突進
菜穂がベッドの上でごろごろ転がりながら思案し唸っていると、ノックの音とともにヘレネとクリュタイメストラが入ってきた。
「ナーオ様、お目覚めですか?」
「ズバリ、起きたでしょう!」
「あ、ヘレさんとクリュさん、おはようございます」
二人の声にハッと意識が外に向いた菜穂は、だらしなく寝転んでいた身体を慌てて起こす。その時、身体に軽く掛かっていた毛布がハラリと落ち、何も身につけていなかったため、裸体が露になった。
そんな菜穂の上半身を目にした二人は、ポッと頬を赤らめつつ、生温い眼差しを菜穂に向けた。
「昨夜はお楽しみご苦労様でちゅ」
「あら、クリュ……それは間違いですわ。お勤めご苦労様ですわ」
「オー、そうでちた。お勤め、ご苦労様でちゅ。いっぱい愛されたでしゅね」
「本当に……見事な紅花が咲き乱れています」
「すごいでちゅね……昨日のもまだ残っているだけに……ナーオ様の身体、紅花だらけでちゅう」
「えっ? へ?」
ニコニコと笑顔で話しかけてくる二人の会話を聞いていた菜穂は、自分の身体を見下ろして見る間に真っ赤になっていった。
いつの間にかつけられていたキスマークに、菜穂の顔色を青くしたり赤くしたりと変化させる。
「陛下、実はヤバイ、ド助平でちたね」
「まぁ、クリュ、それは可笑しい表現です。陛下は、マジヤバイ、エッチですね」
「マジ、ヤバイエッチでちゅか?」
「違うわ。ただの変態鬼畜よ!」
二人の会話に思わずつっこみを入れた菜穂は、オリオン王の顔を思い浮かべ、ふつふつと怒りが込み上げてきた。
(あの、変態鬼畜俺様王め! 何なのよ、このダニに食われたような跡は!)
昨夜の行為が脳裏でプレイバックして、菜穂は羞恥で真っ赤になって頭を抱えた。
(私の知らないうちに、こんなにキスマークつけやがってー! でも、私のバカバカー、最後の頃は、もっともっと……って、チューねだっていたかもー)
菜穂は、恥ずかしさのあまりゴンゴンと額をベッドに打ち付けた。
とは言っても、柔らかい弾力あるベッドであるため、額には何の影響もない。だが、ベッドの性能が良すぎるせいか、額を打つたびにその反動で身体が宙に浮く。
傍目から見ると、全裸で蹲った姿勢のままベッドの上で飛び跳ねる菜穂の姿は、異様であり滑稽であった。
「ナーオ様、どうしたでしょう?」
「女神様へ、お祈りをしているのでしょうか?」
「姉貴、それにしては変でちゅう。ナーオ様の故郷の踊りかも、しれないでしょう!」
「踊り……? にしては、不思議な動きですね?」
クリュタイメストラとヘレネは、そんな菜穂の動きをキョトンと不思議そうに見つめた。
「そういえば、姉貴。陛下は変態鬼畜だったのでちゅね」
「愛しすぎて変態鬼畜になってしまったのでしょう」
「そこには、愛があるのでちゅね!」
「愛……なんて素晴らしいのでしょう!」
「それでは、ナーオ様の動きは、愛の踊りでちょ」
「まぁ、クリュ……素晴らしい推測ですわ。愛のメモリアルダンスですわ!」
菜穂の動きを見つめながら、またもや勘違いをして瞳を輝かせる二人。
そんな双子の姉妹の視線に気づくまで、菜穂はベッドに額を打ち付けるのであった。
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(くっそー、あれもこれもみんな、変態王のせいなんだから!)
菜穂は心の中でオリオン王にたっぷりと毒づきながら、長い廊下をスタスタと早足で歩いていた。
菜穂の頭に浮かぶのは、先程のあれやこれやの恥ずかしい出来事ばかり。
あの後、お風呂に入ろうとベッドから降りようとした菜穂であったが、腰が抜けたように立つ事が出来なかったのである。
だから、当然の事、ヘレネとクリュタイメストラに楽しそうに騒がれ、昨夜の激しい行為を更に指摘された。キスだけだというのに……。
その上、ふらふらの身体では危険だからと、キスマークだらけの身体を洗われる初めての体験をする事となった。ゆっくりと疲れを癒すはずの入浴が、逆に、酷く疲れる羽目になったのである。
怒り持続中の菜穂が歩いていると、後ろから着いてきていたヘレネとクリュタイメストラが声をかけてきた。
「ナーオ様、そちらは違います」
「厨房は、こっちであるにゃ」
「えっ?」
二人の声が耳に入った菜穂は、ハッと顔を上げて振り向き、姉妹の案内してくれる方向へ慌てて走り戻った。
菜穂は今、ヘレネとクリュタイメストラに付き添われ、厨房へと向かっていた。
入浴後、身体が何とか自由に動けるようになるまで休憩をした菜穂は、前回行きそびれた厨房に行きたい事を二人に告げたのだ。
無論、二人は快く承諾してくれたのだが、オリオン王の事を考えていた菜穂は怒り心頭で、まだ不自由である重い身体を物ともせず、いつの間にか二人を追い抜いて歩いていたのである。
(餡子……あんこ……アンコー!)
菜穂の表情は鬼気迫るものがあった……。
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