第三十九話 無意識ほど厄介なものは無い。
「お嬢様。失礼」
執事さんの声が聞こえて、背中に大きな手が軽く当たる。
どうやら砂を払ってくれてるみたい。
はい。
……お手数かけます…………。
でも、しょうがないよね?
だって見えないし。
そしてお父様。
何うらやましげにこっち見てるの?
え?
執事さんに砂を払ってもらいたかったの?
てか、お父様。
砂。
払ったら?
胸のあたりから膝の事まで砂まみれだよ……。
あぁ、わかった。
お母様に払ってもらうために、払わないんだね。
うん。
アツアツですな……。
あたしの前では少し控えて下さると尚よろしいのですが……。
あははははは!
無理だね!!
わかってるよ……。
「お嬢様。目立つ砂は払い終わりましたよ」
「ありがと、執事さん。じゃ、お母様待ってると思うし、帰ろ?」
そう言ったら、執事さんは頷いた。
あたしはそれを見て、なんとなく傍にあった執事さんの手を握る。
……なんで握ったんだろ…………?
わかんないけど、なんとなく繋ぎたかったんだよ。
まぁ、そのせいで執事さん。
すっごく驚いた顔であたしの方見て来たから、執事さんがやったのと同じように、満面の微笑みで躱す。
「早く行こ? お父様。執事さん」
あたしはそういって、執事さんの手を引いた。
後ろでお父様が。
『ニコ! お父様と手を繋いでくれないのかい?!』
とか聞こえた気がするけど、気にしない。
うん。
ただでさえ恥ずかしいのに、これ以上恥ずかしい思いしたくないしね。
無意識だし。
今更手を離しても感じ悪いし、もう繋いだままでいいや。
「に、ニコォオォォ!」
何か聞こえた?
気のせいさ。
「む、無視しないでおくれ、ニコ! お父様を仲間外れにしないでおくれ!!」
何か聞こえた。
うん、気のせいだよ。
「うぅ……。昔は良く手を繋いだのに……」
……結構後ろで聞こえた。
無視していいかな?
良いよね?
ってことで無視したいけど、お母様が心配するからね。
とりあえず、立ち止まって振り返る。
お父様は……居た。
結構後ろで、小さくなってじめじめとした雰囲気出しながら、地面に【の】の字を書いてる。
うわぁ。
めんど――。
……なんて、思ってないよ?
「お父様? 手。繋ぐ?」
もちろん。
執事さんの手をつかんだままで、空いてる手をお父様に向けた。
そしたらあっという間に掴まれた。
もちろん掴んだのは、さっきまで遠くで落ち込んでたはずのお父様。
「もちんだよ。ニコ」
キラキラしてる。
花飛んでる。
めっちゃニコニコしてる。
すっごく嬉しそうだ。
……まぁ、良いけど。
お父様って、ホント。
顔だけは良いよね……。
顔の良さとったら、何も残らないんじゃ……。
いや。
でも、軍を上の人らしいし。
……あ。
剣術とか結構強かったんだった。
うっかり忘れるとこだったよ……。
基本、お父様はこんな風に喜怒哀楽が激しすぎるからさ。
色々忘れちゃうんだよね。
気をつけよ……。




