第85話:第1期100 Mi完成、そして王国の未来へ
星環暦1285年・創光月≪第1月≫8日・火曜――
アスタリア大商会本部・《魔導熱伝導路建設課》。
午前6時30分。
ヴァルモント公爵領へ向けて延びる《魔導熱伝導路》は、前日の終了時点で第1期99.4 Mi(ミーレ/99.4km)まで施工されていた。
第2期は13.8 Mi。
アスタリア側の総施工距離は113.2 Miだった。
ただし、起点から途切れずに熱を送れる距離は50.0 Miにとどまっている。
第6工区と第7工区は、すでに10.0 Miまで本体施工を終えていた。
だが、完成検査と検収はまだ終わっていない。
第8工区は9.8 Mi。
第10工区は9.6 Mi。
第1期100.0 Miの本体施工完了は、すぐそこまで来ていた。
レオンハルト・ベルクハルト(建設課長)は、各施工部隊から届いた朝の報告を確認していく。
見るのは施工距離だけではない。
残施工距離。
当日と翌日の予定。
現場未使用在庫。
既引当数量。
配送中の資材。
到着予定日。
それらを照合してから、その日の補給量を決める。
「第8工区は残り0.2 Miです」
担当者が報告した。
レオンハルト(建設課長)は資材表へ視線を落とす。
「通常補充は止めてください」
「不足が出た場合は?」
「事故や損耗などで、本当に必要になった分だけ追加します」
完成直前の工区へ、機械的に2日分を送ることはしない。
第10工区も同じだった。
残施工距離は0.4 Mi。
完成までに必要な量だけを見極める。
一方、第11工区から第16工区では施工が続いている。
第11工区は施工第1部隊(C01)。
第12工区は施工第2部隊(C02)。
第13工区は施工第3部隊(C03)。
第14工区は施工第5部隊(C05)。
第15工区は施工第9部隊(C09)。
第16工区は施工第4部隊(C04)。
6部隊は現場在庫と配送中の資材を確認した。
そのうえで、今後2日分の需要を再計算する。
「昨日と同じ速度だったから、昨日と同じ量を注文する。そういう処理にはしません」
レオンハルト(建設課長)が言った。
「現場にある物を先に使います。配送中の物も差し引いてください」
「それでも足りない分だけですね」
「そうです」
第10工区から第12工区は、第4地域備蓄倉庫(W04)の担当区域。
第13工区から第15工区は、第5地域備蓄倉庫(W05)の担当区域。
第16工区は、第6地域備蓄倉庫(W06)の担当区域となる。
ただし、第6地域備蓄倉庫(W06)が正式に受け入れ可能かどうかは、まだ確認が必要だった。
受入条件が整っていなければ、中央大倉庫から第16工区へ直接配送する。
帳票の都合で、現場を止めることはしない。
◇
同日午前8時――
アスタリア地域内・第6工区(第1期・第6工区)。
完成検査が始まった。
品質保証部、安全担当、設備保守課が現地へ入る。
伝導路本体。
接続部。
《熱制御口》。
遮断設備。
計測設備。
熱伝導系統。
保安設備。
施工記録。
完成図。
一つずつ現物と記録を照合する。
同じ頃、第7工区でも完成検査が進められていた。
施工した部門だけで合格を決めない。
別の立場から、安全に使えることを確認する。
午前9時過ぎ。
第6工区の検査が終わった。
異常なし。
正式検収合格。
続いて、第7工区からも報告が届く。
こちらも検収合格。
設備保守課は通熱手順へ移った。
まず、第5工区末端から第6工区へ低出力で熱を入れる。
温度を確認する。
熱量を見る。
《魔導流体》の状態を確認する。
接続部にも異常はない。
「第6工区末端、熱到達確認」
続いて、第7工区へ送る。
出力は一気に上げない。
各測定点の値を確認しながら、少しずつ熱を進める。
「第7工区末端、熱到達確認」
第1工区から第7工区まで。
70.0 Mi。
連続通熱距離は50.0 Miから70.0 Miへ伸びた。
第85話:第1期100 Mi完成、そして王国の未来へ
星環暦1285年・創光月≪第1月≫8日・火曜――
アスタリア大商会本部・《魔導熱伝導路建設課》。
午前6時30分。
