第四十五話 躱された
「うわぁ?! に、ニコ! あ、あぶな、危ないだろう!!」
お父様もどきは初撃を素早く躱して、あたしから距離をとった。
チッ、躱された。
あたしはその勢いを殺すことなく二擊目に繋げ、接近。
でも、すんでのところで体を右にずらして躱された。
ちょっとムカ……。
あたしは、腹立ち紛れに三擊、四擊と続けた。
けれど、すべてあとちょっとのところで躱された。
ちなみに、お父様もどきは帯刀している。
でも、剣に手をかけていない。
ってことはまだ余裕がある……。
だったら――。
あたしは今握っているナイフを、お父様もどきの頭に向けて放った。
そして、それと同時に他に隠し持ってたナイフを二本取り出し、一本づつ握って接近した。
案の定、投げたナイフはのけぞって躱された。
でも、あたしの本命は今握ってるナイフ。
お父様もどきが体を戻す前に、押し倒して馬乗りになった。
それから、首に右手に握ってるナイフを向ける。
左のナイフは、喉元にいつでも突き立てらるように向けた。
それと同時にドアが開いた。
「な?! お嬢様! 何をなさっておいでですか!!」
「え……? 執事さん?」
ドアの前に、執事さんがいた。
すっごく驚いた顔してる……。
って事は……。
あたしはお父様もどきの顔を見た。
「あぁ。ずっと私を避けてたニコが、自分から私の元に……」
歓喜と、恍惚とした表情を浮かべている。
きも――じゃない!
えっと……
「……本物?」
「何がだい? 愛しい娘よ!!」
ナイフがあるのに動こうとするお父様。
「うわぁぁあぁ!!」
あたしは驚いてナイフをしまい、お父様の上から飛び退いた。
そして素早く距離をとる。
「あぁ! ニコ、どこに行くんだい!! 寂しかっただろう、お父様に抱きついておいで! さぁ!!」
お父様がゴキブリ並の速さで、素早く起き上がった。
いや、お父様。
それは『抱きついておいで』じゃなくて、『抱きついてあげる』でしょ!!
って、執事さん。
ペンは分かるけど、そのシワ一つない紙はどこから?!
何に使う気?
うっすら『養子縁組』って見えてるんだけど!!
「旦那様。どうぞ」
ギャーー!
やっぱりそれ手渡すの?!
「おぉ。さすがノエル!」
受け取るなぁ!
そして感謝するなぁ!!
「いえ。主の意思をくむ事も私の仕事でございます」
その言葉超かっこいいけどあたしからしたら最低だよ!
どうしよう。
逃げ場がない!
は! そう言えば窓!!
あたしのすぐ後ろにある窓をみた。
うし、いける!!
そしてここは二階で、外はお庭。
あたしは素早く振り返り、その窓の鍵を開けて乗り越え、バルコニーに飛び出す。
で、バルコニーの柵を飛び越えた。
感じた浮遊感。
でも、それもつかの間で、あたしは華麗に着地。
そしてお庭の方ではなく、お屋敷に沿って素早く逃亡!
『捕まってたまるか!!』
あたしはその意思に突き動かされ、角を曲がって、お父様たちのいるところから見えない、一階の開いてた窓からお屋敷に入った。
そしたら、埃っぽい匂い。
「あれぇ? ニコちゃん。どうしたのぉ? 鬼ごっこ?」
貼り付けたような、作り物の笑顔を浮かべるリディさん。
「リディさん! どうしよう、お父様があの紙持って追ってくるの!!」
「ありゃま、それは大変だぁ~」
あたしの言葉に、全然大変って思ってないような口調のリディさん。
手には箒。
てことは、掃除中?
あたしはそこに飛び込んだ。
で、埃の匂い。
あたしは恐る恐る足元を見た。
リディさんが集めたであろう、散らばってる埃。
「ご、ごめんなさい! リディさん!!」
「えへへ、イインダヨ……」
リディさんは、途中からカタコトだった。
それもそのはず、リディさんはお仕事の邪魔をされると暫く凹むか、喋り方がおかしくなる人。
「本当にごめんなさい!!」
「アハハ。だいじょぶ、ダイジョブ。逃ゲルンショ」
「あ、はい! ごめんなさい!!」
あたしは様子のおかしいリディさんに急かされて、そこから出て行った。
そして向かったのは、屋根裏部屋。
そのまま隠れてたら直ぐにみつかる。
だから、奥の奥。
いっぱいドレスが入ってる箱に隠れて、深夜になるのを待った。
これによって無事。
『娘になって攻撃』を躱せてホッとしたせいか、すっごく眠い……。
昨日まで全然眠たくなかったのになぁ。
あたしは睡魔に勝てなさそうだったから、お部屋に帰ってベットに入った。
…………でも、あれほど襲ってきていた睡魔は、すっかりなりを潜めてしまったの。
そう。
眠れないの……。
眠りたいのに、眠れないの。
頑張って寝ようとしたけど、無理だった。
なので、あたしは諦めてお兄様のお部屋に行った。
お兄様が目を覚ましたとき。
誰か傍にいて欲しいと思うからね!




