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アスタリア大商会起業編 ~無知な母国を置き去りに、極寒の死地を熱で満たします~  作者: IORI


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第11話:信用は、一人の天才だけでは築けない

第11話:信用は、一人の天才だけでは築けない

星環暦(せいかんれき)1284年・翔風月(しょうふうげつ)≪第4月≫20日――

セレスティア王宮・国王執務室

午後。

重厚な執務机の上に、一冊の申請書が置かれていた。

《アスタリア大商会 商業ギルド組合正式登録申請書》

その表紙に記された名前を、アーサー国王はしばらく黙って見つめていた。

代表者――シェリィ・ヴァルモント。

幼い頃から知っている少女だった。

公爵家の一人娘として王宮へ連れてこられた頃。

王妃エレノアの隣で菓子を食べていた頃。

まだ背丈も執務机へ届かないような年齢でありながら、書類に並ぶ数字を興味深そうに覗き込んでいた頃。

そして15歳になる頃には、国家予算の監査に関わるほどの能力を身につけていた。

今では。

王国最北部のアスタリアで商会を興し。

人を雇い。

物流を作り。

熱を供給し。

ついには王国全土で通用する信用決済へ手を伸ばそうとしている。

アーサーの正面に座っているのは、王宮の官僚ではなかった。

グレゴール・ハルトマン。

63歳。

王都に置かれた《商業ギルド組合》の組合長である。

各地の商業ギルドから送られてくる穀物価格。

商品の値動き。

物流量。

小切手決済額。

不渡り件数。

貨幣不足。

商会の倒産。

王国内を巡る商業の情報は、最終的に彼のもとへ集まる。

商業ギルド組合長は国王によって任命される。

だが。

国王の都合で商人の信用を曲げるための役職ではない。

むしろ。

王であろうと、公爵であろうと。

信用制度へ勝手な手を入れようとする者がいれば、それを止める立場でもあった。

「グレゴール」

「はい、陛下」

「アスタリア大商会からの申請について、一つ頼みがある」

グレゴールの目が僅かに細くなった。

「内容を伺う前に、一点だけ確認してもよろしいでしょうか」

「言え」

「審査結果そのものについてのご命令でございましたら、お受けできません」

静かな声だった。

しかし。

一切の迷いはなかった。

アーサーは怒らない。

むしろ。

僅かに口元を緩めた。

「だから、お前をそこへ置いている」

「恐れ入ります」

「安心しろ。逆だ」

「逆、でございますか?」

アーサーは申請書へ手を置いた。

「最も厳しく審査してやってくれ」

グレゴールが黙った。

「……シェリィ様を?」

「ああ」

「登録を認めるな、という意味ではございませんな?」

「違う」

即答だった。

「落とせと言っているのではない」

一呼吸。

「一切、手心を加えるな」

グレゴールは国王を見つめる。

「通常より高い合格基準を設けるということでしょうか」

「基準は変えるな」

「存在しない欠陥まで探せと?」

「するな」

「公爵令嬢であることを不利に扱うことも?」

「論外だ」

「では反対に、公爵令嬢であることを理由として有利に扱うことも?」

「必要ない」

そこで。

グレゴールは初めて小さく頷いた。

「承知しました」

アーサーは椅子へ深く腰を預けた。

「あの子の能力を疑っているわけではない」

「それは存じております」

「15歳で国家予算の監査に関わった娘だ。帳簿を読めるか、利益と損失を理解できるか、契約書を扱えるかなど、今さら試す必要はない」

王宮財務局で扱われる具体的な数字まで、商業ギルドへ公開されているわけではない。

だが。

シェリィ・ヴァルモントという少女が、国家財政に関わる仕事を任されていた。

その程度のことならば、王国経済を扱う商業界の上層部にも知られていた。

グレゴールも例外ではない。

「その点を調べるためだけに王都から人を送るのであれば」

グレゴールが静かに答えた。

「旅費の無駄でございましょう」

「ああ」

だが。

アーサーの表情は緩まなかった。

「だからこそ、怖い」

「……」

「あの子は、一人で出来てしまう」

計算。

分析。

交渉。

契約。

予算。

判断。

何か問題が起これば、シェリィ自身が考えれば答えを出せる。

今のアスタリア大商会であれば。

それでも回るかもしれない。

「直接雇用は、まだ60人程度だ」

アーサーが言う。

「今なら、シェリィ一人が人の何倍も働けば、多少の穴は埋められる」

グレゴールは黙って聞く。

「だが100人になれば?」

一つ。

「1000人になれば?」

二つ。

「数万人の暮らしが、あの商会の熱と物流に依存するようになれば?」

そして。

「シェリィ本人が倒れた日は、誰が決める?」

静寂。

それこそが。

アーサーの懸念だった。

「小切手を振り出す資格を与えるということは」

アーサーは申請書を指先で軽く叩いた。

「王国中の商人へ、『この商会は約束した金を必ず支払う』と信用させることだ」

小切手は。

紙に数字を書けば金が生まれる仕組みではない。

その紙を受け取る者が。

そこに記された金額を信用する。

さらに別の取引相手も。

その信用を受け継ぐ。

だからこそ。

一人の優秀な人間がいるだけでは足りない。

その人間が不在でも。

病に倒れても。

商会そのものが約束を守れる仕組みが必要になる。

「今のうちに壊してやってくれ」

グレゴールの眉が動いた。

「壊す、と?」

「弱いところだけをだ」

アーサーは真っ直ぐ彼を見る。

「いつか大勢を巻き込んで崩れるくらいなら、まだ小さいうちに穴を全部見つけてやってくれ」

そして。

僅かに声を落とした。

「今なら、まだ失敗できる」

グレゴールは。

しばらく国王を見つめていた。

