第四十七話 エプロンは身につけるものです。
暗いお兄様のお部屋。
テーブルに置いてあった蝋燭で明かりを取ろうとした。
でも夜も遅いし、何より病気のお兄様の眠りを妨げたくなくて、蝋燭に火を点けなかった。
まぁ。
これだけ眠ってれば起こしちゃってもいいんだろうけどさ……。
でも、ここはお兄様のお部屋だもん。
お兄様の邪魔しちゃダメ。
だから、『せめて月明かりだけでも』と思ってカーテンを開けた。
夜空には、まぁるいお月様。
その優しい光が、お部屋を少しだけ照らしてくれた。
あたしはその光をたよりに、屋根裏部屋で見つけた白いエプロンを着ける。
やっぱり、エプロンを見ちゃうと着けないと落ち着かないんだよね!
……って、それは置いといて、お兄様だよ。
あたしはお兄様の額のハンカチをとって、水につけて軽く絞り、お兄様の額の上へ戻した。
そのあと、お兄様の頬に片手を添えてみた。
暖かい。
ちゃんと息もしている。
大丈夫。
きっとお兄様は明日には目を覚ます。
そうだよ、大丈夫……。
何回も自分に言い聞かせた『大丈夫』。
それを信じようとする自分と、信じられない自分が真っ向から対立してる。
頭の中も心もぐちゃぐちゃ。
不安だけがつのっていく。
すがるように、頬から手を離してお兄様の右手を握った。
「ねぇ、お兄様。早く目を覚まして」
返事が来ないことは分かっている。
でも、『声をかけたら、返事をしてくれるかもしれない』そんな淡い期待があった。
けれどそんなこと、起こるはずもない。
わかってる。
だからそれ以上声を掛けずに、額のハンカチを濡らして絞って、またお兄様の手を握る。
それを繰り返して朝を迎えた。
お兄様のお熱は昨日と比べると、下がったと思う。
あたしは握っていたお兄様の手を離して、日が高くなる前にカーテンを閉めた。
そして、さっきいたところに戻って、再びお兄様の手を握った。
室内は耳鳴りがしそうなほど静か。
――コンコン。
「……はい…………」
「失礼いたします」
ドアを開けて姿を現したのは執事さん。
「お嬢さ……ニコラ、少々こちらへ」
「はい…………」
返事をして立ち上がると、目が回った。
でも、なんとか踏ん張った。
執事さんの傍に行くために、歩いたけど、足が床についてないみたいに感じた。
やっとの思いで執事さんの傍に行くと、無言で廊下に出るよう促され、あたしはお兄様のお部屋から出て、ドアを閉めた。
「……ニコラ。奥様が目を覚まされました」
執事さんが、いつもの優しい声で言った。
とっても良いことなのにあたしは、朝になったのにお兄様が目を覚まさなかった事が悲しくて、心が固まったみたいで喜べない。
それに、お母様が目を覚ましたのは、きっとお父様のおかげ……。
何日かぶりにあったんだから、二人の邪魔したくない……。
「かしこまりました。もうしばらくして向かいます」
「?! …………では、私はこれで。坊ちゃんを頼みますよ」
執事さんは驚き、何か言いたそうだった。
あたしは返事をして、お兄様のお部屋のドアを開け、中に入った。
あぁ。お兄様の額のハンカチを冷やさないと――。
「ニコ……?」
突然その声は聞こえた。
ずっと心配していた、大切な人の声。
とても信じられなくて、下を向いていた顔を、恐る恐る声のした方を向けた。
そこには上体を起こしたお兄様。
信じられなかった。
あたしは夢を見ているの?
「どうしたの?」
ちゃんと唇も動いてる。
それに、お兄様の優しい声。
不安で暗く澱んでいた心が、一瞬で晴れ、喜びに変わった。
「に、さま……お兄様…………!!」
あたしは感情を抑えきれず、お部屋の中を走って、ベットにいるお兄様の腰に抱きついた。
「?! ど、どうしたのニコ?」
あたしは驚くお兄様の問いかけに声を出せずに、自分の腕と、お兄様の脇腹に顔を押し付けたまま、首を横に振った。
「……お腹が痛いの?」
心配したような声のお兄様。
あたしはその問いかけにも、首を横に振るだけにした。
だって、声を出したら泣いていることがバレちゃいそうだったから。
でも、あたしの心情を知らない鈍感なお兄様。
なんとなくムカついたから、お兄様の腰に回している腕に少し、力を込めた。
――コンコン、ガチャ。
「ニコラ、先程――?! 坊ちゃんが……。奥様に知らせねば!」
執事さんは開けたばかりのドアを閉めて、居なくなった。
でも、本当に良かった。
お兄様の意識が戻って……。
「よか……た…………」
そこであたしは急に睡魔に襲われて、抵抗できずに眠りに落ちた。
昨日はニコラを書きたくなかった……。
ので、とりあえずニコラの強さを他者の目線でお送りしました(๑≧౪≦)
あはは。
どうやら不評だったみたい(´∀`*)
……時々ニコラを書きたくなくなります!
すみません……・゜・(ノД`)・゜・
以上。
ここまで読んで下さり、誠にありがとうございました!!
あと、当分ニコラのターンです。
…………多分……(´・_・`)