ヴァルモント公爵領へ向けて延びる《魔導熱伝導路》は、前日の終了時点で第1期99.4 Mi(ミーレ/99.4km)まで施工されていた。
第2期は13.8 Mi。
アスタリア側の総施工距離は113.2 Miだった。
ただし、起点から途切れずに熱を送れる距離は50.0 Miにとどまっている。
第6工区と第7工区は、すでに10.0 Miまで本体施工を終えていた。
だが、完成検査と検収はまだ終わっていない。
第8工区は9.8 Mi。
第10工区は9.6 Mi。
第1期100.0 Miの本体施工完了は、すぐそこまで来ていた。 貼り付けたMarkdown
レオンハルト・ベルクハルト(建設課長)は、各施工部隊から届いた朝の報告を確認していく。
見るのは施工距離だけではない。
残施工距離。
当日と翌日の予定。
現場未使用在庫。
既引当数量。
配送中の資材。
到着予定日。
それらを照合してから、その日の補給量を決める。
「第8工区は残り0.2 Miです」
担当者が報告した。
レオンハルト(建設課長)は資材表へ視線を落とす。
「通常補充は止めてください」
「不足が出た場合は?」
「事故や損耗などで、本当に必要になった分だけ追加します」
完成直前の工区へ、機械的に2日分を送ることはしない。
第10工区も同じだった。
残施工距離は0.4 Mi。
完成までに必要な量だけを見極める。
一方、第11工区から第16工区では施工が続いている。
第11工区は施工第1部隊(C01)。
第12工区は施工第2部隊(C02)。
第13工区は施工第3部隊(C03)。
第14工区は施工第5部隊(C05)。
第15工区は施工第9部隊(C09)。
第16工区は施工第4部隊(C04)。
6部隊は現場在庫と配送中の資材を確認した。
そのうえで、今後2日分の需要を再計算する。
「昨日と同じ速度だったから、昨日と同じ量を注文する。そういう処理にはしません」
レオンハルト(建設課長)が言った。
「現場にある物を先に使います。配送中の物も差し引いてください」
「それでも足りない分だけですね」
「そうです」
第10工区から第12工区は、第4地域備蓄倉庫(W04)の担当区域。
第13工区から第15工区は、第5地域備蓄倉庫(W05)の担当区域。
第16工区は、第6地域備蓄倉庫(W06)の担当区域となる。
ただし、第6地域備蓄倉庫(W06)が正式に受け入れ可能かどうかは、まだ確認が必要だった。
受入条件が整っていなければ、中央大倉庫から第16工区へ直接配送する。
帳票の都合で、現場を止めることはしない。
◇
同日午前8時――
アスタリア地域内・第6工区(第1期・第6工区)。
完成検査が始まった。
品質保証部、安全担当、設備保守課が現地へ入る。
伝導路本体。
接続部。
《熱制御口》。
遮断設備。
計測設備。
熱伝導系統。
保安設備。
施工記録。
完成図。
一つずつ現物と記録を照合する。
同じ頃、第7工区でも完成検査が進められていた。
施工した部門だけで合格を決めない。
別の立場から、安全に使えることを確認する。
午前9時過ぎ。
第6工区の検査が終わった。
異常なし。
正式検収合格。
続いて、第7工区からも報告が届く。
こちらも検収合格。
設備保守課は通熱手順へ移った。
まず、第5工区末端から第6工区へ低出力で熱を入れる。
温度を確認する。
熱量を見る。
《魔導流体》の状態を確認する。
接続部にも異常はない。
「第6工区末端、熱到達確認」
続いて、第7工区へ送る。
出力は一気に上げない。
各測定点の値を確認しながら、少しずつ熱を進める。
「第7工区末端、熱到達確認」
第1工区から第7工区まで。
70.0 Mi。
連続通熱距離は50.0 Miから70.0 Miへ伸びた。 貼り付けたMarkdown
それでも、すぐ通常運転へは移らない。
一定時間、監視を続ける。
異常なし。
そこで初めて、通常運用への移行が許可された。
◇
同日午前10時30分――
アスタリア大商会・熱供給事業部。
第6工区と第7工区の検収合格を受け、新たに14名の入社と派遣処理が行われた。
メンテナンス第6部隊(M06)の6名と同行料理人1名。
メンテナンス第7部隊(M07)の6名と同行料理人1名。
