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アスタリア大商会起業編 ~無知な母国を置き去りに、極寒の死地を熱で満たします~  作者: IORI


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34/99

第34話:罪ある者、罪なき者

星環暦(せいかんれき)1284年・炎冠月(えんかんづき)≪第6月≫22日――

大審院・王国審理大法廷。

シェリィ・ヴァルモントの証言によって最後の証拠審理が終了してから、2日が経っていた。

その間、大審院では審理官・司法官・記録官が昼夜を分かたず、押収された書簡・帳簿・資金記録・面会記録・軍関係者の供述・王宮関係者の証言・被審理者本人の供述を照合し続けていた。

そして今日、再び王国に正式登録された160家を超える貴族家の代表者たちが王国審理大法廷へ集められている。

王家席には、アストリッド・セレスティア大后陛下、国王アーサー、エレノア・セレスティア王妃陛下、王太子ジュリアンが並び、被審理者席にはエドワードが座っていた。

証言を終えたシェリィは、今日は証人席ではない。

父ローランド・ヴァルモント公爵とともに、ヴァルモント公爵家に割り当てられた席から審理を見守っていた。

大審院長の机の上には、一冊では収まりきらないほど分厚い文書が置かれている。

その最上部に記された表題は、

《王位継承秩序侵害事件・最終罪状認定書》。

今日決められるのは、刑ではない。

誰が罪を犯したのか。

誰が罪を犯していないのか。

そして、どこまでが政治的主張であり、どこからが犯罪だったのか。

その境界を確定する日だった。

◇

大審院長が立ち上がった。

「これより、《王位継承秩序侵害事件・最終罪状認定書》を読み上げます」

法廷が静まり返る。

「最初に、本認定書の原則を確認いたします」

大審院長は42家の関係者が座る区画を見渡した。

「本認定書は、いわゆる『42家』を一括して有罪と認定するものではありません」

何人かの貴族が僅かに顔を上げた。

「42家とは、捜査・審理の対象となった家々を便宜上示した呼称であり、その数字そのものは罪を意味しません」

「同一家の中に、犯罪へ関与した者・政治的にエドワード殿下を支持しただけの者・計画そのものを知らなかった者が存在することも確認されています」

そこでアーサーが口を開いた。

「その原則は変えるな」

大審院長が国王へ一礼する。

アーサーは全貴族へ向き直った。

「貴族には、王位継承者を自ら選定・変更する権利は与えられていない」

重い声が大法廷に響く。

「しかし王太子に不正があれば、諫言し、証拠を集め、定められた手続によって国王へ上奏することは、臣下として正当な責務である」

アーサーはジュリアンを一度見た。

「王太子を諫めることは忠義だ」

そして42家へ視線を戻す。

「王太子を勝手に選び直すことは越権だ」

誰も動かない。

「さらに、人を集め、金を動かし、軍・官僚・王宮へ働きかけ、実際に法定の王位継承順位を変更しようとした時点で、それは《王位継承秩序侵害罪法》が定める犯罪となる」

アーサーは一度言葉を切った。

「今日は、その線を越えた者と、越えなかった者を分ける」

大審院長が認定書を開いた。

◇

最初に名前が読み上げられたのは、42家ではなかった。

「エドワード・セレスティア第2王子殿下」

エドワードが顔を上げる。

「本審理において、エドワード殿下がジュリアン王太子殿下に代わり、自らが王太子となることを望んでいた事実が認定されました」

それだけなら罪ではない。

大審院長は続けた。

「複数の貴族家がジュリアン王太子殿下を王位継承順位第1位から退ける目的で動いていることを認識していた事実も認定されました」

エドワードの手が膝の上で僅かに握られる。

「さらに、資金が必要とされていたこと・軍の態度を確認する動きが存在したこと・王宮内部の協力者が求められていたことについて、大枠を認識していたことが本人の供述によって確認されています」

