二十九話 テーブルとソファーの間
「そうなんだ」
「えぇ、じゃぁ母さん。ロイドに声かけてくるわね」
「あ。あたし行く! だからお母様はゆっくりしてて!!」
あたしは立ち上がろうとしてた、お母様より速く立ち上がった。
だってご飯作っ手疲れてると思うから。
これぐらいあたしがやらないと!
「でも、ニコは今日もお仕事をするんでしょう? だったらゆっくりして――」
「いいの! あたしが行く!!」
「そう? わかったわ。じゃぁ、待っているわね」
「うん。行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
あたしはお母様に笑って送り出されて、お兄様の部屋の前。
今度はノックするのを忘れない。
――コンコン。
耳をすませて、返事を待つ。
でも、返事が聞こえない。
あぁ。まだ寝てるのかな?
「お兄様。開けるよ?」
一応声をかけて、ドアを開いて中に入る。
変なことに、カーテンが全部空いてて、明るかった。
いつもはお兄様閉め忘れたりなんてないのに……。
「お兄様?」
あたしはドアノブを握ったまま、ベットに目を向けた。
遠目にだけど、ベットにいないみたい。
だって、ぺったんこなんだもん。
じゃあお兄様はどこ?
すれ違った?
まぁ。お屋敷は広いし、そうかも……。
でも、ベットから落ちてたりしないよね?
あたしはドアノブを離して、ベットに近づく。
で。ドアから見えなかった所を見た。
うん、いない。
どこ行っちゃったのかな?
やっぱりすれ違った?
ま、一回戻ってみよっと!
回れ右して、ドアのある方を向いた。
なんとなく大きなテーブルと、ソファーに目が行った。
もちろんお兄様は座ってない。
だよね……。
ん?
なんでそれの隣にある、お兄様の机の上が散らかってるの?
まさか、落ちてるものないよね?
インク落ちてないよね?
こぼれてないよね?
あたしは確認するために机の下を見た。
テーブルのとこに、人の手が見えた。
「?!」
あたしは飛び上がるほど驚いたけど、慎重に近づく。
テーブルとソファーの間。
お兄様がぐったりして、倒れてた。
「お兄様? どうしたの?」
ゆすって、声をかけるけど、返事をしてくれない。
なんで……?
お兄様、どうしちゃったの?
なんでそんなに顔色悪いの?
まさか……!!
「お兄様! 起きてよ、おにいさまぁ!!」
あたしは一生懸命ゆすった。
でも、お兄様に反応はない。
「っ……ごめんなさいお兄様!」
――パシン。
あたしは力を込めて、お兄様の頬を叩いた。
お兄様の頬は赤くなったけど、お兄様は何も言わない。
最悪の事とがあたしの頭をよぎる。
「まさか、死んじゃ……っ……」
恐怖で、手が震え始めた。
「ヤダ! 起きて……起きてよお兄様ぁ!!」
一生懸命揺らした。
でも、お兄様の体は力なく、揺れるだけ。
「だれか……よばなくちゃ…………」
あたしは震える足で何とか立って、廊下に出た。
でも、それ以上は進めなかった。
怖かったの。
あんな状態のお兄様を置いていくのが。
だからあたしは、声を大きく張り上げた。
「っ……だれか、誰か来て! お父様! お母様ぁ!!」
でも、あたしの声は廊下に響くだけ。
誰も来てくれない。
「そんな、どうしよう……どうしたらいいの? 誰か……だれかぁ!!」
あたしは足の力が抜けて、廊下に座りこんだ、
不安で押しつぶされそうで、怖い……。
誰か気づいて……。
助けて、お兄様を助けてよ!!
つい、こらえてた涙が一滴。
床に落ちた。
「ニコ! どうしたんだい!!」
パジャマ姿のお父様が走ってきた。
いつの間にか俯いてたあたしは、顔を上げてお父様にいった。
「お父様、大変なの! お兄様が倒れてて、返事してくれないの……!!」
「?!」
「ゆすっても、叩いてを気づいてくれないの……!」
「……そうか。わかった、大丈夫。お父様がいるよ。それでロイドはどこだい?」
泣いてるあたしを抱き上げて、優しくゆっくり、言い聞かせるようにお父様は言った。
お父様の存在にほっとして、あたしは片手で目をこすりながら、お兄様が倒れてる所を指さす。
「あそこ……」
「そうか。ノエルにお医者様を呼んでくるよう、言ってきてくれるかい?」
お父様はあたしを床に下ろして言った。
あたしはそれに頷いて、廊下を駆け出した。




