管理人
菜穂が丘の上に着く頃には、真ん丸に膨れて転がり上がってくるマークたちの様子にも慣れてきたが、その可愛らしい姿に菜穂は何度も頬を緩ませていた。
真ん丸マークたちは丘の上に着くと、中央にある樽みたいなものへ突進していき、樽の中へ顔を突っ込む。その様子を菜穂がポカンと眺めていると、ヘレネとクリュタイメストラが説明をしてくれた。
「マークたちは集めた蜜蜜を口から出して、ああやって樽に溜めていくのです」
「マークの胃袋は2つあるネ。一つ目は普通の胃袋、二つ目の胃袋が蜜蜜溜める特別な、ものアル!」
「蜜蜜専用の胃袋があるのね。すごいですね、マークって」
菜穂はマークに感心し、つくづく異世界の生き物って不思議だと考えた。樽に顔を突っ込んでいるマークたちをよく観察していると、見る間に真ん丸ボディが縮んで小さくなっていく。そうして、元の小さなサイズに戻ったマークたちは、『クーマ、クーマ』と鳴き声をあげながら、また花畑によちよち歩きで下っていった。
(おぉぅ、やっぱり可愛いすぎるー!)
菜穂は頬をふにゃっと緩ませながらよちよち歩きのマークたちを見送った。
一方、ヘレネとクリュタイメストラは丘の上で誰かを捜しているようで、辺りをキョロキョロとしていた。
『お姉さま、いませんね』
『おかしいわね、この時間帯ならここにいるはずなのに……』
首を傾げて顔を見合わせたヘレネとクリュタイメストラは、菜穂に向かって声をかける。
「ナーオ様、蜜蜜の管理人をちょっと捜してきますね」
「蜜蜜貰うのに、アイツ、必要にゃあー!」
「え? あ、はいっ」
菜穂は視線をマークからヘレネとクリュタイメストラに移して、コクコクと頷いた。
「そうか、蜜蜜の管理人さんがいるのね。今度こそ、おじいさんかしら? それにしても、いくら見ていても飽きないなぁー。本当にマーク可愛い! あぁ、癒されるー。あの鳴き声も可愛過ぎだし、歩く姿も真ん丸ボディも、もう全て可愛いー」
菜穂は次々と真ん丸姿で転がって上がってきては、小さく戻ってよちよち歩きで下っていくマークたちをすっかり緩みきった顔で飽きる事なく眺めていた。
『おー、お前もマーク好きか!?』
「へ?」
と、突然、菜穂のいる近くの大木の上の方から声が聞こえてきて、ざざっと何かが目の前に降って来た。
菜穂は驚いて「きゃあっ」と悲鳴をあげた。
『おっと、驚かしてわりぃな』
「え? 誰?」
目の前には、一人の茶髪の少年がにこにこと笑顔で立っていた。菜穂は目をぱちくりさせた。
『じいさんじゃなくてわりぃな。俺、一応、ここの管理人のリゲル。よろしくな!』
「えぇーっ!? 蜜蜜の管理人さんですか? あ、私は、ナホ・カンザキ。ナーオと呼ばれています。こちらこそ、よろしくお願いします」
『おぅ、ナーオだな。そう、このマークらの世話をして蜜蜜の管理をしているのさ、俺は!』
得意げに鼻の下を指で擦りながら、蜜蜜の管理人であるリゲルはニィッと笑みを浮かべる。そして、菜穂を見ると期待しているように瞳をキラキラとさせながら口を開いた。
『なぁ、ナーオもマークに惚れたのか? マーク、すっげー可愛いだろ?』
「はい、私もマークはとっても可愛いと思います!」
菜穂が笑顔でにこにこと返事をかえすと、リゲルは嬉しそうに頬を緩ませた。
『やりぃー、仲間だ! 俺さぁー、マークが大好きで好き過ぎてここの管理人になったんだよ。毎日、マークと遊んでマークを見て触れて、もう、幸せ過ぎ。あの円らな瞳に、よちより歩き、後ろ姿の尻尾も可愛いし、真ん丸になって転がる姿も、あの鳴き声も、色味も柄も、もう、全部可愛いんだよなぁ』
「それ、わかります! もう、初めて見た時から、胸をズキュンって撃ち抜かれてしまって。本当にマーク可愛過ぎです!」
『おー、お前、話分かるな!』
リゲルは嬉しそうに菜穂の手を取ると、ぶんぶんと振る。菜穂も、マーク好きのリゲルに親近感を持ち思わず笑った。
二人は暫く、マークの可愛い所談議に夢中になり、菜穂はリゲルから教えられるマークの新情報に瞳を輝かせていた。菜穂はマーク話に夢中になるあまり、リゲルと言葉が最初から通じている不思議さに気づいていなかった。
「えぇーっ!? あのマークたちみんなに名前があるのですか?」
『おうとも、全部、俺が名付けたんたぞ。こいつが、トミー。で、あっちがメリー。あの赤い縞のが、ジュンだな』
「すごいですね! 全ての名前を言えるなんて……」
『そんな大したことじゃないぞ。マークの愛があるから簡単だ!』
菜穂がリゲルと和気あいあいと話を続けていると、そこへ蜜蜜の管理人であるリゲルを捜しに行っていたヘレネとクリュタイメストラが足早に戻って来た。
そして、菜穂がリゲルと一緒にいるのを見て、二人同時に驚きの声をあげる。
「もう、やはりこちらにいたのですね」
「ナーオ様と一緒にいたアル!」
『ん? 何だ、ヘレネとクリュタイメストラじゃないか。俺を捜していたのか?』
『もう、リゲル様、そうですよ』
『散々、捜したし、疲れた』
『そうか。それは悪いことしたな。ずっとこのナーオとマークの話をしていてな、楽しかったぞ!』
菜穂は走り近づいてきたヘレネとクリュタイメストラがリゲルと話をしているのを見て、ヘレネとクリュタイメストラの言葉は分からないが、何故かリゲルの言葉は分かる事に、ここにきて漸く気づいた。
(あれ? そういえば、ずっと最初からリゲルさんと普通に話せてたよね? これって、どういうこと?)
不思議そうに首を捻って考え込んでいると、リゲルの驚いた声が耳に入ってきて「ん?」と顔を上げる。
リゲルは何をヘレネとクリュタイメストラから聞いたのか、菜穂をぷるぷる指差して叫んだ。
『げ! ナーオ、お前が噂の神子だったのか!?』
「え? どんな噂なのか知らないですけど、一応神子とか言われていますね」
『マジかよー。で、お前の主食は、本当に骨と内臓なのか? しかも、人間の!』
「は?」
リゲルの言葉に、ポカンと口を開いた菜穂の目は点になった。
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