第二十八話 割烹着
「うーん、困ったな。いつまでたってもニコちゃんがトマトを食べきらないから、荒療治に出てみたんだけどなぁ」
首を傾げるギルデさん。
誰からその方法を提案されたの!!
「やっぱり無理そう?」
あたしの頭を撫でながら、ギルデさんが言った。
でもさ、普通にわかることだよね?
食べきれないってさ……。
でもまぁ。あたしは素直に頷いた。
「わかったよ。でも、一回口に入ったんだからちゃんと食べるよね!」
超笑顔なんですけど……。
鬼ですか?
鬼なんですね。
わかります……。
よし。
ギルデさんが居ないとこで吐き出そう。
そうと決まれば善は急げ。
あたしは立ち上がる。
「ニコちゃん。ちゃんと食べてから、お部屋に帰ろうね?」
……拒否権ないんだね…………。
で。それからあたしは頑張ってトマトを飲み込んで、部屋に帰って寝た!
そう、ふて寝だよ。
悪い?
悪くないよね?
むしろあたしすっごく頑張った良い子だよね?
ギルデさんの期待に応えたんだから。
で、今は朝。
あたしはご飯を食べるために、キッチンに向かってる。
キッチンまで後少し。
近づいてくと、おいしそうな匂いがする。
その匂いの中に、トマトのにおいは無い。
あたしは心を撫で下ろす。
でも、今の時間だと執事さんも、ギルデさん、マーティさん、リディさんは来てない。
ということは。
お母様?
あたしはキッチンに駆け込んだ。
そこには、長くてふわふわの髪を一つに結んだ、白い割烹着姿のお母様。
「おはよう。お母様」
「ニコ。おはよう、ご飯もうすぐだから」
あたしに背中を向けていたお母様が、笑顔で振り向いて言った。
「うん、わかった。あたしも何か手伝おっか?」
「大丈夫よ。座ってて」
「わかった」
あたしがそういうと、再び鍋に目をやるお母様。
その姿を、やることのないあたしはぼんやり見つめた。
そしたらなんでか、昨夜のことを思い出した。
まさかギルデさんにトマト食べさせられるなんて、思わなかったよ……。
大体こんなことするのってお兄様ぐらいだもん。
油断したんだよねぇ……。
でも次はない!
あぁ……。
上手く躱せても、次の日のご飯がトマトだけとかヤダ。
ギルデさんの事だもん。
食べなかったらそれを倍の量で、お昼に出してくるんだろうなぁ。
それでも食べなかったら晩ご飯……。
ヤダ!
絶対ヤダ!!
もうトマトなんて無くなっちゃえ!
「ニコ、どうしたの?」
「?! あ、何でもない、よ?」
考え込んでたあたしは、いきなりお母様に話かけられて、声のした方を向いた。
声がしたのは、テーブルを挟んだ正面。
いつの間にか料理がテーブルにならんでた。
そして、その先。
こっちもいつの間にか、割烹着を脱いだお母様が座ってた。
「悩みごとかしら?」
「え。あ、あぁ。うん、まぁそんなとこ」
「ふふ。母さん相談にのるわよ?」
なんだか嬉しそうなお母様。
ニコニコしてる。
良い事でもあったのかな?
でも、『トマトってどうやったら食べなくて済むかな?』
なんて、聞けないよ……。
「あ~うん、だいじょぶ。大したことじゃないから!」
「そう? わかったわ。あぁそうだった。ロイドを起こしてこなきゃ!」
笑って言ったあたしに、お母様はなんだか寂しそうな顔をした。
で、思い出したと言わんばかりに手をたたいた。
「お兄様を起こすの?」
「えぇ。育ち盛りですもの、きっとお腹を空かせているわ」
「そうなの?」
「そうよ。昨日もニコが居なくなってしばらくして、『お腹すいたー』って言って来たんですもの」
『お腹すいたー』の部分を、お兄様に似せたような声で言った。
ちょっとだけ似てて、ちょっと笑っちゃった……。