やがて。

口元を僅かに緩める。

「……難儀な可愛がり方をなさいますな」

「お前に言われたくはない」

「確かに」

2人の間に、小さな笑いが生まれた。

グレゴールもまた。

シェリィを幼い頃から知る一人だった。

もっとも。

ヴァルモント公爵領の商業ギルドで日常的にシェリィを見ていた者ほどではない。

「現地審査の責任者には、オスカー・ベルンハルトを置きます」

「オスカーか」

「はい」

54歳。

ヴァルモント公爵領商業ギルド副ギルド長。

父ローランドに連れられ、小さなシェリィが商業ギルドへ顔を出していた頃から知っている男だ。

「あの男ならば」

グレゴールが言った。

「シェリィ様の能力を知っているからこそ、余計な能力試験などしないでしょう」

「それでいい」

「ただし」

グレゴールの声が少し硬くなる。

「ヴァルモント公爵領商業ギルドは、今回アスタリア大商会の保証人となることを申し出ています」

「ああ」

「ですから、オスカーだけに評価させるわけにはまいりません」

保証する側。

審査される側。

双方が近すぎれば。

正しい審査であったとしても、外から疑われる。

信用制度では。

結果だけではなく。

その過程も重要だった。

「王都組合本部から3名の専門審査官を同行させます」

「誰だ」

「ベアトリス・ケラー」

46歳。

上席信用審査官。

会計。

財務。

資金繰り。

小切手決済。

信用管理。

「セドリック・エインズワース」

51歳。

契約審査官兼商事紛争調停官。

契約。

権限。

責任範囲。

商取引上の紛争。

「そしてミリアム・ファルク」

39歳。

実地業務監査官。

物流。

在庫。

倉庫。

内部管理。

非常時の事業継続。

「3名には、それぞれ独立して審査記録を作成させます。オスカーは現地全体を統括しますが、最終的な登録判断は私が行います」

アーサーが頷いた。

「それでいい」

「もう一点」

「何だ」

「今回のご依頼について、シェリィ様には?」

「知らせるな」

アーサーは即答した。

「あの子なら」

少しだけ苦笑する。

「私が何を考えているかまで分析し始める」

「でしょうな」

「これは試験だ。答えを教える必要はない」

「承知いたしました」

グレゴールが立ち上がる。

深く一礼。

扉へ向かう。

その背へ。

アーサーが最後に声をかけた。

「グレゴール」

「はい」

「厳しく頼む」

老組合長は振り返り。

静かに答えた。

「信用とは、厳しく確かめてこそ価値がございます」

◇

星環暦(せいかんれき)1284年・翔風月(しょうふうげつ)≪第4月≫21日――

アスタリア大商会・仮本部

朝。

雪の残る街道の向こうから、4台の馬車が姿を現した。

最初に気づいたのは。

倉庫前で荷物を確認していた職員だった。

「来たぞ!」

声が上がる。

幾人もの視線が街道へ向いた。

先頭の馬車には。

王都商業ギルド組合の紋章。

後方の1台には。

ヴァルモント公爵領商業ギルドの紋章。

ついに。

現地審査が始まる。

「仕事を止めないでくださいませ」

仮本部の入口に立ったシェリィが言った。

「ですが、会長。審査団が――」

「だからこそです」

シェリィは穏やかに答える。

「審査の日だけ綺麗にしても意味はございません」

いつもの帳簿。

いつもの倉庫。

いつもの仕事。

審査官が知りたいのは。

取り繕った商会ではない。

普段のアスタリア大商会だ。

「いつも通りに」

シェリィが微笑む。

「はい!」

馬車が止まった。

扉が開く。

最初に降りてきたのは。

少し白髪の混じった、がっしりとした体格の男だった。

オスカー・ベルンハルト。

地面へ降り。

建物を見上げる。

そして。

入口に立つシェリィを見つけた。

厳しい顔が。

ほんの僅かに緩んだ。

「お久しぶりでございます、シェリィ様」

シェリィの表情にも。

懐かしさが浮かぶ。

「お久しぶりです、オスカー様」

「随分、大きなものを始められましたな」

「まだ始まったばかりですわ」

「その台詞を昔から何度聞いたことか」

シェリィが目を瞬く。

「昔?」

「新しい帳簿を一頁理解するたびに、『まだ一つ分かっただけです』とおっしゃっていたでしょう」

「……そんなことまで覚えていらしたのですか」

「忘れる方が難しいですな」

シェリィが僅かに笑った。

「でしたら、今回も助け舟を出してくださるのでしょう?」

「残念ながら」

オスカーは首を振った。

「昔は帳簿を覗き込むお嬢様でした」

一拍。

「今は商会の会長です」

シェリィの笑みが。

少しだけ引き締まる。

「なるほど」

「本日は昔のようには参りませんぞ」

「望むところですわ」

その後ろから。

3人が降りてきた。

最初は。

髪をきっちりとまとめ、銀縁の眼鏡をかけた女性。

ベアトリス・ケラー。

次は。

穏やかな微笑みを浮かべた男性。

セドリック・エインズワース。

最後は。

馬車を降りた瞬間から、建物ではなく倉庫と荷車の配置を観察している女性。

ミリアム・ファルク。

オスカーが3人を紹介する。

シェリィは一人ずつへ丁寧に礼を取った。

「遠いところをお越しいただき、ありがとうございます」

セドリックが微笑む。

「こちらこそ。王都でも随分と興味深い商会だと話題になっていますよ」

ベアトリスは軽く一礼しただけだった。

一方。

ミリアムは。

西側の倉庫を見たまま尋ねる。

「あちらの屋根ですが」

「はい?」

「積雪対策は?」

シェリィが答えるより早く。

倉庫担当の職員が口を開いた。

「今月初めに梁を追加しております。毎朝積雪量を確認し、基準を超えた場合は除雪班を出します」

ミリアムの視線が職員へ移った。

「記録は?」

「ございます」

「後ほど確認します」

その瞬間。

シェリィは気づいた。

(もう審査は始まっている)

