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変人公爵一家の義娘  作者: 双葉小鳥
第一章 変人公爵一家の義娘
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第八話 即席の歌

「ニコ」

「あ、若様。どうしたですか?」

「あぁ。ちょっとウィルと出てくるよ」

「解りましたです」

「じゃ、いってきます」

「いってらっしゃいです!」

 あたしはお兄様と、ウィルロットさんの後ろ姿に手を振る。

 お兄様は、前を向いたまま手を振ってくれた。

 ウィルロットさんが振り向いて笑って手を振ってくれた。

 なんでかな。

 とっても嬉しい。

 この平穏が。

 この幸せが。

 ずっと、ずっと続きますように……。

「さ・て・と。お掃除おしまい! 次はお洗濯!!」

 あたしは箒を元の場所に戻して、井戸のあるお庭に向かう。

 お庭には色とりどりの花の花壇と、緑の木々。

 井戸はもう少し先。

 途中に置いていた洗濯物のはいった籠と、石鹸と、何も入ってない籠が載った大きな桶。

 そのうち、石鹸と桶を抱えて、井戸に向かう。

 大きな桶を井戸の近くに置いて、水をくむ。

 それから、洗濯の物の入った籠を取りに行く。

 いっぱい入ってるから、ちょっと重い。

 桶も近くまで運ぶ。

 そして、あたしは洗濯物を籠から出して、水の入った桶に入れる。

 石鹸をつけてもみ洗い。

「ふふ。ざぶざぶ、るんるん……」

 あ、変な歌が出来ちゃった。

 ま、いっか!

「たったった~、たらんら、らーら~。お洗濯楽し~なぁ~」

 うん。

 我ながら変な歌。

 でもお洗濯しながら、即席の歌を歌うのって、すっごく楽しいの。

 実はあたしの一日の楽しみだったりする。

 それに見てる人いないし!

 いたとしても、静かに居なくなってくれるもん。

 だから気にしない。

 初めは執事さんに見られて、すっごく恥ずかしかったよ?

 でも、お洗濯しているとき、暇なんだもん。

 だから自然と歌を歌うようになったの。

 あたしはお屋敷から出たら、こんな即席のへたくそな歌を歌ったりしないよ?

 それにあたし、今まで作って歌った歌の歌詞。

 まったく覚えてない!

 だって即席だもん。

 その時だけ歌えればいいの!

 さ、どんどん洗っちゃうぞ!!

 あたしは汚れ物を、全部お洗濯した。

 時間はかかったけど、全部洗い終わったよ。

 次はこれを干しに行かなきゃ!

「よいしょ。重た――」

「持つよ。ニコちゃん」

「あ、ギルデさん」

 どこからか現れたギルデさん。

 あたしが運ぼうとしてた籠を抱えてくれた。

 ……いつからそこに?

 まさか今まであたしが歌ってたの聞いてた?

「そんなに不安そうな顔しないで、さっき来たばっかりだから」

「え?! あ、そうだったです、か……?」

「そうだよ? 何かあった?」

「え、ううん。な、何もないですよ!」  

 良かった。

 聞かれてない。

 あたしはほっと胸をなでおろす。

 なぜか、ギルデさんがくすりと笑った。

「ギルデさん。どうしたですか?」

「なんでもないよ。ただ、ニコちゃんは可愛いなと思って」

「え?! そ、そそそそんな! あ、あたし可愛くないですよ!!」

「ふふ。そう?」

「そうです! 絶対そうです、そうなんです!!」

 慌てるあたしに、ギルデさんは目を細めて笑った。

 いつも思うんだけど、ギルデさんって、男の人なのにすっごく綺麗。

 顔の右側に鱗があるけど、それが神々しさを放っているみたい。

 金の目は、昼の太陽みたいなの。

 すっごく暖かそうな色をしてる。

 あと、綺麗。

 あぁでも、女の人みたいって訳じゃなくって、男の人の綺麗さなの。 

 お父様や、お兄様、執事さんもすっごくかっこいいけど、ギルデさんはカッコよくって綺麗。

 前、ギルデさんと一緒に買い出しに行ったら、女の人がみんな振り向いたりして、見とれた。

 そうだよね。

 こんなにカッコよくて、綺麗で、神々しい男の人なんていないもんね。

 ギルデさんが結婚してない理由、知ってるけど。

 でも、結婚してないのがすごく不思議なんだよね。

「ねぇ。ニコちゃん」

「は、はい!」

「視線痛い」

「あ、ごめんなさいです」

「僕の顔、何かついてる?」

「……目と鼻、口がついてます」

「………………」

 ギルデさんが、あたしから顔ごと目をそらした。

 なんで?

 震えてる。

 どうしたのかな?

「ギルデさん……?」

「あ、あぁ。ごめんね」

 ギルデさんが、両手で抱えていた籠を片手で抱え変える。

 そして、空いた手で口元を覆う。

 なんなのさ。

「顔、籠で打ったですか?」

「え……? あ、あぁ。そ、そう。そうなんだ!」

 なんかギルデさん必死?

 あたしの気のせいかな。 

「大丈夫ですか?」

「あぁ、平気だよ。ちょこっと痛いだけだから」

 でも、いつも通りのギルデさんに戻った。

 あたしの気のせい?

 解けない謎に、小首をかしげる。

「ニコちゃん。いつも言ってるけど、お屋敷の外でそんな恰好しちゃダメだよ」

「? なんでですか?」

 いつもいわれてる言葉。 

 あたしにはよくわからない。

「……ただでさえ変なファンクラブがあるんだし、その手の変態さんに、連れて行かれてしまうよ」

 変なファンクラブって。

 あたし見て、『ウサ耳萌え!』『少女萌え!』って叫ぶ人たち?

 でも、この人たちについては、身に覚えがない。

 それに変態って、オタマジャクシが、カエルになることでしょ?

 どういうこと?

 わっかんないよ……。

 ギルデさんはカエルに気を付けろっていってるの?

「……変なファンクラブ? 変態さん?」

 ますます小首をかしげるあたしに、ギルデさんは真剣に言う。

「そう。だから、気を付けないと、ね?」

「…………わかったです」

 いまいち良くわかんなかったけど。

 とりあえず。

 「変な人と、カエルに気をつけろ」

 ってことだよね。

 あたし、ギルデさんに言われてるように、いつも気をつけてるよ?

 変なギルデさん。

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