第六話 あきらめって大切だよね
せめてさ。
それでいいか、聞いてほしいな……。
嬉しそうに帰る前に。
……わかってる。
無理だよね。
わかってるんだよ。
伊達にこの人たちと家族やってないんだから!
四六時中顔つき合わせてるんだもん。
この人たちが、かっ飛んでるなんてこと、もうわかってるんだから……。
そんなこんなで。
月日が流れるのは早い。
結局。
お兄様をぎゃふんと言わせることが出来ず。
あたしは九歳になった。
お兄様は十七歳。
そして、年を重ねるごとに洗練された雰囲気を持つ人になった。
招待された夜会では、女の人の熱い視線を送られてるんだって。
これはお父様のお兄様の子。
この国。
エドレイ王国の王位継承権上位にいる二人。
王子様のルファネス様と、王女様のスティアナ様から聞いたんだけどね。
でも、お兄様が女性の目を引くのも仕方ないと思うの。
お父様に負けないくらい、かっこいいんだもん。
って、それだけじゃないか。
多分。
お兄様の長い髪が目を引くんだと思う。
だって、この国の男の人はみんな髪短いんだもん。
その中に、まっすぐでサラサラ、綺麗な長い髪のお兄様。
すっごく目立つもの。
そして、悔しいくらい似合ってる。
うらやましい……。
あたしなんて伸ばそうと思っても、邪魔になって切っちゃうのに。
だから、あたしはボブカット。
でもね。
毎晩お母様がカーラ(?)と櫛もって部屋に来るの。
そして、あたしの髪をくるくる巻く。
だから髪は内側にくるんってしてる。
最初は抵抗したけど、お母様がすっごく悲しい顔するから、あきらめちゃった……。
ホントはお母様は、お兄様みたいに髪を伸ばしてほしいみたい。
でも、あたしには無理!
お兄様みたいに、髪をまとめずに生活なんてできないよ……。
顔にばさって、かかって邪魔で邪魔で。
イライラしてくるもん。
単にあたしが短気なだけかもだけど……。
お兄様はお兄様で、お父様に呆れられてるしね。
だって、髪をまとめずに鍛錬し始めるんだもん。
邪魔じゃないのかな?
でもちょっと前に聞いたとき、お兄様。
『あ。どおりでバサバサすると思った』
って。
ついでに、『忘れてた』って笑ってたし。
ふつう気づくよね?
邪魔って。
「あ。ニコちゃん。おはよう」
玄関の前を箒で掃いていたあたし。
目の前に、執事さんの息子さん。
ウィルロットさんが挨拶してくれた。
「あ、はい。おはようです。ウィルロットさん」
……気づけなかった。
正面にウィルロットさんが居たのに。
ちょっと注意力が散漫になってたかな?
まぁいいや。
多分、お兄様探してるのかな?
「若様はお部屋ですよ?」
「あ、本当に? ありがとう。ニコちゃん」
ウィルロットさんが、にっこり笑うからあたしをつられて微笑む。
それから、ウィルロットさんはお家に入っていった。
あたしは使用人の格好をしているとき。
お父様を旦那様。
お母様を奥様。
お兄様を若様って、呼ぶ。
できるだけ敬語で話をする。
あたしが決めたルールなの!
このことはお父様たちに、ちゃんと話して納得させたよ?
お兄様にいわせれば脅しだろうって言われたけどね!
だから、使用人の恰好してないときは、ちゃんと話をするの。
後ね。
本格的に使用人として、食事を別にすることにしたの。
別にね。
夕食中に、娘になって攻撃されるからとか、そういうんじゃないんだよ?
むしろ、サインをさせられかけたとかね。
あたしは単に、主従として……けじめ、を…………。
…………そ、それだけなんだから!!
ま、まぁいいや。
後ね、なんでかあたし、ここ。
レナンに住む人たちから、『ニコちゃん』って呼ばれてるの。
あたし、『ニコラ』なのに。
『ラ』が足りないの。
ついでに、二年前まで執事さんとあたしだけだった使用人。
一年前、顔の右側が蛇の鱗で覆われてる金の目お兄さん。
それと、耳がとがった赤い目のおばさん。
あと、つい最近。
青と金のオッドアイに、猫の耳としっぽのお姉さんが入ったの。
執事さんを除いて、みんな異形なんだ。
すっごくいい人たちなんだよ!
それでね。
お兄さんはギルデさんっていって。
おばさんがマーティさん。
お姉さんはリディさん。
三人ともあたしを『ニコちゃん』って呼ぶの。
だから、『ニコラだよ?』っていったらすっごく驚かれた。
なんで驚かれたかわかんなかったから、後でお姉さんに聞いた。
『どうしてみんな驚いたの?』って。
そしたら、お姉さん。
『レナンの人達はニコちゃんは『ニコ』って名前って思っているのよ?』
って。
お姉さんもそう思ってたんだって。
そういえば執事さん以外。
みんなあたしのこと『ニコ』って呼ぶっけ。
でも、まぁ。
気にしないんだけどね。
でも、お姉さんたちは気にするみたいで、慌てて言い直そうとした。
『ニコでいい』っていったけどね。
だってあたし。
この名前は好きじゃないもん。
だから、ニコの方がいい。
大好きな私の『家族』がそう呼んでくれるから……。