そして、自筆の文書。

『兄上を退けるには、先に諸家の意思を固める必要がある。』

『父上への上奏は、その後でよい。』

『オルデンフェルト公爵らの準備を止めるな。』

大審院長は、その3文が筆跡鑑定・用紙確認・保管経路・本人供述によって真正と認定されたことを改めて告げた。

「以上から、エドワード殿下については、王位継承順位変更の具体的工作が存在することを認識した後も、その停止を命じず、むしろ継続を求めた行為を認定します」

法廷が静まる。

しかし、大審院長は続けた。

「一方、42家すべての具体的工作をエドワード殿下が直接指揮したとの証拠はありません」

エドワードが僅かに目を上げる。

「ジュリアン王太子殿下の殺害を命じた事実は認定されません」

「国王陛下の廃位または殺害を計画した事実も認定されません」

「武装蜂起そのものを命じた事実も認定されません」

アーサーが短く言った。

「ないものまで罪に加えるな」

「御意」

大審院長が答える。

「認定されるものだけを裁判記録へ残します」

◇

続いて、42家の認定が始まった。

最初の分類は、最も重大な関与が認められた者たちだった。

「オルデンフェルト公爵家」

大法廷の空気が一段重くなる。

「当主リヒャルト・アーデルベルト・オルデンフェルト公爵について、複数貴族家との共同謀議・役割分担・王太子交代後の政治体制および人事構想・エドワード殿下との意思連絡を認定します」

「同公爵は、単に王太子の廃嫡を求めたのではありません」

「法定手続に先立ち、王太子交代を実現するための組織を構築した中心人物であると認定します」

リヒャルトは黙って正面を見ていた。

「なお、アデライーデ・マリア夫人について、本件への具体的関与は認められません」

夫人の名まで区別された。

「長男フリードリヒ・リヒャルトについて、エドワード殿下への政治的支持は確認されていますが、違法な王位変更工作への参加は認められません」

そして、

「次男カール・アルブレヒトについては、計画が違法な王位変更を目的とすると認識した後、2通の書簡を運搬し、関係者間の接触を補助した行為を認定します」

同じ家。

同じ血族。

それでも、認定は4人で異なった。

◇

「レーヴェンタール伯爵家」

アルブレヒト・レーヴェンタール伯爵が静かに目を閉じる。

「アルブレヒト・レーヴェンタール伯爵について、秘密資金の管理・隠し口座の利用・複数家への資金移動・王太子交代工作を支える財政基盤の構築を認定します」

「同伯爵本人も、資金提供の事実を認めています」

大審院長はここでも線を引いた。

「ただし、王太子暗殺・国王廃位・武装蜂起そのものへの資金提供は認定されません」

アルブレヒトが顔を上げた。

事実は重い。

だが、事実以上には重くされない。

◇

「ハルテンベルク侯爵家」

コンラート・ハルテンベルク侯爵が、一度だけ深く息を吸った。

「コンラート・ハルテンベルク侯爵について、王太子交代工作が実行された際、軍が正統な王位継承秩序を維持するために即時行動することを抑制する目的で、複数の軍関係者へ接触した事実を認定します」