正式入社日、派遣日、給与対象開始日は創光月8日。
ただし、出発、移動、現地到着、保守業務開始は別々に記録する。
移動も勤務である。
だが、移動時間を現地保守作業として記録することはしない。
各部隊は内部発注冊子を持って出発した。
それでも、注文はまだ発生していない。
現地へ着く。
在庫を確認する。
不足している物を特定する。
その時に初めて、必要なら注文書を使う。
メンテナンス第6部隊(M06)は第6工区の第6保守基地(B06)へ。
メンテナンス第7部隊(M07)は第7工区の第7保守基地(B07)へ向かった。
同行料理人も、それぞれ同じ保守基地へ向かう。
◇
同日午後――
第2地域備蓄倉庫(W02)。
第6工区の検収が終わった。
これにより、第2地域備蓄倉庫(W02)が担当する第4工区から第6工区まで、本体施工がすべて終わった。
倉庫責任者は残資材を整理する。
建設工事だけに使う物。
保守にも使える物。
緊急復旧用として残す物。
すでに引き当てられている物。
配送中の物。
品質確認が終わっていない物。
「工事が終わったから、全部を次へ送るわけではありません」
倉庫責任者が報告書へ記入した。
保守に必要な物まで動かしてしまえば、完成した設備を守れない。
第3地域備蓄倉庫(W03)からも報告が届いた。
こちらは第7工区から第9工区までを担当している。
第7工区と第9工区はすでに施工を終えている。
だが、第8工区にはまだ施工が残っている。
そのため、第8工区の完成と検収に必要となる可能性がある資材を残す。
それ以外だけを、移管候補として中央管理室へ報告する。
完成した場所から、まだ施工している場所へ。
新しく購入する前に、使える既存在庫を回す。
ただし、倉庫同士で勝手に送り先を決めることはしない。
中央管理室が全体の需要を見て判断する。
◇
同日夕刻――
王都セレスティア・ヴァルモント公爵家王都滞在先。
アスタリアから届いた報告書を、シェリィはローランド公爵と一緒に読んでいた。
「70 Miか」
ローランド公爵が言った。
「はい。第6、第7工区の検収と通熱まで終わりました」
「お前がいなくても、よく動いているな」
シェリィは少しだけ笑った。
「そのために、役割を分けてきましたから」
そこへ、ジュリアン王太子も加わった。
机の上には、アスタリアからヴァルモント公爵領へ向かう長距離《魔導熱伝導路》の資料が広げられている。
「まずは公爵領まで、この熱路を完成させる」
ジュリアンが図面を見ながら言った。
「その先へ王国全体に広げるなら、壊れた設備は誰が直す?」
「担当する保守組織が必要です」
「事故が起きた場合の責任は?」
「所有境界と管理境界を決めます。停止権限、修理責任、費用負担も必要です」
シェリィは、現在アスタリア側で整えつつある仕組みを説明した。
10 Miごとの保守基地。
メンテナンス部隊。
地域備蓄倉庫。
治癒魔法士の担当区域。
「熱を公爵領まで届ければ終わり、という話ではないんだな」
「はい。翌日も使える必要があります」
シェリィは頷いた。
「その翌月も、その翌年もです」
この場で、王国規模の制度を決めるわけではない。
まずは、ヴァルモント公爵領までの熱路を完成させる。
その実績を積み上げてから、さらに先を考える。
順番を飛ばすつもりはなかった。
◇
星環暦1285年・創光月≪第1月≫9日・風曜――
アスタリア地域内・第8工区(第1期・第8工区)。
午前8時。
最後の施工が始まった。
第8工区は、地下水対策によって施工速度を抑えてきた工区だった。
水系魔法士2名は、地下水を力任せに止めてはいない。
排水経路を確保する。
周辺地盤への影響を確認する。
施工可能な状態を維持する。
最後の区間でも、その方針は変えなかった。
やがて、測量担当者から報告が上がる。
「第8工区、10.0 Mi到達」
本体施工完了。
施工第8部隊(C08)から正式な完成報告が送られた。
だが、水系魔法士2名との契約はまだ終わらない。
契約終了条件は、第8工区の完成・検収後。
翌日の完成検査と、必要な補修対応までが契約範囲である。