◇

同日――

アスタリア大商会・会議室

机を挟み。

審査団4人。

そして。

シェリィと各部門の責任者が座っていた。

オスカーが資料を机へ置く。

「それでは」

全員の視線が集まった。

「アスタリア大商会の現地審査を開始いたします」

シェリィは背筋を伸ばす。

「よろしくお願いいたします」

「その前に」

オスカーが言った。

「シェリィ様」

「はい」

「退席をお願いいたします」

「……はい?」

静まり返った。

職員たちも。

シェリィも。

すぐには意味を理解できなかった。

「私が、でしょうか?」

「はい」

「申請商会の代表ですが」

「存じております」

「帳簿についてご質問があるのでは?」

「シェリィ様」

オスカーの声は穏やかだった。

「あなたが帳簿を読めることは、昔から知っております」

「……」

「契約も」

一つ。

「財務も」

二つ。

「取引判断も」

三つ。

「15歳で国家予算に関わる数字を扱っていた方へ、商会の収支計算が出来るかと尋ねても仕方ありません」

シェリィは黙った。

「我々が確認したいのは」

オスカーは。

シェリィの後ろに並ぶ職員たちを見る。

「あなたではありません」

そして。

「あなたがいなくても、この商会が動くかです」

シェリィの瞳が僅かに揺れた。

「ですので」

オスカーが扉へ視線を向ける。

「まずは代表不在という条件で審査いたします」

数秒。

シェリィは考えた。

そして。

立ち上がる。

「承知いたしました」

反論しなかった。

扉の前で。

一度だけ振り返る。

「皆さん」

職員たちを見る。

「普段通りにお願いいたします」

「はい」

シェリィが部屋を出る。

扉が閉まった。

直後。

ベアトリスが帳簿を開いた。

「では、始めます」

◇

1時間後――

総務財務部。

ベアトリスが担当者へ尋ねた。

「本日、予定外に銀貨30枚の支出が発生したと仮定します」

「銀貨30枚ですか」

「熱供給設備の重要部品が故障したことにしましょう」

担当者が考える。

「緊急購入が必要です」

「はい」

「誰が承認しますか?」

担当者は答えた。

「シェリィ様へ確認します」

ベアトリスの羽根ペンが動いた。

「代表は不在です」

「……」

「病気で連絡も取れないとします」

担当者が止まった。

「では」

もう一度。

考える。

「総務財務部の責任者が――」

「その方には銀貨30枚の臨時支出を承認する権限がありますか?」

「……」

規則を探す。

ない。

「ありません」

「では?」

答えられなかった。

ベアトリスは。

何も責めず。

ただ記録した。

◇

物流商務部。

ミリアムが地図を机へ広げた。

「明日から、北街道が3日間閉鎖されます」

担当者が身を乗り出す。

「雪崩でしょうか」

「理由は何でも構いません」

ミリアムが一点を指す。

「ここが使えない」

「でしたら西側へ迂回を――」

「西街道も閉鎖」

「南回りで」

「橋が破損しました」

「……」

ミリアムは表情を変えない。

「現在の備蓄は、食料7日分」

一つ。

「熱供給設備の交換部品5日分」

二つ。

「建設資材3日分」

三つ。

「輸送力は通常の4割まで落ちます」

担当者を見る。

「何を優先しますか?」

職員が考える。

しかし。

複数の取引先。

住民。

熱供給。

建設。

どれを優先するか。

明確な基準がない。

「シェリィ様へ――」

言いかけ。

止まる。

ミリアムが言った。

「代表はいません」

沈黙。

◇

契約部門。

セドリックは。

3人の中で最も柔らかな雰囲気だった。

「難しいことではありません」

そう言って。

1枚の契約書を置く。

「この取引先が、納期を2日延長したいと言っています」

職員が確認する。

「契約上は違約条項がございます」

「では、直ちに違約金を請求しますか?」

「天候などの事情によっては――」

「今回は吹雪です」

「でしたら免除してもよいかと」

セドリックが微笑む。

「あなたの判断で?」

職員が止まる。

「……」

「では1日なら?」

「それくらいであれば」

「どこに、その権限が書かれていますか?」

「……」

セドリックの笑顔は変わらない。

「『それくらい』とは」

静かに。

「どこまでです?」

答えは。

出なかった。

◇

夕刻。

シェリィは再び会議室へ呼ばれた。

机の上には。

朝より多くの記録用紙が積まれていた。

オスカーが一枚を持ち上げる。

「27回」

「何がでしょう?」

「本日」

一度。

「職員の皆様が」

二度。

「『シェリィ様へ確認します』と答えた回数です」

シェリィは黙った。

「帳簿に問題がございましたか?」

ベアトリスが答える。

「いいえ。非常に良好です」

「在庫管理は?」

ミリアム。

「精度は高いです」

「契約書は?」

セドリック。

「よく出来ています」

なら。

何が問題なのか。

シェリィの表情を見て。

オスカーが言った。

「問題は」

一呼吸。

「シェリィ様です」

職員たちが緊張した。

シェリィ自身は。

視線を逸らさなかった。

「私?」

「正確には」

オスカーが言い直す。

