第二十話 帰宅
俯いたままだったあたしは、玄関を入ってすぐ、黒くて温かい何かに包まれた。
驚きすぎて声も出せないでいると、ホッとしたようなため息が聞こえた。
「あぁ。無事でよかった……」
安堵したような男の人の声。
「……ギルデさん。どうしたですか……?」
あたしを抱きしめているギルデさんにいった。
でも、抱きしめる力が少しだけ強くなっただけで、ギルデさんは答えない。
どうしたのかな?
具合でも悪いの?
「ギルデさん?」
だんだん心配になったあたしは、ギルデさんを呼ぶ。
そしたら、「はい」と短い返事が聞こえた。
「どうしたですか? どこか痛いですか?」
「……お嬢様。町で怖い思いをされませんでしたか?」
ギルデさんは、抱きしめてたあたしを開放して、あたしの肩に手を乗せて、顔を上げた。
真剣な表情だった。
それと呼び方が、『ニコちゃん』から、『お嬢様』に変わってる。
ということは、今あたしは『お嬢様』なんだよね。
あたしは言葉づかいを改めた。
「え? あぁ、前に言ってた変な人と、カエル?」
「カエル?」
「うん」
あれ? ギルデさん不思議そうな顔してる。
違ったっけ?
前にギルデさん。
『変な人と、ヘンタイに気をつけろ』って、言ってたような気がするんだよね。
あたしの気のせいかな?
「おかえりなさいませ。お嬢様」
様子がおかしいギルデさんの後ろから、微笑みを浮かべた執事さんがやってきた。
「あ、執事さん。ただいま!」
あたしは執事さんにつられて笑顔になる。
でも。
執事さんが現れてから、ギルデさんの顔が一瞬で引き締まった。
「お嬢様。私は確かに、『外出されてはいがかですか』と申し上げました」
「うん、そうだよ? どうかしたの?」
「……変な人を引き連れて帰ってくるのは……やめてください」
執事さんは、ため息交じりに片手で顔を覆った。
……どういうこと?
「そうですよ、お嬢様。私どもは『常に周りに警戒を』と、言っているではありませんか」
なぜか執事さんと、ギルデさん。
二人そろってあきれ顔。
「ごめんなさい……?」
なんとなく謝ってみた。
そしたら二人は、そろってため息をつく。
「お嬢様――」
「ギルデ、もういいでしょう。外の掃除を行いますよ」
「はい」
「では、お嬢様。私どもはこれで」
「え、うん……」
えっと……。
二人はその剣を何に使うの?
いつもは帯刀なんてしてないよね……?
「あぁ。それと、お嬢様はお部屋から出られませんよう」
扉を開けようとして、執事さんが振り向いて言った。
どういう意味か解らなくて、執事さんを見る。
「え? どぅ…………ワカリマシタ……」
反論しようとしたら、二人の執事から、鋭い視線を受けた。
あたしは言おうとしてた言葉を途中でやめて、了承する。
だって二人の視線が怖かったんだもん……。
「よろしい。では、お部屋に向かわれてください」
「はい……」
執事さんにそういわれて、あたしは素直に部屋に帰って、ベッドに倒れる。
クッションにうめていた顔を、横にずらす。
「執事さんとギルデさん。どうしたのかな……」
帰宅してすぐ、様子のおかしかった二人。
以前もこんなことがあったけ。
……そういえば。
その後から外出する時、大人があれこれ注意するように言い出した様な気が……。
ま、いいや。
あたしはむくりと起きて、ベットから降りて、買ってきた絵本を棚に並べる。
分厚い本の中、薄っぺらくて大きな絵本がすっごく目立つ。
お父様たちが見たら、なんか喜びそう……。
前にいわれてたの。
『ニコは絵本は読まないのかい?』って。
不思議そうな顔でね。
まぁ、確かに。
分厚い本ばっかり読んでるし、子供らしくないけどさ……。
あれには訳があるんだよ。
『お兄様をぎゃふんと言わせる』っていうね……。
でもね。
あたし、解ったの。
それは絶対無理だって……。
悔しいけど、お兄様に隙なんてないもん……。
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