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神子様は骨が好き!?【これは断じて私が俺様鬼畜王に捕まるまでの話ではありません!】  作者: 福丸 猫太


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宰相


『おぉ……やはりそのお姿は、神子様……。お目覚めになられたという噂は嘘ではなかった……』




 菜穂は、よろよろと自分に近付いてくる人物を少し驚いた表情をしながら黙って見つめていた。


 自分に話しかけてくるのは分かるが、言葉が理解できないのだ。


 白髪に白い髭を生やしたその人物を見て、菜穂はサンタクロースをぱっと思い起こす。サンタクロースの赤い衣装を身につければ、そっくりになる風貌をしていたからだ。




(誰だろう? このおじいさん……。本当にサンタクロースそっくり……)




 菜穂がぼんやりと見つめていると、杖をついたその老人は、不自由な右足を引きずりながらゆっくりではあるが、何やら真剣な表情で必死に近付いてきた。


 この時、菜穂は老人の羽織っているマントの色に気付いて、目を見張った。




(あれ? 確か、銀色って……王様の側近とかだったよね……? すると、このサンタのおじいさん、実は偉い人なの?)




 キョトンと瞬きをして菜穂が考えていると、隣に並んでいたアルテミス王女がその老人に声をかけた。




『宰相様、ナーオ姉様に何かご用ですか?』


『おぉ、これはアルテミス様、すっかりお元気になられたようで本当にようございました。ところで、ナーオ姉様とは? そのお方は……神子様とは違うのですかな?』


『いいえ、それは私がそう呼んでいるだけで、神子様でいいのです。お姉様のようにお慕いしておりますので……』


『そうでしたか。すっかり神子様と仲良くなられ、それはようございます。では、アルテミス様から神子様にお願いしていただけないですかな? わしの孫を助けてほしいと……』


『えっ!? 宰相様、そんなにエウロパの具合よくないのですか?』


『実は、ここ数日のうちに急に悪化しましてな……』


『何てこと……。宰相様、少しお待ち下さい』




 菜穂は、アルテミス王女とその老人が何やら真面目に話をしている様子を眺めていた。


 ヒアリングを試みたのだが、やはり何を話しているのか全く分からず、かろうじて分かるのは「ナーオ」と「アルテミス」の名前と「神子様」という単語だけ。何度も聞いていたので、「神子様」だけはいつの間にか覚えたのである。


 だから、最初に自分に声をかけてきた事が分かり、何か必死な感じがして足を止めたのであった。




(あー、もう気になるな……。サンタのおじいさんの話って何なの? やっぱりこっちの言葉、何とか覚えないといけないかな……)