「あなたが優秀すぎることです」

「……意味が分かりません」

「何か問題が起こる」

一つ。

「職員がシェリィ様へ報告する」

二つ。

「シェリィ様が考える」

三つ。

「答えを出す」

四つ。

「職員が実行する」

オスカーは机へ指先を置いた。

「現在のアスタリア大商会は」

ゆっくり。

「一つの組織というより」

シェリィを見る。

「シェリィ・ヴァルモントという巨大な頭脳へ、各部署が接続されている状態です」

シェリィは。

反論しようとして。

やめた。

27回。

数字が。

目の前にある。

「私は会長です」

それでも。

静かに答えた。

「最終的な責任を負う立場です」

「その通りです」

オスカーが頷く。

「ですが」

一拍。

「最終責任者と、唯一の判断者は違います」

その言葉は。

シェリィの胸へ。

思った以上に深く刺さった。

「では」

シェリィは尋ねた。

「どう改善すればよろしいでしょう」

オスカーは首を横へ振った。

「それを我々へ聞いてはいけません」

「……」

「審査官が経営方法まで作れば」

穏やかに。

「それはアスタリア大商会ではなく、商業ギルドが作った商会になってしまいます」

シェリィは数秒。

黙った。

そして。

「承知いたしました」

頭を下げた。

「自分で考えます」

オスカーの目が。

ほんの少しだけ柔らかくなった。

◇

星環暦1284年・翔風月≪第4月≫22日――

アスタリア大商会・仮本部

審査2日目。

ベアトリスは。

朝から財務帳簿を確認していた。

売上。

原価。

給与。

設備投資。

借入。

返済。

熱供給事業の収支。

どれも。

驚くほど整理されている。

予測値についても。

都合のよい数字だけを並べていない。

収入は控えめ。

支出は余裕を持って計上。

悪天候による物流遅延も。

設備修繕も。

一定額が最初から見込まれていた。

ベアトリスの筆が止まる。

「これは」

財務責任者を見る。

「会長が作ったものですか?」

「基本となる計算方式は会長です。ただ、実績数字の更新と月次集計はこちらで行っています」

「なるほど」

ベアトリスは。

さらに問いを重ねた。

「最大取引先からの入金が1か月遅れた場合は?」

担当者が答える。

「手元資金を確認し――」

「同じ日に熱供給設備が故障します」

「……」

「さらに給与支払日です」

「……」

「ヴァルモント公爵家からの融資返済も重なりました」

ベアトリスが見る。

「どの支払いを優先し、何を延期しますか?」

担当者は。

すぐには答えられなかった。

結局。

また。

「会長へ相談を」

という言葉が出た。

◇

星環暦1284年・翔風月≪第4月≫23日――

アスタリア大商会・会議室

審査3日目。

セドリックは。

契約担当者たちを相手にしていた。

「納期を3日延長したい」

「契約変更が必要です」

「では2日なら?」

「同じです」

「1日なら?」

担当者が一瞬迷う。

セドリックはそこを見逃さない。

「半日なら?」

「……」

「運送費を1%変更する」

「それは代表の許可を――」

「0.5%なら?」

「……」

「0.1%では?」

職員が困った。

セドリックは穏やかに言った。

「私が意地悪をしているように見えますか?」

「少しだけ」

会議室に。

小さな笑いが起きる。

「安心しました。正しい感覚です」

セドリックも笑う。

そして。

表情を戻した。

「しかし契約では、『少しくらい』が最も危険なのです」

金額が小さい。

日数が短い。

だから。

自分で判断していいだろう。

それが積み重なる。

誰が。

どこまで。

契約内容を変えられるのか。

その境界が。

アスタリア大商会にはまだなかった。

◇

星環暦1284年・翔風月≪第4月≫24日――

アスタリア大商会・第一倉庫

審査4日目。

ミリアムは。

帳簿より先に現場へ入った。

箱。

棚。

通路。

荷札。

扉。

暖房。

雪対策。

全てを見る。

「この部品」

一つの木箱を指した。

「帳簿では12個ですね」

「はい」

職員が数える。

1。

2。

3。

やがて。

顔色が変わった。

「……11個です」

空気が固まる。

すぐに調査。

結果。

朝。

熱供給設備の修繕班へ1個渡されていた。

単なる記録の遅れだった。

盗難でも。

紛失でもない。

だが。

ミリアムは言った。

「現物が動いた瞬間と」

帳簿を見る。

「記録が動く瞬間に差があれば」

職員を見る。

「事故が起きた時、紛失と使用済みの区別がつきません」

「はい」

「今は1個です」

そして。

「100個になった時も同じ管理が出来ますか?」

職員が。

深く頭を下げた。

「改善します」

「お願いします」

責めない。

だが。

見逃さない。

それが。

ミリアムの審査だった。

◇

星環暦1284年・翔風月≪第4月≫25日――

アスタリア大商会・仮本部

審査5日目。

シェリィは。

少しだけ疲れていた。

通常の現地確認なら。

そろそろ終わってもよい頃だと思っていた。

それなのに。

審査官たちは帰る様子がない。

昼。

廊下でオスカーを見つけた。

「オスカー様」

