第73話:100 Miと10 Mi、その最初の土を掘る
星環暦1284年・実成月≪第10月≫26日・火曜――
アスタリア地域内・《魔導熱伝導路》第1期施工区域。
夜明け前から、街道沿いには荷車と資材運搬車両が並んでいた。
既設の《魔導熱伝導路》終端から地域境界方向へ伸びる100 Mi(ミーレ/100km)の第1期工事は、10施工班・140名を投入し、各班14名が約10 Miずつ担当する10工区に分けて同時に始められる。
0 Miから10 Mi、10 Miから20 Mi、20 Miから30 Miと続き、最後は90 Miから100 Miまで。
ただし、地図の上では均等に分けられていても、各工区の施工速度まで同じになるとは考えられていない。
地盤、街道状態、積雪、排水、資材搬入条件が違えば、進み方も変わる。
シェリィが施工責任者たちの前で確認したのも、予定距離ではなかった。
「今日から工事が始まりますが、工程表より安全を優先してください」
吹雪、異常低温、視界不良、強い凍結、機材異常その他、現場責任者が危険と判断した場合には、アスタリア大商会本部やシェリィの許可を待たず、その場で作業を停止できる。
安全配慮義務は口頭の指示ではなく、正式な工事規程として全施工班へ通達された。
作業員には冬季用の防寒具を支給し、予定した施工距離を守るために防寒、休憩、点検、安全確認の基準を下げることも禁止する。
「止めたことで責任を問われることはありません。危険なのに続けたことの方を問題にします」
施工責任者たちが頷く。
工事を止める判断を現場へ渡すことは、工期を現場任せにすることではない。
危険を最も早く知る者に、止める権限を持たせるということだった。
◇
同じ朝――
ヴァルモント公爵領側でも、地域境界接続点から公爵邸方面へ向かう約10 Miの第1期工事が始まっていた。
こちらはアスタリア側の既設本線とまだ接続していない。
施工を終えてもすぐには熱を流せず、第3期でアスタリア地域内約300 Miが地域境界へ到達するまで、設備を先行して完成させることになる。
それでも、掘削、基礎、設備配置、保守基地、測定点の整備を先に進めておけば、接続後の供給開始までの時間を短くできる。
アスタリア側100 Miと、ヴァルモント側約10 Mi。
同じ日に、異なる速度で二つの工事が始まった。
◇
冬季工事に合わせ、医療体制も施工計画へ組み込まれた。
アスタリア地域内100 Miでは、50 Miごとに治癒魔法士を1名配置し、第1期では2名。
ヴァルモント側約10 Miも独立した工事現場であるため、別に1名を配置する。
工事期間中の治癒魔法士人件費は1時間あたり銀貨10枚で、91稼働日換算では1人あたり金貨72.8枚となる。
アスタリア側2名分の金貨145.6枚については、アスタリア大商会が金貨72.8枚、ヴァルモント公爵家が金貨72.8枚を負担し、ヴァルモント側工区に配置する1名分の金貨72.8枚は公爵家が全額負担する。
シェリィは負傷者が出ることを前提に工事を進めたいわけではなかった。
だが、「事故を起こさないよう努力すること」と、「事故が起きた時に助けられる準備をしないこと」は別だった。
◇
ヴァルデン倉庫商会の保管区画では、第1期用資材が施工班ごとに分けられていた。
《魔導熱伝導路》用材料、《熱制御口》や《熱継送所》に使う部材、A級《魔導流体》、魔石、工具、交換部材、防寒用品、食料。
ラインフェルト運輸商会は、それらを100 Mi分まとめて一か所へ運ぶのではなく、10の工区ごとに仕分けして積み込んでいく。
どの工区へ、何を、何個、いつ渡したのか。
払い出し記録と輸送記録が照合され、現場到着後には受領記録が追加される。
資材が工事現場へ動き始めたその日から、施工記録と資材追跡も始まっていた。
◇
星環暦1284年・実成月≪第10月≫27日・風曜――
アスタリア地域内・第1期施工区域。
モーゲン食品卸商会から、各施工班へ温かい冬季食が届けられていた。
