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一晩中降り続いた雨は、翌日の朝にはすっかり上がっていた。
濡れた草木や道が、朝日を受けてきらきらと輝いている。
グレイスは大きな旅行鞄を手に持ち、グランヴィル公爵家の門の前に立っていた。
今のグレイスには、公爵家の外の世界がとても輝いているように思えた。まるで、グレイスのこれからの人生を祝福してくれているようだ。
「奥様。これまでありがとうございました」
グレイスが振り返ると、執事長と侍女長、それにこれまでグレイスと特に関わってきた数名の使用人たちが立っていた。
「見送りなんていいのに」
グレイスは口では遠慮しながらも、その表情は明るく嬉しそうだ。
彼らはそれ以上何も言わず、ただ感謝を伝えるように深く、深くお辞儀したのだった。
グレイスは護衛が開いた門をくぐった。その先には、あらかじめ手配しておいた辻馬車が待っていた。
どこからか鳥の囀りが聞こえてくる。この一歩目から、グレイスの自由が始まるのだ。
「それでは、皆さん」
グレイスは最後に一度だけ振り返る。
「この十年間、お世話になりました」
ニコッと心からの笑顔を浮かべるグレイスに、執事長たちは目を見開いて見つめていた。
思えば、グレイスがこうして心から笑うのは、いつ以来だろう?
公爵家に嫁いでからは、あまりにも慣れないことばかりで大変で、笑う余裕なんてなかったのかもしれない。
その笑顔を見ていたのは、使用人たちだけではなかった。
三階の主寝室の窓から、エドウィンもひっそりとグレイスを見送っていた。
彼女の笑顔を見た瞬間、動きを止める。この公爵家に嫁いでから失われていた輝きが、今、彼女に戻っている。その姿を見て、なぜだか複雑な気持ちになっていた。
グレイスはこれからどうするのだろうか。
エドウィンは初めてグレイスの今後について気になったが、すぐに頭を軽く振り、その考えを打ち消す。
(またどこかで、顔を合わせることもあるだろう)
同じ王国の貴族同士なのだ。エドウィンがグレイスを見かける機会はいくらでもある。
エドウィンはそっと窓に背を向け、ユリスの待つ薄暗い部屋の奥へと姿を消したのだった。
グレイスは青々とした空を見上げていた。
「これから、私の第二の人生が始まるのね」
これからどこへ行こう。
自由になったグレイスが、真っ先に思い浮かべたのは、隣国オシャール帝国の首都だった。
「……そうね。まずは花の都、フロレンヴィアへ行ってみようかしら」
グレイス・ベルフォードは背筋を伸ばし、前を向き、その黄金に輝く道へと一歩踏み出したのだった。