「はい」

「一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか」

「審査の答えでなければ」

「通常」

シェリィは彼を見る。

「商業ギルドの現地審査というものは、これほど長いのですか?」

オスカーは。

ほんの僅か。

間を置いた。

「場合によります」

シェリィの目が細くなる。

「便利なお答えですわね」

「商人ですので」

「私も商人になったつもりです」

「でしたら」

オスカーは微笑む。

「今の答えから、何かをお読みください」

シェリィが。

僅かに頬を膨らませる。

「……意地悪ですわ」

オスカーの表情が。

一瞬だけ懐かしさを帯びた。

「昔も、同じことをおっしゃいましたな」

「昔?」

「帳簿の間違いを教えなかった時です」

「その時は、最後には教えてくださいました」

「シェリィ様が8歳でしたから」

「今は?」

オスカーは。

答えた。

「アスタリア大商会の会長です」

それを聞いて。

シェリィは。

もう何も尋ねなかった。

◇

星環暦1284年・翔風月≪第4月≫26日――

アスタリア大商会・仮本部

審査6日目。

朝一番。

ミリアムが宣言した。

「本日は非常事態想定審査を行います」

職員たちが緊張する。

「午前8時」

一枚の紙を置く。

「北街道が通行不能」

さらに。

「午前9時。第一倉庫の一部が使用不能」

もう一枚。

「午前10時。熱供給設備の交換部品が予定日に到着しないことが判明」

次々と。

想定事故が追加されていく。

そして。

午後。

ベアトリスが加わった。

「主要取引先からの支払いが遅延」

セドリックも。

「別の取引先から契約条件変更の申し入れ」

複数の問題が。

同時に発生する。

シェリィは。

何度も指示を出した。

正確だった。

速かった。

そして。

夕方。

ミリアムが淡々と言った。

「すべて解決しました」

シェリィが僅かに息を吐く。

「ですが」

続く。

「会長がすべて解決しました」

シェリィの手が止まった。

「明日は条件を変えます」

「条件?」

「はい」

ミリアムは言った。

「シェリィ様は、明日から病気です」

「……はい?」

一瞬。

職員たちから。

何とも言えない空気が漂った。

「もちろん想定です」

「それは分かります」

「高熱で会話不能」

「そこまで?」

「はい」

ミリアムは真顔だった。

「人間は、病気になります」

その一言には。

反論できなかった。

◇

星環暦1284年・翔風月≪第4月≫27日――

アスタリア大商会・仮本部

審査7日目。

朝から。

シェリィは執務室を追い出された。

正確には。

いる。

しかし。

仕事へ口を出せない。

「会長への質問は禁止します」

ミリアムが職員へ告げる。

「緊急連絡も?」

「禁止です」

「ですが、本当に判断できない場合は?」

「会長は高熱で寝込んでいます」

「……」

「現実なら、どうしますか?」

それだけだった。

最初の2時間で。

問題が出始めた。

支払い。

仕入れ。

契約変更。

人員配置。

設備修繕。

今までなら。

「会長へ確認します」

それで終わった。

今日は。

使えない。

職員たちは。

初めて。

自分たちで相談し始めた。

財務と物流。

物流と熱供給。

総務と倉庫。

シェリィは。

別室で報告だけを受けた。

口は出せない。

(そこは、先に在庫を確認した方がいい)

言えない。

(その取引先なら、過去の支払い履歴を見れば判断できますわ)

言えない。

(違う。そこは――)

何度。

椅子から立ち上がりそうになったか分からない。

そのたび。

座り直した。

夕方。

商会は。

止まっていなかった。

判断が遅れた案件はある。

何度も話し合った。

一度決めたことを訂正した部署もある。

しかし。

止まらなかった。

シェリィは。

一人になった執務室で。

長い間。

机を見つめていた。

嬉しかった。

自分が何もしなくても。

皆が動いた。

だが。

それ以上に。

気づいてしまった。

(私は……)

自分の手を見る。

(任せているつもりだった)

仕事は渡していた。

だが。

判断は。

渡していなかった。

何かあれば。

最後はシェリィへ戻る。

それを。

当然だと思っていた。

理由は簡単だった。

自分で判断した方が早い。

前世でも。

そうだった。

資料が複雑なら。

自分で読んだ方が早い。

数字が多ければ。

自分で整理した方が早い。

今世でも。

15歳の頃には。

国家予算の膨大な数字を前に。

誰かへ説明する時間より。

自分で処理することを選ぶ場面が多かった。

それは。

分析官ならば。

強さだった。

だが。

今は。

経営者だ。

シェリィは。

新しい紙を一枚。

机へ置いた。

代表。

副責任者。

部門責任者。

現場責任者。

その下へ。

線を引く。

金額。

契約。

在庫。

設備。

人員。

緊急時。

誰が。

何を。

どこまで。

決めてよいのか。

代表へ上げる必要があるのは。

どこからなのか。

考える。

だが。

途中で。

羽根ペンが止まった。

(違う)