朝食、昼食、夕食だけでなく、温かい汁物と飲み物、携帯できる補助食も用意され、冷えた現場で働く者にとって大きな助けになっていた。
しかし、その日の昼、一つの施工班から現場責任者を通じて意見が上がった。
食事そのものへの不満ではなかった。
長期間ここで働くことになるのなら、保守基地に厨房を設け、完成後は調理済みの食事を運んでもらうのではなく、食材を届けてもらい、そこで料理して食べられるようにできないか。
届けられた料理を温め直すだけでは、天候や輸送時間によって状態が変わる。
基地に料理人がいれば、届いた食材の状態や作業内容に合わせて食事を調整できる。
報告を受けたシェリィは、その場で結論を出さなかった。
モーゲン食品卸商会、グローヴァー建設商会、保守施設管理担当、施工責任者へ意見を求める。
やがて議論は、単なる献立の改善では済まなくなった。
「工事中だけ使う宿舎ではなく、完成後も保守員が生活する基地になります」
管理担当者が図面を見ながら説明する。
「それなら厨房だけ追加するより、生活と保守の両方を前提に設計を見直した方がよいと思います」
シェリィは少し考え、頷いた。
「では、全部見直しましょう」
現場から上がった一つの要望が、保守基地そのものの意味を変え始めた。
◇
同日午後――
アスタリア大商会本部では、すでに発注済みだった保守基地について正式な設計変更協議が行われた。
従来は1施設金貨40枚で、工事中の宿泊と最低限の保守機能を持たせる計画だった。
それを、工事後も何十年と使う恒久生活・保守拠点へ変更する。
改訂後の建設費は、1施設金貨72枚。
各基地には、メンテナンス要員宿泊室、治癒魔法士専用個室、治療室、料理人専用個室、厨房、食事室、常温食材庫、業務用《氷魔導冷蔵庫》、伝送装置、工具庫、交換部材庫、予備魔石庫、《魔導流体》保管区画、非常食・飲料庫、小規模修理区画、車両・荷馬車待機場所を設ける。
《氷魔導冷蔵庫》はアスタリアで新しく発明した設備ではなく、水系魔石を氷結用途へ利用する既存の業務用冷蔵設備であり、王都セレスティアをはじめ大都市の飲食店、宿屋、食品業者ではすでに使用されている。
肉、魚、野菜、乳製品などを季節を問わず保管できるため、冬だけでなく年間を通じて人員を置く保守基地には適していた。
アスタリア地域内100 Miでは10施設を建設するため、金貨72枚×10施設で総額金貨720枚。
負担はアスタリア大商会金貨360枚、ヴァルモント公爵家金貨360枚とする。
ヴァルモント側第1保守基地も同じ新仕様へ変更し、金貨72枚をアスタリア大商会金貨36枚、ヴァルモント公爵家金貨36枚で負担する。
既存発注を口頭で変更することはせず、変更内容、追加設備、追加費用、工期への影響を明記した正式な設計変更契約が作成された。
◇
食事供給方式も変更された。
新しい保守基地が完成するまでは、モーゲン食品卸商会が従来どおり調理済みの食事を各施工現場へ届ける。
基地完成後は、基本食材を原則2日に1回、自動的に各基地へ配送する方式へ切り替える。
料理人が毎回、日常的な肉、野菜、穀物、調味料を一から注文する必要はない。
一方、作業量、在庫、献立、体調、季節などによって追加で必要になった食材や調味料は、各基地の伝送装置からモーゲン食品卸商会へ直接追加注文できる権限を料理人に持たせる。
悪天候で配送が止まった場合に備え、最低2日分の保存食と飲料を備蓄する原則は維持する。
各基地には料理人を1名配置し、契約期間は1年。
本人と雇用側双方が継続を希望する場合のみ、新たな契約を締結して延長する。
自動更新にはしない。
交代時には食材在庫、追加注文状況、保存食数量、厨房設備の状態を後任へ正式に引き継ぐ。
◇
治癒魔法士についても、工事中だけの臨時配置ではなく、その先の保守体制まで検討された。
完成後は50 Miごとの基地に1名を常駐させる。
アスタリア地域内100 Miでは50 Mi地点と100 Mi地点の2施設が医療拠点となる。