施工第8部隊(C08)の通常施工用内部発注も停止された。
未処理の資材は分類する。
未発送で不要になった物。
配送中の物。
現地で余っている物。
検収まで必要な物。
施工が終わったからといって、途中にある注文まで消えるわけではない。
◇
同日午後――
第3地域備蓄倉庫(W03)。
第8工区が10.0 Miへ到達した。
これで、第7工区から第9工区までの本体施工はすべて終了した。
しかし、第8工区はまだ検収前である。
「検収に必要となる可能性がある物は残します」
倉庫責任者が在庫表を確認した。
「余剰候補は?」
「今すぐ動かせる物と、検収後に動かせる物を分けます」
同じ在庫でも、今日と明日では状態が違う。
その違いを消さずに、中央管理室へ報告する。
◇
星環暦1285年・創光月≪第1月≫10日・水曜――
アスタリア地域内・第8工区。
午前8時。
完成検査が始まった。
地下水対策区間。
路体本体。
接続部。
排水処理設備。
遮断設備。
制御設備。
完成図面。
施工記録。
品質記録。
特に時間をかけたのは、地下水対策区間だった。
施工中に問題がなかっただけでは足りない。
完成後も排水経路が維持されているか。
周辺地盤に異常な変化がないか。
設備に影響が出ていないか。
水系魔法士2名からも、水位と対策の記録が提出された。
午前9時30分。
最終判定が出た。
「第8工区、完成検査合格」
続いて、正式検収も完了した。
この瞬間、水系魔法士2名との契約終了条件も成立した。
勤務期間は、星環暦1284年・帰魂月12日から星環暦1285年・創光月10日まで。
合計29日。
1名あたり銀貨8枚/時。
1日8時間勤務。
2名合計では1日銀貨128枚となる。
29日分の最終契約総額は銀貨3,712枚。
つまり、金貨37枚と銀貨12枚だった。
前払済みの総額は、金貨18枚と銀貨56枚。
したがって、最終追加支払額も金貨18枚と銀貨56枚となる。
アスタリア大商会とヴァルモント公爵家が50%ずつ負担する。
それぞれが追加で支払うのは、金貨9枚と銀貨28枚。
担当者は、2名へ一つずつ説明した。
勤務日数。
契約単価。
契約総額。
前払額。
最終支払額。
「前払金の過不足はありません。これで契約残高は0です」
2名が内容を確認し、受領記録へ署名した。
工事が終わった。
だから、人との契約も正式に閉じる。
未精算のまま残さなかった。
◇
同日午前10時30分――
アスタリア大商会本部・総務財務部。
契約終了に合わせて、会計側でも訂正処理が行われた。
1284年度決算原本は変更しない。
旧帳簿では、水系魔法士の帰魂月中の勤務日数を25日として補完計上していた。
実際は19日だった。
そのため、アスタリア大商会負担分では、建設仮勘定と未払金が金貨3枚と銀貨84枚ずつ過大になっていた。
まず、その過大分を訂正する。
次に、1285年度の創光月1日から10日までの10日分を計上する。
金額は金貨6枚と銀貨40枚。
その結果、最終未払額は金貨9枚と銀貨28枚となった。
これを支払う。
前渡金。
未払金。
契約残高。
すべて0。
元の年度を消して書き換えるのではない。
何を訂正したのか。
なぜ訂正したのか。
その履歴を残したまま、正しい残高へ合わせる。
◇
同日午前11時――
第8工区。
設備保守課が通熱を始めた。
第7工区末端から、第8工区へ低出力で熱を送る。
地下水対策区間では、温度と熱量だけを見ない。
排水状態。
地盤。
周辺設備。
それらも同時に確認する。
異常なし。
熱が第8工区末端へ到達した。
その先には、すでに完成・検収を終えていた第9工区がある。
第9工区は、第8工区の完成を待っていた。
遮断状態を確認する。
異常なし。
通熱開始。
「第9工区末端、熱到達確認」
第1工区から第9工区まで。
90.0 Mi。
先に完成していた第9工区が、ようやく一本の熱路へつながった。
ヴァルモント公爵領へ向かう熱は、また10.0 Mi先へ進んだ。
◇
同日午前11時30分――
さらに14名の正式入社・派遣処理が行われた。
メンテナンス第8部隊(M08)の6名と同行料理人1名。
メンテナンス第9部隊(M09)の6名と同行料理人1名。