自分だけで作れば。

また。

同じだ。

翌朝。

シェリィは。

各部署の責任者を会議室へ集めた。

◇

星環暦1284年・翔風月≪第4月≫28日――

アスタリア大商会・会議室

審査8日目。

「まず」

シェリィは立ち上がった。

そして。

頭を下げた。

職員たちが驚く。

「会長?」

「今まで」

シェリィは顔を上げる。

「私が決めすぎておりました」

「そんなことは――」

「いいえ」

静かに止める。

「皆さんを信用していなかったつもりはございません」

一呼吸。

「ですが」

「任せるための仕組みを作らなかった」

そして。

少し苦笑する。

「結果としては、信用していないのと同じですわね」

誰も。

すぐには答えなかった。

しばらくして。

総務財務部の責任者が。

机の上の紙を見た。

「会長」

「はい」

「でしたら」

その紙を指す。

「これを、私たちも一緒に作らせていただけませんか」

シェリィが目を瞬く。

「一緒に?」

「はい」

物流担当も口を開く。

「現場で何が起きるかは、現場の方が分かります」

倉庫担当が続く。

「雪の日に、どの仕事から止まりやすいのかも」

熱供給担当も。

「設備異常の時、現場でどこまで判断出来なければ危険なのかも」

一人。

また一人。

意見が出る。

シェリィは。

しばらく皆を見つめた。

そして。

笑った。

「では」

席へ戻る。

「皆さん」

「教えてくださいませ」

その日。

アスタリア大商会は。

自分たち自身の仕組みを作り始めた。

◇

星環暦1284年・翔風月≪第4月≫29日――

アスタリア大商会・仮本部

審査9日目。

新しい規則が。

次々に作られていった。

小額支出。

担当責任者。

中額支出。

部門責任者。

一定額以上。

代表。

代表不在時。

副責任者を含む臨時決裁。

契約変更。

納期。

数量。

価格。

どこまでなら担当者が判断できる。

どこから上へ回す。

在庫不足。

優先順位。

食料。

医薬品。

熱供給設備。

生活維持に必要な物資。

建設資材。

そして。

取引先の信用評価。

過去の支払実績。

契約履行。

借入状況。

取引期間。

遅延回数。

シェリィの頭の中で行われていた判断を。

出来る限り。

別の人間でも再現できる形へ変えていく。

もちろん。

完全にはならない。

人間の判断を。

すべて紙へ変えることなど出来ない。

だから。

判断が必要な余白も残す。

そのために。

責任者へ権限を渡す。

審査官たちは。

一切。

作業を手伝わなかった。

ただ。

見ていた。

ベアトリスも。

セドリックも。

ミリアムも。

オスカーも。

何も教えない。

それでも。

4人の記録用紙には。

確実に。

新しい文字が増えていった。

◇

星環暦1284年・翔風月≪第4月≫30日――

アスタリア大商会・会議室

審査10日目。

最終確認。

初日と。

同じ席。

同じ職員。

同じ審査官。

ただ。

違うことが一つ。

シェリィは。

会議室の後ろへ座っている。

「本日は」

オスカーが言った。

「シェリィ様の発言を禁止いたします」

「承知しております」

少しだけ不満そうな声に。

セドリックが笑いを堪えた。

ベアトリスが。

最初の質問を出す。

「予定外に銀貨30枚の緊急支払いが必要です」

財務担当が答える。

「設備維持に関わる緊急支出であれば、財務責任者と該当部門責任者の共同承認で実行します」

「規定額を超えた場合は?」

「代表承認です」

「代表不在」

「副責任者を含めた臨時決裁へ移行します」

「記録は?」

「全件残します。代表復帰後に報告します」

即答。

ベアトリスの羽根ペンが動く。

次。

ミリアム。

地図を広げる。

「北街道が3日間閉鎖」

「はい」

「西側も通れません」

「はい」

「南の橋も破損」

物流責任者は。

以前とは違う。

慌てない。

「備蓄物資の優先順位を切り替えます」

「最優先は?」

「医薬品、食料、熱供給維持に必要な部品」

「建設資材は?」

「延期します」

「既存取引先は?」

「遅延見込みが判明した時点で連絡。代替ルートを同時に探索します」