通常配置されない基地にも治療室と治癒魔法士専用個室は設けておき、緊急派遣、巡回、将来の増員時に利用できるようにする。
治癒魔法士も料理人と同じく1年契約とし、双方が希望する場合には再契約する。
通常の10 Mi基地は、メンテナンス要員6名と料理人1名の7名体制。
50 Mi単位の医療拠点基地は、そこへ治癒魔法士1名を加えた8名体制となる。
アスタリア地域内100 Miでは、メンテナンス要員60名、料理人10名、治癒魔法士2名、合計72名が完成後に恒久配置される計画となった。
施工現場から出た「料理を作って食べたい」という一言は、厨房だけではなく、基地で暮らす人間そのものを計画へ組み込ませていた。
◇
星環暦1284年・実成月≪第10月≫28日・水曜――
アスタリア地域内・第1期施工区域。
各工区で、本格的な《魔導熱伝導路》の敷設が始まった。
施工位置を確認し、掘削を行い、地盤に合わせて基礎処理を施し、《魔導熱伝導路》を設置して前後を接続する。
その後、保護処理、接続検査、設備検査を行い、問題がなければ街道を復旧する。
シェリィは施工技術の細部について、自ら方法を指定しなかった。
掘削深度、基礎処理、接続作業、冬季の保護方法は、それぞれを専門とする技術者と商会が決める。
シェリィが確認したのは別のことだった。
「故障した時に交換できますか」
「はい。この位置なら街道側から交換部材を運び込めます」
「ここで止めた場合、その先全部を止めずに済みますか」
「前後の《熱制御口》で隔離できます」
「冬でも人は入れますか」
一つずつ、運用側から問い直す。
造る方法ではなく、造った後に使い続けられるかを見る。
それがシェリィの役割だった。
◇
施工と並行して、完成した保守基地から順次、伝送装置の運用も始まった。
各施工班は毎日、施工距離、資材使用量、在庫、人員、負傷者、作業停止の有無、天候、車両異常、設備異常、食料・防寒用品の状態、翌日の予定を記録する。
重要事項は伝送装置を通じて、その日のうちにアスタリア大商会本部へ送る。
ただし、伝送したから記録が完了するわけではない。
責任者が署名した紙の日報原本も各基地で保管し、一定期間分がまとまった時点でアスタリア大商会本部へ送付する。
通信は速い。
紙は後から確認できる。
どちらか一方ではなく、両方を残す。
◇
さらに施工済み区間については、日報とは別に正式な竣工記録を作成する制度も開始された。
施工日、担当施工班、使用部材、材料と製造ロット、接続位置、《熱制御口》位置、《熱継送所》位置、《魔導流体》製造ロット、検査結果、補修履歴、供用開始日。
いつ、誰が、何を使い、どのように造った設備なのかを追えるようにする。
この竣工記録は工事終了後に廃棄する帳票ではない。
設備が存在する限り保存する永久管理記録とし、アスタリア大商会本部だけでなく、担当する保守基地にもその区間分の写しを置く。
何十年後に接続部を交換することになっても、そこに何が使われていたのかを調べられる。
未来の保守員が、過去の施工者の記憶に頼らなくてよいようにするためだった。
◇
アスタリア側では、第1期100 Mi全体の完成を待ってから供用する方式も採らなかった。
既設本線から連続してつながった区間については、施工完了後に接続検査を行い、A級《魔導流体》を封入し、《熱制御口》の動作と安全を確認したうえで、順次熱を通せるようにする。
一方、50 Mi先や80 Mi先で設備だけ先に完成しても、そこまで連続した本線が完成していなければ熱は通さない。
完成したから稼働するのではない。
既設本線と連続接続され、検査を通過したから稼働する。
その違いを、施工班全体で共有した。
新たに稼働した区間は、その瞬間から長距離運用の実測対象にもなる。
始点熱量、終点熱量、温度、《熱継送所》による補熱量、外気条件、天候、稼働時間を記録する。
正常に補熱が行われている場合、10 Miあたりの実質熱量低下は約0.2%前後を基準とし、0.3%を許容上限とする。
