第九話 自分ルール
あれから、ギルデさんが手伝ってくれたから、乾すのがすぐに終わった。
だって棒にかけて、とめるだけだしね!
あたし一人だと身長が足りなくて、時間がかかるの。
でも、今日はギルデさんがやってくれた。
桶をひっくりかえして、水をこぼす。
乾かす目的で、桶を壁に斜めに立てかける。
そして、石鹸と二つの籠を持ってお屋敷の中に入った。
さて、これを使っていない部屋に置いてお仕事終了。
……これからどうしよう…………。
今は、お昼と朝の真ん中。
お昼ご飯の支度するにしては、早すぎる。
お母様はまだ食事の支度はしないし……。
どうしよう。
洗濯物はすぐには乾かない。
となると、別の事で時間をつぶさなきゃだよね。
どうしよう。
さっきからあたし、そればかり言ってるね。
でも。ほんと、どうしよう。
お屋敷からできるだけ出たくない。
だって、お屋敷の外出たら、ギルデさんが言ってた変態さん(?)に会うんだもん。
それにお父様たち大人から、耳にタコが出来るくらい言われてること。
知らない人には絶対について行かない。
知らない人と話をしない。
何かされそうだったら、大声で助けを呼ぶ。
……外出するたびに繰り返し言われるの。
あたしもう九歳だよ?
レナンの人以外に近づかないもん!!
お父様たちは心配性すぎるんだよ……。
もう……。
あたし、この小言を聞きたくないの。
だったら誰にも言わずに出て行っちゃえ。
やりました。
帰ったらすっごく怒られました……。
お父様とお母様は泣きながら怒る。
お兄様は「心配かけるな!」って汗だくで怒った。
ギルデさんたちは、お兄様と同じで、汗だく。
「無事でよかった」って安堵してた。
すっごく、申し訳なかった。
そして、執事さんは……。
思い出したくないくらい怖かったよ…………。
いつもは時々出る腹黒いところが、ちょこっと怖かったけど。
それを打ち消すくらい、すっごく優しい執事さんが、すっごく怖かった。
表情はいつもと変わらなかったのに。
すっごく怖かった……。
だから怖くて声も出なくて、涙も出なかった。
そんなあたしに、ただ一つできたこと。
頷くこと。
それだけ。
だから、もう二度と誰にも言わずに出て行こうなんて思わないよ。
あたしは学ぶのです!
と、言うことで。
あたし、おつがい以外ではお屋敷の外に出でないの。
だって心配かけたくないし、優しい執事さんを怒らせたくないし……。
だから、外に行かずにできること。
手芸と読書。
読書は寝る前と決めているの!
よし、手芸しよう。
どれしようかな。
刺繍? 編み物?
……よし決めた!
刺繍しよ!!
あたしは籠を置いて、自室に戻った。
壁紙から何でもが、ピンクで統一された部屋。
認めたくないけど、あたしのお部屋です……。
あたしがピンクで揃えて欲しいと言ったわけではない。
ましてや、そろえたんじゃない。
犯人はお父様だよ。
でも家具のかたちは、あたしとお母様。
だからなのか、色はお父様が決める。
前も言ったけど、あたしが好きなのは水色!
何度も言ってるけど、聞いてくれない。
こんな部屋で休まるわけないじゃん!!
って、最初は思ってた。
でもね。
人間って、なれちゃうんだよ。
だからあたし、このピンク一色の部屋を見てもなんとも思わないの。
多分気づいた人がいるかもしれない。
クローゼットの中。
もちろんピンク一色。
ふぅ……。
もうあきらめたよ。
だって、お父様だもの。
ちまたで有名な、変人公爵様だもん。
言うだけ無駄。
例え言ったとしても、斜め上に解釈されるだけ。
あたしは部屋に置いてある一人掛けのソファーに座る。
これももちろんピンク。
なんか、刺繍する気失せちゃった……。
読んでない本でも読も。
え?
寝る前に読むって決めてるんじゃないかって?
それは読みかけの本ね。
読んでない方はいいんだよ!
だって、自分ルールだし!!