「誰が決めますか?」

「物流責任者である私です」

「代表には?」

「事後報告です」

ミリアムの口元が。

ほんの僅かに上がった。

次。

セドリック。

「取引先が納期を1日延長したい」

「天候起因であり、過去の履行に問題がない場合は、担当責任者が1日まで延長を認められます」

「2日」

「部門責任者です」

「価格を0.1%変更したい」

「価格変更は担当者権限に含まれません」

「たった0.1%ですよ?」

「0.1%でも契約価格です」

セドリックが。

満足そうに頷いた。

最後。

ベアトリスが。

一枚の資料を差し出した。

「新規取引先です」

職員が受け取る。

「信用できますか?」

以前なら。

シェリィへ回していた。

今日は違う。

支払実績。

借入。

取引履歴。

資産。

負債。

契約履行。

評価表。

数分。

職員が答えた。

「条件付きで取引可能と判断します」

「理由は?」

「過去の支払いに問題はありません。しかし、直近3か月で借入が増えています」

資料を指す。

「初回取引は少額」

一つ。

「一部前金」

二つ。

「3か月後に再審査」

三つ。

「これを条件とします」

ベアトリスは。

しばらく職員を見た。

そして。

初めて。

はっきりと頷いた。

後ろで。

シェリィは。

何も言わない。

だが。

その表情には。

小さな笑みがあった。

その答えは。

自分が判断しても。

ほぼ同じだった。

けれど。

自分は。

何もしていない。

それでも。

商会は。

同じ場所へたどり着いた。

そのことが。

何より嬉しかった。

◇

同日――

アスタリア大商会・会議室

夕刻。

長かった現地審査が。

終わった。

会議室には。

シェリィと。

オスカーだけが残っていた。

窓の外では。

細かな雪が降り始めている。

「お疲れさまでございました」

オスカーが言った。

「……本当に疲れましたわ」

シェリィは。

珍しく。

素直に答えた。

「国家予算の監査より?」

「疲れ方が違います」

「なるほど」

少し。

沈黙。

「オスカー様」

「はい」

「率直に伺ってもよろしいでしょうか」

「もちろん」

「初日のアスタリア大商会は」

シェリィは尋ねた。

「どのように見えました?」

オスカーは。

しばらく考えた。

「優秀でした」

「……」

「帳簿も」

一つ。

「契約も」

二つ。

「在庫管理も」

三つ。

「事業計画も」

四つ。

「新設された商会としては、非常に高い水準でした」

シェリィの表情が少しだけ緩む。

しかし。

「ただし」

やはり。

続きがあった。

「シェリィ様が、商会そのものでございました」

シェリィは。

黙って聞く。

「あなたが見て」

「あなたが考え」

「あなたが決める」

オスカーが窓の外を見る。

「それでも小さな組織ならば強い」

だが。

「それでは、大商会にはなれません」

シェリィは。

ゆっくり頷いた。

「今なら?」

オスカーが振り返る。

「今であれば」

少しだけ。

笑う。

「シェリィ様が一日寝込まれても、夕方までには商売を続けているでしょうな」

「一日だけ?」

シェリィが眉を寄せる。

「まだ10日ですので」

「厳しいですわね」

「審査官ですから」

「昔でしたら?」

オスカーの表情が。

柔らかくなった。

「大変よく出来ました、と頭を撫でております」

「……18歳ですわ」

「ですから、やりません」

「そうしてくださいませ」

2人が。

小さく笑った。

そして。

オスカーは。

机に置かれた審査記録へ視線を落とした。

「ですが」

一拍。

「今なら申し上げられます」

シェリィを見る。

「ようやく」

ゆっくりと。

「アスタリア大商会になりましたな」

その言葉を。

シェリィは。

すぐには返せなかった。

大商会。

名だけなら。

最初から掲げている。

けれど。

あの名前に。

組織としての意味が生まれたのは。

もしかすると。

今日なのかもしれない。

「ありがとうございます」

シェリィは。

深く頭を下げた。

そして。

すぐに顔を上げた。

