料理2
「では、料理を新たに運ばせるとしよう。とりあえず、私と同じものでいいか?」
「もちろん、同じものでいいです! 王様の前にある料理、すっごく美味しそうです」
「牛や豚などの肉も、食べるのか? このステーキは牛の肉だが、それでもいいのか?」
「牛肉も豚肉も食べますし、牛肉大好きです! もちろん、鶏肉も好きですよ」
料理から漂う美味しそうな匂いにつられ、菜穂のお腹がぐぅぐぅ鳴り、菜穂は食べたそうに力強く答える。
空腹に気をとられていた菜穂は、オリオン王の問いが少し変で、その言葉の深い意味などに気付くことはなかった。
「そうか、ならば……急いで料理長に用意させるとしよう」
オリオン王が軽く手をあげると、背後に控えていた女官たちが素早く菜穂の前にある骨のフルコース料理を次々と下げていった。
菜穂は、骨の料理が目の前から消えてくれて、ホッと安堵の息を吐く。
「すまない。ナホの世界の主食が人の骨だと誤解をし、お前に不快な思いをさせてしまった」
「いいえ、いいんです。そもそも誤解をさせるような発言をした私も悪いんですし……。それに、今から美味しい料理を食べさせてくれるんですよね?」
急に謝ってきたオリオン王に驚き、菜穂は、照れ隠しに笑いながらおどけた様子でウインクをした。
「ナホ……」
そんな菜穂を見て、オリオン王はフッと口元を緩めて笑みを浮かべた。
「そうだな。私がナホに美味しい料理を食べさせてやろう……」
突然、オリオン王は、ステーキをナイフで切り分けたかと思うと、フォークに刺した一口大のステーキ肉を菜穂の口元へと持ってきた。
「え?」
「ほらっ、口を開けろ。確か、こういう場合は……あーん、だったな。ナホ……あーん……」
オリオン王が、甘ったるい表情と声で囁いてくるので、菜穂はドキッとして頬を赤らめる。
だが、菜穂には恥ずかしがっている余裕はなかった。
口元へつきつけられた香ばしい牛肉に、照れよりも食欲の方が勝ち、思わずパクッと本能で頬張ってしまったのである。
「んー……うまー……」
瞬間、口の中に広がる肉汁と絶妙なソースの味わいに、菜穂はうっとりと目を閉じた。
「そんなに美味しいか?」
「はい、とっても美味しいです! こんなに口の中で溶けるような柔らかくて美味しいお肉、初めて食べました」
幸せそうに頬を緩ませて笑みを浮かべる菜穂を眺め、オリオン王も柔らかい笑みを漏らす。
「そうか、それはよかった。では、もう一口……あーん」
再び口元に運ばれた肉を見て、今度は少し躊躇する菜穂であったが、ぐぅっと腹の虫に催促され、恥ずかしそうにちらっと横目でオリオン王を見つつおずおずと口を開いた。
少し大きめのカットされた肉が、菜穂の口の中へ入れられる。
「ん、おいしいー!」
やはり、じゅわっと口の中に広がる美味しさに、菜穂はうっとりと目を閉じる。
「どれ、そんなに美味しいのならば、私も少し味見を……」
菜穂が目を閉じて味わっているのをいい事に、オリオン王は、菜穂の口の端についているソースをぺろっと舐めた。
「……っ!?」
菜穂が、びっくりして目を開くと、オリオン王はニヤリと笑う。
「確かに美味いな、このソース……」
「なっ!? ちょっと、今舐めたで……うぐっ………………」
パクパクと口を開いたり閉じたりした菜穂が、頬を赤らめて文句を言いかけた瞬間、菜穂の口の中にすかさず肉が入れられた。
菜穂は、肉の美味しさに負け、再び幸せそうな表情をしながら、もぐもぐ大人しく咀嚼する。
オリオン王はそんな菜穂を優しい眼差しで見つめながら微笑み、菜穂に何度も肉を運ぶのであった。
その後、料理を運んできた女官たちは、驚きの光景を目にする事となる。
そこには、親鳥のように甲斐甲斐しく料理を菜穂の口に運ぶオリオン王の姿があった。
見た事もない甘い表情を浮かべた王の姿に、女官たちは、思わず手にしていた料理を落としそうになったほどである。
「もう、お腹いっぱい……。あぁ、美味しかった」
菜穂は、デザートに出てきたモンブランケーキを美味しそうに食べると、満足そうにお腹を撫でてからご馳走様と手を合わせた。
「満足したか?」
「えぇ、もう全部美味しくて、食べすぎちゃったくらいです。本当にご馳走様でした」
ニコニコと嬉しそうに微笑む菜穂に、オリオン王も満足そうに頷く。
実は、菜穂の料理が運ばれてから、「今度は私にあーんをしろ」とオリオン王が迫り、ちょっとしたバトルが二人の間で繰り広げられたのだが、結局負けてしまった菜穂が王にあーんをする事になり、菜穂は恥ずかしそうにしながらも王にせっせと料理を運んだ。
傍目から見れば、お互いに食べさせ合う二人の姿は、それはいちゃいちゃしているカップルにしか見えなかったが、菜穂はそんな事には気付かず、最終的には美味しい料理を楽しんだ。
「そんなに満足して貰えたのならば、料理長も喜ぶだろう。ここにいれば、毎日このように美味しい料理が食べられるぞ」
「毎日……」
「どうだ? 予定より長く滞在してみる気はないか?」
「そうですね……。こんなに美味しいものが食べられるなら……」
菜穂は、すっかりここの料理が気に入った。
(こんなに美味しいのなら、少しは異世界に長くいてもいいかな?)
などど、ぼんやりと考えていた菜穂を見て、隣に座るオリオン王がニヤリと口角を上げたのを菜穂は気付かなかった。
こうして、この日から菜穂への餌付けが始まる。




