蜜蜜
「よし、気を取り直して、もう一度作るわよー!」
菜穂は、気合いをいれて、ぱんぱんと軽く両頬を叩いた。
(こんな一度ぐらいの失敗で、大好きなアンコ諦められないからね。絶対に負けるものか!)
「ナーオ様、その意気ですわ!」
「ナーオ様、ステキにゃあ」
『わん、ぎゃふん』
パチパチパチと拍手をして応援するヘレネとクリュタイメストラの側で、料理長はまだ鳴いていた。
「さてと、問題は甘さなのよねー?」
菜穂は眉間に皺を寄せてうーんと唸る。ふと料理長に視線を向けた菜穂は、尋ねてみることにした。
(もっと凄く甘いもの、甘味ってないのかな?)
ヘレネとクリュタイメストラに通訳して貰いながら、砂糖よりも甘さのあるものがないか聞いてみる。
(よく考えてみたら、この砂糖、ちょっと甘さが足りないような微妙な味なのよね? 私のよく知る白砂糖とは違う感じで……うーん)
菜穂が首を捻って考え込んでいると、料理長と何やら話し込んでいたヘレネとクリュタイメストラが、明るい表情で菜穂に話しかけてきた。
「ナーオ様、ありますよ!」
「ズバリ、砂糖より甘いの、あるでちゅ!」
「え? 本当に?!」
菜穂は、ヘレネとクリュタイメストラの言葉にパアッと期待で顔を輝かせた。
「はい、マークの集める蜜蜜です!」
「蜜蜜、チョー、甘いある」
(マーク印の蜜蜜? 何か蜂蜜みたいなものかな? マークって何だろう?)
菜穂の脳裏に、ふと蜂蜜好きなあの黄色いキャラクターが一瞬浮かび上がったのだが、違うだろうと軽くふるふると首を振る。
「それで、その蜜蜜は、今あるのですか?」
菜穂が気になって尋ねると、ヘレネとクリュタイメストラは顔を見合わせて、料理長に視線を向けた。
すると、料理長は小さな瓶を持ってくる。
「ナーオ様、ありますけど、少しです」
「昨日、たくさん使ってしまった、にゃ! 残念あるー」
ヘレネとクリュタイメストラの返事を聞き、菜穂はがっくりと肩を落とした。
(とりあえず、アンコに合うかどうか、その蜜蜜を味見させて貰ってから考えよう)
菜穂は、料理長から蜜蜜の入った小瓶を受けとると、蓋を開けて中身をスプーンでそっとすくった。菜穂の想像していた通りに中身は蜂蜜みたいにとろっとしており、菜穂は垂らさないように気をつけてスプーンをゆっくりと口に運んだ。
「……っ!」
口にスプーンを入れた瞬間、カッと菜穂の両目が驚きで見開いた。
(な、何て美味しいのー! この芳醇で濃厚な甘さ。しかも、上品な! こんな蜂蜜初めてー、あ、蜜蜜だっけ。あまぁー、うまぁー。これ絶対に、アンコと相性バッチリじゃないのー!)
菜穂は、うっとりと目を閉じた。脳裏に浮かぶのは最高のアンコで作った和菓子の数々である。
(お饅頭、お団子、どら焼、鯛焼き、餡蜜、大福、羊羮……)
「ナーオ様?」
「ナーオ様、大丈夫でちゅか?」
ぷるぷると震えながらいつまでも目を閉じたままの菜穂の様子を見て、ヘレネとクリュタイメストラは心配そうに声をかけた。
料理長も、心配そうにおどおどと見つめている。
と、突然菜穂は閉じていた両目を再びカッと見開き、料理長に力強い視線を向けるとドドドドと勢いよく近づいた。
「料理長さん、この蜜蜜は、また手に入るの?」
『ひえー、神子様、私の骨は美味しくないですー』
菜穂の物凄い表情に、料理長はびっくりして、未だに勘違いされたままの神子様情報、『神子様は骨が大好き、心臓や内臓も食べます』を鵜呑みに信じて、カタカタと震えながら涙目でふるふると首を左右に振る。
一方菜穂は、料理長が首を振るのを見て勘違いし、蜜蜜がもう手に入らないと思い込んで、ガーンとショックを受けヨロヨロと後退りしながらへなへなと座り込んだ。
突然、ショックを受けたように座り込んだ菜穂を見て、ヘレネとクリュタイメストラも驚いて慌てて菜穂に駆け寄る。
「ナーオ様、どうしましたか?」
「ナーオ様、気分よくないアル? 大丈夫にゃ?」
『神子様、すみません、すみません。私の骨も心臓も美味しくないです』
料理長だけ誤解をしたまま変なことを言っているが、その言葉は菜穂を心配しまくるヘレネとクリュタイメストラの耳には届かなかった。
菜穂ももうアンコが作れないと思い込みショックを受けているため、ペコペコ謝り土下座までする料理長の奇妙な姿に気づかない。
(そんな……蜜蜜がもう手に入らないなんて! もう、アンコ作れないのー!?)
「うぅ、蜜蜜欲しいよー!」
思わず菜穂が叫ぶと、菜穂の側に寄り添っていたヘレネとクリュタイメストラは、キョトンと二人不思議そうに顔を見合わせた。
「あの……ナーオ様? 蜜蜜手に入りますが……」
「蜜蜜は、あるにゃあー」
菜穂は、ヘレネとクリュタイメストラの言葉に、ガバッと顔を上げ二人を真剣に見つめた。
「えっ? 本当に? 蜜蜜は、また手に入るの?」
「はい、いくらでも手に入りますね」
「問題ないアル。今からでも、取りに行けるにゃん」
「え? 今から?」
菜穂が二人の返事に目をパチクリとさせていると、ヘレネとクリュタイメストラは、未だに土下座をしたままの料理長に気付き不思議そうに顔を見合わせた。そのまま二人は料理長を起こして、何やら話をする。料理長は、二人の話に大きく頷いた。
菜穂は、ヘレネとクリュタイメストラと料理長が、話し合っているのをボーッと眺めていた。
(うーん、やっぱり、こっちの言葉が分からないのは不便だなぁ。時間のある時に、ヘレさんやクリュさんに少しずつ教えて貰おうかな? 一々、通訳して貰うのも大変だし……)
菜穂が、言葉が通じない不自由さについて考えていると、三人の話し合いは纏まったらしく、ヘレネとクリュタイメストラが菜穂に近づいてきた。
二人とも、ニコニコと笑顔である。
「ナーオ様、今から蜜蜜貰いに行きましょう!」
「マークから、蜜蜜、強奪、するアルにゃ!」
「まぁ、クリュタイメストラ……強奪とは、間違っていますわ。お願いして、頂くのです」
「強奪、言葉……違うに? 蜜蜜、頂くのじゃ!」
菜穂は、ヘレネとクリュタイメストラからの話に、「へ?」と驚いた様子で瞬きをした。
「えっ? 今から……?」
「はい、今からです」
「直ぐに、蜜蜜取りにいくにんにん!」
(えぇーっ!? 直ぐに取りにいけるって、近くにあるってことなのー??)
菜穂は、どういう事なのか分からず首を捻るも、とにかく、手に入らないと思っていた蜜蜜が
手に入る事にとても喜んだ。
「さぁ、裏庭に行きましょう」
「マークのとこに、行くにゃん!」
(ふむふむ、マークさん?が蜜蜜を作っているってことなのかなぁ?)
何となく農作業をしているおじいさんをぼんやりと想像しながら、菜穂はヘレネとクリュタイメストラについていくのであった。
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