貴族席に緊張が走った。

「軍を直接反乱へ参加させる命令ではありません」

大審院長は明確にする。

「しかし、違法な王太子交代が行われた場合に軍を動かさないよう事前に働きかける行為は、国家の武力機構を王位変更工作へ利用する行為であると認定します」

アーサーの表情は動かなかった。

軍が剣を抜かなかったから、軽いわけではない。

抜くべき時に剣を抜かせないための工作もまた、軍を動かすことだった。

◇

「クラウゼル伯爵家」

「グレゴール・クラウゼル伯爵について、王宮内協力者の探索・情報経路の確保・王宮関係者への接触を認定します」

大審院長は続けた。

「なお、王城守護核によって入城を拒絶された事実そのものを、有罪認定の根拠とはしていません」

アストリッド大后が僅かに頷いた。

「認定根拠は、押収文書・面会記録・複数証言・本人の行動記録です」

魔法が人の罪を決めるのではない。

証拠が決める。

◇

「グランヴェル侯爵家」

「有力諸侯への参加要請・複数家との共同謀議・王太子交代後を見据えた政治的連携の形成を認定します」

「王太子廃嫡を求める意見表明だけではなく、実際に他家を違法計画へ参加させるために働きかけたことから、王位継承順位変更の実行工作に該当すると認定します」

◇

「ヴァイスグラート伯爵家」

「行政官・官僚への接触・王太子交代後の行政継続を想定した協力者確保を認定します」

「政治的支持ではなく、国家行政機構を王位変更後の体制へ接続するための具体的工作が行われたものと認定します」

◇

「アルテンブルク子爵家」

「軍関係者への接触・態度確認・中立確保への働きかけを認定します」

「ただし、軍工作全体の立案者ではなく、上位計画に基づく実行担当として認定します」

◇

「カルシュタイン子爵家」

「王太子交代後を想定した官僚人事・配置に関する働きかけを認定します」

「単なる将来予測ではなく、具体的人名を挙げた配置準備が確認されたため、実行工作と認定します」

◇

「ローゼンハルト伯爵家」

「違法な王太子交代計画であることを認識した上で、秘密会合の調整・参加者間の意思統一を行った事実を認定します」

「会合に出席したこと自体ではなく、会合を成立させ、違法計画を前へ進めた行為を認定対象とします」

◇

「クロード男爵家」

ジェラール・クロード男爵の顔から血の気が失われる。

「ジェラール・クロード男爵について、娘ミレーヌをエドワード殿下へ接近させ、シェリィ・ヴァルモント公爵令嬢との関係を悪化させることで、エドワード殿下を王太子交代計画へ傾ける人的工作を行った事実を認定します」

そして、娘の名が呼ばれた。

「ミレーヌ・クロード」

ミレーヌは俯いていた顔を上げた。

「当初、父ジェラールの意向を受けてエドワード殿下へ接近した事実を認定します」

「その後、エドワード殿下が王太子となる可能性と、自らが将来王妃となる可能性を認識した後も、自発的にシェリィ嬢への虚偽・誇張を含む訴えを続け、エドワード殿下の判断へ影響を与えた行為を認定します」

17歳。

だが、その年齢だけで行為そのものが消えることはなかった。

刑をどうするかは、まだ先だった。

◇

大審院長は一度水を口に含み、次の頁を開いた。

「続いて、違法計画であることを認識した後に従属的な協力を行った者を認定します」

ここからは、首謀者ではない。

だが、知らずに巻き込まれただけでもない。

ベルクマン伯爵家。

違法目的を認識した後、秘密会合の場所および関係者移動の確保を補助した行為を認定。

アーデルシュタイン伯爵家。

違法計画に関する書簡および情報の伝達を補助した行為を認定。

ノルトハーゲン伯爵家。

複数家間の連絡および政治的調整を補助し、計画継続に必要な情報を中継した行為を認定。

フェルナー子爵家。

秘密文書の受け渡しおよび連絡経路維持への協力を認定。

グライス子爵家。

違法計画を目的とした秘密会合について、参加者間の仲介を行った行為を認定。

メルツ子爵家。

目的を認識した後も伝令および書簡運搬を継続した行為を認定。

ローデン子爵家。

計画関係者間の資金移送および連絡を補助した行為を認定。

ドレッセル子爵家。

地方有力者と計画参加者との接触を仲介した行為を認定。

バルツァー子爵家。

関係者間の情報伝達および接触手配を行った行為を認定。

エーレンフェルト子爵家。

計画内容を認識した後も、秘密会合および連絡の補助を継続した行為を認定。

ケストナー子爵家。

王位変更工作に使用された秘密連絡網の一部を維持した行為を認定。

フォークト男爵家。

違法目的を知った後、関係者の移動・連絡を手配した行為を認定。

大審院長はそこで顔を上げた。

「以上12家について、中心的な計画立案者ではありません」

「しかし、違法目的を認識した後も具体的な補助行為を行ったため、《王位継承秩序侵害罪法》上の協力行為を認定します」

アーサーは何も言わなかった。

知らなかった者と、知った後も手を貸した者。

その違いは明確だった。

◇

次に読み上げられた分類で、大法廷の空気が変わった。

「続いて、エドワード殿下への政治的支持、またはジュリアン王太子殿下の廃嫡を求める政治的活動は確認されたものの、《王位継承秩序侵害罪法》上の実行行為が認定されなかった者について読み上げます」

