第四十六話 執事の目線
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昼間。
お嬢様がバルコニーから姿を消したとき。
旦那様はバルコニーから身を乗り出し、鼻息を荒くしていた。
はっきり言って気持ちが悪い。
……なんで俺、こんなのと親友やってたんだっけ…………。
あぁ、そうだった。
親父が前王陛下と親しかったせいだ。
そのせいで、俺がこんな頭のイカれた奴の面倒を見る羽目になった。
あの頃のコイツはまだ、まともだった――ような気がする。
まぁ、王子だって重圧もあって、落ち着いていたんだろう。
それにコイツの才能と武術は、現王陛下をはるかに上回っていた。
今でもそれは健在で、突拍子もなくいなくなっては国を良い方へと導いている。
武術については一年に一度。
国を挙げて、武術大会が開かれる。
懸賞なんてものはない。
あるモノは名誉だけ。
国民のための娯楽だ。
だが、国中の猛者が集まるものだ。
その中でコイツは勝ち抜き、常に優勝した。
『娯楽にならん』と呆れた現王陛下が、コイツをチャンピオンにして、コイツを倒せた奴を今度のチャンピオンにすると、言った程だ。
ちなみに、コイツはまだチャンピオンをやっている。
まぁ。そのせいもあって、時期王と期待されていたのさ。
だが、コイツは兄を立てた。
俺は『兄思いのやつだ』と思ったさ、でもな。
『王など面倒だ。だから私は愛に生きる!!』
こう、真面目な顔でのたまいやがった。
調べたら、奥様とつき合っている事が解ったんだ。
そして、あの時からコイツの性格は変わった。
とても悪い方向に……。
そのせいで、【変人公爵】と有名なほどにな。
あぁ。そのバルコニーで足滑らせて、落ちて死ねばなぁ……。
いや、そうなって困るのは俺だな。
給料がもらえないと、生活できねぇもんな。
「……旦那様。あまり興奮しないいだだけますか。気持ちが悪い上に、虫唾が走ります」
あまりにあいつが気持ち悪くて、本音が出てしまった。
一応、雇われている身だ。
言い直してやろう。
「失礼。いっそ死んでしまってはいかがです」
「っちょ! お前それ、『失礼』って言葉の意味ないからね?!」
勢いよく振り返った、ゴキブリ並の生存率を誇る変人。
いや、変態か。
幼児趣味の変態だったな。
「あのぉ、ノエル君。ゴミを見るような表情と、言ってる言葉と声がとっても鋭くて、私の心を攻撃してくるような気がするのだけど……」
「気のせいでございましょう。ですがまぁ。確かに人間の屑だとは思っていますが、そのようなこと、思っておりませんよ?」
恐る恐る振り返ったかと思えば……。
まったく。なぜコイツはこう、愚かなのだろうな。
「いや、笑顔で言われてもね。思いっきり思ってるよね? 今思いっきり言ったからね!」
「気のせいでございましょう」
「いや……だから――」
「あぁ、とうとう頭の中がわいてしまったのですね。今すぐ、原因の脳を取り出して、踏み潰して差し上げましょう」
俺は言いながら背広の内側にしまっている、小さなナイフを一本取り出した。
そうだ。
いっそ死んでしまえ。
その方が坊ちゃんと、お嬢様のためになる。
俺はこの屑のようにならないよう、二人の教育に力を入れたが、コイツの性格は空気感染するようだ。
嘆かわしい……。
こんなに近くにいるのに、それを止められないなど!
嘆くしかない……。
「え?! いや、大丈夫。大丈夫だからね?!」
「旦那様、私は坊ちゃんとお嬢様のためにと、提案したのですよ」
「? ロイドと、ニコのため……?」
「えぇ。ですから、死んでくださいな」
「っちょ、いきなり凶器投げるなよ!!」
剣ではじかれた。
当たって刺さって死ねばよかったのに。
「ッチ……」
またナイフを出さなないといけなくなっただろう。
「えぇ?! 舌打ちぃ?! 何、刺されってか?!」
「もちろんでございます」
俺は当然とばかりに笑顔で言いながら、再びナイフを取り出して接近。
目標物に向け、ナイフを横に振る。
が、ナイフで狙った世界の屑に、剣で受け止められた。
「そんな爽やかな笑顔で言われても!!」
「世のため人のためなのです。大人しく死んでくださいませ」
「嫌だよ!! なんだよ、なんでお前怒ってんだよ!!」
俺はその言葉後ろに軽く飛んで距離を取り、ナイフをしまった。
「お解りになられませんか?」
「あぁ、解らん!」
「この世界のゴミが……」
「ん? 何か言ったか?」
俺が呟いたの、見てたんだな。
「いいえ、ただ。旦那様はオツムが弱いのだなと……」
「おい。それはこの国を陰ながら支えている人間に言う言葉か?」
「では、意識不明の息子と、それに伴う家族の危険を放置し、誰にも詳しい事を告げずにいなくなる愚か者はどこの誰でしょうね?」
本当、誰でしょうね。
まったく。
「………………」
「ただでさえ、あなたをよく思っていない貴族に、坊ちゃんとお嬢様にはストーカーがいると言うのに……ねぇ?」
「……………………」
なんとか言えよ。
世界のゴミ。
「おや、旦那様。ずいぶん静かになられましたね」
「…………………………」
コイツ……貝のように口を閉ざしやがった。
「あぁ。お嬢さまに喜んで押し倒される変態でしたね。まさか、そこまでとは…………」
呆れた。
本当にコイツの執事やめて、軍人に戻るか。
「あれは違う!」
「と、言いますと?」
何が違うんだよ、ロリコンの変態め。
「私が気づいた時には攻撃を避けるしかなかった」
「……ふざけるのもいい加減にしてください」
まったく、『可愛くて剣を抜けなかった』の間違いだろう。
このロリコン変態変人公爵は……。
「いや、そんな蔑んだ目で見るなよ……。本当だ。剣に手をかけるより、避ける方が早かったんだ」
「ほぉ……。それは私の攻撃は剣を抜く暇があると…………?」
今度からは、手加減せずに本気で行くか。
「あぁ、そう――?! いや! そうじゃない!! 断じてそうではない!!」
「いいんですよ? そのままおっしゃって」
お前の言う戯言なんて気にしねぇからな。
「あ、あぁ。そうか、気にしないよな」
「えぇ、もちろんですとも。ですから、死ぬ覚悟は出来ておいでですよね?」
「?! え、えっと。き、機嫌悪いのか?」
コイツは本当に馬鹿だな。
救いようがない。
「えぇ。もちろん、誰かさんのおかげで」
ナイフを構えて言うと、ロリコン変態変人世界のゴミ屑公爵。
『ひぃ!!』と小さく悲鳴をあげて、バルコニーから足を滑らせ、落ちた。
死んだか?
一応どうなったか見ておいてやろう。
室内から、バルコニーに向け、歩みを進めた。
「あ、危なかった!!」
わざわざバルコニーに来て、下を覗くまでもなかったな。
生きてやがる。
俺は、五臓六腑の底から残念に思った。
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執事の目線でお送りしました。
そして、いつもより長いです。
以上。




