第十二話 芋虫
でも、どうしたらいいのわかんないから、クッキー食べる。
「おいしいね」
「うん。おいしい」
「どこで買ってきたんだろうな」
「スティアナ様とレティさんが作ったんだって――ぇ……?」
あれ?
今更だけど、なんであたしの隣からルファネスさんみたいな声が?
と、とりあえず確認。
てことであたしは声のした、隣をみた。
「なんでいるの?」
うん。
だって、さっき縄で椅子に縛られてたよね?
「はっはっは! ウィルめ、あんなものでこの俺様を捕らえられると思うたか!!」
自信満々なルファネスさん。
……縄と見張りの人、どうしたんだろう。
結構人いたんだけど……?
「お仕事、は?」
「んなもん、やめだ止め! 俺は仕事ばっかりできない人なの! いや~甘いものって癒されるなぁ」
そういってもう一つクッキーを口にするルファネスさん。
何やってんの?
この人。
仕事ばっかりって、自分がためなけりゃいいだけじゃないの?
「ウィ……お兄ちゃんは?」
「ん? あぁ、ちょっと用を言いつけて席を外させた」
胸を張って言うルファネスさん。
でもさ、胸張って言うことじゃないよね?
「で。その隙に縄を抜け、ご自分の側近を気絶させてここに来た。と?」
「「?!」」
背後から聞こえた地を這う程低い声。
あたしとルファネスさんは勢いよく振り返った。
ら、案の定。
大変ご立腹のウィルロットさんがいらっしゃった……。
うん。
ご立腹なんて可愛いもんじゃない。
激怒だね。
「おうウィル。このクッキーうまいぞ」
「然様でございますか」
ウィルロットさんは、笑ってクッキーを差し出すルファネスさんの首に、素早く縄をつけた。
もちろん。
輪っかになってない方を引っ張ったら輪っかの方が閉まるように結ばれてたよ。
で。それだけで終わらない。
だって、またどこからか長い縄出して、ルファネスさんの肩から足までを縛り上げて、芋虫にしたから。
もちろん床に転がすのもわすれない。
てかさ、ウィルロットさんってどこから縄とか出してくるの?
――パンパン。
ウィルロットさんがなぜか二回手をたたいて音を立てた。
そしたら……朝見たムキムキのお兄さんの集団。
……ごめん。
朝だけじゃなくて、ルファネスさんが連行された先でも会ったっけ。
ん?
てことは、ルファネスさんはこのお兄さんたちを気絶させたってこと?
もしかして、ルファネスさんって本当はすごい人?
「ギャーーーーーー! 仕事は嫌だ! 嫌いだ!! 縄解けよ! こんちくしょぉぉおぉぉ!!!!」
床で芋虫よろしくうごめくルファネスさん。
うん。
絶対違う!
それと、いい加減諦めて仕事したら?
じゃないと、いくら温厚なウィルロットさんでも怒っちゃうよ?
………………うん。まぁ、さっきから怒りっぱなしな気がする。
気のせいだよ。
きっと………………。
――コンコン。
開け放たれたドアをノックする人がいた。
でも、それでいつの間にか手を取り合っていた、スティアナ様とレティさんが、やっと現実に帰ってきてくれたよ。
スティアナ様が『どうぞ』って言って、その人は入ってきた。
つまりあたしは、その人が開いてるドアをノックした時から見てる。
いや、違う。
驚きすぎて目が離せないの。
「こちらでしたか」
「えぇ。やっと見つけました」
ウィルロットさんが、その人の方を向いて言ったら、その人は芋虫状態のルファネスさんの前で屈んだの。
「陛下。そろそろ以前のようにしっかりしてください」
「だったら君たちは以前のように俺を優しく敬って!!」
必死に顔を上げて言ったルファネスさん。
そんなルファネスさんに、ウィルロットさんとその男の人ははっきり言った。
「「では、ちゃんと仕事をしてください」」
って。
声がそろってて綺麗だったよ。
あきれが含まれてたけどさ。
でも、綺麗には持てた。
「陛下をお連れしろ」
ウィルロットさんの声で、お兄さんたちが『応』といって、なぜかその中の一人だけがルファネスさんを肩に担いだ。
え?
こんなに人いるのに、肩で担ぐの?
しかも首の縄はウィルロットさんが持ってるし!
て言うか、ちょっと待ってよ!
なんでその人、お父様の話し相手をする時のノエルさんに似てるの?
顔は全然似てないのに、雰囲気だけとかありえないから!!
「ウィ、お、おおおお兄ちゃん!」
「あぁ。彼は父さんの甥にあたる、セイドさんだ」
どうやらどもり過ぎたあたしの言いたいことが分かったらしい。
うん。
さすがウィルロットさん。
「へ、へぇ……そうなんだ…………」
「セイド・ルイダスと申します」
「あ、ニコラ・コルウッドです」
セイドさんが名前を教えてくれたから、あたしは慌てて名前を名のった。




