第十六話 執事さん
さて、お洗濯お洗濯!
なんで今日にかぎってこんなに多いの……!
これじゃ、あたし遊びに行けないじゃん!!
もぉ……。
でも、お仕事だしね……。
うん。
あたし頑張る……。
それたら、あたしは黙って黙々と洗濯を始めた。
と、言うより歌を歌う気分じゃなかった。
あたしの気分は底辺。
いや、それを突き破ってる……。
なんで昨日は少なかったのに、今日はこんなに多いの?
もう嫌んなっちゃう。
早くこれ終わらせないと、お父様とお母様が帰ってきちゃう……。
お外に出て行けなくなっちゃうよぉ。
あたしの目がうるんできた。
いけない。
このままじゃ、泣いちゃう……!
あたしは腕まくりした袖に、目を軽く押し付けて涙を吸収させる。
うん。
これで良し!
誰にも気づかれたりなんてしないもん!!
「ニコラ」
突然後ろから、執事さんに話しかけられた。
あたしは慌てて立って、振り向く。
執事さんはいつものように、穏やかな微笑みを浮かべてた。
「執事さん、どうしたですか?」
あぁ驚いた。
心臓バクバクいってるよ!
「洗濯は私が」
「?! でも、これはニコラのお仕事です」
あたしは驚いたけど、執事さんにはっきり言った。
そしたら執事さん。
「遊びに行きたいでしょう?」
って。言うの……。
図星だけど、否定しなきゃ!
「ぅ……。そんなこと――」
「嘘はいけませんよ」
笑顔で話をぶった切られて、ピシャリといわれた。
うぅ……。
返す言葉もないよ……。
そして、あたしは俯く。
「お嬢様。旦那様も奥様もいらっしゃられないのです。少しは羽を伸ばしてきたらどうですか?」
突然『お嬢様』と呼んだ執事さん。
なるほど。
拒否権はなしですか……。
でもね。
あたしはそんな簡単に引き下がったりしないよ?
下を向いてたあたし。
見えるもの。
桶と洗濯物。
よし、これだ。
あたしは顔を上げて、執事さんを見る。
「お洗濯終わってないです!」
「私がやっておきます」
あたしが言い終わるのと同時に素早い返答。
……うん。困った……。
どうしよう。
執事さんを納得させられる理由が見つからないよ……。
でも、あたしはあきらめない。
だって、お仕事を執事さんにしてもらったのがバレたら、お父様とお母様から、娘になって攻撃を受けるからね……。
もし、またあの攻撃が来たらあたし、確実にサインさせられちゃうよ?
絶対にね!
それにあたし、これ以上。お父様たちを『変人』って、他人に馬鹿にされたくないもん!
「……でも」
「大丈夫です。旦那様たちには言いません」
いや。そうじゃなくてね……。
問題はお兄様だよ。
執事さん……。
「お兄様が……」
「ご安心を。私の息子と娘。それからルファネス様、スティアナ様が坊ちゃんを抑えてて下さいます」
ですからご安心ください、と。執事さんは笑った。
執事さん。
用意周到すぎでしょ……。
あたしが呆気にとられていると、執事さんは言った。
「洗濯物は取入れまでしておきます。ですから、気分転換ぐらいしてきてください」
とっても安心する、優しい声だった。
「……解った。でも、取り入れぐらいさせて」
「畏まりました」
しばらくして言葉を返したあたしに、執事さんは快くうなずいた。
あたし、お父様たちと同じくらい、執事さんが好きだな……。
怒らせるとすっごく怖いけど。
……って。
執事さんを怒らせるのは至難の業だと思うの。
だって、あたしが絶対怒られることしても、やんわりと怒るだけなんだもん。
でも、執事さん。
お父様に関しては、寛容な心が急に狭くなっちゃうんだよね……。
なんでかな?