「では」

少し期待を込める。

「登録審査は、合格でしょうか?」

オスカーは。

笑った。

「それを申し上げる権限は、私にはございません」

「……まだですの?」

「現地審査が終わっただけです」

オスカーは。

机の上の書類をまとめる。

自分の報告書。

ベアトリス。

セドリック。

ミリアム。

4つの評価。

それを。

一つの封筒へ入れた。

「王都へ持ち帰ります」

封蝋を押す。

「最終判断は」

一拍。

「グレゴール・ハルトマン組合長が行います」

シェリィは。

封じられた書類を見つめる。

「結果は?」

「正式審議の後です」

「そうですか」

ほんの少しだけ。

残念そうな表情。

それを見て。

オスカーが。

懐かしそうに笑った。

「シェリィ様」

「何でしょう」

「昔」

一呼吸。

「帳簿の答えを教えてもらえなくて、頬を膨らませていた時と」

もう一度。

「今、ほとんど同じ顔をなさっていますぞ」

「しておりません」

「そういうことにしておきましょう」

「オスカー様」

「はい?」

「明日の朝、王都へお帰りになるのでしたね?」

「その予定ですが」

シェリィが。

にこりと笑った。

「少し早めの出発をお勧めいたします」

「これは手厳しい」

「商人ですので」

今度は。

シェリィが返した。

オスカーは。

声を上げて笑った。

◇

星環暦1284年・翔風月≪第4月≫30日――

セレスティア王宮・国王執務室

夜。

窓の外には。

王都の灯りが広がっていた。

アーサーは。

執務机で書類を読んでいた。

そこへ。

側近が入室する。

「陛下」

「何だ」

「アスタリア大商会の現地審査が、本日終了したとの連絡が入りました」

アーサーの手が止まった。

「そうか」

「詳細な報告書は、審査団の帰還後に商業ギルド組合へ提出されます」

「分かった」

「結果について、何かお問い合わせになりますか?」

アーサーは。

少し考えた。

そして。

首を横へ振る。

「必要ない」

「よろしいので?」

「ああ」

グレゴールへ頼んだ。

最も厳しく見ろ。

手心を加えるな。

だから。

ここで自分が結果を尋ねれば。

意味がない。

「グレゴールが判断する」

「承知いたしました」

側近が一礼し。

退出する。

部屋に。

静けさが戻った。

アーサーは。

机の端に置かれた別の書類へ視線を向けた。

そこには。

アスタリア大商会。

その名前。

幼い頃。

王宮の財務資料を覗き込み。

大人相手に。

「どうしてこの数字と、この数字が合わないのですか?」

と尋ねていた少女。

今では。

自分の商会を持っている。

アーサーは。

僅かに笑った。

「さて」

誰もいない部屋で。

小さく呟く。

「どこまで直した、シェリィ」

答えは。

まだ知らない。

正式登録。

小切手振出資格。

そして。

ヴァルモント公爵領商業ギルドが差し出した保証。

それらを。

アスタリア大商会へ預けてよいのか。

最後に決めるのは。

王ではない。

商業ギルド組合だった。

信用とは。

誰かに与えてもらう称号ではない。

昨日まで積み重ねた約束を。

明日も守れると証明すること。

10日間。

シェリィが試されたのは。

数字ではなかった。

彼女のいない場所でも。

彼女が作った商会が。

約束を守り続けられるのか。

その答えを記した4通の審査報告書が。

いま。

王都へ向かっていた。

第11話をお読みいただき、ありがとうございます。

今回は、シェリィ自身の能力ではなく、「シェリィがいなくてもアスタリア大商会は動けるのか」という組織としての信用が試される10日間を描きました。

一人で何でも出来ることは、シェリィの大きな強みです。けれど、人を雇い、多くの暮らしを背負う経営者になったからこそ、「自分で出来る」から「人に任せられる」へ進む必要がありました。

現地審査は終了しました。

次に待つのは、王都《商業ギルド組合》による正式審議です。

アスタリア大商会は、全国で通用する「信用」を手にすることができるのでしょうか。

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