メンテナンス第8部隊(M08)は、第8工区の第8保守基地(B08)へ。
メンテナンス第9部隊(M09)は、第9工区の第9保守基地(B09)へ向かった。
内部発注冊子も携行する。
だが、それだけで注文は発生しない。
現地で在庫を確認する。
不足していれば申請する。
足りていれば、何もしない。
◇
同日午後――
第3地域備蓄倉庫(W03)。
第8工区の検収が終わった。
これで、第7工区から第9工区まで、すべて施工完成・検収済みとなった。
倉庫責任者は残資材を改めて分類する。
建設専用品。
保守へ転用できる物。
緊急復旧用として残す物。
不良品。
検査保留品。
配送中の物。
確定した余剰情報だけを中央管理室へ送る。
中央管理室は、第4地域備蓄倉庫(W04)から第6地域備蓄倉庫(W06)までの需要を確認する。
完成した工区から、まだ施工している工区へ。
使える資材を回す。
ただし、移管数量を先に決めることはしない。
現物。
需要。
輸送。
受入。
すべてを確認してから決める。
◇
同日夜――
王都セレスティア。
第8工区の検収。
水系魔法士2名の契約終了。
90.0 Mi連続通熱。
それらの報告がシェリィへ届いた。
シェリィが最初に確認したのは施工速度ではなかった。
「契約精算は終わっていますか」
「はい」
「前払金と未払金は?」
「残高0です」
「第8工区で余った建設資材は?」
「第3地域備蓄倉庫(W03)で分類しています。第2期への再配置を中央管理室が照合中です」
シェリィは頷いた。
ローランド公爵が娘を見る。
「90 Miまで熱が届いた報告で、最初に聞くのが契約と在庫か」
「そこまで終わって、工事が終わったと言えると思っています」
ジュリアンが沿線図を見る。
「造る。使う。余った物を次へ送る」
「はい」
「公爵領まで延びれば、さらに管理する区間が増える」
「だから今のうちに、仕組みにしておきたいんです」
◇
星環暦1285年・創光月≪第1月≫11日・土曜――
アスタリア地域内・第10工区(第1期・第10工区)。
残施工距離0.1 Mi。
施工第10部隊(C10)が、第1期最後の本体施工へ入った。
測量。
地盤確認。
敷設。
接続。
埋戻し。
締固め。
そして記録。
最後の区間も、特別扱いはしない。
必要な工程を順番どおりに進める。
やがて、測量担当者が声を上げた。
「10.0 Mi到達を確認」
第10工区、本体施工完了。
これで、第1工区から第10工区までの100.0 Miすべてが施工済みとなった。
だが、まだ第1期完成とはしない。
第10工区には完成検査と検収が残っている。
連続通熱距離も90.0 Miのままだ。
施工第10部隊(C10)の通常施工用内部発注は停止した。
未発送。
配送中。
受領済み未使用。
余剰。
一つずつ分類する。
第4地域備蓄倉庫(W04)でも在庫整理が始まった。
ただし、この倉庫は第11、第12工区も担当している。
第10工区で不要になった物でも、第11、第12工区で使う可能性がある。
必要分を先に確保する。
それでも余る物だけを、他地域への移管候補にする。
一つの工区が終わるたびに、資材は次の工区へつながっていった。
◇
星環暦1285年・創光月≪第1月≫12日・闇曜――
アスタリア地域内・第10工区。
午前8時。
第1期最後の完成検査が始まった。
伝導路本体。
接続部。
遮断機構。
計測設備。
《熱制御口》。
運用安全。
施工記録。
完成図面。
品質保証部、安全担当、設備保守課が確認する。
最後の工区だからといって、基準を甘くはしない。
午前10時。
「第10工区、完成検査合格」
正式検収も完了した。
これで、第1工区から第10工区まで、全工区が完成・検収済みとなった。
残るのは通熱。
午前10時30分。
設備保守課が、第10工区へ低出力で熱を送る。
第1工区。
第2工区。
第3工区。
第4工区。
第5工区。
第6工区。
第7工区。
第8工区。
第9工区。
そして、第10工区。
測定値が順番に上がる。
「第10工区起点、正常」
少し待つ。
「中間地点、正常」
さらに待つ。
「末端側、熱量上昇」