0.3%を継続して超える場合は通常損失とせず、設備、接続部、A級《魔導流体》、《熱継送所》などの異常調査へ移る。
今はまだ短い区間しかつながっていない。
それでも、その数値は後続工事を改善するための最初の実運用データになる。
◇
星環暦1284年・実成月≪第10月≫29日・土曜――
アスタリア地域内・第1期施工区域。
朝、ある工区では夜間の強い冷え込みによって地面が硬く凍結し、掘削速度が前日までより大きく低下していた。
予定工程を維持するなら、作業時間を延ばすか、機材へ通常以上の負荷をかける必要がある。
現場責任者は地盤状態、機材負荷、作業員の身体状況を確認し、安全規程に基づいて掘削作業を停止した。
その報告は伝送装置を通じて、本部へ届いた。
シェリィは進捗表を見るより先に停止理由を確認した。
「現場責任者の判断で止めたのですね」
「はい。現在の状態で継続すると、機材破損と転倒事故の危険が高まるとの報告です」
「その判断を支持します」
遅れた時間を取り戻すよう命じることもしなかった。
地面を掘れない時間には、資材整理、接続部材の準備、設備点検、保守基地工事など、凍結の影響を受けにくい作業へ切り替える。
工程表へ現場を合わせるのではない。
現場条件に合わせて、工程を組み替える。
安全配慮義務は、実際に予定が遅れた時に守れて初めて意味を持つ。
◇
その日の午後。
既設熱供給網に最も近い工区では、短い区間ではあるものの、本線から連続して施工された最初の設備が検査を通過した。
接続部の検査。
A級《魔導流体》の封入。
《熱制御口》の動作確認。
漏出と魔力状態の確認。
各測定点の準備。
一つずつ終わらせてから、現場責任者が熱源側へ連絡した。
「送ってください」
《熱制御口》がゆっくりと開かれる。
既設の《アスタリア熱供給網》を流れていた熱が、新しく敷設された区間へ入っていく。
測定担当者たちが計器を追う。
温度に異常はない。
熱量の変化も、現時点では正常範囲。
接続部にも異常はない。
短い。
まだ地域境界までは遥かに遠い。
それでも、アスタリアの熱供給網はこの瞬間、初めて地域境界方向へ本当に伸びた。
地図上の線ではない。
そこには熱が流れていた。
◇
熱が届いた区間では、その熱を工事そのものにも利用し始めた。
使用可能となった保守基地では暖房と温水へ回し、凍結しやすい作業場所では設備保護に使う。
街道についても全区間を暖めるのではなく、坂道、橋付近、作業地点など必要な場所へ限定して熱を分配し、融雪後の水は側溝と排水路へ流す。
熱を浪費して道路全体を常時無雪にすることはしない。
必要な場所へ、必要な量だけ使う。
自分たちが造った《魔導熱伝導路》から届いた熱が、その先の《魔導熱伝導路》を造る作業を助け始める。
設備が完成すれば工事は終わるのではなく、完成した設備が次の工事を支える。
小さな循環が、最初の区間から始まっていた。
◇
星環暦1284年・実成月≪第10月≫30日・闇曜――
アスタリア大商会本部・技術研究部会議室。
10施工班とヴァルモント公爵領側工区から、着工後最初のまとまった総合報告が届いていた。
予定に近い施工距離まで進んだ班もあれば、凍結で遅れた班もある。
本線工事より保守基地建設が先行した工区もあり、既設熱供給網から連続接続して最初の熱を通した工区もある。
進捗は揃っていなかった。
シェリィは、施工距離の一覧より先に別の欄を確認した。
「重大事故は?」
「ありません」
「負傷者は?」
軽微な負傷と体調不良についての報告はあったが、重大事故には至っておらず、必要な処置も行われていた。
シェリィはそこで初めて、施工量、品質、熱損失、資材残量、食料、防寒用品、基地建設状況へ目を移した。
工事が何Mi進んだかより、まず人が無事に帰れるか。
その順番は、計画段階から変えなかった。
◇
報告会の後半では、完成後の保守人員について正式な議題が上がった。
設備を造る人間がいても、その設備を守れる人間がいなければ、100 Miの路線は完成した瞬間から劣化を始めるだけになる。
