初日
『短期冒険者講座』とは、すなわちスパルタ講座であった。三人は学園指定の装備を支給される。ベスパはメイスと軽量の鎖帷子と革靴。アロックは軽量フルプレートアーマーと盾にロングソード。アルネは皮の鎧とロングボウと短剣。
着替え終えた三人は、学園の旧修練場で待機している。
「目茶苦茶重いんだけど…」アロックのSTRやVITは一応、二桁であるが、フルプレートアーマーを着たことにより、AGIやDEXが下がってしまっている。
ベスパは有り余るSTRとVITのおかげで、Tシャツを着ているのと変わらない感覚だった。
「だけど、メイスって使ったことないんだよな…」
「私だって、ロングボウなんて、使いこなせないわよ」とSTRの低いアルネが愚痴る。
そこに先程、挨拶を交わした講座担当の教官が現れた。ベスパはもう一度、カーデル教官の引き締まった体躯を観察する。体の大きな冒険者は、居酒屋で働いていれば毎日見ている。だけど、この教官には何か違和感を感じるのだ。
(そうだ。上級冒険者だ。彼らと同じ、何かを感じる。)
ベスパと言えども、上級冒険者に遭うことは滅多にないのだ。その上級冒険者が、稀に見せる異常な雰囲気に似ていたのである。
「よし、着替えたな。まずは説明する。これから君たちには、剣で言えば素振りを1,000回ほど実施してもらう。これは君たちが学園の生徒と違い、自然と身に着けてしまった型を矯正する目的だ。しっかりと指導された型には、それなりの根拠がある。アロック、君は、鍛冶屋の修行のため、冒険者になるのだったな。では、正式な型を学び、学園を卒業した型と、生徒と自己流での型の違いを考えながら素振りを実施して欲しいと思う。ただ1,000回振るだけでは意味がないぞ。型の意味を知り、型の力を利用して、最高の技を繰り出すのだ」
まずはアロックが、軽量フルプレートアーマーを着た状態で、盾を構え、剣を振る。たったそれだけで、アロックは違いに困惑していた。
「そうだ。ちょっとした違いが、違和感を生み、技を鈍らせるのだ。もしもアロックが作った剣が、最高の出来だとしても、盾や鎧の影響で、まったく駄目な剣に成り下がる可能性もあるのだ。そういう違いを最も感じやすいのが中級冒険者だ。初級は型が定まらず毎回その馬鹿切り、上級であればその程度の違いは経験で補正できるからだ」
アロックは納得した様子で、カーデル教官の指示通りに、剣を振る努力をしていた。
「斬る、払う、突く、叩く、いなす、受ける、これだけでも正確に身に付けるのは大変だろう。それに角度やタイミングや位置や間合い。どれだけの要素が複雑に絡み合うのか? 考えただけでも木の遠くなるような修練が必要だ。そして、その技を実践で活かせるのか? それはまた先の話だ」
アルネはロングボウを持たされ固定した的に射る。
「風、温度、光、障害物、天候、それらは人間の力の及ばないものかも知れない。だから、こそだ! 人間の動作が作り出す誤差を排除することが、的に当てるための第一歩なのだ。まずは固定の的に当てる練習を、次に生き物に当てる練習だ。生き物は難しいぞ? 相手の気持ちを読まなければならないからな。相手の気持ちを読み切ることができたならば、アルネ。お前は相手を殺せなくなるだろう。そうだ。弓矢とは人との交わり。それこそが真髄なのだ」
そしてベスパの番になる。
「カーデル教官、お願いがあります。俺は…。拳闘士の…。正拳突きを学びたいです。父親には先立たれて教えてもらえませんでした」
カーデル教官は、ベスパの資料を思い出す。ステータス的には、メイスなどの武器を持たねば、ゴブリンも殺せないだろう。しかし…ゴブリンの頭部を素手で粉砕したという報告もある。治癒術師なのにだ! それに…異常な程の治癒力も発揮しているという。これらから考えると、ベスパは、シークレット・ステータス持ちなのだろう。
「わかった。皮のグローブを装備して来い」