誰も、最後の報告を急かさなかった。
やがて通信機から声が届く。
「第10工区末端、熱到達確認」
100.0 Mi。
ヴァルモント公爵領へ向けて延びる長距離《魔導熱伝導路》の最初の100.0 Miが、一本の熱路としてつながった。
低出力のまま監視する。
異常なし。
出力を一段階上げる。
再確認。
異常なし。
通常運用へ移行する。
「第1期100.0 Mi、連続通熱確認」
記録担当者が正式記録へ書き込んだ。
100.0 Miを完成させたのは、一人ではない。
施工部隊。
土系魔法士。
水系魔法士。
品質保証部。
安全担当。
設備保守課。
物流担当。
倉庫職員。
料理人。
契約を管理する者。
会計を管理する者。
多くの仕事がつながった。
その結果として、100.0 Miもつながった。
◇
同日午前11時――
アスタリア大商会・熱供給事業部。
第10工区の検収と通熱を受け、最後の7名が正式入社・派遣となった。
メンテナンス第10部隊(M10)の6名。
同行料理人1名。
正式入社日と給与対象開始日は創光月12日。
メンテナンス第10部隊(M10)は、第10工区の第10保守基地(B10)へ向かう。
これで、第1期のメンテナンス要員は60名。
同行料理人は10名。
合計70名。
第1期10工区すべてについて、派遣手続きがそろった。
100.0 Miを造る体制から。
100.0 Miを守る体制へ。
第1期の中心は、建設から運用へ移った。
その一方で、第2期の工事は止まっていない。
熱路は、さらにヴァルモント公爵領へ向かって延び続けている。
◇
同日夜――
王都セレスティア。
ディートリヒから正式報告が届いた。
第1工区から第10工区。
合計100.0 Mi。
全工区完成・検収済み。
連続通熱100.0 Mi。
メンテナンス10部隊、派遣手続き完了。
同行料理人10名、派遣手続き完了。
第2期工事継続。
シェリィは報告書の数字を見つめた。
ローランド公爵が隣から覗き込む。
「100 Miだぞ。もっと喜んでもいいんじゃないか?」
「嬉しいです」
シェリィは答えた。
「でも、私が造った100 Miではありません」
「なら、誰が造った?」
「現場にいる人たちです」
シェリィは少し笑った。
「私は、どう造るか。どう守るか。それを一緒に考えただけです」
ジュリアンも報告書を手に取った。
「公爵領まで完成したら、その次を考えるのか」
「はい」
まず、現在建設しているヴァルモント公爵領までの長距離熱路を完成させる。
その実績を残す。
保守する。
事故なく使い続ける。
それができて初めて、その先を議論できる。
「もし王国全体へ広げるなら、もっと多くの仕組みが必要になります」
シェリィは言った。
「止める権限。直す責任。備蓄。人材。土地。維持費。事故時の責任分界。全部です」
100.0 Mi完成の報告は、終点ではなかった。
ヴァルモント公爵領まで続く熱路の、最初の大きな節目だった。
◇
星環暦1285年・創光月≪第1月≫13日・光曜――
アスタリア地域内・第1工区から第10工区。
100.0 Mi連続通熱の翌朝。
メンテナンス第1部隊(M01)からメンテナンス第10部隊(M10)までが、それぞれの担当区間を確認していた。
1部隊あたり10.0 Mi。
温度。
熱量。
《熱制御口》。
遮断設備。
異常履歴。
交換部品の使用。
保守基地の在庫。
交換資材が不要なら、内部発注はしない。
班長、副班長、班員という現場上の役割はある。
だが、第1期の60名は全員が同じ研修を受けている。
資格試験も同じだった。
記録を見せ合う。
判断を確認する。
必要なら互いに補う。
そうやって100.0 Miを守る。
治癒魔法士の担当区域も確認された。
第1工区から第5工区はH01。
第6工区から第10工区はH02。
将来、全300 Miが完成すれば、5工区ずつをH01からH06までの6担当区域で支える。
100.0 Miは、その最初の完成形だった。
◇
同日午前11時――
第1地域備蓄倉庫(W01)から第3地域備蓄倉庫(W03)。
建設専用品を第2期へ回しても、保守と緊急復旧に必要な資材は残す。
