第四十四話 偽物?
「お嬢様。私は少々失礼して、見回りなどを行ってきます。奥様と坊ちゃんのことを頼みますよ」
執事さんはあたしの心情をくんでくれたのか、それだけ言ってお部屋から出て行った。
あたしはそれを見送って、ベットに座ってお兄様の手を握った。
お熱があるはずなのに、ひんやりしてる。
変なの……。
だって元気な時のお兄様の手は、とっても暖かいんだもん。
あたしは、お兄様の手を両手で包んだ。
少しでも暖かくなるように。
そして、お母様が倒れて二日目。
お兄様が倒れて五日目の朝。
お父様が帰って来た。
あたしは今まで、お母様の様子をお部屋までみにいったり、全然お熱が下がらないお兄様のお世話を、眠らずにやってた。
ううん、眠れなかったんだ。
『二人に何かあったら』って考えたら不安で。
それと、『変人』名高いお父様が、今日はとっても静か……。
いつもはお屋敷に帰ってきたら、すっごくうるさ――じゃなかった。
騒がしいお父様がだよ?
明日は槍が降るのかな?
なんてことを考えるくらいね。
ふぅ…………。
いつもこのくらい静かならいいのに。
今日に限って静かなんて、どういうこと?
お父様がいつもみたいにうるさかったら、お母様とお兄様が目を覚ますかもしれないのに……。
そう言ってやりたいけど、二人のそばを離れたくない。
何より、お父様の相手がめんど――……。
……いろいろあるから。
あたしはお兄様のお部屋で、お父様が来るのを待ってる。
あぶない、危ない。
つい、本当のこと言っちゃうとこだった!
え?
もう言ってるようなもの?
まぁ、いいじゃん!
完全に行ってないんだし!
……一箇所言ってるけど、そこはムシね。
とか考えてたら、廊下から足音が聞こえた。
そして足音はお兄様のお部屋の前で止まった。
ドアを開けて入ってきたのはお父様。
「……おかえりなさい。お父様」
ちょっと迷ったけど、今は使用人をやってないから、素直に『お父様』って呼んだ。
あぁ、うるさくなるだろうな……きっと…………。
「ただいま。ニコ」
あれ?
なんかやっぱり、とっても静かだよ?
なんで?
もしかして明日は槍じゃなくて、お月様が降ってくるの?
いや、もしかしたら、お日様が落ちてくるんじゃ……!!
そうなったらどうしよう!
逃げ場がないよ!!
「ロイドはまだ目を覚まさないのかい?」
「……あ。うん。今日で五日目」
「そうだったね」
「ねぇ、お父様。具合でも悪いの?」
「ん? お父様はニコが見ている通り元気だよ?」
うっそだーぁ!
絶対どこか悪いんだよ!!
じゃないと、お父様がこんなに大人しいなんて考えられないもん!!
あ、もしかして。
この五日間の間に、脳みそ取り替えられてたりして……。
ありえる。
きっとそれかもしれない。
いや、絶対そうだ!!
てことは、このお父様は偽物……!
あたしはそう思って、常に持ち歩いている、切れ味の良いナイフを見えないようにこっそり持つ。
そして、不審に思われない程度に笑顔を浮かべて、お父様に聞いた。
「お父様。私との合言葉は?」
もちろんそんな物はない。
でも、これの答えで、このお父様が本物か偽物かがわかる。
「何を言っているんだいニコ?」
「いいから答えて、お父様」
「う~ん。そんな言葉あったかなぁ?」
本格的に首をかしげたお父様。
カマ、かけてみようかな。
「忘れちゃったの? あたしとお父様の合言葉……。そうだよね。ずいぶん前だもんね」
「え?! いや、そんな! ごめん、ニコ。お父様の記憶にないんだよ……」
バツが悪そうに言うお父様。
どうしよう。
まだ完璧に本物って言う確信が持てない。
いや。
このお父様の仕草から言葉使い、表情全てが疑わしく感じる……。
こうなったら!
あたしは握っているナイフに力を込め、お父様との距離を一瞬でつめて、斬りかかった。
皆さんお気づきのように、ニコラ基本、おバカです。
物語を進めるうちに、いつしかそうなってしまいました……。orz