 菜穂が気を揉んでいると、老人と話していたアルテミス王女が不意に顔を向けてきた。


 その表情が強張り何やら真剣であるため、菜穂は少し緊張した面持ちで王女を見つめ返した。




「どうしたの、アルテミス? 何かあったの?」




 菜穂が問い掛けるなり、アルテミス王女は泣きそうな表情で菜穂の手をきゅっと握ってきた。




「ナーオ姉様、お願いです。エウロパを助けて下さい! エウロパの病気が酷くなったって……」


「え? それって、アルテミスと同じ病気なの?」


「はい、エウロパは、そこにいらっしゃる宰相の孫にあたりまして、私の友人ですの。何でも急に具合が悪くなったみたいで……だから……私、心配で……」


「大丈夫よ、アルテミス」




 菜穂は、アルテミス王女の手をきゅっと握り返し、安心させるように微笑むと力強く頷いた。


 そして、サンタのおじいさんと心の中で命名した宰相にも笑顔を向けた。




「大丈夫です。絶対にお孫さんを助けますから……」


『おぉ……神子様……!』




 宰相にも菜穂の言葉が伝わったらしく、菜穂に向けて深々と頭を下げる。




 菜穂は、すぐに治療にいく事をアルテミス王女に伝えた。


 すると、アルテミス王女は背後に控えている騎士に何かを命じ、宰相にも何か話し伝えるのであった。


 菜穂が黙って見つめていると、騎士はどこかに走り去っていき、また宰相も菜穂に深々と頭を下げ去っていった。




「さあ、ナーオ姉様、宰相のお屋敷に参りますわよ。先に宰相がお屋敷に向かっておりますので、私たちもすぐに行きましょう!」


「えっ? 私たちって……アルテミスも一緒に行ってくれるの?」


「もちろん、だって……両方の言語が分かる私が必要になるでしょう?」




 わずかに首を傾げつつにっこりと微笑むアルテミス王女に、菜穂は微笑み返した。


 一瞬、王女様を連れ出していいのかと思ったのだが、緊急事態なのだからとそこはあまり気にしない事にした。


 とにかく菜穂は、まだ見ぬ宰相の孫であるエウロパを早く治療してあげたいと、彼女を元気にする使命感に燃えていたのである。


 この時、菜穂の頭からはすっかり『あん』の事が消え去っていた。




「ようし、それじゃあアルテミス、早く行きましょう!」


「はい、ナーオ姉様」




 そうして菜穂は、アルテミス王女の案内で城から出て、すでに準備されていた馬車に乗り込むのであった。


 馬車に初めて乗る菜穂は、その揺れ具合に驚きながらも、初めて見る町の景色を興味津々窓から眺めていた。


 何となく中世ヨーロッパのイメージがあったためか、菜穂には流れていく外の景色がその通りに見える。菜穂の中では、ファンタジーのRPGゲームの世界と中世ヨーロッパを合わせて割ったような町に思えた。


 町を闊歩する人々は明るく元気に見える。




「素敵な町ね……」




 ポツリと菜穂が零すと、アルテミス王女は嬉しそうに頬を緩ませた。




「ありがとうございます、ナーオ姉様。ナーオ姉様のその言葉を聞いたら、きっとお兄様も喜びますわ。お兄様が王になられてから、この国はとっても平和になったのです」


「立派な王様なのね……」




(俺様で変態だけど……)




 菜穂の心の中の呟きを知らないアルテミス王女は、心から嬉しそうな笑顔を浮かべて力強く頷いた。




「あ、そういえば……宰相さんの家にいくことは、王様に伝えたの?」


「いいえ、特に伝えておりませんわ」




 王様の話題が出た事で、ふと気になって尋ねたのだが、アルテミス王女は澄ました顔でサラリと返答する。


 菜穂は、ぎょっとした表情になって、少し心配そうに聞きかえすのであった。




「だ……黙って城を出て、大丈夫なの?」


「えぇ、何も問題ありませんわ」




 にっこりと楽しそうに微笑むアルテミス王女を見て、菜穂はそれ以上何も言う事ができなかった。




(うーん、何か黒い笑みが見えたような気がしたのは、気のせい?)








 その後、菜穂は馬車の中で、アルテミス王女から宰相家の事について説明を受けていた。




「……という事でして、宰相の息子にあたるアルデバランは、要注意人物ですわ。きっと、ナーオ姉様を不快にさせるような言動をするに違いありません! でも、無視して下さいね?」


「えぇっと、そのアルデバランさんは宰相さんの息子で、宰相補佐をしているけど、野心家で性格が悪いと……」


「はい、本当にあの立派な宰相の息子だなんて、信じられませんわ。おまけにエウロパの父親なのですよ! 本当に信じられないです。エウロパもリゲル様も父親に似なくてよかったですわ」




 興奮したように告げてくるアルテミス王女に、相槌を打つように話を聞きながら菜穂は必死に頭の中で情報を整理していった。




「アルテミス、リゲル様って誰?」


「リゲル様はエウロパの兄に当たり、アルデバランの息子……つまり、宰相の孫です。何でも今は留学中とかでおりませんが、帰ってきましたら宰相の跡を継ぐのはリゲル様だともっぱらの噂です」


「ふぅん、なるほど……」




(うわー、何だかどっかで聞いたような、きな臭い話ね。跡継ぎ問題か……。いろいろと問題があってややこしそう……。アルテミスの話が全て事実だとしたら、サンタのおじいさんも大変よね)




 馬車に揺られながら菜穂があれこれと考え込んでいると、馬の嘶きと共に急に揺れがなくなり静かになった。




「ナーオ姉様、着きましたわ」




 アルテミスの声に、俯いていた菜穂はハッと顔を上げる。


 ちらっと窓から大きな屋敷を確認した菜穂は、気合を入れるかのように軽く自分の両頬を叩いた。




(ようし、ぱぱっと、治してやるぞー!)



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