何人もの貴族が息を止める。

アーサーが先に言った。

「ここを曖昧にするな」

「はい、陛下」

大審院長が最初の家名を読む。

エルンストハイム伯爵家。

ジュリアン王太子の政策への批判・エドワード殿下への政治的支持は確認されたが、資金・軍・官僚・王宮その他の王位変更工作への関与なし。

ノイエン子爵家。

ジュリアン王太子廃嫡を求める意見表明および政治的会合への参加は確認されたが、実際の王位変更工作への参加なし。

リヒター子爵家。

エドワード殿下への政治的支持は確認されたが、秘密資金・軍工作・官僚工作・王宮工作への関与なし。

その家名が呼ばれた時、ユリウス・リヒターが真っ直ぐ大審院長を見た。

「ユリウス・リヒターについて、卒業記念舞踏会においてミレーヌ・クロードの正式な同伴者であった事実は認定されます」

「しかし、ミレーヌ本人の王太子交代工作への関与を当時認識していた証拠はありません」

「よって、本件犯罪への関与は認定しません」

ユリウスは目を閉じ、長く息を吐いた。

ヴァルツ子爵家。

王太子廃嫡を求める政治運動への参加は確認されたが、人員・資金・軍・官僚・王宮工作には関与していない。

ブルナー男爵家。

エドワード殿下支持および王太子交代を求める意見への賛同は確認されたが、具体的実行行為なし。

ヘルマン男爵家。

政治的会合への参加およびジュリアン王太子への批判は確認されたが、違法工作への参加なし。

クライン男爵家。

ジュリアン王太子の統治方針への強い批判・エドワード殿下支持は確認されたが、王位変更工作への具体的関与なし。

ヴェーバー男爵家。

王太子廃嫡を求める上奏案への賛同は確認されたが、資金提供その他の実行行為なし。

シュルツ男爵家。

エドワード殿下への政治的支持のみ確認され、違法計画への参加なし。

フリート男爵家。

エドワード殿下が王太子となることを望んでいた事実は確認されたが、実行工作なし。

クレーマー男爵家。

王太子交代を求める政治的会合への参加は確認されたが、その後の秘密工作への参加なし。

ラウター男爵家。

エドワード殿下支持を公言していた事実は認定されるが、具体的な王位変更工作への参加なし。

読み上げが終わった。

大審院長は認定書を閉じなかった。

「以上12家について、《王位継承秩序侵害罪法》上の犯罪成立を認めません」

ざわめきが起きた。

中には、ジュリアンを廃嫡すべきだと公言した者もいる。

それでも犯罪ではない。

アーサーが立ち上がった。

「よく聞け」

ざわめきが止まる。

「余は、ジュリアンを支持しなかった者を裁くつもりはない」

ジュリアン自身も静かに父を見ていた。

「王太子の政策を批判することも、王太子に不正があると考えることも、その証拠を余へ提出することも正当だ」

アーサーの声が低くなる。

「臣下が自ら『廃嫡すべきだ』と政治運動を始めれば、それは与えられた権限を越える重大な行為である」

幾人かが顔を伏せた。

「だが、それだけで直ちに《王位継承秩序侵害罪法》の犯罪とはしない」

そしてアーサーは、最重大関与者たちへ視線を向ける。

「人を集めた」

「金を動かした」

「軍へ手を伸ばした」

「官僚へ働きかけた」

「王宮の内側を動かそうとした」

一つずつ、言葉を置く。

「そこまで進んだ時、意見は実行へ変わる」

誰も反論しなかった。

◇

最後の分類が読み上げられる。

「続いて、捜査対象となったものの、政治的支持・違法計画への認識・実行行為のいずれについても本件犯罪との具体的関連が認定されなかった家について読み上げます」

ザイデル男爵家。

関係者との取引記録を理由に捜査対象となったが、計画への認識・協力ともに認定されず。

ブレナー男爵家。

関係貴族との交友関係から捜査対象となったが、王位変更計画への関与なし。

ハーゲル男爵家。

関係者名簿に家名が記されていたが、参加承諾・連絡・資金提供その他の行為は確認されず。

レンツ男爵家。

関係者との個人的交友は確認されたが、違法計画を認識していた証拠なし。

ドルン男爵家。

複数証言に名前が挙がったため捜査されたが、裏付けとなる具体的証拠なし。

ヴォルフ男爵家。

当主・家族ともに王位変更工作への参加を示す記録なし。

グロース男爵家。

押収文書に家名が記載されていたが、本人側からの了承・参加を示す証拠なし。