第1地域備蓄倉庫(W01)は、第1工区から第3工区を支える。
第2地域備蓄倉庫(W02)は、第4工区から第6工区。
第3地域備蓄倉庫(W03)は、第7工区から第9工区。
建設用品の比重は減る。
その代わり、保守と緊急復旧の役割が大きくなる。
中央管理室では、各倉庫の余剰報告と第2期側の需要を照合していた。
移管対象となった資材も、段階ごとに管理する。
移管承認。
出庫。
配送中。
受領。
品質検収。
在庫登録。
送り出した時点では、まだ移管完了ではない。
移管先が受け取る。
検収する。
そこで初めて、その倉庫の正式在庫になる。
◇
星環暦1285年・創光月≪第1月≫14日・火曜――
アスタリア大商会本部・中央管理室。
ヴァルモント公爵領へ向かう第2期区間では、この日も施工が続いていた。
第11工区から第16工区。
施工第1部隊(C01)。
施工第2部隊(C02)。
施工第3部隊(C03)。
施工第5部隊(C05)。
施工第9部隊(C09)。
施工第4部隊(C04)。
6部隊は、その日の実績と残施工距離を更新する。
必要資材も改めて計算する。
ただし、創光月8日以降の具体的な施工距離は、正式な日別実績が確定するまで実績値にはしない。
基準速度が1日0.2 Miでも、その数字だけで進捗を作ることはしない。
現場が実際に進んだ距離だけを記録する。
同じ部屋では、保守側の内部発注状況も確認されていた。
メンテナンス第1部隊(M01)からメンテナンス第10部隊(M10)は、保守用品。
同行料理人は、食材と厨房用品。
施工部隊は、建設用品。
同じ会社の内部発注でも用途を混ぜない。
誰が。
何のために。
何を必要としているのか。
それが追える状態を保つ。
◇
同日午後1時――
アスタリア大商会・魔石保管区画。
翌日の定例取引へ向け、ヴァルモント公爵家へ引き渡す魔石の準備が始まった。
高純度級魔石90 Sl(セル/90kg)。
特級魔石10 Sl。
合計100 Sl。
候補ロット。
品質証明。
重量。
出庫記録。
輸送。
受渡条件。
決済手続き。
工事資材の内部移動とは完全に分けて扱う。
社内移管と販売は、同じ物品移動ではない。
翌日の取引は、正式な対外売上となる。
◇
星環暦1285年・創光月≪第1月≫15日・風曜――
アスタリア大商会本部。
第2期工事は、この日も続いていた。
第11工区から第16工区。
各施工部隊は施工距離、残施工距離、必要資材、翌日の予定を更新する。
第1期側では、10のメンテナンス部隊が100.0 Miの運転記録を集約する。
地域備蓄倉庫では、在庫を用途ごとに分けていた。
保守用品。
緊急復旧資材。
第2期へ回す建設専用品。
配送中の物。
未検収品。
第1期100.0 Miが完成したからといって、仕事が減ったわけではない。
建設中心だった仕事が、運用と保守へ変わっただけだった。
◇
同日午前10時――
アスタリア大商会・魔石保管区画。
ヴァルモント公爵家向け定例魔石100 Slの最終確認が行われた。
高純度級魔石90 Sl。
特級魔石10 Sl。
品質。
重量。
ロット。
受渡証憑。
すべて異常なし。
続いて、販売単価を確認する。
高純度級魔石は、1 Slあたり金貨115枚。
90 Slで金貨10,350枚。
特級魔石は、1 Slあたり金貨598枚。
10 Slで金貨5,980枚。
合計100 Sl。
販売総額は金貨16,330枚となった。
午後。
魔石はヴァルモント公爵家へ正式に引き渡された。
売上金額は金貨16,330枚。
代金は同日決済された。
販売証憑。
受渡証明。
入金記録。
在庫減少。
一つずつ照合する。
定例取引であっても、確認手順を省くことはなかった。
◇
同日午後3時――
アスタリア大商会本部。
ディートリヒ・ハーゲン(熱供給事業部長)のもとで、創光月8日から15日までの事業報告がまとめられた。
第1期100.0 Mi完成。
第1工区から第10工区まで、全工区検収済み。
連続通熱100.0 Mi。
メンテナンス要員60名。
同行料理人10名。
合計70名の第1期保守体制。
第8工区の水系魔法士2名は、契約終了・完全精算。
