上げファイティングポーズを取れる?? さらに…ベスパの正拳突きもクラッシュ・パンチほどではないが、当たれば確実に致命傷を負う威力を秘めていた。
ウィルダースは冷静さを失い恐怖に支配され始めていた。
(何だよ…こいつ…ただの…治癒術師じゃ…)
そこで、ハッとする。
(そうか…こいつ。ファイティングポーズで砕かれた腕を一瞬にして治療しているのか? いや、待て待て…一瞬で? 粉砕された腕を?? そりゃじゃ…聖女ルミナリア様と同等の治癒力じゃねぇかよっ! ありえねぇ。マジで…それほどの治癒術師だったのかよ…)
「へへっ…。どうやら、俺の勝ちだ」
ベスパは宣言する。そう…ウィルダースを部屋の角に誘導していたのだ。これならば、ベスパの正拳突きを繰り出せば回避できずに必中するだろう。だがベスパにもプレッシャーがある。人殺しになるというプレッシャーだ。
”まぁ、機会があればだがな。しかし人間も一人は殺さねぇと……。一人前とは言えねぇ。お前たち新人はな。意思が通じたり、言葉が通じる相手に、必ず遠慮しちまうんだ。例え相手がこちらを殺すつもりでもな…”
カーデル教官の言葉が頭の中で繰り返される。しかし、ベスパはここで乗り越えることを決意し、ウィルダースの心臓を狙い撃ち抜く。ベスパの手がウィルダースの体を貫き、壁に拳が当たるとき、ウィルダースの首筋に短剣が突き刺さり驚く。
「バスパ一人に…命を背負わせるなんて…まだまだ早いじゃない?」
それはベスパに治療され意識を回復したアルネが投擲した短剣だった。
「お、おい…ア、アルネ…お、お前…投擲、そんなに…得意じゃなかったよな??」
それほど距離が無いにしても、一歩間違えが、ベスパの後頭部に突き刺さっていたかも知れないのだ。
「だ、大丈夫よ…。な、何言っているの!?」
(つ、つい…ノリで投擲しちゃったけど…ベスパの言う通りよね…)
「ウィルダ…」
矮小な男がウィルダースの敗北を目の当たりにして叫ぼうとしのだが、同じくベスパに治療されていたジュエルスは、固有スキルアサシネネイト(隠密)により、矮小な男の背後から首を掻き切っていた。
それを見ていたベスパは背筋が凍りついた。
(持っていた短剣を通路の奥へ投げ捨てたけど…予備の短剣があるなんて…思わなかった…危ない…気を付けないと…・)
ジュエルスは、殺し終わると短剣を床に投げ捨てた。
「ベスパ…。こんなこと頼める立場じゃないが。もしも、妹を治療できるなら…助けて欲しい…。妹の名は、リリル。神殿直轄の病院に入院している…」
ジュエルスは、床に正座すると、ベスパに殺されるのを待つ。人を殺せても、やはり自分が死ぬのは怖いのだ。ジュエルスはカタカタと震えていた。
「という事は? お前の命は、俺のものだろ? これからも、俺のために働け」
ベスパは、ジュエルスに手を差し伸べる。
「ベスパ。甘すぎっ! でも、オレのマイダーリンは、それで良いのかも」