ヘンケル男爵家。

違法計画への認識・資金提供・連絡・その他の協力行為のいずれも認定されず。

大審院長が最後の頁を置いた。

「以上8家について、本件に関する犯罪事実は認定されません」

少し間を置く。

「完全に無罪とします」

その言葉が、大法廷にはっきり響いた。

◇

長い読み上げが終わった。

42家。

だが、その中身は一つではなかった。

中心となって王位変更計画を組み立てた者。

金を用意した者。

軍へ働きかけた者。

王宮や官僚へ手を伸ばした者。

違法と知りながら連絡や運搬を手伝った者。

エドワードを支持しただけの者。

王太子廃嫡を求める政治運動には加わったが、その先の実行工作には進まなかった者。

そして、ただ名前が挙がっただけの者。

それらを「42家」という一つの言葉で括ることは、もうできなかった。

アーサーが立ち上がった。

「見ただろう」

誰に向けた言葉なのか、説明する必要はなかった。

「同じ家の中ですら、罪を犯した者と、罪を犯していない者がいる」

オルデンフェルト公爵家が、その最も分かりやすい例だった。

「家名が罪を犯すのではない」

アーサーの視線が、大法廷をゆっくり巡る。

「人が、自分の意思で行為を選ぶ」

その言葉に、シェリィは僅かに目を伏せた。

第25話から積み重ねられてきた原則が、ここで最後まで守られた。

アーサーは続ける。

「ただし、刑事責任と、爵位・領地・公職に対する処分は別の問題だ」

空気が再び張り詰めた。

「犯罪に爵位の権威を用いた者、領地の収入を用いた者、公職上の人脈を用いた者について、その権力を今後どう扱うかは、次の審理で判断する」

刑はまだ言われない。

誰の爵位が残るのか。

誰の領地が残るのか。

誰が自由を失うのか。

そして、誰が命を失うのか。

その答えは、まだ大法廷の誰にも告げられていなかった。

◇

大審院長が再び立ち上がる。

「以上をもって、本件に関する罪状認定を終了いたします」

そして、《最終罪状認定書》を両手で持ち、国王アーサーへ正式に提出した。

アーサーは文書を受け取った。

最初の頁から最後の頁まで、その厚みを確かめるように指を滑らせる。

そこには、罪を犯した者だけではない。

罪を犯していない者の名も記されている。

有罪を宣告するためだけの文書ではなかった。

無罪を国家の記録として残すための文書でもあった。

アーサーは認定書を閉じた。

「これで、誰が何をしたのかは出揃った」

被審理者席のエドワードが父を見る。

リヒャルト・オルデンフェルトが目を閉じる。

アルブレヒト・レーヴェンタールは微動だにしない。

コンラート・ハルテンベルクの拳が、膝の上で静かに固められていた。

アーサーはその全員を見た。

「次は――」

短い沈黙。

「何を償うべきかを決める」

ジュリアンが僅かに顔を上げた。

アーサーは長男を見た。

「ジュリアン」

「はい、父上」

「次の審理で、刑を言い渡す」

ジュリアンの表情が僅かに強張る。

アーサーは続けた。

「その前に、王太子としてではなく、兄として言っておきたいことがあるのなら聞く」

ジュリアンはすぐには答えなかった。

視線の先には、被審理者席に座る弟がいる。

長い沈黙の後、ジュリアンは静かに頷いた。

「……承知しました」

その日、誰一人として刑を言い渡されなかった。

しかし、誰が罪を犯し、誰が罪を犯していないのかは、もう曖昧ではなかった。

そして次に開かれる法廷では。

王国を揺るがした王位継承秩序侵害事件に、ついに最後の判決が下される。

証拠審理を終えた大審院は、42家を一括して裁くのではなく、一人ひとりの行為を基準として最終罪状を整理しました。

エドワードを支持したこと、ジュリアン王太子の政策に反対したこと、さらには王太子廃嫡を求める政治運動に参加したことと、実際に人・資金・軍・官僚・王宮を動かして王位継承順位を変更しようとしたことは明確に区別されています。

42家の中には重大な犯罪行為が認定された家もあれば、従属的協力のみの家、政治的支持に留まった家、完全に無罪とされた家も存在しました。

罪状認定はこれで終了です。

次はいよいよ、エドワードと関係者たちに対する最終判決が言い渡されます。

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