想い?
「まったく、あんな王様でこの国……アース国だっけ? 大丈夫なのかな……」
フンと鼻息荒く、ふてくされた様子でベッドにダイビングした菜穂は、今までの事を思い起こしながらゴロゴロと転がっていた。
「はぁーっ、でも、骨は最高なんだよね。外見も、ドストライク。あの笑顔も眩し過ぎて……だけど、性格は最悪!」
ムクッと起き上った菜穂は、ベッド上で胡坐をかいて目を閉じ、いろいろと考え込みながらゆらゆらと身体を左右に揺らす。
そこへ、コンコンと扉を叩くノック音と共に女性の声が聞こえてきた。
「ナーオ様、お部屋に、入るでちゅ」
「ナーオ様、失礼致しますね」
誤解して部屋を出て行ったクリュタイメストラとヘレネの声であった。
「あ、ヘレさんとクリュさん! あの、さっきのは違うんで……」
部屋に入ってきた二人の姿を目に入れた菜穂は、急いで先程の誤解を解こうとしたのだが……。
「ナーオ様、いいです。何も言わない……わたくし、全て分かってる、ですね!」
「大丈夫ですよ、ナーオ様」
菜穂の言葉を遮ってニコニコと笑顔で頷く二人に、菜穂は、誤解が解けたんだと安堵してホッと息を吐いた。
「よかった……。もう、ヘレさんとクリュさんに誤解されたままだったら、どうしようと思っていたのよ」
「誤解なんてしませんよ、ナーオ様」
「そうそう、誤解ない。男、好き陛下を、押し倒した、えらい! ナーオ様、バンザイ!」
「本当、わたくし驚きましたもの。女性に全く興味のない陛下をナーオ様は……いったいどうやって魅了したのかと……?」
「へっ……?」
(うそ、誤解解けてないんじゃないのー! あれ? 男好き陛下? 女性に興味ないって何?)
菜穂は、二人の話にポカンと口を開けた。自分がオリオン王を押し倒していたという誤解が解けていない事が分かっただけではなく、とんでもない事を聞いたような気がして、一瞬、考える事を放棄した。
そんな菜穂に気付かず、二人は楽しそうに話を続けている。
「そうですよね、姉貴! 陛下の付き合う、男、わたくし、魔術師団長のシリウス様と思っていましたあるね」
「あら、陛下の恋人って……確か、騎士団長のカストル様だったかと……?」
「そういえば、この前、陛下とシリウス様とカストル様、争って、いた。陛下、奪いあう、みたいな?」
「まぁ、それって三角関係でしょうか!? 気になりますわ」
「本当、気になるでちゅう……」
「「はぁーっ……」」
瞳をキラキラとさせて悩ましげに溜息を吐く美女二人の姿を、いつしか菜穂はぼんやりとしながら感心したように眺めていた。
(そっくりな美女二人の溜息、絵になるなぁ……。それにしても、私の聞き間違いでなければ、あの変態王ってゲイだったの?)
「許せん……ゲイなのに、エロエロキスを私にするなんて! よくも乙女の純情踏みにじったわね!」
オリオン王にされたいろいろな事を思い出して頬を赤らめた後、ふつふつと怒りが湧いてきた菜穂は、思わず声を大にして叫んだ。
そんな菜穂の声を聞き逃すことはなく、ヘレネとクリュタイメストラは瞳をキラリと光らせながら菜穂に詰め寄ってきた。
「ナーオ様、今のお言葉は!?」
「ナーオ様、陛下に、キスされちゅう? エロイキス?」
「大人のキスのことですよ、クリュ」
「わっかりまちた! エロイキスからナーオ様が陛下を、攻撃。陛下の上に乗る、エッチしたある」
「確かに、そういうことに、なりますわね……」
勝手に納得して頷く二人に、菜穂は顔を真っ赤にさせて叫んだ。
「ちっがーう! だから、私と王様はエッチしていませんって! あれはただのマッサージだったんですー」
必死に首を左右に振って、菜穂は誤解を解こうとしたのだが……。
何故か二人は、生温い眼差しで菜穂を見つめてくる。
「ナーオ様、そんなに恥ずかしがること……ないですよ。大丈夫です。わたくしたち、ナーオ様の……味方です」
「そうですネ! エッチする、自然のこと。女が押し倒しても、問題ないにゃ」
二人の返事に、菜穂はガックリと頭を下げた。
(ダメだ……。この二人には何を言っても通じない。どうしたら、誤解が解けるのよー!)
シクシクと心の中で涙する菜穂の心情に気付かない二人は、嬉々として話を続けていた。
「それにしても、ナーオ様はすごいですね。どんな女性にも振り向かなかった陛下を、振り向かせるとは……」
「そうです。陛下は、男しか愛せない、って自ら、言っていたある。ナーオ様、すごい神子様!」
「これで、ナーオ様が王妃になれば、国も安泰でしょう……」
「ナーオ様と陛下の、子供、きっと可愛いある。わたくし、世話係、なりたいにゃ」
放っておいたらどんどん話がエスカレートしていく二人に、菜穂は焦り、話を変えるべく慌てて質問をした。
「あの、それで……王様がゲイって本当のことなのですね? 今までに女性の恋人がいたことはないのですか?」
「陛下自身、公言されたのですから……本当のことだと思います。男性の……恋人しか……いなかったはずです」
「いつも、陛下、女性には冷たいでちゅ。後宮に見向きもしないあるね」
「えっ? 後宮ってやっぱりあるんですか!?」
驚いて思わず声をあげた菜穂に、ヘレネとクリュタイメストラは慌てて説明をした。
「形だけのもの……です。陛下は、一度も足を運ばないです」
「そうあるね。今、後宮にいるの、一人だけ。しかも、とっても性格、悪い、ひとでちゅ」
「隣国の姫君、なのですが……その……争いを避けるための、人質……みたいなもの……でして……」
菜穂は二人からもたらさせる情報を頷いて聞きながら、別の事を考えていた。
(何だ、後宮にたくさんの女性をはべらせているただのエロ王じゃなかったんだ。それにしても、ゲイとは……思いもしなかったな。あの子がここにいたら、無茶苦茶喜んでいただろうに……生BLだってね……)
ふと、元の世界での友人の顔を思い出した菜穂は、くすっとおかしそうに笑った。
だが、すぐに脳裏に、オリオン王の精悍な顔が浮かび上がってくる。
(でも、ゲイだとすると、今までの私への言動は、からかって遊んでいただけとか? 間違っても私への好意なんかじゃないよね。ただ、神子としての私の力が欲しいだけなんだ。そうだよね……あいつは王様で私は神子。ただの理想の骨の持ち主なだけよ)
何やら胸にチクッと小さな痛みを感じた菜穂は、ほんのわずかに芽生え始めた淡い想いに気付かぬふりをするのであった。