完成工区で不要になった建設専用品は、第2期へ再配置する。
ただし、保守用と緊急復旧用は各地域に残す。
第11工区から第16工区では、施工を継続。
ヴァルモント公爵領へ向かう熱路は、さらに先へ延びている。
定例魔石100 Slは、金貨16,330枚で販売。
同日決済も完了した。
一方、第2期の創光月8日から15日までの具体的な施工距離は、正式な日別実績がまだ確定していない。
予測速度から実績を作らない。
未確定なものは、未確定のまま残す。
第1期100.0 Mi。
全10工区完成。
全10工区検収済み。
連続通熱100.0 Mi。
10のメンテナンス部隊。
10の保守基地。
10人の同行料理人。
完成した場所から、使える建設資材を次の工区へ送る。
その先では、第2期施工が続いている。
熱路の目的地は、まだ先だった。
◇
同日夕刻――
王都セレスティア。
シェリィは、ディートリヒから届いた報告書をジュリアンとローランド公爵の前へ置いた。
「第1期100.0 Mi、完成しました」
ジュリアンは報告書へ目を落とした。
「最初に聞いた時は、熱を100 Mi運ぶだけでも十分に信じ難かった」
「私も、最初から全部が見えていたわけではありません」
「今は?」
シェリィは少し考えた。
「100 Miを造ったことで、造るだけでは足りないことが前より分かりました」
保守する人がいる。
修理する人がいる。
止める権限が必要になる。
備蓄がいる。
輸送もいる。
治療体制もいる。
契約と会計も必要になる。
事故が起きれば、責任の境界も問われる。
土地と維持費も無視できない。
どれか一つを後回しにすれば、長距離インフラは長く使えない。
ローランド公爵が腕を組んだ。
「まずは、我が領まで届かせる」
「はい」
「そこで終わりではないんだな」
シェリィは頷いた。
「ヴァルモント公爵領まで安全に完成させます。そして、実際に使い続けます」
ジュリアンが沿線図の先へ指を滑らせた。
「その実績があれば、王国の他地域へ広げる議論もできる」
「はい。でも、順番は飛ばしません」
今、造っているのは王国全体の熱供給網ではない。
アスタリアからヴァルモント公爵領までを結ぶ長距離《魔導熱伝導路》だ。
その途中にある最初の100.0 Miが、ようやく完成した。
まだ先がある。
第2期もある。
第3期もある。
そして、公爵領側との接続もある。
シェリィは100.0 Miの完成報告書を静かに閉じた。
王国の未来を語る前に。
まず、この1本を最後までつなぐ。
その積み重ねこそが、次の地図を描く力になる。
お読みいただきありがとうございます。
第1期の第1~第10工区がすべて完成・検収され、100.0 Miの連続通熱が実現しました。
今回建設しているのは、アスタリア内部だけの熱供給路ではありません。
アスタリアからヴァルモント公爵領まで熱を届けるための長距離《魔導熱伝導路》です。
第1期100.0 Miは、その全体計画における最初の大きな到達点となりました。
第6・第7工区、第8・第9工区、第10工区と段階的に通熱範囲を広げ、メンテナンス部隊と同行料理人も順次派遣されています。
これで第1期は、メンテナンス要員60名と同行料理人10名、合計70名による保守体制へ移りました。
第8工区で地下水対策を担った水系魔法士2名との契約も、29日分の勤務実績に基づいて正式に精算しています。
完成工区で不要になった建設専用品は、保守・緊急復旧に必要な分を残し、第2期へ再配置する運用へ移りました。
創光月15日の定例魔石販売では、高純度級90 Slと特級10 Slの合計100 Slを、金貨16,330枚で取引しています。
第2期の具体的な施工距離については、正式な日別実績が確定していないため、予測値から補完していません。
第1期100.0 Miは完成しましたが、ヴァルモント公爵領までの熱路はまだ建設途中です。
シェリィたちは、この1本を最後まで安全につなぐことを目指して、さらに先へ進んでいきます。
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