各保守基地には、正式なメンテナンス要員を6名配置する。
アスタリア地域内100 Miでは10基地で60名。
ヴァルモント側第1保守基地には6名。
第1期だけで必要となる養成人数は、合計66名だった。
「経験者を集めるだけでは足りません」
エルマー(技術研究部長)が説明する。
長距離《魔導熱伝導路》では、《熱制御口》、《熱継送所》、A級《魔導流体》、接続部材、区間隔離、緊急停止、再起動を同じ保守体系で扱う。
別々の設備を知っているだけでは、現場で一人前とは認められない。
そこで、アスタリア大商会による正式なメンテナンス要員養成制度を開始することになった。
研修期間は60日。
前半30日は設備構造、安全規程、運用理論、記録方法を学び、後半30日は実設備を使った点検、交換、故障対応、区間隔離、緊急停止、段階的再起動などの実地訓練を行う。
最後に筆記試験、実技試験、緊急対応試験を実施し、全ての基準を満たした者だけを《魔導熱伝導路》メンテナンス要員として認定する。
不合格者を単独勤務には就けない。
ただし、不合格で終わりにするのでもなく、再研修と再受験を認める。
研修費は1名あたり金貨6枚。
66名で、金貨396枚となる。
この日に始まるのは研修制度と候補者選定、研修準備までであり、60日間の研修そのものがすぐに終わるわけではない。
熱の道を造る速度と、人を育てる速度は違う。
だからこそ、設備が完成してから人材を探すのでは遅かった。
◇
同日夕刻――
シェリィの机には、10施工班とヴァルモント公爵領側工区の日報が積まれていた。
その横には、改訂された保守基地の図面、食材定期供給計画、治癒魔法士配置表、メンテナンス要員研修計画、そして新設区間から初めて得られた熱性能測定記録が並んでいる。
数日前まで存在しなかった書類ばかりだった。
始まりは、現場から届いた一つの要望だった。
長い工事になるのなら、ここで料理を作って食べたい。
その言葉から、厨房が加わった。
食材庫と業務用《氷魔導冷蔵庫》が加わった。
料理人の部屋が加わり、食材の定期配送と追加注文制度ができた。
人が長く暮らすなら医療も必要だと、治療室と治癒魔法士の配置を恒久化した。
遠くの本部へ毎日報告するために伝送装置を置き、それでも通信だけでは記録が消える可能性があるから紙の日報を残した。
さらに、その設備を何十年も直し続ける人間を育てるため、60日間の研修制度まで作られた。
シェリィは机の上の書類から顔を上げ、壁に掲げられた施工地図を見た。
既設の《アスタリア熱供給網》の先に、ほんの短い線が増えている。
その線には、もう実際に熱が流れていた。
遠くヴァルモント公爵領側では、まだ熱の来ない約10 Miの路線を迎えるため、同じように土が掘られている。
始まったのは、道を造る工事だった。
けれど実際に造り始めてみれば、必要だったのは設備だけではなかった。
そこへ行く人。
暮らす人。
食べる人。
治す人。
記録する人。
そして、何年先でも壊れた設備を直せる人。
100 Miと10 Miの最初の土を掘った日々は、その道を何十年も守る仕組みまで造り始めた日々になっていた。
お読みいただきありがとうございます。
アスタリア地域内100 Miとヴァルモント公爵領側約10 Miの第1期工事が、ついに同時着工しました。
今回は設備を敷設するだけでなく、現場から届いた「基地で料理を作って食べたい」という要望をきっかけに、保守基地そのものを恒久生活・保守拠点へ設計変更し、厨房、冷蔵設備、治療室、通信、食材供給、医療体制まで整えることになりました。
また、既設熱供給網から連続接続した最初の新設区間には実際に熱が流れ始め、その熱を工事現場の暖房や凍結防止などへ利用する循環も始まっています。
完成後の路線を守るため、66名を対象とする60日間のメンテナンス要員養成制度も正式に始動しました。
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