第十七話 六つの約束
「……お嬢様。このままでは日が暮れて、旦那様と奥様が帰って来られますよ?」
「あ! そうだった!!」
いけない。
つい、自分の世界に入り込んじゃってたよ……。
そう思いながら、あたしはまくってた袖を下す。
「執事さん、絶対取入れはさせてね!」
「はい。それとお嬢様。前に私が言った、六つのことをお忘れなきよう」
「うん! いってきます!!」
そういってあたしは部屋に向かって駆け出す。
部屋に帰るまでの間に、執事さんとの六つの約束を思い出す。
一つ。知らない人や危なそうな人について行かない。
二つ。暗くなる前に帰ってくる。
三つ。領民の誰かにあったら挨拶をする。
四つ。周囲に警戒を怠らない。
五つ。危険な目に遭いそうになったり、遭った場合、すぐに助けを呼ぶ。
六つ。護身用のナイフを必ず携帯する。
う~ん。
一から五までの中で一番物騒なのが、六番目だよね。
でももし、あたしに危害を加えようとする人間が居たら、絶対必要なんだよね。
て、いうか。
そのために護身術を教わったんだけどね……。
あーあ……。
今思ったけどあたし。
意識してないとポーカーフェイスできてないなぁ。
執事さんがほめてくれたから完璧、って思ってたのに……。
全然ダメ。
もっと練習しなきゃ!
じゃないと不自然すぎるしね……。
日常的にポーカーフェイスにしてないと。
よし、今日はこれからポーカーフェイスで過ごすぞ!!
そして、あたしはまず、表情を不自然じゃない程度に引き締める。
……無理。
だめだなぁ。
知らない人がいたらできるのになぁ……。
そもそも、このお屋敷を訪ねてくる人なんて、顔見知りだけなんだけどね。
まず、レナンの領民の人たちでしょ。
それから、ルファネス様とスティアナ様。
これ以外に来る人なんていない。
当たり前かぁ……。
だってあたしが拾われた年。
セメロ公爵家に、他の貴族の人から舞踏会の招待状が来たの。
お父様は『めんどくさい』って一言。
お母様は笑ってて、お兄様は我関せず。
執事さんは大きなため息をついてた。
あたしはその手紙がなんなのか解らなかったの。
だからお父様に、
『それなぁに?』
って聞いた。
そしたら、お父様。
『ニコと私たちの大切な時間を寄越せと言っている手紙だよ』
すっごく不服そうに言ったの。
だからあたし。
『じゃぁ。お断りしちゃえば?』
って言ったの。
普通なら、ここでやんわり怒るなら解る。
でもね。
この変人は、『そうだね!』って笑っていったの。
で、すぐに『行かない』ってだけ書いて、執事さんに持っていかせた。
今思えば、これが『変人公爵』につながったんじゃないのかな?
だってあたしがそれを言う前までは、ちゃんと参加してたもん。
で、それからお父様。
次から次へと来る招待状をすべて断った。
もしくはドタキャンした。
理由。
『家族との大切な時間をこんなくだらない事に割くわけがないだろう!』
って一言。
一応、公爵様なんだよ?
エドレイ貴族の中でも、一番領地が大きいんだよ?
それにね。
その招待状の山の中。
王家からの招待状があった。
お父様は差出人だけ見て、読まずに返事を書いた。
『ごめんね。家から出たくないんだ』
ってね。
でも手紙の内容は、この王国で一番大切な、王位継承権を持つ人のお披露目パーティへの、招待状だった。
もちろんこのパーティには、国中の貴族が参加する。
本来なら空席なんかないはずのパーティ。
なのに、元王族が参加していない。
その場にいる人すべてが、不思議がった。
それもそのはず。
何故なら、お父様が手紙を書いたその日が、お披露目パーティだったから。
でも、会場の人は元王族のいない理由が解らなかった。
そしてその会場に、お父様の手紙が届く。
手紙は王様に渡された。
王様は、手紙に書かれた短い文を見て激怒。
それから王様は、豪華なものをすべて投げ捨て。
剣だけを下げて馬に乗り、一人でお屋敷にやってきた。
まぁ、少し遅れて護衛の人が来たんだけど……。
王様は、お父様と目元がそっくりだった。
で、王様が怒鳴り込んできたとき、あたしはお父様とお母様、お兄様、執事さんとリビングにいた。
そしてソファーに座るお父様の膝に、座っていた。
いや。座らされていた。
ちなみに王様がリビングに入ってきた時。
お父様は私にデレデレの顔。
言ってた言葉。
『ニコたんは、かぁいいでしゅね~』
少し顔を傾けて、あたしを見ていたお父様。
その顔面に王様のアッパーが入った。
近くにいた執事さん。
のけぞるお父様の膝にいるあたしを、すかさず抱き上げる。
そして、そのままお父様だけを残して、あたしたちはリビングから退場。
『この馬鹿が!!』
扉を閉めたころ。
お父様の怒鳴り声。
それに続く、『あ、兄貴?!』の声。
つまり、初めの怒鳴り声は王様の声だったというわけ。
似てるのは目元だけじゃなくて、声もだったの。
あたし、びっくりしちゃった!
それから怒鳴りあう声は一時間近く続いたの。
で、王様が出てきたのはその二時間あと。
執事さんに『この馬鹿をちゃんとみはってろ』って、言って帰ってった。
お父様が落ち込んでたのは言うまでもない。
まぁ、それから王家からの手紙の封筒。
『強制』の二文字が宛名の代わりに、太い赤ペンでデカデカと書かれるようになった。
お父様の話だと、王様の字らしい。




