第四十三話 心に届かない
でもお父様みたいにかっ飛んでたら……ねぇ…………?
人間として流石にアウト。
――って、そんな事よりお母様だよ!
心配……。
様子、見に行こうかな……。
でも、さっきみたいにあたしの存在を無視されたら?
存在していないように思われてたら?
…………ヤダよ。
そんなの、絶対。
どうしよう……。
お母様が心配だよ。
でも、怖くて足が動かないの。
だって、『目を覚まさないお兄様を見て、呆然としてたお母様だったら』って考えちゃうんだ。
それに、あたしが傍に居ても、何もしてあげられないんだから。
傍に居ても無意味――。
ううん。違う。
これはあたしの言い訳。
本当は、いつも明るいお母様のそんな姿を見たくないんだ。
だって、あたしなんて『いらない』って言われちゃいそうだもん。
でも、お母様がそんな事、言わないってわかってる。
ただ、あたしはそういう雰囲気になるのが嫌なんだ。
けど、それはとてもずるくて、ひどいこと。
わかってるの。
あたしは優しいお母様から逃げようとしてる。
いつもと少しだけ様子が違うだけで、怖がってるんだ。
最低。
――わかってる。でも、怖いの。
様子が違うお母様を見るのが。
本当は、お母様にそんな顔してほしくない。
でも、いくら呼びかけてもお母様の心には届いてくれない。
そんな気がするんだ……。
だから。
ごめんなさい、お母様。
あたし、行けない……。
本当にごめんなさい。
あたしは玄関から、お兄様のお部屋に走って向かった。
足音を立てないようにすることすら忘れて。
ただ、下をむいて走った。
そして、お兄様のお部屋についた。
あたしはそのころには息切れして、呼吸が乱れてた。
だから静かに深呼吸して、お兄様のお部屋のドアを開ける。
お兄様は――眠ってる。
耳を澄ませば、規則的な呼吸の音が聞こえた。
あたしはお兄様の眠るベットに近づいて、お兄様の顔を覗き込んだ。
「……おにいさま…………」
呼びかけても返事はない。
そして目についた額のハンカチ。
そういえば水、ぬるかったっけ。
昨日念のためにって、用意してたやつだもんね。
ぬるくて当たり前か。
だからあたしはその桶を持って、お庭の井戸に向かった。
そして桶に入ってる水をお庭の芝生にかけて、井戸の水を入れてお兄様のお部屋に戻った。
で、お兄様の額の上にあるハンカチを桶に入れて、軽く絞ってお兄様の額にのせる。
「ねぇ、お兄様。もう三日目だよ。はやく起きてよ……」
お兄様に話しかけても答えは返ってこない。
そんなことわかってる。
でも、この広くて静かなお部屋の中だと、何かいってないと自分を見失っちゃいそう。
だから早く目を覚まして、お兄様。
あたしじゃ、お母様を元気にしてあげられないから……。
「原因はお兄様なんだよ? お兄様が寝込んだりするから……って、何言ってるんだろ。あたし」
自分の言葉にちょこっとだけ笑った。
そして、しばらくして執事さんが来た。
「執事さん。お母様は――」
「ご安心ください。よく眠っておられます」
「そう、ですか……」
「お嬢様? いかがなさられましたか?」
「あ、なんでもない、よ?」
危ない……つい『です』って言いそうになったよ!
やばい。
執事さんめっちゃこっち見てる!!
なんかめっちゃ言いたそうだよ!!
「……………………然様でございますか」
ものすごい間があった。
あの間は何?
何か言いたいなら言ってくれていいのに…………。
いや、やっぱりダメ!
何も言わないで!!
今、執事さんに何か言われたら絶対へこむから……。




