全てを武器に
山ごもりに必要な物は、学園とカーデル教官が、ほとんど用意してくれるので、個人の準備としては、着替えぐらいしかない。三人が持っていくものは、小さな背嚢のみだ。
「これからは、実戦形式ではなく、実践を取り入れる。そこに、お前たちの次の壁がある。お前らの資料を読むとだな。卒業試験の鎖に繋がれたゴブリンを殺すことに躊躇している。もし、躊躇しなければ、お前らは誰も怪我することもなかっただろう」
アルネは無意識にゴブリンに噛み切られた首筋に手を当てていた。
「だが、誰もが躊躇して当たり前だ。それは間違っていない。寧ろ、初めてで躊躇しねぇ奴は、将来トンデモねぇクズ野郎になる可能性が高い。今日から一週間は、動物や魔物、1日に何体の命を消すのか、わからねぇ。罪の意識が消え、段々と感覚が麻痺していくだろう。だが覚えておけ、動物も、魔物も、人間も、同じ命だ。一つしかねぇと…。あぁ…最後にな。人間も殺すかも知れねぇぞ。まぁ、機会があればだがな。しかし人間も一人は殺さねぇと……。一人前とは言えねぇ。お前たち新人はな。意思が通じたり、言葉が通じる相手に、必ず遠慮しちまうんだ。例え相手がこちらを殺すつもりでもな…」
ベスパ達は、カーデル教官と共に、卒業試験と同じく、北門から出た。前回と同じように草原をするむと、これまた前回と同じくスモールウリボーに遭遇する。
「今は連携の必要はない。アロック。まずはお前からだ。型を意識しながら、スモールウリボーを倒せ」
ベスパには、アロックが完全に軽量フルプレートアーマーを着こなしきれていないように見えた。軽量と名の付く鎧でも、それなりの重量があるのだ。つまり完全に支配下に置けず、手に余る鎧なのだろう。しかし、ベスパの予想は覆された。アロックは腰を落とし防御姿勢を取り、スモールウリボーの突進を盾で受け止た。
「よし、アロック。型を意識して、自分のイメージ合うタイミングまで、敵の攻撃を耐えろ」
「スモールウリボーの突進をあんなに軽々と受け止めた??」アルネはアロックが吹き飛ばされるものだと思っていたのだ。
「何故だわかるか? アロックは、鎧の重さも利用し、スモールウリボーの突進力に対抗しつつ、フルプレートアーマーのつなぎ目を、上手く噛み合わせて、筋力でなく、フルプレートアーマーの硬さを利用して、突進のエネルギーを上手く大地に逃がしたのだ。まぁ、わかりやすく言うと、スモールウリボーは、ただの鉄の塊に突進したと同じということだ」
「そんなことができるのですか!?」今度はベスパが驚く、何その達人風な防御方法と。
「あくまでも、格下や同等、それも単純な攻撃のみにしか、まだ使えないだろうな。あれはな…。鍛冶屋のスキルだ。<鎧の仕組み>を戦いの応用しているのさ」
カーデル教官は、教育を学園生が必ずしも優秀だと思っていない。一般には一般の強みがあるのだ。
そして、何万回と繰り返されたアロックの袈裟斬りが、スモールウリボーの脳天を斬り裂いた。
「よし、上出来だ。魔石を採取後、反省点や改良点をまとめてから、報告しろ」
ベスパは悔しかった。ベスパだって、何年間も居酒屋で働いていたのだ。それもいい加減に働いていたわけじゃない。戦闘に使えなくても、その働いた結果がスキルとして欲しかったのだ。
解体作業が苦手なアロックは、魔石の採取に手こずっていた。
「カーデル教官。あそこにも、スモールウリボーがいます。私にやらせてください」
なんと、カーデル教官でさえ気が付かなかったスモールウリボーを見つけたアルネ。しかも、相当の距離がある。
「良いだろう。やってみろ」
矢を構えたアルネは、深呼吸をすると、流れるような動作で矢を射る。




