第三十六話 数
あのね、お母様。
それはお母様が悪いと思うよ。
だって、お父様の不安をあおったんだから……。
ていうか。
犯人はお母様だったとか、どんな伏兵よ……。
「さてと。ニコこれ、並べててくれる?」
料理が盛られたお皿を指さして言ったお母様。
「うん。いいよ」
「ありがとう。じゃぁ、お願いね」
ん?
お母様ご飯食べないの?
「食べないの?」
「ちゃんと食べるわ。でもその前にロイドを起こしてくるわ」
「ん、わかった」
あたしの返事を確認しながら、割烹着を脱ぐお母様。
そしたら、何か思いだしたのか、小さく「あ!」っていった。
「ニコはお腹がすいてるでしょう? だから先に食べてて?」
「ううん、待ってる。すぐに来るんでしょ?」
「そうね。ロイドを起こしてくるだけだもの、すぐ戻ってくるわ」
「ん。それならあたし待ってる。三人で食べようよ」
「……ありがとう、すぐに行って戻ってくるわ!!」
嬉しそうに手を軽く振って、キッチンを出て行くお母様。
「いってらしゃーい」
あたしはそういって、お母様の後ろ姿を少しの間だけ見送った。
そして、料理とお皿、フォークとスプーンを並べて――。
暇になったの……。
だから、洗い物をしようと思って、洗い物が置いてあるところに行ってみた。
超綺麗…………。
……よし。
スプーンとかの用意!
あたしは振り返った。
……用意してた。
何もすることないじゃん!
あ、そうだ!
お母様が来るまで数を数えてみよ!!
どこまで数えたら帰ってくるかな?
「よし! いーち……にーい……」
あたしはゆっくりと数を数えだした。
で。百、数え終わった。
ついでに今の数。
「ひゃくにじゅーうはーちー……」
おかしいな。
あたし、ゆっくり数えてるよね……?
なのになんでお母様帰ってこないの?
二百まで数えちゃうよ?
もしかして、お兄様に何かあった?
あたしはそこまで考えて、百三十で数を数えるのをやめた。
「……今日見た夢みたいに、オカマさんになってたりして…………」
どうしよう……。
もしあれが正夢だったら…………。
「ぜぇったいイヤ!!」
あたしはキッチンを飛び出して、お兄様のお部屋に向かった。
「お母様!」
あたしはお兄様のお部屋のドアを勢いよく開けて、お部屋の中に飛び込んだ。
そしたらお母様がベットの脇で、口に両手を当てて、驚いた顔でベットの上を見てた。
「お母様、どうしたの?!」
あたしはお母様の傍にいった。
でも気づいてないのか、そのまま固まってる。
あたしは不安になってお母様の手を握った。
「お母様! どうしたの、ねぇ!!」
「?! に、こ……?」
やっと反応してくれたお母様。
でも見るからに様子がおかしい。
本当にどうしちゃったの?
「……ロイドの顔色、悪い、の…………」
震える声で小さくつぶやいたお母様。
あたしはお兄様の傍に行って、おでこに手を当てた。
「あつい……。お母様、お兄様お熱があるよ!」
「?! そんな……昨日、熱は下がった……はずよ? ……なのに、なんで…………」
酷くショックを受けてるみたいなお母様。
俯いてて、口元に当てていた手を外して、体の横できつく拳を握ってた。
「……お母様。あたし、執事さんに――」
あたしはそこまで言って、俯いたままのお母様を見てみた。
そしたらお母様。
「どうしょう、私のせいだ……。私がちゃんと見てなかったから…………!!」
って、小さくぶつぶつ言ってた。
この状態のお母様を一人残すのは心配。
というより、不安。
だから執事さんが、お屋敷に来るのを待つことにして、サイトテーブルに置いてある、水が張られた桶。
あたしはポケットからハンカチを取り出した。
それから、桶の水につけて、絞ってお兄様のおでこに乗せる。
置いてあった桶の水は、当たり前だけど冷たくなかった。




